旅鞄たびかばん)” の例文
つひに彼はこのくるしみを両親に訴へしにやあらん、一日あるひ母と娘とはにはかに身支度して、忙々いそがはしく車に乗りて出でぬ。彼等はちひさからぬ一個ひとつ旅鞄たびかばんを携へたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
下坂くだりざかは、うごきれると、一めい車夫しやふ空車からいて、ぐに引返ひつかへことになり、梶棒かぢぼうつてたのが、旅鞄たびかばん一個ひとつ背負しよつて、これ路案内みちあんないたうげまでともをすることになつた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
車のあとより車の多くは旅鞄たびかばんと客とを載せて、一里先なる停車場すていしょんを指して走りぬ。ぜんの通い茶の通いに、久しくむつみたるおんなどもは、さすがに後影を見送りてしばし佇立たたずめり。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
時雄の激しい頭脳あたまには、それがすぐ直覚的に明かに映ったと云うではなく、座敷のすみに置かれた小さい旅鞄たびかばんあわれにもしおたれた白地の浴衣ゆかたなどを見ると、青年空想の昔が思い出されて
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
旅鞄たびかばんそのまゝ座右ざうに冬籠
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
旅鞄たびかばんを膝に載せて
心の姿の研究 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)