今日けふ)” の例文
昨日きのふ美味うま最中もなかが出来たが今日けふの茶の時間には温かい饅頭まんぢうが作られた。晩餐には事務長から一同浴衣掛ゆかたがけよろしいと云ふ許しが出る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
看護かんごひとつかれぬ、雪子ゆきこよわりぬ、きのふも植村うゑむらひしとひ、今日けふ植村うゑむらひたりとふ、かはひとへだてゝ姿すがたるばかり
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
鏡子は気にかゝ良人をつとの金策の話を此人にするのに、今日けふだ余り早すぎると下臆病したおくびやうな心が思はせるので、それは心にしまつて居た。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
今日けふ江戸表御老中えどおもてごらうぢうから、御奉書おほうしよ到着たうちやくいたした。一にち支度したく三日みつか道中だうちうで、出府しゆつぷいたせとの御沙汰ごさたぢや。』と、おごそかにつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
蘿月らげつは六十に近いこの年まで今日けふほど困つた事、つらい感情にめられた事はないと思つたのである。妹おとよのたのみも無理ではない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
『いや今日こんにちは、おゝきみ今日けふ顏色かほいろ昨日きのふよりもまたずツといですよ。まづ結構けつこうだ。』と、ミハイル、アウエリヤヌヰチは挨拶あいさつする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
近頃ちかごろ唐鍬たうぐは使つけほねおれつからつて仕事しごとしまつちや一がふぐれえけてつちやあんだつちけが、それ今日けふはやくからてたんだつちきや
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
娑婆しやば界の苦労は御降りの今日けふも、遠慮なく私を悩ますのである。昔或御降りの座敷に、あねや姉の友達と、羽根をついて遊んだ事がある。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして二まい大畫たいぐわ今日けふ所謂いはゆ大作たいさく)がならべてかゝげてあるまへもつと見物人けんぶつにんたかつてる二まい大畫たいぐわはずとも志村しむらさく自分じぶんさく
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
此所こゝならば度々たび/″\たが、大發掘だいはつくつはせずにるのだ。今日けふつてもいかとふと、大丈夫だいじやうぶだ。原田文海はらだぶんかい心得こゝろえとると大呑込おほのみこみ。
今日けふは少し装置が狂つたので晩の実験はめだ。是から本郷の方を散歩して帰らうと思ふが、君どうです一所にあるきませんか」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
くまさん、どうです、今日けふあたりは。ゆきうたでもうたつておくれ。わしあ、こほりかたまりにでもならなけりやいいがと心配しんぱいでなんねえだ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
彼を思ひ是を思ふに、身一つにりかゝるき事の露しげき今日けふ此ごろ、瀧口三の袖を絞りかね、法體ほつたい今更いまさら遣瀬やるせなきぞいぢらしき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
今日けふごと浪路なみぢおだやかに、やがあひとも※去くわこ平安へいあんいはひつゝ芙蓉ふようみねあふこと出來できるやうにと只管ひたすらてんいのるのほかはないのである。
旦那だんな、くどいことをおたづまをしますやうでござりますが、あのの十三囘忌くわいき今日けふ佛樣ほとけさまは、旦那衆だんなしうでござりますか、それとも御婦人ごふじんで、」
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
○かくて産後さんご日をてのち、連日れんじつの雪も降止ふりやみ天気おだやかなる日、よめをつとにむかひ、今日けふ親里おやざとゆかんとおもふ、いかにやせんといふ。
『おじいさま、ういうものか今日けふ落付おちつかないでこまるのでございます……。わたくしはどこかへあそびに出掛でかけたくなりました。』
わつしはね今日けふはアノとほり朝からりましたので一にちらくようと思つて休んだが、うも困つたもんですね、なんですい病気は。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
モン妻 おゝ、ロミオは何處どこに?(ベンヺーリオーに)今日けふそなたはしましたか? この騷動さうどう關係かゝりあうてゐなんだは、ま、なによりもよろこばしい。
わたしいま屹度きつとばつせられるんだわ、うして自分じぶんなみだなかおぼれるなて—眞箇ほんと奇態きたいだわ!けども今日けふなにみんへんよ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
再び君と相見る今日けふは、そも/\いかなる吉日ぞ。このハノホ老いたれども、恩義を忘れぬほどの記憶はありとおぼされよ。
かあさんになつた小鳥ことりうへなかたまごをあたためてをりました。するとまた今日けふ牝牛めうしがそのしたへやつてました。
お母さん達 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
今日けふも我等に日毎のマンナを與へたまへ、これなくば、この曠野あらのをわけて進まんとて、最もつとむる者も退く 一三—一五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
昨日きのふといふ過去は幾十年を経たる昔日むかしの如く、今日けふといふ現在は幾代いくよにも亘るべき実存の如くに感じ、今迄は縁遠かりし社界は急に間近に迫り来り
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
定基は其筺を開いて鏡を見ようとすると、其包み紙のえたるに筆のあとも薄く、「今日けふのみと見るになみだのます鏡なれにし影を人にかたるな」
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
生徒せいとさん、今日けふ學校がくかうですか。このさむいのに、よくおかよひですね。毎日々々まいにち/\さうして精出せいだしてくださると、このおばあさんも御褒美ごほうびをあげますよ。』
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
今日けふはほんとうにおめづらしいおいでゝ、おかへりになつてから「おまへは今日よつぽどどうかしてゐたね。」といはれましたほど、わたし調子てうしくるひました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
そして、夕餐後ゆふめしごに夫に向つて、「祖母さんは可愛相ぢやありませんか。」と、今日けふの訪問の次第を話すと、夫はさも豫期してゐたやうな面付をした。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
同じやうにまた、今日けふの新時代の娘たちが、活動寫眞や劇場の座席の隅で、ひそかに未來の良人を空想しながら、二十世紀の草双紙を讀み耽つて居る。
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
「行らつしやいますなら手を引いてお上げ申しませう。今日けふはお母さまがお歸りでお一人ださうでございますね。」
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
折角せつかく樂しい昨日きのふは夢、せつない今日けふうつつかと、つい煩惱ぼんなうしやうじるが、世の戀人の身の上をなんで雲めが思ふであらう。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
熟々つら/\かんがふるにてんとんびありて油揚あぶらげをさらひ土鼠もぐらもちありて蚯蚓みゝずくら目出度めでたなか人間にんげん一日いちにちあくせくとはたらきてひかぬるが今日けふ此頃このごろ世智辛せちがら生涯しやうがいなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
A 或程なるほどきみしかつたつて仕樣しやうがない。いまおれおほいにほか奴等やつらしかつてやるんだから、今日けふはマアきみをんなはなしでもしよう。はうならきみ專門せんもんだから。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
「たゞのひとでないとはいひながら、今日けふまでやしなそだてたわしをおやおもつて、わしのいふことをきいてもらひたい」
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
きのふや今日けふ嫁に行つたのでは無し、もう足掛け四年にもなり、お春といふ子までもある。しうと小姑こじうとの面倒があるでは無し、主人の小幡は正直で物柔かな人物。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
來りし甲斐かひもなく甚だ殘念に存するのみ既に師父の葬送さうそうは門弟中あつく世話致し呉し由ゆゑ道場の跡片付あとかたづけなどすまして漸々やう/\今日けふ此所までもどりしなりと此程の事故ことがら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
(そこで、女将おかみが何か云はうとする)いや、そのことなら、もう分りましたよ。今日けふは、黙つて帰り給へ。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
其身そのみが世の名利みやうりかゝはらねばなり、此日このひるものみなうれしく、人のわざ有難ありがたおもひしは、朝の心の快濶くわいくわつなりしうつりか、その飛々とび/\ひとり隅田すみだ春光しゆんくわう今日けふあたらし。
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
それが精確に十二の數を撞き終ると、今まであるかなきかに聞えて居た市民三萬の活動の響が、はたと許り止んだ。『盛岡』が今今日けふの晝飯を喰ふところである。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ぶん入院料にふゐんれう前金まへきんをさめろですつて、今日けふ明日あすにもれない重態ぢうたい病人びやうにんだのに——ほんとに、キリストさま病院びやうゐんだなんて、何處どこまち病院びやうゐんちがところがあるんだ。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
だつて、かんがへていらつしやらないも同然どうぜんだわ。今日けふはもう二十日はつかぎよ。それに、こないだから、子供こども洋服やうふくくつをあんなにつてやりたいつてつてたぢやないの?
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
まだ、としかはらない舊年ふるとしあひだに、あゝはるがやつてたことだ。してると、この一年いちねんふたつにわかれて、きのふまでを去年きよねんといはうか。今日けふからのちを、今年ことしといはうか。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
移転ひつこしを目の先に控へてゐる昨日きのふ今日けふ、亀のことにかまけてなんにも手がつかないでゐるといふのだ。
わが背子があさけのすがたずて今日けふあひだらすかも 〔巻十二・二八四一〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
例の玉ちやんを連れてどこかへ徃くと言ひ出すこともある。體と體とが相觸れて、妙な媾和になることもある。今日けふは朝早く一度爆裂のあつた跡なので、決戰にもならぬ。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
さて、みなさん あなたたちは今日けふなにをめし上りました トマトをたべたでせう しかもたねまで
其眺矚そのてうしよくや甚だ廣濶くわうくわつなるにあらず、否、此處こゝよりはその半腹を登り行く白衣はくいの行者さへ見ゆと言ふなる御嶽の姿も、今日けふは麓の深谷より簇々むら/\と渦上する白雲の爲めに蔽はれて
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
頭の所爲せい天氣てんき加減かげんか、何時もは随分ずゐぶんよくかたる二人も、今日けふは些ツともはなしはづまぬ。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
今日けふは盆の十六日ですねえ。」と気のない疲れた声が投げ出すやうにきこえる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なほむかし風俗ふうぞく生活せいかつのありさまについては、くはしいことをこゝでおはなしする時間じかんもなく、みなさんが歴史れきしほんほか先生せんせいからをそはることゝおもひますから、今日けふはこれだけでよしてきます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)