正面しやうめん)” の例文
正面しやうめん待乳山まつちやま見渡みわた隅田川すみだがはには夕風ゆふかぜはらんだかけ船がしきりに動いてく。水のおもて黄昏たそがれるにつれてかもめの羽の色が際立きはだつて白く見える。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
つはくらい。……前途むかうさがりに、見込みこんで、勾配こうばいもつといちじるしい其處そこから、母屋おもや正面しやうめんひく縁側えんがはかべに、薄明うすあかりの掛行燈かけあんどんるばかり。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二人ふたり蓮池はすいけまへとほして、五六きふ石段いしだんのぼつて、その正面しやうめんにあるおほきな伽藍がらん屋根やねあふいだまゝすぐひだりへれた。玄關げんくわんしかゝつたとき宜道ぎだう
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なしければ藤八は先此方こなたへと云まゝ九助は座敷へ通りけるに正面しやうめんに十界の曼陀羅をかざり左右に燈明とうみやう香花かうげ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
正面しやうめんにはもう多田院ただのゐん馬場先ばばさきの松並木まつなみきえだかさねて、ずうつとおくふかくつゞいてゐるのがえた。松並木まつなみき入口いりくちのところに、かはにして、殺生せつしやう禁斷きんだんつてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
正面しやうめん本院ほんゐんむかひ、後方こうはう茫廣ひろ/″\とした野良のらのぞんで、くぎてた鼠色ねずみいろへい取繞とりまはされてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
……これから案内あんないしたがつて十二でふばかり書院しよゐんらしいところとほる、次は八でふのやうで正面しやうめんとこには探幽たんにゆう横物よこものかゝり、古銅こどう花瓶くわびんに花がしてあり、煎茶せんちや器械きかいから、莨盆たばこぼんから火鉢ひばちまで
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
わたくし跳上をどりあがつてまなこはなつと、たゞる、本船々首ほんせんせんしゆ正面しやうめん海上かいじやうに、此時このときまで閃々せん/\たるひかりえずうみ八方はつぱうてらしつゝすで一海里いつかいりばかりはしつた海蛇丸かいだまるは、此時このとき何故なにゆゑ探海電燈サーチライトひかりパツとえて
こんな正面しやうめんにですか
銀行ぎんかうよこにして、片側かたがははら正面しやうめんに、野中のなか一軒家いつけんやごとく、長方形ちやうはうけいつた假普請かりぶしん洋館やうくわん一棟ひとむねのきへぶつつけがきの(かは)のおほきくえた。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
このしづかな判然はつきりしない燈火ともしびちからで、宗助そうすけ自分じぶんる四五しやく正面しやうめんに、宜道ぎだう所謂いはゆる老師らうしなるものをみとめた。かれかほれいによつて鑄物いものやううごかなかつた。いろあかゞねであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
恭々敷うや/\しく正面しやうめんとこかざ悠々いう/\としてひかへたり大膳左京の兩人はかゝこととはいかで知るべき盃の數もかさなりて早十分にゑひを發し今はよき時分じぶんなりいざ醉醒ゑひざめの仕事に掛らんと兩人は剛刀だんびら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
格子戸作かうしどづくりになつてましてズーツと洗出あらひだしたゝきやまづらの一けんもあらうといふ沓脱くつぬぎゑてあり、正面しやうめんところ銀錆ぎんさびふすまにチヨイと永湖先生えいこせんせい光峨先生くわうがせんせい合作がつさく薄墨附立書うすずみつけたてがきふので
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
屏風岩べうぶいわうへを二十ヤードばかりすゝむと、正面しやうめんかべのやうに屹立つゝたつたる大巖石だいがんせき中央ちゆうわうに、一個いつこ鐵門てつもんがあつて、その鐵門てつもんまへには、武裝ぶさうせる當番たうばん水兵すいへい嚴肅げんしゆくつてつたが、大佐等たいさら姿すがたるより
上段じやうだんづきの大廣間おほひろま正面しやうめん一段いちだんたかところに、たゝみ二疊にでふもあらうとおもふ、あたかほのほいけごと眞鍮しんちう大火鉢おほひばち炭火たんくわ烈々れつ/\としたのをまへひかへて、たゞ一個いつこ大丈夫だいぢやうぶ
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
呼出す此時正面しやうめんには松平縫殿頭ぬひのかみ殿少し下りて右の座へ梶川かじかわ庄右衞門殿次には公用人こうようにん櫻井文右衞門田村治兵衞此方には川上さだ八石川彌兵衞浦野うらのもん兵衞縁側際えんがはぎはには足輕あしがる五六人非常ひじやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
主人しゆじんおほきな眼鏡めがねけたまゝしたから坂井さかゐかほ見上みあげてゐる。宗助そうすけ挨拶あいさつをすべきをりでもないとおもつたから、其儘そのまゝぎやうとして、みせ正面しやうめんまでると、坂井さかゐ徃來わうらいいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しませう……わたしかないできますわ。」と正面しやうめんをとこて、さかうへにしたのである。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もんると、右左みぎひだり二畝ふたうねばかりなぐさみにゑた青田あをたがあつて、むか正面しやうめん畦中あぜなかに、琴彈松ことひきまつといふのがある。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
白井しらゐさんの姿すがたは、よりもつきらされて、正面しやうめんえんつて、雨戸あまど一枚いちまいづゝがら/\としまつてく。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
提灯ちやうちん一個ひとつ引奪ふんだくつて、三段さんだんばかりあるきざはし正面しやうめん突立つゝたつて、一揆いつきせいするがごとく、大手おほてひろげて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
正面しやうめん伸上のびあがつてれば、むかふから、ひよこ/\三個みつゝ案山子かゝしも、おなじやうな坊主ばうずえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふすま障子しやうじ縱横じうわう入亂いりみだれ、雜式家具ざふしきかぐ狼藉らうぜきとして、化性けしやうごとく、ふるふたびにをどる、たれない、二階家にかいやを、せままちの、正面しやうめんじつて、塀越へいごしのよその立樹たちきひさし
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まして、大王だいわうひざがくれに、ばゞ遣手やりて木乃伊みいらごとくひそんで、あまつさへ脇立わきだち正面しやうめんに、赫耀かくえうとして觀世晉くわんぜおんたせたまふ。小兒衆こどもしうも、むすめたちも、こゝろやすくさいしてよからう。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
嵐気らんきしたゝる、といふくせに、なに心細こゝろぼそい、と都会とくわい極暑ごくしよなやむだ方々かた/″\からは、その不足ふそくらしいのをおしかりになるであらうが、行向ゆきむかふ、正面しやうめん次第しだい立累たちかさなやまいろ真暗まつくらなのである。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのつき正面しやうめんにかざつて、もとのかゝらぬお團子だんごだけはうづたかく、さあ、成金なりきん小判こばんんでくらべてろと、かざるのだけれど、ふすまははづれる。障子しやうじ小間こまはびり/\とみなやぶれる。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今度こんどのは完成くわんせいした。して本堂ほんだう正面しやうめんに、さゝえかず、内端うちはんだ、にくづきのしまつた、ひざはぎ釣合つりあひよく、すつくりとつたときはだえ小刀こがたなさえに、あたかしもごとしろえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
途次みちすがらきこえた鬼門關きもんくわんぎようとして、不案内ふあんないみち踏迷ふみまよつて、やつ辿着たどりついたのが古廟こべうで、べろんとひたひ禿げた大王だいわうが、正面しやうめんくちくわつけてござる、うらたゞひと
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
のゝしるか、わらふか、ひと大聲おほごゑひゞいたとおもふと、あの長靴ながぐつなのが、つか/\とすゝんで、半月形はんげつがた講壇かうだんのぼつて、ツと一方いつぱうひらくと、一人ひとりまつすぐにすゝんで、正面しやうめん黒板こくばん白墨チヨオクにして
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
片手かたてで、ほつよく、しかと婦人ふじんつたまゝ、そのうへこし椅子いす摺寄すりよせて、正面しやうめんをしやんとつて、いは此時このとき神色しんしよく自若じじやくたりき、としてあるのは、英雄えいゆう事變じへんしよして、しかるよりも
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しばらくするといま其奴そやつ正面しやうめんちかづいたなとおもつたのが、ひつじ啼声なきごゑになる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おほき鼻頭はなづら正面しやうめんにすつくりとつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
正面しやうめん二階にかい障子しやうじくれなゐである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)