あは)” の例文
斯の如くの遺書かきおきを越前守殿きかれ如何にもあはれの事に思はれしかば心中に扨は其島が殺されし死骸は思當おもひあたりし事も有とて考へ居られけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「何もかもあはれみたまふ神様は知つてござらつしやるけ、くよ/\思はいでも、何事も神様におすがり申してゐさへすりや……。」
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
あはれむだらうか? いとふだらうか? それともまた淺猿あさましがるだらうか? さうしてあの可憐いぢらしくも感謝かんしや滿ちた忠實ちうじつ愛情あいぢやう
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
名を食糧しよくれうの不足にたくして又衆とわかる、明日は天我一行をして文珠岩もんじゆいわを発見せしむるあるをらざるなり、其矇眛もうまいなる心中やあはむにへたり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
「まあお待ちなさい。さう怒るものではありません。この人たちの勘定はぼくが払ひませう。あはれな人には親切にしてやらなければいけません」
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
一月の刺すやうな空氣に、いびつになるほどふくれ上つてちんばを引いてゐた、あはれな私の足も、四月のやさしいいぶきを受けて、跡形もなくなほり始めた。
いまでも世界中せかいちうからすくちなかには、そのとき火傷やけどのあとが真赤まつかのこつてゐるといふ。ひときらはれながらも、あのあはれなペンペのためにいてゐるのだ。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
其位そのくらゐぢや滿足まんぞく出來できないわ』といたましげなこゑあはれなあいちやんがつぶやいて、さておもふやう、『うかして芋蟲いもむしおこりッぽくしない工夫くふうはないものかしら』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
宗助そうすけこゝろのうちに、この青年せいねんがどういふ機縁きえんもとに、おもつてあたまつたものだらうかとかんがへて、その樣子やうすのしとやかなところを、なんとなくあはれにおもつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かれ周圍しうゐさびしいともなんともおもはなかつた。しか彼自身かれじしんるから枯燥こさうしてあはれげであつた。かれすこしきや/\といたこしのばして荷物にもつ脊負せおつてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
お可愛想なことをと少し涙ぐんでお作をかばふに、それは貴嬢あなたが当人を見ぬゆゑ可愛想とも思ふか知らねど、お作よりは我れの方をあはれんでくれてい筈
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「さう願へますればこの上の仕合せはございません。三日でも飼つてみると、あはれが添はりまして。」
大汗になつて辯解する源吉を、平次は淺ましくもあはれに見て、それつ切り引揚げてしまつたのです。
ここで手毬をついてゐる子達は、あの、母さんのない子を軽蔑けいべつしてゐるのだ。——この子供達は、大人達でもよくさうするやうに、あはれまねばならないものを間違へて軽蔑してゐるのだ。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
しよを山上にけながら眼下がんか群住ぐんぢうするあはれなる数万の異教徒ゐけうとめに祈願きぐわんめるも無益むえきなり、教会けうくわい復興ふくこう方策はうさくとは教導師けうだうしみづからつるにあり、家族かぞく安楽あんらく犠牲ぎせいきやうするにあり
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
私は父から全く離れました、家庭からも全く離れました、教会からも離れました、私は天の神様をのみ父とし母として、地に散在するあはれなる兄弟と、大きな家庭を作ることに覚悟致しました
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
來島クルシマ某、津田ツダ某、とうのいかにあはれむべき最後さいごしたるやをるものは、罪と罰の殺人さつじん原因げんいん淺薄せんはくなりとわらひてしりぞくるやうのことなかるべし、利慾よりならず、名譽よりならず、迷信よりならず
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
涙に浮くばかりなる枕邊まくらべに、燻籠ふせごの匂ひのみしめやかなるぞあはれなる。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
八百やほよろづ神もあはれと思ふらん犯せる罪のそれとなければ
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
けれどあはれな母馬おやうまはもうひどつかれてゐるのでした。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
あはれむべし光彩、門戸に生ず
あはれなり
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
くらかねるも二君に仕へぬ我魂魄わがたましひ武士の本意と思へどもにあぢきなき浮世うきよかなと一人涙を流したるとはがたりの心の中思ひやられてあはれなり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
可愛想かわいそうなことをとすこなみだくんでおさくをかばふに、それは貴孃あなた當人たうにんぬゆゑ可愛想かわいさうともおもふからねど、おさくよりはれのほうあはれんでくれてはづ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はづかしくもなくくこんな莫迦ばかげたことかれたものだ』とグリフォンがしました。彼等かれら雙方さうはうともだまつたまゝすわつてあはれなあいちやんをてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
あなたはあはれみを知らない、あなたがどんなに私を押し込んだか、どんなに無法むはふに亂暴に私を赤いお部屋へやに押し込んでじやうを下したか、私は死ぬ日まで忘れませんわ。
卯平うへい時々とき/″\東隣ひがしとなりもんをもくゞつた。主人夫婦しゆじんふうふ丈夫ぢやうぶだといつてもやつれた卯平うへいるとあはれになつて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
翌日よくじつ宗助そうすけれいごときて、平日へいじつかはことなく食事しよくじました。さうして給仕きふじをしてれる御米およねかほに、多少たせう安心あんしんいろえたのを、うれしいやうあはれなやう一種いつしゆ情緒じやうしよもつながめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お菊と房太郎——家と家との關係で、添ふことの出來なかつた戀人同士が、こゝに登つて、五六間隔てたまゝ、寒い逢引を樂しんでゐたといふのは、まことにあはれ深い情景でもあります。
将に我頭をにらむ、一小蛇ありて之にはる、よつただちに杖を取りて打落うちをとし、一げきのうくだけば忽ち死す、其妙機めうきあたかせる蛇をおとしたるが如くなりし、小なる者はあはれにも之を生かしけり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
さづたまふ所ならん然るに久八は養父五兵衞につかふることむかしまさりて孝行をつくみせの者勝手元の下男に至る迄あはれみをかけ正直しやうぢき實義じつぎ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのなくやと試みたれど、さらに声の聞えねば、にはかに露の身にさぶく、鳴くべき勢ひのなくなりしかとあはれみ合ひし、そのとし暮れて兄はむなしき数にりつ。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あはれなちひさな蜥蜴とかげ甚公じんこう眞中まンなかて、二ひきぶたさゝへられながら一ぽんびんからなんだかしてもらつてましたが、あいちやんの姿すがたるとぐにみん其方そのはう突進とつしんしました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
かれ自分じぶん境遇きやうぐう什麽どんなであるかはおもはなかつた。またういふ人々ひとびとあはれなこともおもひやるいとまがなかつた。さうしてかれ自分じぶん技倆うで愉快ゆくわいになつた。かれふたゝ土手どてからおろした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私は彼女の顏付や目鼻だちに、ロチスター氏と似通にかよつた所を探して見た、が何もなかつた——何らの特徴も表情の變化も、血のつながりを示してはゐないのだ。それはあはれなことであつた。
八五郎は自分の尻を撫でながら、いともあはれな聲を出すのです。
かへて八重やへやおまへふことがあるはるにつきての花鳥はなどりくらべてなにきぞさてかはつたおたづそれ心々こゝろ/″\でも御坐ございませうが歸鴈きがんあはれにぞんじられますりとてはなことぞみやこはる
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それほどお園の姿はあはれ深くも美しかつたのです。
長吉は我が門前に産声うぶごゑを揚げしものと大和尚だいおしよう夫婦が贔負ひいきもあり、同じ学校へかよへば私立私立とけなされるも心わるきに、元来愛敬のなき長吉なれば心から味方につく者もなきあはれさ
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
長吉ちようきち門前もんぜん産聲うぶごゑげしものと大和尚夫婦だいおしようふうふ贔屓ひゐきもあり、おな學校がくかうへかよへば私立しりつ私立しりつとけなされるもこゝろわるきに、元來ぐわんらい愛敬あいけうのなき長吉ちようきちなればこゝろから味方みかたにつくものもなきあはれさ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はやまつての御考おかんがへは御前まへさまのやうにもいましばしの御辛抱ごしんぼうそのうちにはなにともして屹度きつとよろこばせ申べし八重やへが一しんあはれともおぼしめしてそのやうなかなしいことおかせあそばすなとてちから
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あとになしていだくるま掛聲かけごゑはし退一人ひとりをとこあれは何方いづく藥取くすりとりあはれの姿すがたやと見返みかへれば彼方かなたよりも見返みかへかほオヽよしさまことばいままろでぬくるま轣轆れきろくとしてわだちのあととほしるされぬ。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なき御身おんみあはれやとのじやうやう/\ちやうじては、一人ひとりをばあましたたのもしびとにして、一にも松野まつの二にも松野まつのと、だてなく遠慮ゑんりよなくあまへもしつ㑃強すねもしつ、むつれよるこゝろあいらしさよとおもひしが
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さりとてはほど人品じんぴんそなへながらおぼえたげいきか取上とりあげてもちひるひときかあはれのことやとはまへかんじなり心情しんじやうさら/\れたものならずうつくしきはなとげもあり柔和にゆうわおもて案外あんぐわい所爲しよゐなきにもあらじおそろしとおもへばそんなもの
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見捨みすてゝじやうなしがおまへきかあはれといへば深山みやまがくれのはなこゝろさぞかしとさつしられるにもられずひとにもられずさきるが本意ほんいであらうかおなあらしさそはれてもおもひと宿やどきておもひとおもはれたらるともうらみはるまいもの谷間たにまみづ便たよりがなくは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)