入口いりくち)” の例文
卯平うへい久振ひさしぶり故郷こきやうとしむかへた。彼等かれらいへ門松かどまつたゞみじかまつえだたけえだとをちひさなくひしばけて垣根かきね入口いりくちてたのみである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
丁度蜘蛛が林の入口いりくちならの木に、二銭銅貨の位の網をかけたころ、銀色のなめくじの立派なおうちへかたつむりがやって参りました。
蜘蛛となめくじと狸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
齋藤巡査さいとうじゆんさ眞鶴まなづる下車げしやしたので自分じぶん談敵だんてきうしなつたけれど、はら入口いりくちなる門川もんかはまでは、退屈たいくつするほど隔離かくりでもないのでこまらなかつた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
二町足らずの近いところにある会社へぐ跡を追つてくと、滋野君は半月前はんげつぜんに買つた新しい自動車を会社の入口いりくちに引出してしきりに掃除して居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
つゞいて飛込とびこまんとする獅子しゝ目掛めがけて、わたくし一發いつぱつドガン、水兵すいへい手鎗てやり突飛つきとばす、日出雄少年ひでをせうねん素早すばやをどらして、入口いりくちとびらをピシヤン。
純一がその門の前に立ち留まって、垣の内を覗いていると、隣の植木鉢を沢山入口いりくちに並べてある家から、白髪しらがの婆あさんが出て来て話をし掛けた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
宿やど入口いりくち井戸川ゐどがはつて江戸川えどがはをなまつたやうな、いさゝかものしさうなながれがあつた。ふるはしかゝつてた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小説家の正宗白鳥氏はひとうち出入ではいりをするのに、がらりと入口いりくちけはするが、その手で滅多に閉めた事は無い。
たなうへ見事みごとしろ牡丹ぼたんけてあつた。そのほかつくゑでも蒲團ふとんでもこと/″\綺麗きれいであつた。坂井さかゐはじくら入口いりくちつて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おもて入口いりくちには焦茶地こげちやぢ白抜しろぬきで「せじや」と仮名かなあらは山形やまがたに口といふ字がしるしついところ主人あるじはたらきで、世辞せじあきなふのだから主人あるじ莞爾にこやかな顔、番頭ばんとうあいくるしく
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
其所そこで、入口いりくちると、其所そこ横幅よこはゞが九しやくすんある。それから突當つきあたりの奧壁おくかべまで一ぢやうしやくながさがある。奧壁おくかべところ横幅よこはゞは、入口いりくちよりすこしくびて一ぢやうしやくすんある。
御嶽參おんたけまゐりが西にしはうから木曾きそ入口いりくちくには、六曲峠ろくきよくたうげといふたうげしてなければなりません。そこが信濃しなの美濃みの國境くにざかひで、とうさんのむらのはづれにあたつてます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
何事なにごとぢゃこの血汐ちしほは、これ、この廟舍たまや入口いりくちいしめたこの血汐ちしほは? ぬしもないこのつるぎは? 此樣このやう平和へいわ場所ばしょまぶれにしててゝあるは、こりゃなんとしたことであらう?
正面しやうめんにはもう多田院ただのゐん馬場先ばばさきの松並木まつなみきえだかさねて、ずうつとおくふかくつゞいてゐるのがえた。松並木まつなみき入口いりくちのところに、かはにして、殺生せつしやう禁斷きんだんつてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
母家おもやから別れたその小さな低い鱗葺こけらぶきの屋根といい、竹格子の窓といい、入口いりくちの杉戸といい、殊に手を洗う縁先の水鉢みずばち柄杓ひしゃく、そのそばには極って葉蘭はらん石蕗つわぶきなどを下草したくさにして
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
をりしもあいちやんは、大廣間おほびろま屋根やねあたまちました。實際じつさいあいちやんはいましやく以上いじやう身長せいたかくなつたので、ぐにちひさな黄金こがねかぎげ、花園はなぞの入口いりくちいそいできました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
今日けふなにやらあわてゝいたおとをたてながら、いそ/\とはゝむかへに入口いりくちまでた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「始は待合所の入口いりくちの所でちよつと顔が見えたのじや。余り意外ぢやつたから、僕は思はず長椅子ソオフワアを起つと、もう見えなくなつた。それから有間しばらくして又偶然ふつと見ると、又見えたのじや」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
準備じゅんびができたらすぐに出掛でかけるといたそう。わし竜宮りゅうぐう入口いりくちまでおくってあげる。それからきはそち一人ひとりくのじゃ。なに修行しゅぎょうめである。あまりわしたよになっては面白おもしろうない……。
「にほんじんはかの入口いりくち」のしるしあり遊子樹いうしじゆといふ樹さへ悲しも
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
アヴニウ・ウツスの入口いりくち見附みつそこなつたので
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
突当つきあたりは奥の家の門で横に薄青く塗つた木製の低い四角な戸のあるのが自分達の下宿の入口いりくちである。同じ青色を塗つた金網が花壇にめぐらされて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
入口いりくち彼方あちらなが縁側えんがはで三にん小女こむすめすわつてその一人ひとり此方こちらいましも十七八の姉樣ねえさんかみつてもら最中さいちゆう
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
りよその視線しせん辿たどつて、入口いりくちから一ばんとほかまどまへると、そこに二人ふたりそううづくまつてあたつてゐるのがえた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ときあたかも、きやくくわいしたところ入口いりくち突伏つツぷして下男げなん取次とりつぎを、きやく頭越あたまごしに、はな仰向あふむけて、フンと
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此處こゝ秘密ひみつ塲所ばしよ入口いりくちです。』と櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさわたくし顧見かへりみた。此時このときはまだ工事こうじはじまらぬとへ、れいてつひゞききこえず、なかはシーンとして、すごほど物靜ものしづかだ。
所へ玄関に足音あしおとがした。案内も乞はずに廊下伝ひに這入つてる。たちまち与次郎が書斎の入口いりくちすはつて
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
數「あ成程、これは面白い/\……此処こゝからあがるのか、成程玄関の様子が面白く出来たの、入口いりくちかえ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
狸は丁度蜘蛛が林の入口いりくちならの木に、二銭銅貨位のをかけた時、すっかりおなかいて一本のまつの木によりかかって目をつぶっていました。するとうさぎがやって参りました。
蜘蛛となめくじと狸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
地中ちちう犬小屋式いぬごやしき横穴よこあな穿うがつてあつて、その犬小屋いぬごやごど岩窟がんくつ入口いりくちまでは、一ぢやう尺餘しやくよ小墜道せうとんねるとほるのだ。て、犬小屋いぬごやごと横穴よこあな入口いりくちは、はゞじやくすんたかさが三じやくすんある。
おつぎはおくれてやうや垣根かきね入口いりくちつた。おつぎはもう自分じぶんうちいことをつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
名人達は部屋の入口いりくちにぺたりと坐つたまゝ、桜桃のやうに真つ赤になつた。
塵一ツなく清められた上に輕く打水のしてある入口いりくちの敷石を踏鳴しながら、かう云ふ時にはいつも氣後きおくれするらしくあとになる女の手を取つて、ずつと玄關へ上ると、其處へ出迎へる大勢の女中。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
アヴニウ・ウツスの入口いりくち見附みつけるめに
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
……入口いりくちひかへてゐや。
あしすそへ、素直まつすぐそろへたつきり兩手りやうてわきしたけたつきり、でじつとして、たゞ見舞みまひえます、ひらきくのを、便たよりにして、入口いりくちはうばかり見詰みつめてました。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
廊下からの入口いりくちの二間だけを明けて座布団が四角に並べてある。その間々に火鉢が配ってある。向うの床の間の前にある座布団や火鉢はだいぶ小さく見える程である。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
這麼こんな物を食つて一人前にんまへ五フラン以上払はされたのを見ると菜食料理は倹約になる訳で無い。この家の入口いりくちの右手は本屋に成つて居て諸国の菜食主義ヹジタリズムの出版物ばかりを並べて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「妙な御客が落ちつたな。入口いりくちつたのか」と野々宮さんが妹に聞いてゐる。妹は然らざるむねを説明してゐる。序に三四郎の様な襯衣シヤツつたらからうと助げんしてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
家へはちこうござります、何処どこほかから這入口はいりぐちはなかろうかと横手に廻って見ても外に入口いりくちはない様子、しばらく門の処に立って内の様子をうかゞっていると、丁度一角が寝酒を始めて
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
母屋おもや入口いりくちはレールにちかはうにあつて人車じんしやからると土間どま半分はんぶんほどはすかひにえる。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
蜘蛛は森の入口いりくちならの木に、どこからかある晩、ふっと風に飛ばされて来てひっかかりました。蜘蛛はひもじいのを我慢がまんして、早速さっそくお月様の光をさいわいに、あみをかけはじめました。
蜘蛛となめくじと狸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
此時このとき探檢服たんけんふく輕裝けいさうで、龕燈がんどうたつさへてた。なかるのは危險きけんであらうが、龕燈がんどうひかりけて、入口いりくちから内部ないぶらしるには差支さしつかへなからうとかんがへ、單身たんしん横穴よこあな入口いりくちまですゝんだ。
ある朝もいつものやうにストウ夫人を訪ねてお喋舌しやべりをした。そして上機嫌になつて口笛を吹き/\帰つて来た。すると入口いりくちに細君が衝立つゝたつてゐて、亭主の姿を見るなり、鵞鳥のやうに我鳴り立てた。
入口いりくちからは機関車が
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
部屋に返るとき、入口いりくちで逢ったのは並の女中であった。夜具を片附けてくれたのであろう。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しづかな境内けいだい入口いりくちつたかれは、はじめて風邪ふうじや意識いしきする場合ばあひ一種いつしゆ惡寒さむけもよほした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いそいでると、停車場ステエシヨン入口いりくちに、こゝにもたゞ一人ひとり、コートのすそかぜさつふきまどはされながら、そでをしめて、しよぼれたやうにつて、あめながるゝかげはぐるまいとつてる。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
次の八畳の間のあいふすま故意わざと一枚開けてあるが、豆洋燈まめランプの火はその入口いりくちまでもとどかず、中は真闇まっくら。自分の寝ている六畳の間すらすすけた天井の影暗くおおい、靄霧もやでもかかったように思われた。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
フランクリンは馬を小舎こやつないで、入口いりくちに立つて外套の雪を叩き落した。