間近まぢか)” の例文
「お見せ。」……とも言はず、女太夫おんなたゆうが、間近まぢかから手をのばすと、逆らふさまもなく、頬を横に、びん柔順すなおに、ひざの皿に手を置いて
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「早くいえば、この大使館の本国が亡びるのじゃ。ドイツ軍は、もう間近まぢかに迫っている。だからこの某国大使館も解散のほかないのである」
はやく、にわとりかないかなあ。」とおもっていますうちに、間近まぢかくろもりほうで、いぬのなくこえこえました。きつねは、びっくりしました。
ものぐさなきつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして玉座と謁者えっしゃとの距離も、まったく間近まぢかであったから、正成の姿も、咫尺しせきおそれを、いちばいその背に平たくしていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一八八七年四月十七日日没間近まぢかの頃、余は嵯峨家の依頼によって、北緯二十七度六分東経百三十度五分の海上を彷徨した。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そして私は自分の隱れるようにしてゐた片隅を立つて、都合よく間近まぢかにあつた傍戸わきどから出た。そこから狹い通路つうろが廣間の方へ通じてゐるのである。
兎角とかくするほどに、海底戰鬪艇かいていせんとうてい試運轉しうんてんをはり、櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさふたゝ一隊いつたい指揮しきして上陸じやうりくした。電光艇でんくわうていあだか勇士ゆうしいこうがごとく、海岸かいがん間近まぢか停泊ていはくしてる。
晩成先生もさすがにあわごころになって少し駆け出したが、幸い取付とりつきの農家はすぐ間近まぢかだったから、トットットッと走り着いて、農家の常の土間へ飛び込むと
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
如何にそれが正しい人間の形であるかは知らないがあのフランスの多少口髭くちひげえた美人が、一尺の間近まぢかに現れたとしたら、私はその美しさに打たれるより先きに
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
しかし汽車きしやいままさ隧道トンネルくちへさしかからうとしてゐることは、暮色ぼしよくなか枯草かれくさばかりあかる兩側りやうがは山腹さんぷくが、間近まぢか窓側まどがはせまつてたのでも、すぐに合點がてんことであつた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
女学生とは云っても、卒業期間近まぢかの十八歳の珠子は、仮令殿村夫人にでも、肌を眺められるのが恥しかった。どんなに怖くても入浴だけは一人でなければいやであった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
がつなかの五らう退出たいしゆつ間近まぢかやすらかにをんなうまれぬ、おとこねがひしれにはちがへども、可愛かはゆさは何處いづこかはりのあるべき、やれおかへりかと母親はゝおやむかふて、流石さすが初孫ういまごうれしきは
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
太鼓たいこおとまじつて、ひゆう/\とふえらしいものも、だん/\間近まぢかきこえてた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
わたしは間近まぢかにきこえるしゃがれ声のために突然われにかえった。
凍みひびくたにがはの岩床の大岩床の間近まぢかくに寝る
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
船路ふなぢ間近まぢか被衣かつぎ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
突如とつじょとして、このとき、みみをつんざくような砲声ほうせいが、間近まぢかでしました。みじかく、またながかった、二人ふたりゆめやぶれたのです。
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)
どくらしい。……一々いち/\、そのぽぷらに間近まぢか平屋ひらやのある、あらものばあさんを、つじ番小屋ばんごやからすのは。——こゝでわかつた——植木屋うゑきや親方おやかただ。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
端艇たんていくつがへすおそれがあるのでいましも右舷うげん間近まぢかおよいでた三四しやく沙魚ふか、『此奴こいつを。』と投込なげこなみしづむかしづまぬに、わたくしは『やツ。しまつた。』と絶叫ぜつけうしたよ。
馬は、間近まぢかに迫つてゐたが、まだ見えなかつた。その時、蹄の音の他に、生垣の下に騷々しい物音がしたと思ふと、榛の幹の直ぐ下を逞しい犬がすつと走りぬけた。
間近まぢかく寄った彼女の覆面からは、軽くにおやかな呼吸いきが、私の顔をかすめます。滑かな彼女の絹服が、なよなよと、不思議な感触を以て、私の天鵞絨びろうどの服にふれ合います。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今、あらゆる予備的な世評をいちどに思い出して、厳然げんぜんと、その存在と人物の重さに、襟を正さしめられたのは、まさに今夜その人と間近まぢかむかったときからであった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああ、まぶしい自動車のヘッド・ライトは、二百メートルも間近まぢかせまっています。警察隊が来てくれたのです。あすこへ身をげこめば助かる! 私はもう夢中で走りました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
またた間近まぢかに寄せて
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さっきまで、よくれていたそらが、いつのまにかくもっていました。そして、もうすぐおてら間近まぢかになった時分じぶんに、ぽつり、ぽつりとあめちてきました。
海ほおずき (新字新仮名) / 小川未明(著)
間近まぢかかくれ、むねふせつて、かへつて、なゝめそらはるかに、一柱いつちうほのほいて眞直まつすぐつた。つゞいて、地軸ちぢくくだくるかとおもすさまじい爆音ばくおんきこえた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鐵車てつしやが、いよ/\永久紀念塔えいきゆうきねんたふ深山しんざんいたゞきてんがめに、此處こゝ出發しゆつぱつするのは明朝めうてう午前ごぜん六時ろくじさだまつたが、櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさは、海底戰鬪艇かいていせんとうてい運轉式うんてんしき間近まぢかせまつてるので
御座おざに入りては、恐れ多うござる。敷居の間近まぢかまで、お身をお移しくださいまし」
ふゆはるとが、となわせになって、もう間近まぢかにきていました。月日つきひながれは、このようにはやかったのでした。
寒い日のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
この一気に、尾のあおりをくらえる如く、仕丁、ハタとつまずつにい、面を落す。あわててふところ捻込ねじこむ時、間近まぢかにお沢を見て、ハッと身を退すさりながらじっと再び見直す
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
秀吉は馬も降りず、間近まぢかの山上に見える味方の旗じるしを凝視していた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、そのとしれも間近まぢかせまったのでした。ははは、なにをおもったか、ふいに、まんはなしかけました。
万の死 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もつと間近まぢかかつたのを、よくた。が、しろ風呂敷ふろしきけめは、四角しかくにクハツとあいて、しかもゆがめたるくちである。結目むすびめみゝである。墨繪すみゑ模樣もやう八角はつかくまなこである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
馬の背に押しまいらせても、期日までに、彼方かなたへ着けとの厳命なのです。……が、いかでこの道誉が、さような非情におよび得ましょうや。ここはまだ六波羅も間近まぢか、先ではおいたわりもできましょう。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はッと心付くと、あさ法衣ころもそでをかさねて、出家しゅっけが一人、裾短すそみじか藁草履わらぞうり穿きしめて間近まぢかに来ていた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつしか薬売くすりうりは、間近まぢかにやってきましたから、太郎たろうかおないようにしたいていますと
薬売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
背後うしろ突拔つきぬけのきしで、こゝにもつち一面いちめんみづあをむで、ひた/\と小波さゝなみうねりえず間近まぢかる。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
乳色ちちいろふゆそらから、まぶしいほど、ひかり大地だいちながれていました。かぜのないしずかなゆきのないくにには、やがて、はる間近まぢかへやってくるようにかんぜられるのでありました。
友だちどうし (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、堤尻どてじり駈上かけあがつて、掛茶屋かけぢゃやを、やゝ念入りな、間近まぢかいちぜんめし屋へ飛込とびこんだ時は、此の十七日の月の気勢けはいめぬ、さながらの闇夜あんやと成つて、しのつく雨に風がすさんだ。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こんなときには、いけにもみずがいっぱいになります。そして、天気てんきのいいあたたかなには、まちから、むらから、人々ひとびとりをしにいけかわかけるのも、もう間近まぢかなころでありました。
千代紙の春 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あい、」といいすてに、急足いそぎあしで、与吉は見るうち間近まぢかな渋色の橋の上を、黒い半被はっぴで渡った。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう、このむらいけみずこおるのも間近まぢかのことです。
愛は不思議なもの (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あい、」といひすてに、急足いそぎあしで、與吉よきちうち間近まぢか澁色しぶいろはしうへを、くろ半被はつぴわたつた。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やがて、そのふねは、すぐ間近まぢかにまいりました。
幽霊船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
三十日さんじふにち相州さうしう酒匂さかは松濤園しようたうゑん一泊いつぱく間近まぢか富士ふじのぞ松原まつばらする夕波ゆふなみおもむきし。
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
與吉よきち身體からだれようといふいへは、すぐ間近まぢかで、一ちやうばかりくと、たもとに一ぽん暴風雨あらし根返ねがへして横樣よこざまになつたまゝ、なかれて、なか青々あを/\とした、あはれな銀杏いてふ矮樹わいじゆがある、はし一個ひとつ
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
与吉が身体からだを入れようという家は、すぐ間近まぢかで、一ちょうばかりくと、たもとに一本暴風雨あらし根返ねがえして横様よこざまになったまま、半ば枯れて、半ば青々とした、あわれな銀杏いちょう矮樹わいじゅがある、橋が一個ひとつ
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幼君えうくんすなはちしとね間近まぢかちかづけたまひて、「かね申附まをしつけたるはいかゞはからひしや」「吉報きつぱうもたらさふらふ幼君えうくんうれしげなる御氣色おけしきにて、「そはなによりなり、はやかたきかせ」「さんさふらふそれがしおほせうけたまはり、 ...
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
れた手を間近まぢかな柳の幹にかけて半身はんしんを出した、お品は与吉を見て微笑ほほえんだ。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
樣子やうすを、間近まぢかながら、どくのある見向みむけず、呪詛のろひらしきしはぶきもしないで、ずべりとまど仰向あふむいて、やまひかほの、泥濘ぬかるみからげた石臼いしうすほどのおもいのを、ぢつとさゝへて病人びやうにん奇特きどくである。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)