)” の例文
いままでながもとしきりにいていたむしが、えがちにほそったのは、雨戸あまどからひかりに、おのずとおびえてしまったに相違そういない。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ひだりれたところに応接室おうせつしつ喫煙室きつえんしつかといふやうな部屋へやまどすこしあいてゐて人影ひとかげしてゐたが、そこをぎると玄関げんかんがあつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
西尾にしをからひがしして小僧こぞう皆身みなみため年季奉公ねんきぼうこうと、東西南北とうざいなんぼくで書いてると、おまへ親父おやぢがそれをくにへ持つてつて表装へうさうを加へ
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「さあ、さあ、たくさんありますから、みんなめしあがってください。」と夜警やけい人々ひとびとはいって、ぼんってきてしました。
子供と馬の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これがさるほうちかいか、人間にんげんほうちかいかは、議論ぎろんがあるにしても、とにかく人間にんげんさるとの中間ちゆうかん動物どうぶつといつてつかへはありません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
昨日きのうの自分と今日の自分とを混同して、長蔵さんを恐ろしがったのは、免職になりながら俸給のおさえを苦にするようなものであった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
森羅万象しんらばんしょうことごとく音楽の題材ならざるはなく、その思想の動きがすべて旋律と和声とを持っていたと言ってもしつかえはない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
と、また短銃をだして、手拭てぬぐいにクルクルとくるんだ。そいつを、ボロざやの刀と一しょにこしへさして、大小だいしょうしたように気取きどりながら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸の小咄こばなしにある、あの、「誰でもよい」と乳母うばに打ち明ける恋いわずらいの令嬢も、この数個のほうの部類にいれてつかえなかろう。
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
が、中根なかね營庭えいていかがや眞晝まひる太陽たいやうまぶしさうに、相變あひかはらずひらべつたい、愚鈍ぐどんかほ軍曹ぐんそうはうけながらにやにやわらひをつづけてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
大悟徹底だいごてっていと花前とはゆうとのである。花前は大悟徹底だいごてっていかたちであってこころではなかった。主人しゅじんはようやく結論けつろんをえたのであった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ふと麥藁むぎわらにはかなら一方いつぱうふしのあるのがります。それが出來できましたら、ほそはう麥藁むぎわらふと麥藁むぎわらけたところへむやうになさい。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
当主の、福子の良人には父にあたるその人は、温厚おんこう一途いちずで、仕事の上のことでは、まだまだ隠居のの下にいた。
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
さて、この立国立政府の公道を行わんとするに当り、平時にありてはしたる艱難かんなんもなしといえども、時勢じせい変遷へんせんしたがって国の盛衰せいすいなきを得ず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それから向うの土手の上には何かしいらしい木が一本斜めに枝を伸ばしていた。それは憂鬱そのものと言っても、少しもつかえない景色だった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一々仏の形のきまりを大握おおつかみにつかんで拵えて行かせるのですが、兄貴の大工さんも、がねを持って見込みの仕事をするのなら何んでも出来るが
あるとき宮中きゆうちゆう女官じよかんたちがこの匡衡まさひら嘲弄ちようろうしようとたくんで、和琴わごん日本につぽんこと支那しなことたいしていふ)をして
なにもしらない公卿くげのくせによけいな出口でぐちをするはいいが、いまにあべこべにてきから夜討ようちをしかけられて、そのときにあわててもどうにもなるまい。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
わたくしすこどく気味ぎみになり、『すべては霊魂みたま関係かんけいから役目やくめちがうだけのもので、べつ上下じょうげがあるわけではないでしょう。』となぐさめてきました。
それともまったくほかの原因げんいんによるのでしょうか、とにかく日によって水がしおのように退きするときがあるのです。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
僕は静かに椅子から身を起すとき足し足で、その梯子のある階段のうしろへ廻った。がそのとき階段のうしろで、意外なことを発見してしまった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ファットマンは、その長い強い鼻をぐいとべて、新吉のからだをふわりとちゅうで受け止めてしまったのです。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
岡町をかまち中食ちうじきをして、三國みくにから十三じふそわたしにしかゝつたときは、もうなゝごろであつた。渡船とせんつてゐるので、玄竹げんちくみち片脇かたわきつて、つてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
萬有ばんいうはゝたる大地だいぢその墓所はかどころでもあり、またその埋葬地まいさうちたるものがその子宮こぶくろでもある、さてその子宮こぶくろより千べつ兒供こどもうまれ、そのむねをまさぐりてふやうに
くてまた週間しうかんぎ、つひにミハイル、アウエリヤヌヰチととも郵便いうびん旅馬車たびばしや打乘うちのり、ちか鐵道てつだうのステーシヨンをして、旅行りよかうにと出掛でかけたのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
望む共召抱めしかゝへらるべき樣なし然とて空然々々うか/\當屋敷に居る時はやがて平左衞門同樣に呼出さるべし尤も我せるつみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これを解禁後かいきんご推定相場すゐていさうば四十九ドルぶんの三と比較ひかくするとわづかに一ドルらずとなつて一わりさがつてつた爲替相場かはせさうばは九回復くわいふくしたわけであつて
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
『おゝ、左樣さうでせうとも/\。』とわたくしあまりの可愛かあいさに少年せうねん頭上づじやうたかげて、大日本帝國だいにつぽんていこく萬歳ばんざいさけぶと、少年せうねんわたくしつむりうへ萬歳々々ばんざい/″\小躍こをどりをする。
ふん、そうなりゃ孤児院こじいんし向けてやる。だがもう話はたくさんだ。おれはあしたは村長さんの所へあいつを
地球上ちきゆうじようでも、赤道せきどう中心ちゆうしんにして兩極りようきよくむかふにしたがひ、また海岸かいがんからたかやまのぼるにつれて、その寒暖かんだんおうじ、しぜんとそこにえる樹木じゆもく種類しゆるいちが
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「そなたの方にひどうつかえることがあらば——誰か、是非とも逢わねばならぬ人でも待っておッて——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いま、三人で夕餉ゆうげを済ましたところである。喬之助と壁辰が、ぽうっと眼のふちを赤くしているのは、食前に、お妙のしゃくで、さしつされつしたものであろう。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とき袖崎そでさきつゞいて、背後うしろからならんでた五六だいくるまが、がら/\と川縁かはべりを、まちして通過とほりすぎる。看板かんばん薄黄色うすきいろが、まくけた舞臺ぶたいはしおもむきえた。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
物に由りて或はくしされて燒かれしも有るべく或は草木くさきの葉につつまれて熱灰にうづめられしも有るべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
海嘯かいしよう潮汐ちようせき干滿かんまん非常ひじようおほきなうみむかつて、河口かこう三角さんかくなりにおほきくひらいてゐるところおこ現象げんしようである。支那しな淅江省せつこうしよう錢塘江せんとうこう海嘯かいしようについてもつと有名ゆうめいである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
私は百合のはなを手折つて来てつままくら元にしてやつた。すると、つまはげしい香ひのためにせきつゞけた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
「そちらにエリスさんがいらつしやる。先輩の方をいて、私どもが出る幕ぢやありません。」
病氣を隱蔽する者が多いため、巡査は夜中に村を巡つて村民のかはや通ひに注意し出したので、靴の音がすると、誰れでも便所へ行くのをさへひかへるといふ噂さへ起つた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
不足ふそくてん適當てきたう外語ぐわいごもつ補充ほじうするのはつかへないが、ゆゑなく舊來きうらい成語せいごてゝ外國語ぐわいこくご濫用らんようするのは、すなはみづからおのれを侮辱ぶじよくするもので、もつてのほか妄擧まうきよである。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
折柄をりからすぎ妻戸つまどを徐ろに押しくる音す、瀧口かうべを擧げ、ともしびし向けて何者と打見やれば、足助二郎重景なり。はしなくは進まず、かうべを垂れてしをれ出でたる有樣は仔細ありげなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
おれがきみたちをさがしたやうに、あせりあせり熱心ねっしん俺達おれたちしたのをってゐる
「奥さん、かうやつて見ると、冬の最中でなければ、ソヴィエト行きはつかへないと思ひますな。——しかし興味の有るのは、ムッシュウ・ジッドの各年代の健康状態です。」
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
それは宗教しうけう病院びやうゐんになんか、あなたをおれしたくなかつたんですけれど、せまつたことではあるし、經濟的けいざいてきにどうにもならなかつたもんですからね、まつた仕方しかたのないことでした。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
そのときはのみにも感じなかつたが、新宿へ行つてからはの小指がひり/\と痛んで来たので、彼は相方のおせんに何か薬はないかと訊くと、おせんは山崎の守符を貸してくれた。
赤膏薬 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
しかしこの三つの作品にも、おの/\がある。『海へ』はそれでも客観性がかなり多く出てゐる。単なる自己描写と言つて了ふことの出来ない処がある。作の陰に微かながらもある背景がある。
自他の融合 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
あるいは東、あるいは西といえば如何いかにも両者の間に懸隔けんかくあるようにきこゆる。文章家はかくの如き文字を用いて相容あいいれざるを示す。かの有名な詩篇しへんの内にも西と東のへだたる如く云々うんぬんとある。
東西相触れて (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
何かはなやかな美しい音樂の快速調アツレグロの流れが、見る人を石に化したといふゴルゴンの鬼面——的なものをしつけられて、あんな色彩やあんなヴオリウムに凝り固まつたといふ風に果物は竝んでゐる。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
「御殿女中が蛇になったので、やっぱり口紅をいているです」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
知らん顔をしていればつかえないようなものの、ここの細君の掃除法のごときに至ってはすこぶる無意義のものと云わざるを得ない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ベルリオーズの精進しょうじんは涙ぐましきまでに見事であった。欠乏と闘いながらの七年間の苦学は英雄的であったと言ってもしつかえはない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)