其處そこ)” の例文
新字:其処
くだん古井戸ふるゐどは、先住せんぢういへつまものにくるふことありて其處そこむなしくなりぬとぞ。ちたるふた犇々ひし/\としておほいなるいしのおもしをいたり。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
市街まち中程なかほどおほきな市場いちばがある、兒童こども其處そこへ出かけて、山のやうに貨物くわもつつんであるなかにふんぞりかへつて人々ひと/″\立騒たちさわぐのをて居る。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「いゝえ、お祖父樣ぢいさん、私は螢をつかまへに行くのでは無いのです。つい其處そこまで…… あの、お隣家となりの太一さんのとこまで行くのです。」
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
地震ぢしん場合ばあひ崖下がいか危險きけんなことはいふまでもない。横須賀停車場よこすかていしやばまへつたものは、其處そこ崖下がけした石地藏いしじぞうてるをづくであらう。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
其處そこンところはあの、確乎たしかだらうと思ひますですが……今日もあの、手紙の中に十圓だけ入れて寄越して呉れましたから……。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ドクトルは其後そのあとにらめてゐたが、匆卒ゆきなりブローミウム加里カリびんるよりはやく、發矢はつしばか其處そこなげつける、びん微塵みぢん粉碎ふんさいしてしまふ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其處そこ何者なにものかゞるに相違さうゐない、ひとか、魔性ましやうか、其樣そんことかんがへてられぬ、かく探險たんけん覺悟かくごしたので、そろ/\とをかくだつた。
蜥蜴とかげ鉛筆えんぴつきしらすおと壓潰おしつぶされて窒息ちつそくしたぶた不幸ふかう海龜うみがめえざる歔欷すゝりなきとがゴタ/\に其處そこいらの空中くうちゆううかんでえました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
宗助そうすけ浴衣ゆかた後影うしろかげが、裏口うらぐちところへてなくなるまで其處そこつてゐた。それから格子かうしけた。玄關げんくわんへは安井やすゐ自身じしんあらはれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
越てお小座敷より忍入藤五郎樣の入せらるゝ處へ御出候へと申ければ佐十郎打點頭うちうなづき呉々くれ/″\も頼むと言置いひおき兩人共に先藤三郎樣を連行つれゆかんと其處そこ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其處そこには五十前後の番頭の平吉が異常な昂奮と不眠のつかれとを一緒くたにしたやうな一種イライラした表情で迎へるのです。
傷口きずぐちかわいてつたやうでございます。おまけに其處そこには、馬蠅うまばへが一ぴき、わたしの足音あしおときこえないやうに、べつたりひついてりましたつけ。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
其處そこには墓塲のくされたる如きにほひち/\て、新しき生命ある空氣は少しだになく、すまへる人また遠くこの世を隔てたるにはあらずやと疑はる。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
『十八丁だすて、東光院まで。……この道をぐに行きますと、駐在所ちうざいしよがあつて、其處そこから北へ曲るんやさうだす。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
おつぎはばしてはたまごを一つ/\につてたもとれた。おつぎはたもとをぶら/\させて危相あぶなさう米俵こめだはらりた。其處そこにもたまごは六つばかりあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
問ひて餘の字を付加へらるゝ時はスハヤと足をさすりたり又まだといふやが其處そこならんと思ふて問ふとき付加へられて力を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
ここを以ちて今に至るまで、その子孫こども倭に上る日、かならずおのづからあしなへくなり。かれその老の所在ありかを能く見しめき。かれ其處そこ志米須しめす一〇といふ。
なんだか其處そこ可笑をかしくこぐらかりまして、うしても上手じやうずおもひとくこと出來できませんかつた、いまおもふてるとるほどかくしだてもあそばしましたらう
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これはるから、打石斧だせきふおほあつめられたのである。玉川沿岸たまがはえんがんには打石斧だせきふおほい。其處そこ何處どこくのにもたくちか都合つがふい。
けれども間もなく出て、靜岡の醫學校にはいつたが、其處そこから藩命で薩摩に遊んで、諸藩の書生と付き合つたが、それがわしの放浪生活の初めでもあつたらう。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
にはひかりがあり反射はんしやがあり、そらにはいろうるほひとがある。空氣くうきんで/\すみつて、どんな科學者くわがくしやにもそれが其處そこにあるといふことを一わすれさせるであらう。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
が、今は淺草に住つてゐる友達と、一昨日おとゝひ一日公園をぶら/\遊んで、其晩其處そこで泊つたことは確である。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
それではなんにもならないでせう。ほんとに其處そこではたすけることもたすけられることもできない。まつたく薄情はくじやうのやうだが自分々々じぶん/″\です。自分じぶんだけです。それほかいのさ、ね
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
今日けふ貴樣達きさまたち此處ここあつめたのはほかでもない。このあひだはら途中とちうおこつたひとつの出來事できごとたいするおれ所感しよかんはなしてかせたいのだ。それは其處そこにゐる中根なかね等卒とうそつのことだ。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
和女そもじ殿御とのごは、それ、其處そこ胸元むなもとにおにゃってぢゃ。パリスどのもぢゃ。さゝ、尼御達あまごたち仲間中うちへ、たのうで和女そもじれておかう。あれ、夜番よばんるわ、委細ゐさいことあとで/\。
ななえは父親を其處そこに置いて見るには身に覺えのない、人間の奧にある汚れたものを感じた。父親がそんな汚れを持つてゐたとはどう考へても、釋き明かすことか出來なかつた。
(旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
其處そこへ持つて行つて發音的の新しい假名遣が作られる、是れは便利なる横道である、何も舊い街道を正道として便利な新しい假名遣を邪道とすることはないと云ふのであります。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
たゞ默つておとなしく其處そこにうづくまつてゐるだけのことであつたが、それがたとへやうもないほどに物凄かつた。お道はぞつとして思はずよぎの袖に獅噛しがみ付くと、おそろしい夢は醒めた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
其處そこには、この友達が一時非常に仲をよくした田村俊子さんが居るのだ。
あるとき (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
其處そこのこれるものありて
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
其處そこふるちよツけた能代のしろぜんわんぬり嬰兒あかんぼがしたか、ときたならしいが、さすがに味噌汁みそしるが、ぷんとすきはらをそゝつてにほふ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それで螢の光で其處そこらが薄月夜のやうに明いのであツた。餘り其處らが明いので、自分ははじめ、夢を見てゐるのでは無いかと思ツた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
其處そこ乘組人のりくみにん御勝手ごかつて次第しだい區劃くくわく彈藥だんやく飮料いんれう鑵詰くわんづめ乾肉ほしにく其他そのほか旅行中りよかうちう必要品ひつえうひんたくわへてところで、固定旅櫃こていトランクかたちをなしてる。
其處そこその翌日あくるひ愈〻いよ/\怠惰屋なまけや弟子入でしいりと、親父おやぢ息子むすこ衣裝みなりこしらへあたま奇麗きれいかつてやつて、ラクダルの莊園しやうゑんへとかけてつた。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
『オヤ、其處そこれの大事だいじはなあるいてつてよ』通常なみ/\ならぬおほきな肉汁スープなべそばんでて、まさにそれをつてつてしまつたのです。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そのうちたけまばらになると、何本なんぼんすぎならんでゐる、——わたしは其處そこるがはやいか、いきなり相手あひてせました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さへづるやうに言つて女房は、茶や菓子を運んで來た。狸が腹皷はらづつみを打つてゐる其の腹のところに灰を入れた煙草盆代たばこぼんがはりの火鉢は、前から其處そこにあつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
すると其處そこ院長ゐんちやうは六號室がうしつるとき、にはからすぐ別室べつしつり、玄關げんくわん立留たちとゞまると、丁度ちやうど恁云かうい話聲はなしごゑきこえたので。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さうしてはりさきでおつぎのからたばかりでやはらかくつた肉刺まめをついて汁液みづして其處そこへそれをつてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
きつちやんおまへにもゝうはれなくなるねえ、とてたゞふことながらしをれてきこゆれば、どんな出世しゆつせるのからぬが其處そこくのはしたがからう
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これは關東大地震かんとうだいぢしんさい其處そこ生埋いきうづめにされた五十二名ごじゆうにめい不幸ふこうひと冥福めいふくいのるためにてられたものである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
其處そこよりたして、當藝たぎの上に到ります時に、詔りたまはくは、「吾が心、恆はそらかけり行かむと念ひつるを、今吾が足え歩かず、たぎたぎしくなりぬ」
りながら何の御禮に及びませうぞそれ其處そこ水溜みづたまり此處には石がころげ有りと飽迄あくまでお安に安心させ何處どこ連行つれゆきばらさんかと心の内に目算しつゝ麹町をもとくすぎて初夜のかね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が——きに其處そこひと屋敷内やしきうちにでもなつて、かきからのぞこと出來できなくなるだらう。
平次は八五郎に合圖をすると、其處そこは其儘にして、もう一度權次の家へ行つて見ました。
聲に應じて出で來りたるは、此家の下婢かひとも覺しき十七八歳の田舍女なるが、果してわれの姿の亂れたるに驚きたりと覺しく、其處そこに立ちたるまゝ、じつとわれの顏をいぶかり見ぬ。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
……おゝ、チッバルト、足下おぬし其處そこにゐるか、みたまゝで? まだ嫩若うらわか足下おぬし眞二まッぷたつにしたそのおなで、たうかたき切殺きりころしてしんぜるが、せめてもの追善つゐぜんぢゃ。從兄いとこどの、ゆるしてくれい。
松公はこの四五日、姿も見せない。お大は頭腦あたまも體も燃えるやうなので、うちじつとしてゐる瀬はなく、毎日ぶら/\と其處そこら中彷徨うろつきまはつて、妄濫むやみやたらと行逢ふ人に突かゝつて喧嘩をふつかけて居る。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
りてすぐに碓氷の馬車鐵道に乘れば一人前四十錢にて五時頃までには輕井澤へ着きまた直ちに信越の鐵道に乘れば追分より先の宿しゆく小田井をだゐ停車塲ステーシヨン御代田みよだといふ)まで行くべきなれど其處そこが四天王ともいはるゝ豪傑鐵道馬車より歩いて早く着いて見せんとしかも舊道の峠を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
ふ、牛切ぎうきりの媽々かゝあをたとへもあらうに、毛嬙飛燕まうしやうひえんすさまじい、僭上せんじやういたりであるが、なにべつ美婦びふめるに遠慮ゑんりよらぬ。其處そこ
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)