まゝ)” の例文
暖い日で額が汗ばむ程なので、基督は外套を脱いで、そこらの楊の木に引掛ひつかけたまゝ、岡をのぼつて多くの群衆にお説教をしに出掛けた。
だ東京で三年前に買つたまゝのをかぶつて居る僕の帽もこの連中れんぢゆうあかみた鳥打帽やひゞれた山高帽やまだかばうに比べれば謙遜する必要は無かつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
つちうへらばつてゐる書類しよるゐ一纏ひとまとめにして、文庫ぶんこなかれて、しもどろよごれたまゝ宗助そうすけ勝手口かつてぐちまでつてた。腰障子こししやうじけて、きよ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この遊歩いうほあひだ武村兵曹たけむらへいそうめいずるまゝに、始終しじゆう吾等われらまへになり、うしろになつて、あらかじ猛獸まうじう毒蛇どくじや危害きがいふせいでれた、一頭いつとう猛犬まうけんがあつた。
さもたり。ちかづくまゝに。にほは。そもかう款貨舖ぐやの。むすめかも。ゆびはさめる。香盆かうばこの。何爲なにことなりや。時々とき/\に。はなかさして。くめるは。
「西周哲学著作集」序 (旧字旧仮名) / 井上哲次郎(著)
「え、あの時は怒つて貰はないと言つたとかで、そのまゝになつてゐるやうですよ。今度はもつと大きく吹きかけてゐるらしいんです。」
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
聞書は話のほとんどまゝである。君は私に書き直させようとしたが、私は君の肺腑はいふから流れ出た語の権威を尊重して、殆其儘これを公にする。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
もう三十分も早かったら間に合ったろうに、惜しい事をしたとおれは思った。しかし決して、己は其のまゝあきらめる気にはなれなかった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ハヾトフは其間そのあひだ何故なにゆゑもくしたまゝ、さツさと六號室がうしつ這入はひつてつたが、ニキタはれいとほ雜具がらくたつかうへから起上おきあがつて、彼等かれられいをする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
みね「私ゃア縛られて首を切られてもいゝよ、そうするとお前も其のまゝじゃア置かないよ、百両おくれ、私ゃア別に成りましょう」
女中のお安さんは、多い髪のハイカラな巻きかたに、黄色い厚い留櫛を見せて、向うのテイブルにうつぶしたまゝ、正体もなく居眠をしてゐる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
突ツ立てるまゝ鋭き眼に見廻はし居たり、漆黒しつこくなる五分刈の頭髪燈火に映じて針かとも見ゆ、彼は一座怪訝くわいがおもてをギロリとばかりにらみ返へせり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
と、誰か向ふのあぜを走りながら、叫ぶ者がある。山県はちらと見たが、「あ、僕の家らしい!」と叫んで、そして跣足はだしまゝあわてて飛出した。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
一人の農夫が草鞋穿わらぢばきまゝ、ぐいと『てツぱ』(こつぷ酒)を引掛けて居たが、やがて其男の姿も見えなくなつて、炉辺ろばたは唯二人の専有ものとなつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
何でも女房は仆れたまゝ気絶した様子でしたが其暇に検査官は亭主を引立て直様すぐさま戸表とおもてに待せある馬車へとかついで行きました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
醜男面ひょっとこづら假面めん無用むようぢゃ!(と假面を抛出なげだしながら)れが皿眼さらまなこで、このともないつらやがらうとまゝぢゃ! 出額でこすけあかうなるばかりぢゃわい。
ごろでは綿わたがすつかりれなくなつたので、まるめばこすゝけたまゝまれ保存ほぞんされてるのも絲屑いとくづぬの切端きれはしれてあるくらゐぎないのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ふれぬ此度は相摸守殿には玄關げんくわん式臺迄しきだいまで御見送おんみおくり町奉行は下座敷へ罷出まかりい表門おもてもんを一文字に推開おしひらけば天一坊は悠然いうぜんと乘物のまゝもん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、さういふ間も、生徒が不精してスリッパのまゝ庭に降りて来ようとすると、「こら/\。靴をはいて、靴をはいて」と一々丹念に注意してゐた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
ひと打石斧だせきふかとつて、奇形きけいいのは踏付ふみつけたまゝくが。其打石斧そのだせきふだらうが、石槌せきつゐだらうが、んでもでも採集袋さいしふぶくろれねば承知しようち出來できぬ。
口惜くやしいけれど、何んにも知りやしません、出戻りで肩身を狹く暮してゐるから、お小遣もまゝぢやない、氣が付けば、天井裏を煤だらけになつて這ひ回り
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
今までは注射しんを以て左の腕の静脈から血を採って居たが、今回だけは、僕の左の橈骨とうこつ動脈にガラス管をさしこみ、そのまゝゴムかんでつないで、僕の動脈から
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
はづかしくもなくくこんな莫迦ばかげたことかれたものだ』とグリフォンがしました。彼等かれら雙方さうはうともだまつたまゝすわつてあはれなあいちやんをてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
常には見上る高枝たかきえだうづまりたる雪を天然てんねん足場あしばとして心のまゝきりとり、大かたは六を一人まへとするなり。
かういふ構造こうぞうおいては、おほきな地震動ぢしんどうたいして眞先まつさきいたむのは最下層さいかそうである。さら震動しんどうつよいと階下かいか部分ぶぶんつぶれ、上層じようそうおほくは直立ちよくりつ位置いちまゝ取殘とりのこされる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
彼は唯只温情なる多血なる日本国民として日本国民なるが如く見る所を見しまゝに聞く所を聞きしまゝに写し出せり。而して自然に吾人をして快読に堪へざらしむ。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
と云ふにふでを止めて置いた。そして散歩さんぽにでも出るやうに、ぶらりと勝見家の門を出て了ツた。畫室などはそツくり其のまゝにして置いて、何一つ持出さなかツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
余は「歌念仏」を愛読するのあまり、其女主人公に就きて感じたるところをありまゝに筆にせんとするのみ。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
しかもアルファベットも習ひ放しで、いろ/\忙がしかつたものだから、教科書は鞄の中へ放り込んだまゝツイのぞいてみた事もなかつたが、北京で仏人の手紙が届いた時
エスペラントの話 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
りしも二度にど三度さんど車夫しやふまたみちくはしからずやあらんいま此職このしよくれざるにやあらんおなみち行返ゆきかへりてかうてもしたらんにつよくいひてもしもせずしめすがまゝみちりぬ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すると彼はそこにしやがんだまゝ、我にもあらずいつか気が遠くなつてうと/\と眠つて仕舞つた。
(新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
それを聞くと道助は寝巻のまゝふら/\と隣室へ這入はいつていつた。そして蒼白い笑顔を作りながら
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
側には母上地によこたはり居給ふ。これを圍みたるは、見もしらぬ人々なり。馬は車を引きたるまゝにて、たふれたる母上の上を過ぎ、わだちは胸を碎きしなり。母上の口よりは血流れたり。
赤いメレンスの帯ばかりめて娘姿むすめすがたが、突然とつぜんたつた一日のあひだに、丁度ちやうど御手洗みたらしで手を洗つてゐる若い芸者そのまゝ姿すがたになつてしまつたのだ。薬指くすりゆびにはもう指環ゆびわさへ穿めてゐた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
暫らく秘して人に知らしむるなかれとの事に、せふは不快の念に堪へざりしかど、かゝる不自由の身となりては、今更に詮方せんかたもなく、彼の言ふがまゝに従ふにかずと閑静なる処に寓居をかま
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
し七ぐわつ以前いぜんのやうな經濟状態けいざいじやうたいがそのまゝ持續ぢぞくしたならば、あの不安定ふあんていなる状態じやうたいすゝむにしたがつて益々ますます不安定ふあんていになつて、經濟界けいざいかい破壞はかいされるだらうとふことは、たしかな事實じじつかんがへてる。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
わしたまらず真逆まツさかさまたきなか飛込とびこんで、女瀧めたきしかいたとまでおもつた。がつくと男瀧をたきはうはどう/\と地響ぢひゞきたせて、山彦やまびこんでとゞろいてながれてる、あゝちからもつ何故なぜすくはぬ、まゝよ!
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
およそありのまゝに思うこゝろ言顕いいあらわしる者は知らず/\いと巧妙なる文を
怪談牡丹灯籠:01 序 (新字新仮名) / 坪内逍遥(著)
そこで死ぬと云ふことがない故、天命のまゝにして、天より授かりしまゝでかへすのぢや、少しもかはることがない。ちやうど、天と人と一體と云ふものにて、天命をまつたうしへたと云ふ譯なればなり。
遺教 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
れた足のまゝ廊下でをどり狂ふ子供等は
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かぶつた滿谷は「ゆうべ汲んで置くのを忘れたら、今朝けさ水道が凍つて水が出ない」と云つて水瓶みづがめを手にしたまゝ煖炉ストオブの前に立つて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
下女げぢよは「左樣さやう御座ございましたか、どうも」と簡單かんたんれいべて、文庫ぶんこつたまゝいた仕切しきりまでつて、仲働なかばたらきらしいをんなした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
余は答へんとすれど声出でず、膝のしきりにをのゝかれて立つに堪へねば、椅子をつかまんとせしまでは覚えしが、そのまゝに地に倒れぬ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この懶惰なまくらな芸人は手脚てあしをもじもじさせてゐたが、ぴちとぜたやうな音がしたと思ふと、身体からだはそのまゝ見えなくなつてしまつた。
若江に心を懸ける者がお屋敷うちにあると見えます、それを青茎あおじくつぼみまゝ貴殿のもとへ送るというのは若江を取持とりもちいたす約束をいたした事か
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あかりあかるき無料むれう官宅くわんたくに、奴婢ぬひをさへ使つかつてんで、其上そのうへ仕事しごと自分じぶんおもまゝてもないでもんでゐると位置ゐち
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
重右衛門の最期さいごもつまりはこれに帰するのではあるまいか。かれは自分の思ふまゝ、自分の欲する儘、則ち性能の命令通りに一生を渡つて来た。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そこには炭俵、漬物桶、又は耕作の道具なぞが雑然ごちや/\置き並べてある。片隅には泥のまゝの『かびた芋』(馬鈴薯)山のやうに。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
わたくし此時このときまでほとんど喪心そうしん有樣ありさまで、甲板かんぱん一端いつたん屹立つゝたつたまゝこの慘憺さんたんたる光景ありさままなこそゝいでつたが、ハツと心付こゝろついたよ。
「おゝいてえまあ」とかほしかめてかれるまゝくびかたぶけていつた。みだれたかみ三筋みすぢ四筋よすぢ手拭てぬぐひともつよかれたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)