おや)” の例文
その金魚きんぎょともだちもなく、おやや、兄弟きょうだいというものもなく、まったくのひとりぼっちで、さびしそうに水盤すいばんなかおよぎまわっていました。
水盤の王さま (新字新仮名) / 小川未明(著)
むかし、大和国やまとのくに貧乏びんぼう若者わかものがありました。一人ひとりぼっちで、ふたおやつま子供こどももない上に、使つかってくれる主人しゅじんもまだありませんでした。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
よろこばるゝといへどもおや因果いんぐわむく片輪かたわむすめ見世物みせものの如くよろこばるゝのいひにあらねば、決して/\心配しんぱいすべきにあらす。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
かへりのおそきをはゝおやあんしてたづねにてくれたをば時機しほうちへはもどつたれど、はゝものいはず父親てゝおや無言むごんに、一人ひとりわたしをばしかものもなく
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これは藩主の菩提寺で、そこにゐる楚水といふ坊さんが、二人ふたりおやとは昵近じつこんなので、用の手紙を、此楚水さんに渡しに行つたのである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
若い頃の自分にはおや代々だいだいの薄暗い質屋の店先に坐ってうららかな春の日をよそに働きくらすのが、いかに辛くいかになさけなかったであろう。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たゞしけるにおや三藏は近年病死びやうし致し私しは當年廿五歳なれば廿二三年あとの事は一向覺えなしと云にぞ然らば廿二三年ぜんの奉公人の宿帳やどちやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ところ惣領そうりやう甚六じんろくで、三男さんなんが、三代目さんだいめからやうとには、いまはじまつたことではなけれど、おやたちの迷惑めいわくが、はゞかりながら思遣おもひやられる。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おやないだが、成長せいてうしたらアノとほりの獰惡振だうあくぶりを相續さうぞくするにちがひない、環境かんけうつみだいつそうちつてやらうかとおもつて、また躊躇ちうちよした。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
父親ちちおやというのは家老かろうですが、自分じぶんのむすこにたいしてはとてもあまいおやばかでしたから、諭吉ゆきちのいとこ藤本元岱ふじもとげんたいをよびつけて
オーラのおとうさんとしては、じぶんがおやからもらった土地とちを、子どもには、ばいにしてのこしてやりたいと思っていたからです。
厘錢りんせん黄銅くわうどう地色ぢいろがぴか/\とひかるまで摩擦まさつされてあつた。どつぺをいたのがさらおやになつて一ごとにどつぺはいてつなへつける。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
みのおやのこともわすれて、こゝのお二人ふたりしたしみましたので、わたしはおそばはなれてくのが、ほんとうにかなしうございます
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
何々屋なになにや後家ごけさんが、おびってやったとか。酒問屋さけとんやむすめが、舞台ぶたいしたかんざししさに、おやかねを十りょうしたとか。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
心に目しるしをして家にかへりおやにもかたりてよろこばせ、次のあしたかははぐべき用意をなしてかしこにいたりしにきもは常にばいして大なりしゆゑ
わたくしうれしいやら、こいしいやら、また不思議ふしぎやら、なになにやらよくはわからぬ複雑ふくざつ感情かんじょうでそのときはじめて自分じぶんたましいおやまえ自身じしんしたのでした。
なにもかもきれいに食べちまってさ、づけおやになるなんていっちゃあ食べて、はじめは上皮うわかわをなめ、それから半分はんぶんぺろりとやって、そのつぎには……
をおもふたふと親心おやごゝろ! おやにとつてほどのものがありませうか。どもはいのち種子たねであり、どもはぐものであり、どもはてん使つかひであり。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
気のどくな旅の音楽師おんがくしが自分をやしなおやの手から引きさらって行ったときには、つらくもこわくも思ったようなものも、つまりそれがよかったのだと思って
おや兄弟きやうだいもないぼくには、こんなばんすこぶ感心かんしんしないので、おまけに下宿住げしゆくずまひ所謂いはゆる半夜燈前十年事、一時和雨到心頭といふ一けんだから堪忍たまつたものでない
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
さだめしもうとしよりのおばあさんになつて當時とうじ自分じぶんくらゐのむすめおやとなつてゐることであらうとおもひます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
はちおやべませんが、どうかするとあのなかからはおやりかけたのがます。それをべます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「そのとおり。だがわしはおまえのみのおやとして、おまえを殺す、ただ一つの方法を知っている——」
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
谷合いの畠にお長のおやと兄の常吉がいた。二三寸延びた麦の間の馬鈴薯を掘っていたのである。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
これはやはり、おやと、師匠ししよう弟子でしと、先輩せんぱい後輩こうはいといふほどのちがひがあらはれてゐるのであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
地蔵経じぞうきょうしてかどへたち、行乞ぎょうこつぜにべ物は、知りえた不幸ふこうの子にわけてやる。ほんとにおやも家もない子供は、自分の宿やどへつれて帰って、奉公口ほうこうぐちまでたずねてやる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ものやみになりて死ぬべき時に、かくこそ思ひしかといひけるを、おや聞きつけて、泣く泣く告げたりければ、まどひ來りけれど、死にければ、つれづれとこもりをりけり。
伊勢物語など (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
櫻木大佐さくらぎたいさその姿すがたかくすとともにかの帆走船ほまへせんその停泊港ていはくかうらずなり、あはせて大佐たいさ年來ねんらい部下ぶかとしてかみごとおやごとくに服從ふくじゆうせる三十七めい水兵すゐへいその姿すがたうしなひたりといへば
まづ責任せきにん閑過かんくわする一れいまをしませう。それはおも外出ぐわいしゆつなどについおこ事柄ことがらで、塾生じゆくせい無論むろんわたくしおやから責任せきにんもつあづかつてゐるのですから出入ではいりつきては行先ゆくさき明瞭めいれうにしてきます。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
行跡ぎようせきやゝたゞしとしようせらるゝ者もなほおやし夫にして貯金帳ちよきんてう所持しよじせんためそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
当時いまばちあたつてういふ身分みぶん零落おちぶれ、俄盲目にはかめくらになりました、可愛想かあいさうなのは此子供このこぞうでございます、んにもぞんじませぬで、おや因果いんぐわが子に𢌞めぐりまして、此雪このゆきなか跣足はだしで歩きまして
今夜こんやあなたのおとうさんが、ぼく罵倒ばたうしてしたのも、おやとして無理むりなことではありません。まつたぼくといふをとこは、あなたをなにひとつ幸福かうふくにしてあげることなんかできない人間にんげんなんですから……
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
本人を中心として、その家族、おや同胞きやうだいといふものは、十分計算に入れなければならんと思つてゐます。少なくとも、われわれのやうな職務にあるものは、その点慎重でなければならんのです。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
しらぬひ筑紫つくしのはてにわれ居れどをしへのおやたたへざらめやあふがざらめや
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
百果報もゝがほうのあんで、みすゞりのあもの、心ある者や、御主おしゆ加那志がなし御為おだめ御万人おまんちよために、いのちうしやげらば、おややだによ、ひきはらうぢまでもおのそだてめしやいる、おほ事拝ごとをがで、高札たかふだしるち、道側みちばたに立てゝ
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
おやという二字と無筆の親は言い。この川柳せんりゅうは、あわれである。
親という二字 (新字新仮名) / 太宰治(著)
分不相應ぶんふさうおう貴人きにんおや婿むこにしてとらしたをば?
おや太鼓たいこうちやがおどる。
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
なんにもべずにおや
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
おやの國、母の渚べ、——
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
おやなし千鳥ちどり
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おやすずめは、自分じぶんだけげようとせずすずめをかばうであろう。それがために、子供こどもがわりとなって、たれるかもしれない。
すずめを打つ (新字新仮名) / 小川未明(著)
おや大病たいびやうだか、ともだちが急病きふびやうだか、れたもんですか。……きみたちのやうにつちや、なにか、あやしいところへでも出掛でかけるやうだね。」
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
捨るぞや強面つれなきおやうらみなせぞたゞ此上は善人よきひとに拾ひ上られ成長せば其人樣を父母と思ひて孝行かうかうつくすべしと暫時しばし涙にくれたりしがかゝる姿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
勉強家べんきようかける、懶怠なまけられてはこまるけれど、わづらはぬやうにこゝろがけておれ、けておまへは一つぶものおやなし、兄弟きようだいなしとふではいか
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そういえばなるほど、ひらめというおさかなは、目が背中せなかについています。ですからいまでも、おやをにらめると、平目ひらめになるといっているのです。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
心に目しるしをして家にかへりおやにもかたりてよろこばせ、次のあしたかははぐべき用意をなしてかしこにいたりしにきもは常にばいして大なりしゆゑ
人間にんげんなにがつらいともうしても、おやとが順序じゅんじょをかえてぬるほど、つらいことはないようにおもわれます。無論むろんわたくしには良人おっとたいする執着しゅうじゃくもございました。
此友人は国へ帰つてから、約一年許りして、京都ざいのある財産家からよめもらつた。それは無論おやの云ひつけであつた。すると、少時しばらくして、すぐ子供が生れた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「たゞのひとでないとはいひながら、今日けふまでやしなそだてたわしをおやおもつて、わしのいふことをきいてもらひたい」
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)