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漂
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たゞよ
ふりがな文庫
“
漂
(
たゞよ
)” の例文
晝のうちは、それでも何事も起りませんが、あまり騷ぎが大袈裟だつたので、夜になると、皆んなの顏には明かに
疲勞
(
つかれ
)
の色が
漂
(
たゞよ
)
ひます。
銭形平次捕物控:002 振袖源太
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
深閑
(
しんかん
)
として、
生物
(
いきもの
)
といへば
蟻
(
あり
)
一
疋
(
ぴき
)
見出せないやうなところにも、
何處
(
どこ
)
となく祭の
名殘
(
なごり
)
を
留
(
とゞ
)
めて、人の
香
(
か
)
が
漂
(
たゞよ
)
うてゐるやうであつた。
東光院
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
横手
(
よこて
)
の
桟敷裏
(
さじきうら
)
から
斜
(
なゝめ
)
に
引幕
(
ひきまく
)
の
一方
(
いつぱう
)
にさし込む
夕陽
(
ゆふひ
)
の光が、
其
(
そ
)
の進み入る
道筋
(
みちすぢ
)
だけ、空中に
漂
(
たゞよ
)
ふ
塵
(
ちり
)
と
煙草
(
たばこ
)
の
煙
(
けむり
)
をばあり/\と眼に見せる。
すみだ川
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
しかるに文政八酉の十二月、
例
(
れい
)
の如く薪を拾ひに出しに、物ありて
柱
(
はしら
)
のごとく浪に
漂
(
たゞよ
)
ふをみれば人の
頭
(
かしら
)
とみゆる物にて甚
兇悪
(
きやうあく
)
なり。
北越雪譜:06 北越雪譜二編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
君のまはりには多くの騎馬武者
群
(
むら
)
がりて押しあふごとく、またその上には
黄金
(
こがね
)
の中なる鷲風に
漂
(
たゞよ
)
ふごとく見えたり 七九—八一
神曲:02 浄火
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
▼ もっと見る
彼女
(
かのじよ
)
はその
苦痛
(
くつう
)
に
堪
(
たへ
)
られさうもない。けれども
黒
(
くろ
)
い
影
(
かげ
)
を
翳
(
かざ
)
して
漂
(
たゞよ
)
つて
來
(
く
)
る
不安
(
ふあん
)
は、それにも
増
(
ま
)
して
彼女
(
かのぢよ
)
を
苦
(
くる
)
しめるであらう。
悔
(旧字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
鋭
(
するど
)
き
山颪
(
やまおろし
)
が
颯
(
さ
)
と
来
(
く
)
ると、
舞下
(
まひさが
)
る
雲
(
くも
)
に
交
(
まじ
)
つて、
漂
(
たゞよ
)
ふ
如
(
ごと
)
く
菫
(
すみれ
)
の
薫
(
かほり
)
が
𤏋
(
ぱつ
)
としたが、
拭
(
ぬぐ
)
ひ
去
(
さ
)
つて、つゝと
消
(
き
)
えると、
電
(
いなづま
)
が
空
(
くう
)
を
切
(
き
)
つた。
神鑿
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
其以上
(
それいじやう
)
、
私
(
わたし
)
の
詰問
(
きつもん
)
の
矢
(
や
)
の
根
(
ね
)
は
通
(
とほ
)
らぬ。
通
(
とほ
)
らぬ
処
(
ところ
)
に
暗
(
くら
)
い
不安
(
ふあん
)
の
影
(
かげ
)
が
漂
(
たゞよ
)
うてゐるのであるが、
影
(
かげ
)
は
影
(
かげ
)
で、一
歩
(
ぽ
)
も
私
(
わたし
)
の
足迹
(
そくせき
)
を
容
(
い
)
るゝを
許
(
ゆる
)
さぬのである。
背負揚
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
眼界
(
がんかい
)
の
達
(
たつ
)
する
限
(
かぎ
)
り
煙波
(
えんぱ
)
渺茫
(
べうぼう
)
たる
印度洋
(
インドやう
)
中
(
ちう
)
に、
二人
(
ふたり
)
の
運命
(
うんめい
)
を
托
(
たく
)
する
此
(
この
)
小端艇
(
せうたんてい
)
には、
帆
(
ほ
)
も
無
(
な
)
く、
櫂
(
かひ
)
も
無
(
な
)
く、たゞ
浪
(
なみ
)
のまに/\
漂
(
たゞよ
)
つて
居
(
を
)
るばかりである。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
竈
(
かまど
)
には
小
(
ちひ
)
さな
鍋
(
なべ
)
が
懸
(
かゝ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
汁
(
しる
)
は
葢
(
ふた
)
を
漂
(
たゞよ
)
はすやうにしてぐら/\と
煮立
(
にた
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
外
(
そと
)
もいつかとつぷり
闇
(
くら
)
くなつた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
搖上
(
ゆりあ
)
げ
搖下
(
ゆりおろ
)
し
此方
(
こなた
)
へ
漂
(
たゞよ
)
ひ彼方へ
搖
(
ゆす
)
れ正月四日の
朝
(
あさ
)
巳
(
み
)
の
刻
(
こく
)
より翌五日の
申
(
さる
)
の
刻
(
こく
)
まで風は少しも
止
(
やま
)
ず
吹通
(
ふきとほ
)
しければ二十一人の者共は
食事
(
しよくじ
)
もせす
二日
(
ふつか
)
二夜
(
ふたよ
)
を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
あゝ斯かる身は枯れても折れても
野末
(
のづゑ
)
の
朽木
(
くちき
)
、
素
(
もと
)
より物の數ならず。只〻
金枝玉葉
(
きんしぎよくえふ
)
の御身として、定めなき世の
波風
(
なみかぜ
)
に
漂
(
たゞよ
)
ひ給ふこと、御痛はしう存じ候
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
烟りは
椿
(
つばき
)
の
瓣
(
はなびら
)
と
蕊
(
ずい
)
に
絡
(
から
)
まつて
漂
(
たゞよ
)
ふ程濃く出た。それを
白
(
しろ
)
い
敷布
(
しきふ
)
の
上
(
うへ
)
に置くと、立ち
上
(
あ
)
がつて
風呂場
(
ふろば
)
へ行つた。
それから
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
それは、子供の頭にぼんやり
漂
(
たゞよ
)
つてゐる總てのなま
半可
(
はんか
)
な考へのやうに
陰影
(
いんえい
)
の多い、しかし、妙に印象的なものだつた。解説の文章は、次の揷繪とつながつてゐた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
病人
(
びやうにん
)
は
不安
(
ふあん
)
な
眼
(
め
)
を
室内
(
しつない
)
に
漂
(
たゞよ
)
はしてゐたが、
何
(
なに
)
か
物
(
もの
)
をいひたさうに、K
夫人
(
ふじん
)
の
動
(
うご
)
く
方
(
はう
)
を
眼
(
め
)
で
追
(
お
)
つてゐた。
彼女こゝに眠る
(旧字旧仮名)
/
若杉鳥子
(著)
微暗
(
ほのぐら
)
い火影は沈靜な……といふよりは停滞した空氣に
漂
(
たゞよ
)
ツて、癈頽した家のボロを照らした。由三は近頃になく草臥れた兩足を投出して、ぐッたり机に凭れかゝツた。
昔の女
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
抑〻
(
そも/\
)
わが見し洞窟はいかなる處なりしぞ。舟人の物語に、この石門の奧に光りかゞやくところありといひしは、わが
漂
(
たゞよ
)
ひ着きし別天地を
斥
(
さ
)
して言へるにはあらざるか。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
愉快
(
ゆくわい
)
!
電車
(
でんしや
)
が
景氣
(
けいき
)
よく
走
(
はし
)
り
出
(
だ
)
す、
函嶺
(
はこね
)
諸峰
(
しよほう
)
は
奧
(
おく
)
ゆかしく、
嚴
(
おごそ
)
かに、
面
(
おもて
)
を
壓
(
あつ
)
して
近
(
ちかづ
)
いて
來
(
く
)
る!
輕
(
かる
)
い、
淡々
(
あは/\
)
しい
雲
(
くも
)
が
沖
(
おき
)
なる
海
(
うみ
)
の
上
(
うへ
)
を
漂
(
たゞよ
)
ふて
居
(
を
)
る、
鴎
(
かもめ
)
が
飛
(
と
)
ぶ、
浪
(
なみ
)
が
碎
(
くだ
)
ける
湯ヶ原より
(旧字旧仮名)
/
国木田独歩
(著)
物ぐるほしけれど
箱庭
(
はこには
)
に作りたる
石
(
いし
)
一
(
ひと
)
つ水の
面
(
おも
)
にそと
取落
(
とりおと
)
せば、さゞ波すこし分れて是れにぞ月のかげ
漂
(
たゞよ
)
ひぬ、
斯
(
か
)
くはかなき事して見せつれば甥なる子の小さきが真似て
月の夜
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
さう云ひながら、信一郎は何処か貴族的な傲慢さが、
漂
(
たゞよ
)
うてゐる小山男爵の顔をぢつと見た。
真珠夫人
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
春
(
はる
)
うら/\
蝶
(
てふ
)
と
共
(
とも
)
に
遊
(
あそ
)
ぶや
花
(
はな
)
の
芳野山
(
よしのやま
)
に
玉
(
たま
)
の
巵
(
さかづき
)
を
飛
(
と
)
ばし、
秋
(
あき
)
は
月
(
つき
)
てら/\と
漂
(
たゞよ
)
へる
潮
(
うしほ
)
を
観
(
み
)
て
絵島
(
ゑのしま
)
の
松
(
まつ
)
に
猿
(
さる
)
なきを
怨
(
うら
)
み、
厳冬
(
げんとう
)
には
炬燵
(
こたつ
)
を
奢
(
おごり
)
の
高櫓
(
たかやぐら
)
と
閉籠
(
とぢこも
)
り、
盛夏
(
せいか
)
には
蚊帳
(
かや
)
を
栄耀
(
えいえう
)
の
陣小屋
(
ぢんごや
)
として
為文学者経
(新字旧仮名)
/
内田魯庵
、
三文字屋金平
(著)
日本の古典としての
醇粋味
(
じゅんすいみ
)
は平安朝文学に
漂
(
たゞよ
)
っているので、私などは、谷崎君の作品のうちでも、その風格を伝えたものを一層愛好する訳だが、谷崎君が平安朝古典の継紹者だけに
留
(
とゞま
)
っていたら
武州公秘話:02 跋
(新字新仮名)
/
正宗白鳥
(著)
日本の古典としての
醇粋味
(
じゅんすいみ
)
は平安朝文学に
漂
(
たゞよ
)
っているので、私などは、谷崎君の作品のうちでも、その風格を伝えたものを一層愛好する訳だが、谷崎君が平安朝古典の継紹者だけに
留
(
とゞま
)
っていたら
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
豐島さんのは今はもう
忘
(
わす
)
れてしまつたが、とにかく
球突塲
(
たまつきば
)
といふものはちよつと
變
(
かは
)
つた人
間的
(
げんてき
)
空氣
(
くうき
)
の
漂
(
たゞよ
)
ふもので
球
(
たま
)
の
響
(
ひゞ
)
きの内には時とすると
妙
(
めう
)
に
胸底
(
むなそこ
)
に
沁
(
し
)
みわたるやうな一
種
(
しゆ
)
の神
祕感
(
ひかん
)
が
感
(
かん
)
じられる。
文壇球突物語
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
今
(
いま
)
一
度
(
ど
)
物
(
もの
)
言
(
い
)
うて
下
(
くだ
)
され、
天人
(
てんにん
)
どの! さうして
高
(
たか
)
い
處
(
ところ
)
に
光
(
ひか
)
り
輝
(
かゞや
)
いておゐやる
姿
(
すがた
)
は、
驚
(
おどろ
)
き
異
(
あやし
)
んで、
後
(
あと
)
へ
退
(
さが
)
って、
目
(
め
)
を
白
(
しろ
)
うして
見上
(
みあ
)
げてゐる
人間共
(
にんげんども
)
の
頭上
(
とうじゃう
)
を、
翼
(
はね
)
のある
天
(
てん
)
の
使
(
つかひ
)
が、
徐
(
しづ
)
かに
漂
(
たゞよ
)
ふ
雲
(
くも
)
に
騎
(
の
)
って
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
その瞬間急に座がしんとなつて、無気味な沈黙が室内に
漂
(
たゞよ
)
つた。
乳の匂ひ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
葉
(
は
)
の
漂
(
たゞよ
)
ひとひるがへり
白羊宮
(旧字旧仮名)
/
薄田泣菫
、
薄田淳介
(著)
漂
(
たゞよ
)
ふ身にはうれしけれ
藤村詩抄:島崎藤村自選
(旧字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
水の
面
(
おも
)
に影は
漂
(
たゞよ
)
ひ
海潮音
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
沖中
(
おきなか
)
に
漂
(
たゞよ
)
ふ
島
(
しま
)
は
孔雀船
(旧字旧仮名)
/
伊良子清白
(著)
しかるに文政八酉の十二月、
例
(
れい
)
の如く薪を拾ひに出しに、物ありて
柱
(
はしら
)
のごとく浪に
漂
(
たゞよ
)
ふをみれば人の
頭
(
かしら
)
とみゆる物にて甚
兇悪
(
きやうあく
)
なり。
北越雪譜:03 北越雪譜初編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
三輪の萬七はさう言つて冷たい笑ひを頬に
漂
(
たゞよ
)
はせるのです。八五郎がどんなに
口惜
(
くや
)
しがつても、昔の事を知らないだけに齒が立ちません。
銭形平次捕物控:157 娘の役目
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
近
(
ちか
)
い
樣
(
やう
)
でも
海上
(
かいじやう
)
の三
里
(
り
)
は
容易
(
ようゐ
)
でない、
無限
(
むげん
)
の
大海原
(
おほうなばら
)
に
漂
(
たゞよ
)
つて
居
(
を
)
つた
間
(
あひだ
)
こそ、
島
(
しま
)
さへ
見出
(
みいだ
)
せば、
直
(
たゞ
)
ちに
助
(
たす
)
かる
樣
(
やう
)
に
考
(
かんが
)
へて
居
(
を
)
つたが、
仲々
(
なか/\
)
左樣
(
さう
)
は
行
(
ゆ
)
かぬ。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
お
聞
(
き
)
きよ
此
(
これ
)
を!
今
(
いま
)
、
現在
(
げんざい
)
、
私
(
わたし
)
のために、
荒浪
(
あらなみ
)
に
漂
(
たゞよ
)
つて、
蕃蛇剌馬
(
ばんじやらあまん
)
に
辛苦
(
しんく
)
すると
同
(
おな
)
じやうな
少
(
わか
)
い
人
(
ひと
)
があつたらね、——お
前
(
まへ
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふの!
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
ふの?
印度更紗
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
踏分々々
(
ふみわけ/\
)
たどり行て見ば殊の外なる大家なり吉兵衞は
衣類
(
いるゐ
)
も
氷柱
(
つらゝ
)
垂
(
た
)
れ其上二日二夜海上に
漂
(
たゞよ
)
ひ
食事
(
しよくじ
)
もせざれば
身體
(
しんたい
)
疲
(
つか
)
れ
果
(
はて
)
聲も
震
(
ふる
)
へ/\戸の
外
(
そと
)
より案内を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
得意にも見えなければ、失意にも思はれない様子は、
斯
(
か
)
う云ふ生活に
慣
(
な
)
れ
抜
(
ぬ
)
いて、
海月
(
くらげ
)
が
海
(
うみ
)
に
漂
(
たゞよ
)
ひながら、
塩水
(
しほみづ
)
を
辛
(
から
)
く感じ得ない様なものだらうと代助は考へてゐる。
それから
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
げにや榮華は夢か
幻
(
まぼろし
)
か、
高厦
(
かうか
)
十年にして立てども一朝の煙にだも堪へず、朝夕
玉趾
(
ぎよくし
)
珠冠
(
しゆくわん
)
に
容儀
(
ようぎ
)
正
(
たゞ
)
し、
參仕
(
さんし
)
拜趨
(
はいすう
)
の人に
册
(
かしづ
)
かれし人、今は
長汀
(
ちやうてい
)
の波に
漂
(
たゞよ
)
ひ、
旅泊
(
りよはく
)
の月に
跉跰
(
さすら
)
ひて
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
太古の文芸がこの水の
漂
(
たゞよ
)
ふ岸辺から発生した歴史から、美しい
女神
(
によしん
)
ベヌスが紫の波より
産
(
うま
)
れ
出
(
いで
)
たと伝ふ其れ等の神話までが、如何にも自然で、決して無理でないと
首肯
(
うなづ
)
かれる。
黄昏の地中海
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
丘の半腹なる酒店の前に車を停めて見るに、穹窿の火の美しさ、前に見つるとはまた趣を殊にして、正面の
簷
(
のき
)
こそは隱れたれ、星を
聯
(
つら
)
ねたる火輪の光の海に
漂
(
たゞよ
)
へるかとおもはる。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
階段の側にむせるやうな石炭や油の
嗅気
(
にほひ
)
の
漂
(
たゞよ
)
つたコック場のドアがあり、此方側の、だらしなく取散らかつた畳敷の女給溜りには、早出らしい女給の姿もみえて、その一人が立つて来て
のらもの
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
濃紫
(
こむらさき
)
の乘馬服を着、
黒天鵞絨
(
くろびろうど
)
のアマゾン風の帽子を、頬に觸れ肩に
漂
(
たゞよ
)
ふ房々とした捲毛の上に、形よく載せた彼女の姿よりも、もつと美しく
雅
(
みや
)
びなものを、殆んど想像することが出來ない。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
自然主義
(
しぜんしゆぎ
)
の
風潮
(
ふうてう
)
に
漂
(
たゞよ
)
はされた
年若
(
としわか
)
い少女が(
尤
(
もつと
)
もこの自然主義は、
新聞
(
しんぶん
)
の三
面記事
(
めんきじ
)
に
術語化
(
じゆつごくわ
)
されたものを
指
(
さ
)
してゐません。その頃の
生眞面目
(
きまじめ
)
な
文壇
(
ぶんだん
)
の
運動
(
うんどう
)
を言つてゐます。)
從來
(
じゆうらい
)
の
習慣
(
しふくわん
)
の
束縛
(
そくばく
)
を
冬を迎へようとして
(旧字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
そうすると写真や魔術の奇怪なる舞台面と、自分の頭の
中
(
うち
)
に
漂
(
たゞよ
)
う妄想とが、互いに
錯落
(
さくらく
)
し、
縺
(
もつ
)
れ合って、事実とも幻像とも付かない、不可思議極まる線状が、瞳の前に暴れ廻るように感ずるのである。
小僧の夢
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
夜來
(
やらい
)
の
雨
(
あめ
)
はあがつたが、
空氣
(
くうき
)
は
濕
(
しめ
)
つて、
空
(
そら
)
には
雲
(
くも
)
が
漂
(
たゞよ
)
ふて
居
(
ゐ
)
た。
湯ヶ原より
(旧字旧仮名)
/
国木田独歩
(著)
其
(
そ
)
の
時
(
とき
)
醤油
(
しやうゆ
)
がごつと
出
(
で
)
て
菜漬
(
なづけ
)
が
漂
(
たゞよ
)
ふばかりに
成
(
な
)
つた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
篝
(
かゞり
)
は海に
漂
(
たゞよ
)
ひぬ
藤村詩抄:島崎藤村自選
(旧字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
娘らしく何んとなく
艶
(
なまめ
)
かしい
色彩
(
しきさい
)
と、ほのかな匂ひは
漂
(
たゞよ
)
ひますが、調度は至つて粗末で、押入から引出した荷物の中にも、ろくな着物がありません。
銭形平次捕物控:164 幽霊の手紙
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
大波
(
おほなみ
)
に
漂
(
たゞよ
)
ふ
小舟
(
こぶね
)
は、
宙天
(
ちうてん
)
に
搖上
(
ゆすりあげ
)
らるゝ
時
(
とき
)
は、
唯
(
たゞ
)
波
(
なみ
)
ばかり、
白
(
しろ
)
き
黒
(
くろ
)
き
雲
(
くも
)
の
一片
(
いつぺん
)
をも
見
(
み
)
ず、
奈落
(
ならく
)
に
揉落
(
もみおと
)
さるゝ
時
(
とき
)
は、
海底
(
かいてい
)
の
巖
(
いは
)
の
根
(
ね
)
なる
藻
(
も
)
の、
紅
(
あか
)
き
碧
(
あを
)
きをさへ
見
(
み
)
ると
言
(
い
)
ひます。
雪霊続記
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
すると、まだ歌はぬ先から、自分の想像した歌は美しい声となつて、ゆるやかな波のうねりに連れて、遠く/\の空間に
漂
(
たゞよ
)
ひ消えて行く有様が、もう目に見えるやうな気がする。
黄昏の地中海
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
苅羽郡
(
かりはこほり
)
(越後)
椎谷
(
しひや
)
の
漁人
(
ぎよじん
)
(椎谷は堀侯の御封内なり)ある日椎谷の海上に
漁
(
すなどり
)
して一木の流れ
漂
(
たゞよ
)
ふを見て薪にせばやとて
拾
(
ひろ
)
ひ取て家にかへり、水を
乾
(
かわか
)
さんとて
庇
(
ひさし
)
に立寄おきしを
北越雪譜:06 北越雪譜二編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
漂
常用漢字
中学
部首:⽔
14画
“漂”を含む語句
漂泊
漂浪
漂蕩
漂流
漂白
漂泊者
漂渺
漂着
漂然
漂浪人
漂泊人
漂白粉
漂石
漂著
漂母
漂流物
漂雪
空間漂流器
漂浪者
漂浪民
...