口元くちもと)” の例文
おほきなそろへて、ふすまかげからはひつて宗助そうすけはういたが、二人ふたり眼元めもとにも口元くちもとにも、いまわらつたばかりかげが、まだゆたかにのこつてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ニヤ/\とりやうほゝくらくして、あの三日月形みかづきなり大口おほぐちを、食反くひそらしてむすんだまゝ、口元くちもとをひく/\としたあかかへるまで、うごめかせたわらかた
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ちごしづかに寢床ねどこうつして女子をなごはやをら立上たちあがりぬ、まなざしさだまりて口元くちもとかたくむすびたるまゝ、たゝみやぶれにあしられず
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
としころ廿六七、まゆうるはしい口元くちもとやさしい丁度ちやうど天女てんによやう美人びじんわたくし一目ひとめて、この夫人ふじんその容姿すがたごとく、こゝろうるはしく、にも高貴けだか婦人ふじんおもつた。
むろん御筋骨ごきんこつはすぐれてたくましうございますが、御顔おかお色白いろじろの、いたってお奇麗きれい細面ほそおもて、そしてすこ釣気味つりぎみのお目元めもとにも、またきりりときしまったお口元くちもとにも
つぎ綺麗きれい首筋くびすじ、形の好いはな、ふツくりしたほゝ丸味まるみのあるあご、それから生際はえぎはの好いのと頭髪かみのけつやのあるのと何うかすると口元くちもと笑靨ゑくぼが出來るのに目が付いた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
この人若いに似合にあわ沈着おちついたちゆえ気をしずめて、見詰めおりしが眼元めもと口元くちもと勿論もちろん、頭のくしから衣類までが同様ひとつゆえ、始めて怪物かいぶつなりと思い、叫喚あっと云って立上たちあが胖響ものおと
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
雪子は被皮ひふを着て、物に驚いたような頓狂とんきょうな顔をしていた。それに引きかえて、美穂子は明るい眼と眉とをはっきりと見せて、愛嬌あいきょうのある微笑びしょう口元くちもとにたたえていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
泣出なきだしもしまいとつたから、ひさしぶりで、こちらも人間にんげんこゑきたくなつて、口元くちもとはなしてやると、あとをきさうにもしないのだ。よそてゐるやうだ。
そしてかほにはあかべにつたのだとか、すこ口元くちもとゆがめてかなしそうな表情ひようじようをしたものもあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
蘿月らげつは色の白い眼のぱつちりした面長おもなが長吉ちやうきちと、円顔まるがほ口元くちもと愛嬌あいきやうのある眼尻めじりあがつたおいととの、若い美しい二人の姿すがたをば、人情本にんじやうぼんの作者が口絵くちゑ意匠いしやうでも考へるやうに
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
と声をひそめ、ひどく熱心な口元くちもとで語りだした。
浴槽 (新字新仮名) / 大坪砂男(著)
と、つま口元くちもとうすわらひをうかべた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
には、きよらかな白歯しらはたまふ、真珠しんじゆふ、かひふ。……いま、ちらりと微笑ほゝえむやうな、口元くちもとるゝは、しろはな花片はなびらであつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
茶屋ちやゝ廻女まわし雪駄せつたのおとにひゞかよへる歌舞音曲かぶおんぎよくうかれうかれて入込いりこひとなに目當めあて言問ことゝはゞ、あかゑり赭熊しやぐま裲襠うちかけすそながく、につとわら口元くちもともと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
平岡も驚ろいて、自分の支度したくは其儘に三千代を介抱した。十分の後三千代はもう大丈夫だから社へ出てれと云ひした。口元くちもとには微笑の影さへ見えた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いろのくつきりとしろい、口元くちもと父君ちゝぎみ凛々りゝしきに眼元めもと母君はゝぎみすゞしきを其儘そのまゝに、るから可憐かれん少年せうねん
工學士こうがくしは、井桁ゐげたんだ材木ざいもくしたなるはしへ、窮屈きうくつこしけたが、口元くちもと近々ちか/″\つた卷煙草まきたばこえて、その若々わか/\しい横顏よこがほ帽子ばうし鍔廣つばびろうらとをらした。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
人気ひとけのない夜桜よざくらいもんだよ」と云つた。平岡はだまつてさかづきしたが、一寸ちよつと気の毒さうに口元くちもとうごかして
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かへ團扇うちはおもひをせしときくからず打笑うちゑみし口元くちもとなんど、たゞさきたりて、らず沈思瞑目ちんしめいもくすることもあり、さるにても何人なにびと住家すまゐにや、人品ひとがら高尚けだかかりしは
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いますこしくいろ淺黒あさぐろくなつて、それに口元くちもとキリ、としまり、のパツチリとした樣子やうすは、なにともへずいさましい姿すがた此後このゝち機會きくわいて、かれ父君ちゝぎみなる濱島武文はまじまたけぶみ再會さいくわいしたときちゝ如何いかおどろくだらう。
「平岡君はうしました」とわざと何気なにげなくいた。すると三千代の口元くちもと心持こゝろもちしまつて見えた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
爾時そのときは、まぶたはなして、はらりと口元くちもと半帕はんけちおほうてた、某子爵夫人ぼうしゝやくふじんうなづくやうにき/\、きよらかな半帕はんけちしごくにつれて、真白まつしろきぬの、それにもかげすやうにえた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はゝこゝろ何方いづかたはしれりともらで、ちゝきれば乳房ちぶさかほせたるまゝおもことなく寐入ねいりちごの、ほゝ薄絹うすぎぬべにさしたるやうにて、何事なにごとかたらんとや折々をり/\ぐる口元くちもとあいらしさ
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いまだにむすめこゝろせで、金齒きんばれたる口元くちもとい、い、子細しさいらしく數多あまた奴婢ひとをも使つかへども、旦那だんなさますゝめて十けんだな人形にんぎやうひにくなど、一つまのやうには
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
口元くちもとあなどりの波がかすかにれた。余の言葉を洒落しゃれと解したのだろう。なるほど洒落とすれば、軽蔑けいべつされるあたいはたしかにある。智慧ちえの足りない男が無理に洒落れた時には、よくこんな事を云うものだ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うつくしいまなじり良人をつとはらをもやはらげれば、可愛かあいらしい口元くちもとからお客樣きやくさまへの世辭せじる、としもねつからきなさらぬにお怜悧りこうなお内儀かみさまとるほどのひとものの、此人このひと此身このみ裏道うらみちはたら
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ればさて美男子びなんしいろこそはくろみたれ眉目びもくやさしく口元くちもと柔和にゆうわとしやうや二十はたちいち繼々つぎ/\筒袖つゝそで着物ぎもの糸織いとおりぞろへにあらためておび金鎖きんぐさりきらびやかの姿なりさせてたし流行りうかう花形俳優はながたやくしやなんとしておよびもないこと大家たいけ若旦那わかだんなそれ至當したうやくなるべし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おもたまふぞとさしのぞかれ君様きみさまゆゑと口元くちもとまでうつゝをりこゝろならひにいひもでずしてうつむけばかくたまふはへだてがまし大方おほかたりぬれゆゑのこひぞうらやましとくやらずがほのかこちごとひとふるほどならばおもひにせもせじ御覧ごらんぜよやとさし
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
またなかやと我身わがみくらべて最憐いとおしがりこゝろかぎなぐさめられ優子いうこ眞實しんじつたのもしくふかくぞめし初花はつはなごろもいろにはいでじとつゝみしは和女そなたへの隔心かくしんならず有樣ありやう打明うちあけてといくたびも口元くちもとまではしものゝはづかしさにツイひそゝくれぬ和女そなたはまだ昨日今日きのふけふとて見參みまゐらせしこときならんが婢女をんなどもは蔭口かげぐちにお
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)