“浮世(うきよ)” の例文
未だ浮世(うきよ)慣(な)れぬ御身なれば、思ひ煩らひ給ふも理(ことわり)なれども、六十路(むそぢ)に近き此の老婆、いかで爲(ため)惡(あ)しき事を申すべき、聞分け給ひしかや
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
高野(こうや)の道場にこもるおつもりなのか? ……そして浮世(うきよ)に未練(みれん)をもたぬため、いさぎよく、わざとじぶんにも会わず、父とも名のらず
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暮(くら)し兼(かね)るも二君に仕へぬ我魂魄(わがたましひ)武士の本意と思へども實(げ)にあぢきなき浮世(うきよ)かなと一人涙を流したる問(とは)ず語(がた)りの心の中思ひ遣(やら)れて憐(あは)れなり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
げにも浮世(うきよ)か音曲(おんぎよく)の師匠(ししやう)の許(もと)に然(しか)るべき曾(くわい)の催(もよほ)し斷(ことわ)りいはれぬ筋(すぢ)ならねどつらきものは義理(ぎり)の柵(しがらみ)是非(ぜひ)と待(ま)たれて此日(このひ)の午後(ひるすぎ)より
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
で、親族(しんぞく)の男(をとこ)どもが、挑(いど)む、嬲(なぶ)る、威丈高(ゐたけだか)に成(な)つて袖褄(そでつま)を引(ひ)く、其(そ)の遣瀬(やるせ)なさに、くよ/\浮世(うきよ)を柳隱(やなぎがく)れに、水(みづ)の流(なが)れを見(み)るのだ、と云(い)ふ。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
殊(こと)に浮世(うきよ)の罪穢(つみ)に汚(けが)されていない小供(こども)は例外(れいがい)なしに皆(みな)そうで、その為(た)めこの娘(こ)なども、帰幽後(きゆうご)すぐに俺(わし)の手(て)で世話(せわ)することになったのじゃ。
明日(あす)訪ねてくれい? さうは可(い)かん、僕もこれでなかなか用が有るのぢやから。ああ、貴方も浮世(うきよ)が可厭(いや)か、僕も御同様じや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
墓標の裏には、レニエエか何かの「浮世(うきよ)には思い出もあらず」と記してあったが、この言葉は今の僕の心をひどく温めてくれるものがあった。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
恐らくあなた方実際家にはお分りにならないでしょうが、我々は浮世(うきよ)のことに飽き果てて、ただ美しい夢にあこがれ、夢に生きる人種なのです。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夫れ浮世(うきよ)の名聞(きこえ)は今此方(こなた)に吹き今彼方(かなた)に吹き、その處を變ふるによりて名を變ふる風の一息(ひといき)に外ならず 一〇〇—一〇二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
いやもう、浮世(うきよ)のことは、何(なに)をおいても女(おんな)が大事(だいじ)。おいらも今度(こんど)の世(よ)にゃァ、犬(いぬ)になっても女(おんな)に生(うま)れて来(く)ることだ。——はッくしょい。これァいけねえ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
日本橋(にほんばし)を通る人の数は、一分(ぷん)に何百か知らぬ。もし橋畔(きょうはん)に立って、行く人の心に蟠(わだか)まる葛藤(かっとう)を一々に聞き得たならば、浮世(うきよ)は目眩(めまぐる)しくて生きづらかろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
始終履歴(りれき)の汚(よご)れ臭(くさ)い女に酷(ひど)い目に合わされているのを見て同情(おもいやり)に堪(た)えずにいた上、ちょうど無暗滅法(むやみめっぽう)に浮世(うきよ)の渦(うず)の中へ飛込もうという源三に出会ったので
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
けれども校長(かうちやう)の之(かれ)に對(たい)する樣子(やうす)は郡長樣(ぐんちやうさん)に對(たい)する程(ほど)の丁寧(ていねい)なことなので、既(すで)に浮世(うきよ)の虚榮心(きよえいしん)に心(こゝろ)の幾分(いくぶん)を染(そ)められて居(ゐ)た僕(ぼく)の目(め)には全(まつた)く怪(あや)しく映(うつ)つたのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そして自分はどうしても長吉(ちやうきち)の味方にならねばならぬ。長吉(ちやうきち)を役者にしてお糸(いと)と添はしてやらねば、親(おや)代々の家(うち)を潰(つぶ)してこれまでに浮世(うきよ)の苦労をしたかひがない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そこには浮世(うきよ)の時間もなく空間もなく、たゞたゞ永劫無窮(えいごうむきゅう)の愉悦(ゆえつ)と光明とが溢れて居る許(ばか)りであった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さても日本対米英(べいえい)開戦以来、わが金博士(きんはかせ)は従来(じゅうらい)にもまして、浮世(うきよ)をうるさがっている様子であった。
げに東(ひんがし)に還(かえ)る今の我は、西に航せし昔の我ならず、学問こそなお心に飽き足らぬところも多かれ、浮世(うきよ)のうきふしをも知りたり、人の心の頼みがたきは言うも更(さら)なり
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
尤もここぐらい、いろいろな世間のうわさが早く伝わってくるところもすくない。ここにごろごろしていると、肩が凝らずいながらにして浮世(うきよ)百般の消息がきかれる。
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
とかく世間を茶にして浮世(うきよ)三分(ぶん)五厘と脂下(やにさが)るテンと面白笑止(おか)しき道楽三昧(ざんまい)に堕したからである。
それで、亞尼(アンニー)は、いよ/\弦月丸(げんげつまる)が沈沒(ちんぼつ)したと聞(き)いた時(とき)、身(み)も世(よ)にあられず、私共(わたくしども)に濟(す)まぬといふ一念(いちねん)と、其(その)息子(むすこ)の悔悟(くわいご)とを祈(いの)るが爲(ため)に、浮世(うきよ)の外(そと)の尼寺(あまでら)に身(み)を隱(かく)したのです。
人目(ひとめ)を避(さ)くるは相身互(あひみたが)ひ、浮世(うきよ)を煩(うるさ)う思(おも)ふ折(をり)には、身一(みひと)つでさへも多(おほ)いくらゐ、強(あなが)ち同志(つれ)を追(お)はずともと、只(たゞ)もう己(おの)が心(こゝろ)の後(あと)をのみ追(お)うて、人目(ひとめ)を避(さ)くる其人(そのひと)をば此方(こちら)からも避(さ)けました。
「あとの悪いものは雪ばかりではない——浮世(うきよ)のことはみんなそれじゃ」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
我事(わがこと)すでに了(おわ)れりとし主家の結末と共に進退(しんたい)を決し、たとい身に墨染(すみぞめ)の衣(ころも)を纒(まと)わざるも心は全く浮世(うきよ)の栄辱(えいじょく)を外(ほか)にして片山里(かたやまざと)に引籠(ひきこも)り静に余生(よせい)を送るの決断(けつだん)に出でたらば、世間においても真実
私はそれを讃岐(さぬき)の国学者、猪熊方主翁の書翰によって知ったのであるが、この人は当時の大阪の市中に、もっぱらその風説を伝えたと謂(い)っているから、或いは『浮世(うきよ)の有様(ありさま)』のような書物にも
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
丁度お前が浮世(うきよ)の榮華(えいぐわ)に憬(あこがれ)てゐるやうに、俺は智識慾に渇(かつ)してゐる………だから社交も嫌(いや)なら、芝居見物も嫌さ。家を賑(にぎやか)にしろといふのは、何(なに)も人を寄せてキヤツ/\と謂(い)ツてゐろといふのぢやない。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
乃(そこ)で※(ねえ)さんは目(め)を瞑(つぶ)つて坐(すわ)りました、而(そ)して些(や)や不思議(ふしぎ)な世界(せかい)のあることを信(しん)じました、ところで、再(ふたゝ)び眼(め)を開(ひら)けば、總(すべ)てが塵(ちり)の浮世(うきよ)に變(かは)るに相違(さうゐ)ないとは知(し)りつゝも——草(くさ)は只(たゞ)風(かぜ)にサラ/\と鳴(な)り
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
わずかな短かい浮世(うきよ)である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
浮世(うきよ)に通(かよ)ふ事(こと)もあるらむ
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
うたへ浮世(うきよ)の一ふしは
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
紙張(かみばり)の立看板(たてかんばん)に、(浮世(うきよ)の波(なみ)。)新派劇(しんぱげき)とあるのを見(み)た。其(そ)の浮世(うきよ)の波(なみ)に、流(なが)れ寄(よ)つた枯枝(かれえ)であらう。非(あら)ず、湖(みづうみ)の冬(ふゆ)を彩(いろど)る、紅(くれなゐ)の二葉(ふたは)三葉(みは)。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
見(み)ながら孃(ぢやう)さまは何處(いづこ)へぞお姿(すがた)が見(み)えぬやうなりと人騷(ひとさわ)がせするもあり乳母(うば)は夜(よ)の目(め)ろく/\合(あは)さずお高(たか)が傍(かたへ)に寢床(ねどこ)を並(なら)べ浮世(うきよ)雜談(ざふだん)に諷諫(ふうかん)の意(い)を
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けれども肝心(かんじん)の小兒(こども)は、たゞ子宮(しきゆう)を逃(のが)れて廣(ひろ)い所(ところ)へ出(で)たといふ迄(まで)で、浮世(うきよ)の空氣(くうき)を一口(ひとくち)も呼吸(こきふ)しなかつた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
夫は今でこそ若崎(わかざき)先生、とか何とか云われているものの、本(もと)は云わば職人で、その職人だった頃には一ㇳ通りでは無い貧苦(ひんく)と戦ってきた幾年(いくねん)の間(あいだ)を浮世(うきよ)とやり合って
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
然(しか)し先夜(せんや)の反古(はご)新聞(しんぶん)の記事(きじ)から推及(すいきふ)して、大佐(たいさ)が今(いま)現(げん)に浮世(うきよ)の外(そと)なる此(この)孤島(はなれじま)に在(あ)る事(こと)、また今(いま)も聽(きこ)ゆる鐵(てつ)の響(ひゞき)などから考(かんが)へ合(あ)はせると朧(おぼろ)ながらもそれと思(おも)ひ當(あた)る節(ふし)の無(な)いでもない。
分てお貰(もら)ひ申さにやならぬと血眼(ちまなこ)になりて申にぞ安五郎は當惑(たうわく)なし我等とても段々の不仕合(ふしあはせ)折角(せつかく)連退(つれのい)たる白妙には死別(しにわか)れ今は浮世(うきよ)に望(のぞ)みもなければ信州(しんしう)の由縁(ゆかり)の者を頼み出家(しゆつけ)遁世(とんせい)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
実は浮世(うきよ)人形とやらいうものなそうで、身(み)の丈(たけ)三尺余り、十歳ばかりの小児の大きさで、手足も完全に出来、頭には昔風の島田(しまだ)を結(ゆ)い、昔染の大柄友染(ゆうぜん)が着せてあるのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この一年有半(ゆうはん)の歳月(さいげつ)に、そなたはいまの世相(せそう)をよくながめ得(え)たであろう。どうであった戦国の浮世(うきよ)は。わけても百姓(ひゃくしょう)町人(ちょうにん)——いやそれよりもっと貧しい民(たみ)たちの苦(くる)しみはどうであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ロミオ 其樣(そのやう)に貧(まづ)しうあさましう暮(くら)してゐても、汝(おぬし)は死(し)ぬるのが怖(おそろ)しいか? 飢(うゑ)は頬(ほゝ)に、逼迫(ひっぱく)は眼(め)に、侮辱(ぶじょく)貧窮(ひんきう)は背(せ)に懸(かゝ)ってある。無情(つれな)い此(この)浮世(うきよ)に法度(はっと)はあっても、つゆ汝(おぬし)の爲(ため)にはならぬ。
……いったいどうしたっていうの?……あんた、ここで、そっとママにでもなるというわけ? それとも、なにか、もっと深いわけがあるの?……いずれにしても、浮世(うきよ)を忍ぶには屈強の場所ね。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これで間(ま)もなく懐胎(みごも)って、男(おとこ)の児(こ)でも生(うま)れれば、何(なん)のことはないのでございますが、そこがままならぬ浮世(うきよ)の習(なら)いで、一年(ねん)経(た)っても、二年(ねん)過(す)ぎても、三年(ねん)が暮(く)れても、ドウしても小供(こども)が生(うま)れないので
「とかく浮世(うきよ)は狭いもの——ソレじゃ」
遊星植民説 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鈴鹿山、浮世(うきよ)をよそに振りすてて
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
うたへ浮世(うきよ)の一ふしは
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
何(なん)となく浮世(うきよ)から離(はな)れた樣子(やうす)で、滅多(めつた)に顏(かほ)を見(み)せない其(そ)の女主人(をんなあるじ)が、でも、端近(はしぢか)へは出(で)ないで、座敷(ざしき)の中(なか)ほどに一人(ひとり)で居(ゐ)た。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あゝ浮世(うきよ)はつらいものだね、何事(なにごと)も明(あけ)すけに言(い)ふて退(の)ける事(こと)が出來(でき)ぬからとて、お倉(くら)はつく/″\まゝならぬを痛(いた)みぬ。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
忽然として会堂(チヤーチ)の戸が開(あ)いた。中(なか)から人(ひと)が出(で)る。人は天国(てんごく)から浮世(うきよ)へ帰る。美禰子は終りから四番目であつた。縞(しま)の吾妻コートを着(き)て、俯向(うつむ)いて、上(あが)り口(くち)の階段を降(お)りて来(き)た。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一体苦(にが)み走(ばし)りて眼尻(めじり)にたるみ無く、一の字口の少し大(おおき)なるもきっと締(しま)りたるにかえって男らしく、娘にはいかがなれど浮世(うきよ)の鹹味(からみ)を嘗(な)めて来た女には好(す)かるべきところある肌合(はだあい)なリ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
本當(ほんたう)に奇妙(きめう)な事(こと)だと思(おも)つて居(を)ると、或(ある)日(ひ)の事(こと)、ウルピノ山中(さんちう)とて、子ープルスの街(まち)からは餘程(よほど)離(はな)れた寒村(かんそん)の、浮世(うきよ)の外(そと)の尼寺(あまでら)から、一通(いつつう)の書状(てがみ)が屆(とゞ)きました、疑(うたがひ)もなき亞尼(アンニー)の手跡(しゆせき)で
という訳は、私はあなたの芸術には心から敬服しているのです。いくら東小路(ひがしこうじ)伯爵夫人のお頼みだからといって、この偉大な天才を、むざむざ浮世(うきよ)の法律なんかに裁かせたくないからです
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)