いきほひ)” の例文
つまり河流かりゆう上汐あげしほとが河口かこう暫時ざんじたゝかつて、つひ上汐あげしほかちめ、海水かいすいかべきづきながらそれが上流じようりゆうむかつていきほひよく進行しんこうするのである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
それに今、また新らしく彼を見たその瞬間に、それは自然に青々といきほひづいてよみがへつて來たのだ! 彼は、私を眺めずに、私に戀させた。
ズボリと踏込ふみこんだ一息ひといきあひだは、つめた骨髓こつずゐてつするのですが、いきほひよく歩行あるいてるうちにはあたゝかります、ほか/\するくらゐです。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ろとは、大島小學校おほしませうがくかう神聖しんせいなる警語けいごで、その堂々だう/\たる冲天ちゆうてんいきほひと、そのくまで氣高けだかい精神せいしんと、これが此警語このけいご意味いみです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
うごいきほひに乗じて、我々の理想通りに文芸を導くためには、零砕なる個人を団結して、自己の運命を充実し発展し膨脹しなくてはならぬ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今しも三人の若者が眼をいからし、こぶしを固めて、いきほひまうに打つてかゝらうとして居るのを、傍の老人がしきりにこれをさへぎつて居るところであつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
昔、日野資朝ひのすけともといふ公卿くぎやうさんがあつた。わるい賊共がいきほひをふるつて、天皇さまは、山の中へ住まひしていらせられた頃であつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
さうするとむきつたあとまめ陸穗をかぼかつしたくちつめたいみづやういきほひづいて、四五にちうちあをもつはたけつち寸隙すんげきもなくおほはれる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さう云ふ次第だから創作上の話になると——と云ふより文壇に関係した話になると、いきほひ何時も我々の中では、久米が牛耳ぎうじを執る形があつた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
兎角とかくするほどむすびのつなかれて、吾等われら兩人りやうにんせたる輕氣球けいきゝゆうは、つひいきほひよく昇騰しようたうをはじめた。櫻木大佐等さくらぎたいさら一齊いつせいにハンカチーフをつた。
良兼は此の失敗に多く勇士を失ひ、気屈して、いきほひ衰へ、怏〻あう/\として楽まず、其後は何も仕出しいだし得ず、翌年天慶二年の六月上旬病死してしまつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
是は蘭軒の条に云つた所と多少重複することを免れぬが、柏軒の学を明にするには、いきほひ伊沢家学の源統より説き起さゞることを得ぬのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その面色、その声音こわね! 彼は言下ごんか皷怒こどして、その名にをどかからんとするいきほひを示せば、愛子はおどろき、狭山はおそれて、何事とも知らず狼狽うろたへたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いきほひ自然しぜんと言つては堅過かたすぎるが、成程なるほど江戸時代えどじだいからかんがへて見ても、湯屋ゆや与太郎よたらうとは横町よこちやうほう語呂ごろがいゝ。(十八日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
そして二人で手をたゝきながら、わい/\言つて、ついて走りました。水はすばらしいいきほひで流れました。とき/″\大きななみがづしんとゆれました。
一本足の兵隊 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
いきほひ、つぎ・ひつぎの観念も発達して居なかつたと見える。信仰の変化から神格と人格との区別が考へられる様になつて、始めてつぎが現れたのである。
とタルボツト氏は資本もとでのかゝらない愛嬌笑ひを見せて馬に一鞭あてた。馬は急にワシントンとは昔馴染だつたやうな顔をして、いきほひよく駆け出さうとした。
〔譯〕已むことを得ざるのいきほひうごけば、則ち動いてくわつせず。ぐ可らざるのみちめば、則ち履んであやふからず。
浜崎を過ぐれば、ただちに玉島川の水瀬の音のさざれに響くを聴く、流の清く澄めることたぐひなし。いきほひ海に尽きたる山脈を分ちて、筑前国、怡土郡いどごほりと界す。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
自體じたい周三が、此のき始めた時の意氣込いきごみと謂ツたら、それはすばらしいいきほひで、何でもすツかり在來ざいらいの藝術を放擲うつちやツて、あたらしい藝術に入るのだと誇稱こしようして
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
(三六)かうきよき、(三七)かたちそむいきほひきんずれば、すなはおのづかめにけんのみいまりやうてう相攻あひせむ。輕兵けいへい鋭卒えいそつかならそとき、(三八)老弱らうじやくうちつかれん。
路傍みちばたに寝てる犬をおどろかしていきほひよくけ去つた車のあとに、えもはれず立迷たちまよつた化粧けしやうにほひが、いかに苦しく、いかにせつなく身中みうちにしみ渡つたであらう………。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
遠い所でかう云つた畑尾のこひが鏡子の耳に響いた。ほどばしるやうないきほひで涙の出て来たのはこれと同時であつた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
漸々やう/\ふかくならんとす人影ひとかげちらほらとまれになるをゆきはこゝ一段いちだんいきほひをましてりにれどかくれぬものは鍋燒饂飩なべやきうどんほそあはれなるこゑおろ商家しやうかあらたかおと
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それにいきほひを得て、二人の青侍も、必死の刄をかけ並べ、馬の三方を守つて、激しく切り合ひました。
勝平の眼が、段々狂暴な色を帯びると共に、彼はいきほひまうに瑠璃子に迫つて来た。彼女は、相手の激しい勢に圧されるやうにヂリ/\と後退あとずさりをせずにはゐられなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
こんな海嘯つなみなどは、到底とうてい人間にんげんちからふせめることは出來できませんが、しかし、もし海岸かいがんうておびのように森林しんりんがあれば、非常ひじよう速力そくりよくでおしせてくる潮水しほみづいきほひ
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
かば前脚曲げて、蹄上げ、内腹蹴れと、尾の張りに力こめよ、跳ぶごとく描けよと見せぬ。土けぶりあとにあがらむ、いきほひ和子わこもかくあれ、早や描けと筆持たしめき。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
脅迫観念は刻刻時時に継子共の上を襲つた。その襲はれた人の中にすず子があつた。自分自身もをつた。不知不識しらずしらず自分も矯激けうげきな言動をするやうになつた。ものはいきほひである。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
ところが、表からいきほひよくはひつてきたセンイチの姿を見ると、彼女はあつと声を立てました。
悪魔の宝 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
たい多數たすうひとあつまつて一組織そしきすれば自然しぜんいきほひとして多數人たすうじん便宜べんぎといふこと心掛こゝろがけねばなりません、多數たすう都合つがふよろしいとやうにといふのが畢竟ひつきやう規則きそく精神目的せいしんもくてきでありませう。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
二輌の車はいきほひよく走せて、やがて当夜の会場帝国ホテルにつき、電灯花瓦はながす昼をあざむき、紅灯こうとうくうにかゝり、晴がましきこと云ふばかりもなき表門をばぐるりと廻りて、脇門わきもんより入りぬ。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
そして、『あ、上燗じやうかんだあ、上燗だあ』と云つてゐるところを父は話した。そこのところまで来ると父のこゑに一種のいきほひが加はつて子供等は目を大きくして父の顔を見たものである。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
鷹その被物かぶりものらるれば、頭を動かし翼をち、願ひといきほひとを示すごとく 三四—三六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
此の頭三三八何ばかりの物ぞ。此の戸口に充満みちみちて、雪を積みたるよりも白くきら々しく、まなこかがみの如く、つの枯木かれきごと、三たけ余りの口を開き、くれなゐの舌をいて、只一のみに飲むらんいきほひをなす。
線香も絶え、軒先の蚊ばしらにまたいきほひもついて来たので、蚊帳かやのなかに入らうとしてゐると、不意に玄関の戸がそつと開くのだ。ばあやは風呂へ入つてゐる。「誰方どなたですか」と声をかけて見た。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
捨てかへらんもをしければその所にいたり柴の枝に手をかけ引上んとするにすこしもうごかず、落たるいきほひつきいれたるならん、さらばおもきかたより引上んと匍匐はらばひして双手もろてのばし一声かけて上んとしたる時
「初蕈はそんなに集まってないんです。」私もいきほひがついて言ひました。
二人の役人 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
其処へ又警部が飛込んで来やがつて『解散を命ずるツ』てんよ、すると何でも早稲田わせだの書生さんテことだが、目をき出して怒つた、つかみ掛りサウないきほひだつたが、少し年取つた人が手を抑へて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
蹈鞴たゞらしこふむいきほひに、をち砂山すなやま崩れたり。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
その先頭にたけりたつ、譬へば大雨いきほひ
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
いきほひたけ鼓翼はばたき一搏ひとうちくだき裂くべきか
白鳥 (旧字旧仮名) / ステファヌ・マラルメ(著)
いきほひたつの行くごとく
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
何方どつちが負けたにした所で、しんいきほひを失ふといふ事にもならず、美がかゞやきを減ずるといふ羽目はめにも陥る危険はないぢやありませんか
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
昭和二年しようわにねん大噴火だいふんかをなしたときも噴火口ふんかこうからなが鎔岩ようがんが、あだか溪水たにみづながれのように一瀉千里いつしやせんりいきほひもつくだつたのである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
かれは殿様のやうにして、やわらか物に、いつも車といふいきほひで、長野と故郷との間を往来した。村の娘達は皆な目を睜つてかれを目送した。
田舎からの手紙 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
ところで、一刻いつこくはや仕上しあげにしやうとおもふから、めし手掴てづかみで、みづ嚥下のみおろいきほひえてはたらくので、時間じかんも、ほとんど昼夜ちうや見境みさかひはない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何時いつ危險きけん遭遇さうぐうしてげてても、一見いつけんしてその所在しよざいわかるやうに、其處そこにはわたくししろシヤツをいて目標めじるして、いきほひめて少年せうねんとも發足ほつそくした。
はらるだけのことをいはしてしまへば彼等かれらはそれだけこゝろ晴々せいせいとしていきほひ段々だん/\にぶつてるので、そのあひだ機嫌きげんもとつて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
先生が蘭医方の漸く盛なる時に当つて、識らず知らずの間に身に漢医方存亡の責を負ふが如くなるに至つたのは、いきほひむことを得なかつたのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)