仕方しかた)” の例文
「一番上等な帽子に化けて、あの男に買われて、ともかくも外に出てみるとしよう。ここにこうしていたんでは、窮屈きゅうくつ仕方しかたがない」
不思議な帽子 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
長吉ちやうきち仕方しかたなしにだ左へ左へと、いゝかげんにれてくと蔵造くらづくりの問屋らしい商家しやうかのつゞいた同じやうな堀割ほりわりの岸に二度も出た。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
原本写本会読の法それから塾で修行するその時の仕方しかた如何どう塩梅あんばいであったかと申すと、ず始めて塾に入門した者は何も知らぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
勘次かんじはそれでも分別ふんべつもないので仕方しかたなしに桑畑くはばたけこえみなみわびたのみにつた。かれふる菅笠すげがさ一寸ちよつとあたまかざしてくびちゞめてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
吉さんは人の見得ないものを見る。汽車の轢死人れきしにんがあった処を吉さんが通ると、青い顔の男女なんにょがふら/\いて来て仕方しかたがないそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「えゝ、れが矢張やはり手前てまへこゝろから仕方しかたがないのでござりまして、以前いぜん、おうちりました時分じぶんから、うもわるいので、」
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
仕方しかたがない矢張やつぱわたし丸木橋まるきばしをばわたらずはなるまい、とゝさんもふみかへしておちてお仕舞しまいなされ、祖父おぢいさんもおなことであつたといふ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
仕方しかたがなくて、兄が大事ですと答えましたところ、わたくしに註文して、自分とお前とで天下を治めるから、天皇をお殺し申せと言つて
あっしゃァまつろうという、けちな職人しょくにんでげすがね。おまえさんの仕方しかたが、あんまりなさけぎるから、くちをはさましてもらったのさ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
みん仕方しかたなしに一しよたんだ』と海龜うみがめひました、『どんなかしこさかなでも、海豚いるかれなくては何處どこへもけやしないもの』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
わすれはせまじ餘りなさけなき仕方しかたなりと利兵衞をうらみけるが吉三郎はもとより孝心かうしんふかければ母をなぐさめ利兵衞殿斯の如く約束やくそくへん音信おとづれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うへになつたが、平岡に都合がわるからうと、ちゝの気に入らなからうと、賽をげる以上は、天の法則通りになるよりほか仕方しかたはなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
だが、入院にふゐんするとしても、誰一人たれひとり入院料にふゐんれうなどを持合もちあはしてゐるはずがないので、施療せれう患者くわんじやあつか病院びやうゐんれるより仕方しかたがなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
麻雀競技會マアジヤンきやうぎくわい常勝者じやうしようしやとしてその技法ぎはふをたゞ驚歎きやうたんされてゐたそれがしが、支那人式しなじんしき仕方しかたからすれば至極しごく幼稚えうち不正ふせいおこなつてゐたことがわかるし
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
(そうです。そうです。そうですとも。いかにも私の景色です。私なのです。だから仕方しかたがないのです。)諒安はうとうと返事へんじしました。
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
わたくしどもとても、幽界ゆうかいはいったばかりの当座とうざは、なにやらすべてがたよりなく、また飽気あっけなくおもわれて仕方しかたがなかったもので……。
所長さんのやさしい言葉に、ぼくは胸がつまって、泣けて泣けて仕方しかたがなかった。さすがに技術で苦労した所長さんだ。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
みづなしの消防しようぼうもつと不利益ふりえきであるから、水道すいどうみづまらないうち機敏きびん貯水ちよすい用意よういをすることが賢明けんめい仕方しかたである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
こう山奥やまおくふかはいっては、もう今更いまさらかえして、うちへかえろうにもかえれなくなりました。仕方しかたがないので、今夜こんやは山の中に野宿のじゅくをすることにきめました。
忠義な犬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
もつとひろく行はるるは摩擦發火法まさつはつくわはうなるが是に又一へんの木切れに他の木切れをててのこぎりの如くに運動うんどうさする仕方しかたも有り
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
仕方しかたなしに、伯父をぢさんがうらきりした友伯父ともをぢさんをれてきまして、伯父をぢさんが自分じぶん床屋とこやをつとめました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
都合つごうのいいこともあれば都合の悪いこともある。しかし今更いまさらこのことを喜憂きゆうしても始まらない。本能的なものが運命をそう招いたと思うより仕方しかたがない。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いまに居どころをつきとめて、おれは、おれの仕方しかたで大事にするんだ。いいかい。あの女は、おれでなければ、だめなんだ。おれひとりだけが知つてゐる。
火の鳥 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
けれど、このシャツのままでっちゃってかれないのは、もう目に見えていた。仕方しかたなしに箪笥たんすをあけて、まだそでとおさないあたらしいシャツをとり出した。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
我輩わがはいの家なぞは隣屋敷となりやしきに馬が飼ってあるためか蠅が多くて仕方しかたがありません。蠅のおらんのは何より心持こころもちがよい
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
まわりの人たちは手を取って葉子を起こしてやる仕方しかたも知らないような顔をしてただばからしくあざわらっている。そんなふうにしか葉子には思えなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ぼくこの少女せうぢよおもすとともに『こひしい』、『たい』、『ひたい』のじやうがむら/\とこみげてた。きみなんはうとも實際じつさいさうであつたから仕方しかたがない。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
わたしもいつかたのまれてそんなのをかえしたことがあるけど、子達こたちはみんな、どんなにんでなおそうとしても、どうしてもみずこわがって仕方しかたがなかった。
が、わたしも多襄丸たじやうまるですから、どうにかかうにか太刀たちかずに、とうとう小刀さすがおとしました。いくらつたをんなでも、得物えものがなければ仕方しかたがありません。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
仕方しかたがない……しく此餅これみんなさらんでの……さアうか不味つまらない物だが子供衆こどもしうげてください。
「たいしてむづかしいことではありません」と、いひつて平氣へいきでをります。おきな仕方しかたなしにひめ註文ちゆうもんどほりをつたへますと、みなあきれかへつていへりました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
さうです これはかがみです ピッカリングといふ天文学者もんがくしやかんがへ出した 火星くわせいへの信号しんがふ仕方しかたです
飛離とびはなれて面白いでもなくそろへどもほかの事の仕方しかたがないにくらべそろへばいくらか面白かりしものと存候ぞんじそろたゞ其頃そのころ小生せうせいの一致候いたしそろ萬場ばんじやう観客かんかくの面白げなるべきにかゝわらず
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
いまさらあらためようもないから、まずそのままにしておくよりほか仕方しかたがない。そしてこのバショウは、元来がんらい日本のものではなく昔中国から渡って来た外来がいらい植物なのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
かはきまるとともつぎにはうゑくるしみ、あゝ此樣こんことつたら、昨夜さくや海中かいちう飛込とびこときに、「ビスケツト」の一鑵ひとかんぐらいは衣袋ポツケツトにしてるのだつたにと、今更いまさらくやんでも仕方しかたがない
ジャンセエニュ先生せんせいは、なんでもよくお出来できになるのですが、この小さな生徒せいとたちに計算けいさん仕方しかたをおおしえになります。先生せんせいはローズ・ブノワさんにこうおっしゃいます。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
その人は、やはり、どうすることもできず、仕方しかたなしにたおれていきころしていたのだそうである。くまが、あたまのそばへきて、自分をかぎまわしているのが、はっきりとわかる。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
んなことかんがしたときには、仕方しかたいので——しかし、三千ねんぜん石器時代せききじだい住民じうみんは、今日こんにちまでも生存せいそんして我等われらかたる——とつたやうこと思浮おもひうかべて、しひなみだまぎらすのである。
「とにかくあの人達ひとたち仕方しかたかしこかつた。」かれ時々とき/″\おもつた。大久保おほくぼのやうな稚気ちきおほ狂人きちがひ相手取あいてどることに、なん意味いみのあらうはずもなかつた。(大正14年7月「婦人の国」)
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「ああ、」とおとうさんがった。「おれはうれしくって、仕方しかたがない。まるでこう、がぱーッとしてでもるような気持きもちだ。まるでひさしくわない友達ともだちにでもまえのようだ。」
何しろ退屈たいくつ仕方しかたが無い。そこで少し體を起して廣くもない庭を見𢌞して見る。庭の植込うゑこみ雜然ざつぜんとしてこれと目にく程の物も無い。それでゐて青葉がしげりにしげツてゐるせいか庭が薄暗い。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「ウム、じゃ仕方しかたがねえ。夜どおしでも、お前の帰る所へついて行くだけの話だ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仕方しかたなしに一泊して朝になってみると雨はやんでいたが、路のぬかりがひどくて、旅人達はすねまで入って往来していた。王成はそれにも弱って待っていると、ひるになって路がやっと乾いた。
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
これではじつ仕方しかたがない、其故それゆゑわたくし生徒せいとむかつて常々つね/″\まをしてります。何事なにこと自分じぶん研究けんきうして御覽ごらんなさい、研究けんきうして自分じぶん難問なんもん解釋かいしするやうにさい。これはあなが讀書どくしよのみにかぎりません。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
なに寶物ほうもつとしてつてゐたものだらうとかんがへるより仕方しかたがありません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
その仕方しかたは夏のすゑより事をはじめて、岸根きしねより川中へ丸木のくひたてつらね横木よこきをそえ、これに透間すきまなく竹簀たけすをわたしてかきのごとくになし、川の石をよせかけてちからとなす。長さは百けん二百間にいたる。
養生やうじやう仕方しかたひとよるなれどこゝろとむるはたれかはらず
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
どうにも仕方しかたがありませんでした。それでみな相談そうだんして、そのくせむまでしばらくのあいだ、王子を広いにわじこめることになりました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
かまあねえでけ、うなつてあつちへつてからにしろ」勘次かんじ性急せいきふきびしくおつぎをめた。おつぎは仕方しかたなくくのもかまはずにたがやした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
是れは私の潔癖とでも云うようなもので、全体を申せば度量の狭いのでしょうが、何分にも生れつきの性質とあれば仕方しかたがない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)