くら)” の例文
二人ふたりは、はゝ父母ふぼで、同家ひとついへ二階住居にかいずまひで、むつまじくくらしたが、民也たみやのものごころおぼえてのちはゝさきだつて、前後ぜんごしてくなられた……
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さう云ふひとつてごす時間が、本当の時間で、穴倉で光線の試験をしてくら月日つきひは寧ろ人生に遠い閑生涯と云ふべきものである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
時候じこうかはといふものは、めう心細こゝろぼそいやうな氣のするものですね、これはあながち不自由ふじいうくらしてゐるばかりではないでせうよ。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
ふだんは何一つ光の見えないこの深海にも、ちゃんと楽しくくらしている動物の世界があるのだ。いや、動物だけではなかろう。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
貧乏びんぼうながら、こせつかずにくらしてゐたことはとぼしきまゝのうたて、いかにもひとなつかしい、善良ぜんりようなこの歌人かじん性質せいしつおもはれます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
「大きな声じゃいえないが、こんな物騒や、くらにくさがつづくと、今にまた、由井正雪みてえなのが出るんじゃないかという者もある」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
持し其翌年女子一人出生しければ夫婦ふうふの喜び云ばかりなく其名をおかうつけ兩人の中のかすがひと此娘お幸が成人するを明暮あけくれたのしみくらしけるとぞ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
町のおくさんになって、気持のよい、楽しいくらしをしていたのです。よそへ出かけるときには、ちゃんと、帽子ぼうしをかぶって行ったものです。
たつた一人ひとりきりでくらしていたというのだからそういう特徴とくちょうから判断はんだんしてみて、捜査そうさ手懸てがかりは、かえつてつけやすいほどのものであつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
矢張やはりそうであったか。——わたくしはそなたがまだ息災そくさい現世げんせくらしてるものとばかりおもっていました。一たいいつ歿なくなったのじゃ……。』
餘念よねんもなくたわむれてるので、わたくし一人ひとり室内しつない閉籠とぢこもつて、今朝けさ大佐たいさから依頼いらいされた、ある航海學かうかいがくほん飜譯ほんやくにかゝつて一日いちにちくらしてしまつた。
夕暮ゆふぐれうすくらきにまよこゝろもかきくらされてなにいひれんのすきよりさしのぞ家内かないのいたましさよ頭巾づきん肩掛かたかけはつゝめど
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
名人めいじんとか上手じょうずとか評判ひょうばんされているだけに、坊主ぼうずぶ十七八の弟子でしほかは、ねこぴきもいない、たった二人ふたりくらしであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
もう逃げるのじゃないよといい聞かせて、再び彼を築山のかげに放してった。その日は一日ふりくらした。夕方になると彼は私の庭で歌い始めた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
数十年の間山中にくらせる者が、石と鹿とを見誤みあやまるべくもあらず、全く魔障ましょう仕業しわざなりけりと、この時ばかりは猟をめばやと思いたりきという。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼等かれらしろ手拭てぬぐひあつまつてはるかひとほか師匠ししやううち格別かくべつ利益りえきもなく彼等かれら自分等じぶんらのみが一にちたのしくらるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかし、この村はどの家も、どの家もまったくまずしいくらしをしているので、どこでも清造ひとりを余計よけいやしなっておけるような家はなかったのです。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
気の置けさうにない連中れんぢゆうだが、まだ馴染なじみが浅いので食堂で顔を合すばかり、僕は相かはらず二等室へ出掛けて日をくらして居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ところで、わたし球突たまつきはじめたのは三田の文科ぶんくわ豫科よくわ生だつた二十一の時で、あきれいのやうにからだをわるくして伊豆いづ山の相模屋旅館さがみやりよくわんに一月ほどをくらしたが
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そのどの家もめいめいの商売だけではくらしがたたず、百姓ひゃくしょうもしていれば、片手間かたてまには漁師りょうしもやっている、そういう状態じょうたいは大石先生の村と同じである。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
すなわちこの様に解釈してこそこの歌、すなわち、「いもすがりにきし山路やまぢどひくらしつ」
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
正直しやうぢきかうべかみ宿やどる——いやな思をしてかせぐよりは正直しやうぢきあそんでくらすが人間にんげん自然しぜんにしていのらずとてもかみまもらん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
どうせ見透みすかされつくすのですから、なまじい夫に対する心のつくりかざりをせず、正直に無邪気むじゃきにともにくらすべし。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
階下したは弁当や寿司につかう折箱の職人で、二階の六畳はもっぱら折箱の置場にしてあったのを、月七円の前払いで借りたのだ。たちまち、くらしに困った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
おまえたちはあくびをしたりいねむりをしたりしながら毎日をくらして食事の時間だけすぐ近くの料理屋にはいる
千代 空の、空の、大空の、夜摩やまの国といふところに、ぢぢ様も、父様も、また死んだ其方そなたの妹も、みんな仲ようくらいておぢやると、最勝寺様が申された。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
自分じぶん收入以上しうにふいじやうくらしをして、むをぬから借金しやくきんつゞけてると事態じたいであるからして、左樣さやう状態じやうたいくににはかねさぬとふのが英米えいべい立前たてまへである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
わたしはただ、手っとり早く一日を晩までくらそうと、あせっていた。その代り、夜はぐっすりねむった。……子供っぽい無分別も、この際だいぶ役に立った。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
なみに明け浪にれる日々。それから毎日、海をみてくらしていました。だれやらの抒情詩じょじょうしではありませんが、ただ青く遠きあたりは、たとうれば、古き思い出。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
これからは心配なしに遊んでくらせる、と独言ひとりごとを言いながら、ごろりと腕枕うでまくらをしてその場に寝てしまいました。
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
道子みちこ小岩こいは色町いろまち身売みうりをしたとき年季ねんきと、電話でんわ周旋屋しうせんやと一しよくらした月日つきひとをむねうちかぞかへしながら
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
それは彼が文字の霊の存在を確かめるために、一つの字を幾日もじっと睨みくらした時以来のことである。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ロミオ それでこそわしへの忠節ちゅうせつ。これをれ。(と金子を與へ)末長すゑながうめでたうくらせ。さらばぢゃ。
むかしむかし夫婦者ふうふものがあって、ながあいだ小児こどもしい、しい、といいくらしておりましたが、やっとおかみさんののぞみがかなって、神様かみさまねがいをきいてくださいました。
そしてたいへん慈悲深じひぶかくて、なんでも貧乏びんぼうな人たちにめぐんでやり、自分は、弟子でしわかいおぼうさんと二人きりで、大きな、ぼだいじゅのそばの小さな家に、つつましくくらしていました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
はいもと彼等あすこで六だうせんを取つて、どうやらうやらくらしてりましたが、今度こんど此処こゝ停車場ステンシヨン出来できるについて、茶屋ちやゝを出したらからうといふ人のすゝめにまかせて、茶屋ちやゝを始めましたが
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
千穂子との間に、太郎たろう光吉こうきちと云う子供があった。あとに残った千穂子は、隆吉の父親の与平の家に引きとられてくらすようになり、骨身をおしまず千穂子は百姓ひゃくしょう仕事を手伝っていた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
要吉の家では、その桃を、問屋とんやや、かんづめ工場こうじょうなどに売ったお金で一年中のくらしをたてていたのです。夏のさかりになると、紙袋の中で、水蜜桃は、ほんのりとあかく色づいていきます。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
ちゝ存命中ぞんめいちゆうには、イワン、デミトリチは大學だいがく修業しうげふためにペテルブルグにんで、月々つき/″\六七十ゑんづゝも仕送しおくりされ、なに不自由ふじいうなくくらしてゐたものが、たちまちにして生活くらしは一ぺんし、あさからばんまで
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
辞表を書いて懐中かいちゅうに持ちながら諸般の事情によりその提出も出来ず待機たいきしているという不思議な運命うんめいの下にくらすこと一年で、昭和十一年の新春に、やっと辞表を平穏へいおんに出すことが出来た。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
それから日蔭ひかげに生まれた平民の子が急に日向ひなたに出て金箔きんはくを付けられたのがうれしくて、幾らか虚榮きよえい心に眼を眩まされた形で、虚々うか/\と日をくらしてゐた。何時の間にか中學校ちうがくかう卒業そつげふして了つた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
さうでした、權藏ごんざうのことをふのはわすれてました、益々ます/\達者たつしやくらしてます。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
梅桃桜菊色々の花綴衣はなつづりぎぬ麗しく引纏ひきまとわせたる全身像ほれた眼からは観音の化身けしんかとも見ればたれに遠慮なく後光輪ごこうまでつけて、天女のごとく見事に出来上り、われながら満足して眷々ほれぼれとながめくらせしが
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何を措いても差當さしあたり明日のくらしをどうにかしようとして——云はゞどうにもならないことを、どうにかしようとして、とりとめもないかんがへをたどりながら、さつきから朱雀大路すじやくおはぢにふる雨の音を
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は学生に向っても、常に奢侈しゃしいましめて質素を説き、生活を簡易化することの利得を説いた。贅沢ぜいたくくらしをするほど、生活が煩瑣はんさに複雑化して来て、仕事に専念することができなくなるからである。
日曜日にちようびには教會きようかいから博物館はくぶつかん一日いちにち愉快ゆかいくらすのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ながめくらしてすごしてき
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「いゝえ、あに一緒いつしよですから……でも大雪おほゆきなぞは、まちからみちえますと、こゝにわたし一人ひとりきりで、五日いつか六日むいかくらしますよ。」
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
くらかねるも二君に仕へぬ我魂魄わがたましひ武士の本意と思へどもにあぢきなき浮世うきよかなと一人涙を流したるとはがたりの心の中思ひやられてあはれなり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とおもふはなどいふ調子ちようしは、いかにもくらしかねてゐる退たいくつなひとのあくびでもしたいような氣持きもちがてゐるとおもひます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)