“徳(とく)” の例文
勇(ゆう)すなわち徳(とく)、徳(とく)すなわち勇(ゆう)と考えられていた。かかる時代にはよしや動物性が混じ、匹夫(ひっぷ)の勇(ゆう)以上に昇(のぼ)らずとも、それが尊(とうと)かった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「おかしいなあ、大(おお)きななりをして、べいをするなんて……。」と、徳(とく)ちゃんは、おじさんの顔(かお)を見(み)て、げらげら笑(わら)い出(だ)しました。
こま (新字新仮名) / 小川未明(著)
徳(とく)州の兵器庫は明(みん)代の末から久しく鎖(とざ)されていたが、順治の初年、役人らが戸を明けると、奥の壁の下に小さい人間を見いだした。
白髪を、根の太い茶筅(ちゃせん)にゆい、柿(かき)いろの十徳(とく)を着て、厚い褥(しとね)のうえにチョコナンとすわったところは、さながら、猿芝居の御隠居のようだ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ヘエ、いらっしゃいまし。ちょうど今年採ったばかりの新しいのがございます。これ徳(とく)どん、そこからお入れ物を持って来てお眼にかけな」
後に夫となるべき抽斎は五百が本丸にいた間、尾島氏定(さだ)を妻とし、藤堂家にいた間、比良野氏威能(いの)、岡西氏徳(とく)を相踵(あいつ)いで妻としていたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
徳(とく)さんも、人(ひと)の心(こころ)の読(よ)めない程(ほど)馬鹿(ばか)でもなかろう。どのような文句(もんく)を書(か)いた文(ふみ)か知(し)らないが、その文(ふみ)一本(ぽん)で、まさか二十五両(りょう)の大金(たいきん)は出(だ)すまいよ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
僕らが昔よく飲みに行ったUの女中に、お徳(とく)って女がいた。鼻の低い、額のつまった、あすこ中(じゅう)での茶目だった奴さ。あいつが君、はいっているんだ。
片恋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「駈け出しは何処も似たり寄ったりです。僕の方は五十、五十五、六十と刻んであります。僕は少し徳(とく)をしました」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
決(けつ)して損(そん)になる氣遣(きづかひ)は御座(ござ)いません。十分(ぷん)坐(すわ)れば、十分(ぷん)の功(こう)があり、二十分(ぷん)坐(すわ)れば二十分(ぷん)の徳(とく)があるのは無論(むろん)です。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
... 若(も)し君(きみ)、徳(とく)を修(をさ)めずんば(八六)舟中(しうちう)の人(ひと)盡(ことごと)く敵國(てきこく)たらん』と。武矦(ぶこう)曰(いは)く『善(よ)し』と。(八七)即(すなは)ち呉起(ごき)を封(ほう)じて西河(せいが)の守(しゆ)と爲(な)す。甚(はなは)だ(八八)聲名(せいめい)有(あ)り。
寶暦(はうれき)の頃(ころ)當城(たうじやう)の主(あるじ)眞田伊豆守幸豐公(さなだいづのかみゆきとよぎみ)、齡(よはひ)わづかに十五ながら、才(さい)敏(びん)に、徳(とく)高(たか)く、聰明(そうめい)敏達(びんたつ)の聞(きこ)え高(たか)かりける。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
太子(たいし)のお徳(とく)がだんだん高(たか)くなるにつれて、いろいろ不思議(ふしぎ)な事(こと)がありました。ある時(とき)甲斐(かい)の国(くに)から四足(そく)の白(しろ)い、真(ま)っ黒(くろ)な小馬(こうま)を一匹(ぴき)朝廷(ちょうてい)に献上(けんじょう)いたしました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それからそのそばに、あみだ寺をたてて、徳(とく)の高い坊(ぼう)さんを、そこにすまわせ、朝(あさ)に夕(ゆう)にお経(きょう)をあげていただいて、海の底(そこ)にしずんだ人びとの霊(れい)をなぐさめました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
こんな赤(あか)はげ山(やま)は、山(やま)としては決(けつ)して立派(りつぱ)なものとはいへません。人間(にんげん)でいへば體(からだ)ばかり大(おほ)きくて徳(とく)も智慧(ちえ)もないとすれば、人(ひと)としててんで品位(ひんい)がないのと同(おな)じです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
友達(ともだち)いやしがりて萬年町(まんねんちやう)の呼名(よびな)今(いま)に殘(のこ)れども、三五郎(らう)といへば滑稽者(おどけもの)と承知(しやうち)して憎(に)くむ者(もの)の無(なき)きも一徳(とく)なりし、田中屋(たなかや)は我(わ)が命(いのち)の綱(つな)、親子(おやこ)が蒙(かう)むる御恩(ごおん)すくなからず
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ロミオ はて、其(その)覘(ねらひ)は外(はづ)れた。戀愛神(キューピッド)の弱弓(よわゆみ)では射落(いおと)されぬ女(をんな)ぢゃ。處女神(ダイヤナ)の徳(とく)を具(そな)へ、貞操(ていさう)の鐵(てつ)の鎧(よろひ)に身(み)を固(かた)めて、戀(こひ)の稚(をさな)い孱弱矢(へろ/\や)なぞでは些小(いさゝか)の手創(てきず)をも負(お)はぬ女(をんな)。
シチュウには牛の舌をお買いになってタンシチュウをお拵えなすっても沢山出来てお徳(とく)です。何の料理でもその材料が適当しなければ好(よ)いものがかえって悪くなります。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
右(みぎ)大膳儀(だいぜんぎ)先年神奈川(かながは)旅籠屋(はたごや)徳(とく)右衞門方に於て旅人を殺害し金子を奪取(うばひとり)其後天一坊に一味(み)致謀計(ぼうけい)虚言(きよげん)を以て百姓町人を欺(あざむ)き金銀を掠取(かすめと)り衣食住に侈奢(おごり)身の程をも辨(わきま)へず上(かみ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ふう。正※知(しょうへんち)のお徳(とく)は風のようにみんなの胸(むね)に充(み)ちる。あしたの朝はヒームキャの河(かわ)の岸(きし)までわしがお迎(むか)えに出よう。みなにそう伝(つた)えてくれ。お前は夜明の五時に参(まい)れ」
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「徳(とく)さん。おるかな。諸戸の旦那の云いつけだ。舟を出しておくれ。この人をKまで渡すのや」
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのうわおいぐつにはひとつの徳(とく)があって、それをはいたものはたちまち、だれでもじぶんがいちばん住んでみたいとおもう時代なり場所なりへ、はこんで行ってもらえて
と聞いてみると、末子(すえこ)のがあり、下女(げじょ)のお徳(とく)のがある。いつぞや遠く満州の果てから家をあげて帰国した親戚(しんせき)の女の子の背丈(せたけ)までもそこに残っている。私の娘も大きくなった。
嵐 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私(わっち)どもは好(い)い話が無(ね)えんで、火事のあった時に屋根屋の徳(とく)の野郎め、路地を飛越し損(そく)なやアがって、どんと下へ落ると持出した荷の上へ尻餅を搗(つ)き、睾丸(きんたま)を打ち、目をまわし
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其處らには赤く銹(さ)びたブリキの鑵(くわん)のひしやげたのやら貧乏(びんぼう)徳(とく)利の底の拔けたのやら、またはボール箱の破れた切ツ端やら、ガラスの破片(かけら)やら、是れと目に付くほどの物はないが
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
裾(すそ)曳摺(ひきず)りて奥様(おくさま)といへど、女は竟(つい)に女也(なり)当世(たうせい)の臍繰(へそくり)要訣(えうけつ)に曰(いわ)く出るに酒入(さけい)つても酒(さけ)、つく/\良人(やど)が酒浸(さけびた)して愛想(あいそう)の尽(つ)きる事もございますれど、其代(そのかは)りの一徳(とく)には月々(つき/\)の遣払(つかひはら)ひに
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
一枚の寝袋(スリーピング・バッグ)、共同の一つのコッフェル、フォークのついた五徳(とく)ナイフ、コップが一つ。これで、全部だった。食べるためには米と味噌。そのほかに、蝋マッチひと包みだけはいっていた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
また私は世人が植物に趣味を持てば次の三徳(とく)があることを主張する。すなわち
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
右(みぎ)の次第(しだい)にて此度(このたび)大陰暦(たいゝんれき)を改(あらた)めて大陽暦(たいやうれき)と爲(な)し俄(にはか)に二十七日の差(さ)を起(おこ)したれども少(すこ)しも怪(あやし)むに足(た)らず。事實(じゞつ)の損(そん)にもあらず、徳(とく)にもあらず、千萬歳の後(のち)に至(いた)るまで世(よ)の便利(べんり)を増(ま)したるなり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
茶は一斤半として九十錢、新聞は郵税を入れて五十錢、それを差引いた殘餘の一圓と外に炭、石油も學校のを勝手に使ひ、家賃は出さぬと來てるから、校長はどうしても月五圓宛(づゝ)徳(とく)をして居る。
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
その罪の一半(いっぱん)は私の徳(とく)の足らないためだと私は思います、私も深く反省しましょう、諸君もより以上に注意してください、悪い親を持った一少年を学校が見捨てたら、もうそれっきりですからなあ
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
幾年(いくねん)居(ゐ)なくても勝手(かつて)を知(し)つて居(ゐ)るので彼(かれ)は柱(はしら)へ懸(かけ)てある手(て)ランプを點(つ)けて、取(と)り敢(あへ)ず手足(てあし)を暖(あたゝ)める爲(ため)に麁朶(そだ)をぽち/\と折(を)つて火鉢(ひばち)へ燻(く)べた。煤(すゝ)けた藥罐(やくわん)を五徳(とく)へ掛(かけ)てそれから彼(かれ)は草鞋(わらぢ)をとつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一休(いっきゅう)さんの頓智(とんち)というものは、まるで、とぎすました刄(やいば)のような、鋭(するど)さで、もし、一休(いっきゅう)さんが、仏門(ぶつもん)に入(はい)って徳(とく)をみがいたのでなければ、大分(だいぶ)危険(きけん)なようにさえおもわれるところもあるくらいです。
先生と父兄の皆さまへ (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
中村は少し凹(へこ)まされたかども有るが、この人は、「肉の多きや刃(やいば)その骨に及(およ)ばず」という身体(からだ)つきの徳(とく)を持っている、これもなかなかの功(こう)を経ているものなので、若崎の言葉の中心にはかまわずに
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それは、平時に民部(みんぶ)の教えるところであった。民部は伊那丸を勇士(ゆうし)猛夫(もうふ)の部類(ぶるい)には育てたくなかった。器(うつわ)の大きな、徳(とく)のゆたかな、品位(ひんい)と天禀(てんぴん)のまろく融合(ゆうごう)した名将(めいしょう)にみがきあげたいと念(ねん)じている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此等(これら)の七福(しちふく)を余(よ)は悉(こと/″\)く灌水(くわんすゐ)の徳(とく)に歸(き)するものなり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
「お徳(とく)でねえか。ど、どうしただア」
青服の男 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「オヤ、あれは徳(とく)じゃないか。」
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ふみ別(わ)けにしは法(のり)の徳(とく)にそ
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
明天子(めいてんし)の徳(とく)至(いた)れり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
「清(きよ)ちゃん、自転車(じてんしゃ)の走(はし)りっこをしようか。」と、徳(とく)ちゃんがいいました。二人(ふたり)は同(おな)じような型(かた)の、赤(あか)い自転車(じてんしゃ)に乗(の)っていました。
父親と自転車 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの娘は、鳥越(とりごえ)の平助店(へいすけだな)にいるお秋(あき)という者だ、——叔父、叔母といってるのは全く他人で、これは飴屋(あめや)の丑松(うしまつ)とお徳(とく)という、仕事の相棒さ。
優の家には二人(ふたり)の食客があった。一人(ひとり)は妻(さい)蝶の弟大沢正(おおさわせい)である。今一人は生母徳(とく)の兄岡西玄亭の次男養玄である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「一人(ひとり)でどこへは、そっちより、こっちで訊(き)きたいくらいのもんだ。——お前(まえ)、橘屋(たちばなや)の徳(とく)さんにまかれたな」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
と、徳(とく)は孤(こ)ならず、ちよろつかな包(つゝ)み加減(かげん)。拔(ぬ)いた串(くし)に皮(かは)が開(あ)いて、小姉(ちひねえ)の手(て)の上(うへ)に飜(ひるがへ)つたのを、風呂敷(ふろしき)ごと引奪(ひつたく)るやうに取(と)つて、奴(やつこ)は屋臺(やたい)で、爲直(しなほ)しながら
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
この造営奉行所の奥深く、人を遠ざけてたった三人、五徳(とく)の脚(あし)のようにすわっている影があった。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
遣(つか)はし其場を濟(すま)せし事迄を落なく語りければ與惣次は大いに感心(かんしん)なし如何にも今の世には得難き人なり殊に女房叔母ともに奇麗(きれい)に向ふへ遣(つかは)し温順(おとなし)き心底なりと傳吉が徳(とく)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
宗任(むねとう)はいったん義家(よしいえ)に命(いのち)を助(たす)けてもらったので、たいそうありがたいと思って、義家(よしいえ)の徳(とく)になつくようになったのですが、元々(もともと)人を恨(うら)む心(こころ)の深(ふか)い荒(あら)えびすのことですから
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
名(な)が何(なん)ぢゃ? 薔薇(ばら)の花(はな)は、他(ほか)の名(な)で呼(よ)んでも、同(おな)じやうに善(よ)い香(か)がする。ロミオとても其通(そのとほ)り、ロミオでなうても、名(な)は棄(す)てゝも、其(その)持前(もちまへ)のいみじい、貴(たふと)い徳(とく)は殘(のこ)らう。
徳(とく)州の宋清遠(そうせいえん)先生は語る。あるとき友達をたずねると、その友達は宋をとどめて一泊させた。