よる)” の例文
よる大分だいぶんけてゐた。「遼陽城頭れうやうじやうとうけて‥‥」と、さつきまで先登せんとうの一大隊だいたいはうきこえてゐた軍歌ぐんかこゑももう途絶とだえてしまつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
よるもうっかりながしのしたや、台所だいどころすみものをあさりに出ると、くらやみに目がひかっていて、どんな目にあうかからなくなりました。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しかたなくあなからて、もとすんでいた、ようすのわかっているうちえんしたへゆこうとおもって、よるになるのをってやってきました。
ねずみとバケツの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼女あれの美しさはよる生くるものの為には日中ひるよりもなお恐ろしい美しさだ、翼ある月の子らのためにはよるよりもなお不思議な美しさだ。
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
かうしてはやしなか空氣くうきは、つねはやしそとくらべて、晝間ちゆうかんすゞしく、夜間やかんあたゝかで、したがつてひるよるとで氣温きおんきゆうかはることをやはらげます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
それから毎日、昼間ひるま甚兵衛じんべえがでかけ、よるになるとさるがでかけて、人形の行方ゆくえさがしました。けれどなかなか見つかりませんでした。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
壁の裏が行方ゆくえであらう。その破目やれめに、十七日の月は西に傾いたが、よる深く照りまさつて、ぬぐふべき霧もかけず、雨も風もあともない。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いとな七日々々なぬか/\追善供養つゐぜんくやうも心の及ぶだけはつとめしが何分男の手一ツでをさなき者の養育やういく當惑たうわくひるは漸く近所きんじよとなりもらちゝなどしよる摺粉すりこ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
冷吉はその内に、いつしか極りの惡いのを忘れて、すぐ下のよるの、さびしい町筋を一人行く、下駄の音の過ぎるのを聞き追うてゐた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
しかし、よるになると、こっそりとはじめて、あさしろもんがあくまでうつしました。かおははれぼったくなり、病人びょうにんのようにみえました。
えゝも、乳母うばめは跛足ちんばぢゃ! こひ使者つかひには思念おもひをこそ、思念おもひのこよるかげ遠山蔭とほやまかげ追退おひのける旭光あさひはやさよりも十ばいはやいといふ。
よる戸毎こごと瓦斯がす電燈でんとう閑却かんきやくして、依然いぜんとしてくらおほきくえた。宗助そうすけこの世界せかい調和てうわするほど黒味くろみつた外套ぐわいたうつゝまれてあるいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
秋が深くよる寒さがつづくと、昼間はくさはらの上のほうに這い出して日光に長くとまり、しばらく余生をたのしんでいるように見える。
螽蟖の記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
酒に酔つて人を殴打たたき、女の足を拝み、よる赤い四角の窓を仰いでは淫獣の如く電線を伝つて忍び込んだのも君だ、幻覚中の君であつた。
よる、萬象が沈默し、人も、鳥も、木も、草も、すべてが深い眠りに落ちてる時、ただ獨り醒めて眠らず、よるも尚ほ水は流れて行く。
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
指折ゆびをかゞめて勘定かんじようして、今晩こんばんは、よるまをせば、九晩こゝのばんひるまをせば、十日とをか經過けいかいたしましたことよ。かういふおこたへをしたのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
海蔵かいぞうさんはこしをあげました。利助りすけさんが、よるおそくまでせっせとはたらくのは、じぶんだけのためだということがよくわかったのです。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
よるのこたァ、こっちがてるうちだから、なにをしてもかまわねえが、お天道様てんとうさまが、あがったら、そのにおいだけにめてもらいてえッてよ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
騎兵大隊長きへいだいたいちやう夫人ふじん變者かはりものがあつて、いつでも士官しくわんふくけて、よるになると一人ひとりで、カフカズの山中さんちゆう案内者あんないしやもなく騎馬きばく。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
甘美で平俗なものを好む人は『よるの調べ』(J五五八九)や『ラスト・ローズ・オブ・サンマー』(J五五五六)も悪くあるまい。
あのけわしい山中にさえ、近頃は、かやの屋根にしのすだれを垂れ、よる見たらむしろおそろしげな遊女の宿が何軒もできているそうである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五百はまだ里方さとかたにいた時、或日兄栄次郎が鮓久すしきゅうに奇な事を言うのを聞いた。「人間はよるさかさになっている」云々といったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのうちで、よるひるもぶっとほしにいへそばはなれずに、どうにかして赫映姫かぐやひめつてこゝろざしせようとおも熱心家ねつしんか五人ごにんありました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
その小屋の戸口によるになれば女の伺い寄りて人を見てげたげたと笑う者ありて、淋しさに堪えざる故、ついに工場を大字山口に移したり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
汝等とこしへの光の中に目をさましをるをもて、よるも睡りも、世がその道に踏みいだす一足をだに汝等にかくさじ 一〇三—一〇五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
去年の春の、——と云ってもまだ風の寒い、月のえたよるの九時ごろ、保吉やすきちは三人の友だちと、魚河岸うおがしの往来を歩いていた。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
よるになりました。こつそりでかけました。そしておどろきました。「なあんだ。こりやいしじやないか。ちえツ、馬鹿々々ばか/″\/″\しい」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
よるの風は盃のひやふちに似たり。半眼はんがんになりて、口なめずりて飮み干さむかな、石榴ざくろの汁を吸ふやうに滿天まんてんの星の凉しさを。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
よるになるのを待つて、一人浅草公園に出かけて、明日あしたの午後映画を見てからあとの帰り道、いよ/\をんなをつれ込む場所をさがして置かうと
男ごゝろ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あれで瓦斯ぐわすきます、よる方々はう/″\瓦斯ぐわすきますから、少しも地獄ぢごくこはい事はございません。岩「へえゝ、ひらけたもんで。 ...
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
わしはよる家に忍び込む盗人ぬすっとよろしく、カチェリーナのトランクのかぎをまんまと盗み出し、持って帰った俸給の残りを引っ張り出してしまった。
おぢさん「は〻あ、可憐かあいいものだなあ。動物園どうぶつゑんなかでもよるなんかくま一番いちばんよくねむるつてね、嚊声いびきごゑ不忍池しのばずのいけまできこへるつてさ」
よるは御きょうだい三人にてむつまじくおくのまへおん入りあそばし、ひきつゞいて十日あまりも御たいりゅうなされました。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しろ切干きりぼしさずにしたのであつた。切干きりぼしあめらねばほこりだらけにらうがごみまじらうがひるよるむしろはなしである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まちつかれた身體からだをそつと椅子いすにもたれて、しづかなしたみちをのぞこふとまどをのぞくと、窓際まどぎは川柳かはやなぎ青白あをしろほそよるまどうつくしくのびてた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
クリストフはいつもよるよく眠れないで、夜の間に昼間ひるま出来事できごとを思いかえしてみるくせがあって、そんな時に、小父おじはたいへん親切しんせつな人だと考え
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
実にこの胸に眠っているものを、よる吹く風が遠い便たよりを持って来るようにお蔭で感じるといったのう。実に君は風の伝える優しい糸のだったよ。
十二月の三日のよる、同行のものは中根のうちに集まることになっていたゆえ僕も叔父のうちに出かけた、おっかさんはあぶなかろうと止めにかかったが
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
半四郎君の出てゆく水の音がやみに響いてカパンカパンと妙に寂しい音がする。濁り水の動く浪畔なぐろにランプの影がキラキラする。全くのよるとなった。
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
衞國ゑいこくはふひそかきみくるまするものつみ(一〇七)げついたる、すでにして彌子びしははむ。ひとき、いてよるこれぐ。彌子びしいつはつてきみくるましてづ。
もしそこを通過つうかするのがよるであるならば、ばされた赤熱鎔岩せきねつようがん斜面しやめんながくだつて、あるひ途中とちゆうまり、あるひ海中かいちゆうまで進入しんにゆうするのがられるが
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
それで、その子どもたちにパンをたべさせるために、男は、いやおうなしに、ひるとなくよるとなく働きつづけました。
きよよるの月光を浴びながら、はるばるフエカンの断崖まで運んで行き、麻袋の口をあけて、奇妙な肉塊を一つずつ英仏海峡の荒波のなかへ落しこんだ。
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
よる臥床ふしどに就くときも、色々のもので塗りあげられた彼女の顔が、電気の灯影にすごいような厭な美しさを見せていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
寢息ねいきもやがて夜着よぎえりしろ花咲はなさくであらう、これが草津くさつつねよるなのである。けれどもれては何物なにものなつかしい、吹雪ふゞきよ、遠慮ゑんりよなくわたしかほでゝゆけ!
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
すでよるふかく、くわふるに當夜このよなみおだやかにして、ふねいさゝか動搖ゆるぎもなければ、船客せんきやく多數おほかたすでやすゆめつたのであらう、たゞ蒸滊機關じようききくわんひゞきのかまびすしきと
彼も妻も低い下駄、草鞋わらじ、ある時は高足駄たかあしだをはいて三里の路を往復した。しば/\暁かけて握飯食い/\出かけ、ブラ提灯を便たよりによるおそく帰ったりした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それからとうさんは伯父をぢさんやきちさんや友伯父ともをぢさんと一緒いつしよ東京行とうきやうゆき馬車ばしやりまして、ながなが中仙道なかせんだう街道かいだうひるよるりつゞけにつてきました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
アリスの「よる花園はなぞの」「目を閉ぢて」「心のなかの愛」「最初の承諾」なども、全くこの表情を生かしてゐる。
聖地の門をめぐりながら、よるとなく白日ひるとなく、蜜蜂すがるよ。いつか門は十字に閉され、花々は霜にこゞえた。蜜蜂よ。
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)