かな)” の例文
ぼくは、そうきくと、物心ものごころのつかない幼時ようじのことだけれど、なんとなく、いじらしいあにのすがたがかんで、かなしくなるのです。
兄の声 (新字新仮名) / 小川未明(著)
って、あたりを見𢌞みまわしたとき袖子そでこなにがなしにかなしいおもいにたれた。そのかなしみはおさなわかれをげてかなしみであった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
われゆゑぬるひとのありとも御愁傷ごしうしようさまとわきくつらさ他處目よそめやしなひつらめ、さりともおりふしはかなしきことおそろしきことむねにたゝまつて
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
で、その白鳥はくちょうは、いまとなってみると、いままでかなしみやくるしみにさんざん出遭であったことよろこばしいことだったという気持きもちにもなるのでした。
いかにもねばりづよい、あきらめにくいかなしみのこゝろが、ものゝまとひついたように、くね/\した調子ちようしあらはれてゐるのがかんじられませう。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
『それからのちは』と帽子屋ばうしやかなしげな調子てうしで、『わたしふことをかなくなつてしまつて!まァ、何時いつでも六のところにとまつてゐる』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
たれも爲るものるまじと思ひしきりかなしく心は後へひかれながら既に奉行所ぶぎやうしよへ來り白洲しらす引居ひきすゑられたり此日伊勢屋三郎兵衞方にては彼旅僧を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その中でむすめはまだ子供こどもでしたから、ついそこらへ出かけて、じきにおとうさんがかえってるもののようにおもって、かなしそうなかおもしずに
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
心からかなしんでいるのでした。ふたりはまずしい百姓ひゃくしょうでした。持っている土地といえば、わずかに庭ぐらいの大きさのものでした。
しかし、やがておくぬしかなしきかた見になつたその寫眞器しやしんきは、支那しなの旅からかへるともなく、或るぶん學青年の詐欺さぎにかゝつてうしなはれた。
このから、少年せいねんのちいさいむねにはおほきなくろかたまりがおかれました。ねたましさににてうれしく、かなしさににてなつかしい物思ものおもひをおぼえそめたのです。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
その時分じぶん不安ふあん焦燥しょうそう無念むねん痛心つうしん……いまでこそすっかり精神こころ平静へいせいもどし、べつにくやしいとも、かなしいともおもわなくなりましたが
かれながら過去くわこ二三時間じかん經過けいくわかんがへて、そのクライマツクスが突如とつじよとして如何いかにも不意ふいおこつたのを不思議ふしぎかんじた。かつかなしくかんじた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ヂュリ さ、乳母うばいの。……ま、なん其樣そのやうなさけないかほしてゐやる? かなしい消息しらせであらうとも、せめてうれしさうにうてたも。
日様ひさまはもえる宝石ほうせきのようにひがしそらにかかり、あらんかぎりのかがやきをかなしむ母親ははおやたびにでたどもらとにげておやりなさいました。
いちょうの実 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
みのおやのこともわすれて、こゝのお二人ふたりしたしみましたので、わたしはおそばはなれてくのが、ほんとうにかなしうございます
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
『おゝ、』と飛附とびつくやうな返事へんじかほしたが、もとよりたれやうはずい。まくらばかりさびしくちやんとあり、木賃きちんいのがほうらかなしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「わたくしたちも泣きながら、七山路やまじを歩いたのです。もうおよばないことですから、このうえ、かなしいことをいわないでくださいまし」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つくづくと険しくなつて了つたわれとわが顔をぢつと凝視みつめてゐた私は心の底から突きあげてくるかなしさと狂ほしさから
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
武村兵曹たけむらへいそう眼中がんちう無念むねんなみだうかべて、いま多少たせう仇浪あだなみ立騷たちさわいで海面かいめんにらんでる。日出雄少年ひでをせうねんはいと/\かなさう
かれたゞなみだがこみあげてもなくかなしくさうしてしみ/″\とつゞけた。勘次かんじはそれをいた瞬間しゆんかんかた唐鍬たうぐはころがしてぶつりとつちつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
赤裸々せきらゝに、眞面目まじめに、謙遜けんそんゐることの、悲痛ひつうかなしみと、しかしながらまた不思議ふしぎやすらかさとをもあはせて經驗けいけんした。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
江戸えど民衆みんしゅうは、去年きょねん吉原よしわら大火たいかよりも、さらおおきな失望しつぼうふちしずんだが、なかにも手中しゅちゅうたまうばわれたような、かなしみのどんぞこんだのは
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ひややかなまま母、思いやりのない夫、家の人びとのあまりにすげなきしぶりを気づいては、お政は心中しんちゅう惑乱わくらんしてほとんど昏倒こんとうせんばかりにかなしい。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
すでぼつした。イワン、デミトリチはかほまくらうづめて寐臺ねだいうへよこになつてゐる。中風患者ちゆうぶくわんじやなにかなしさうにしづかきながら、くちびるうごかしてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それから、小さいニールスは、家も食べ物も何もない、野のき物たちと生活をともにして、小さな生き物たちのくるしみやかなしみをつぶさに知ります。
それでも、わたし、どんなにかなしいことだらうとおもひますわ。たゞね、そうかんがへるだけでも、なみだそうなんですもの。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
おかみさんは金貨の袋を見て、大へんかなしそうな、またこわいような顔をして、アリ・ババに泣きつきました。
(七五)巖穴がんけつ(七六)趨舍すうしや(七七)ときり、かくごときのたぐひ(七八)湮滅いんめつしてしようせられず、かなしいかな
土井はかなしいお伽話に似た、可憐なその作品が、さうむづかしいものでもなかつたところから、悪戯に訳して見たこともあつたくらゐ、なつかしみをかんじたが
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
はづかしさ、かなしさ、腹立はらだたしさ、——そのときのわたしのこころうちは、なんへばいかわかりません。わたしはよろよろあがりながら、をつとそば近寄ちかよりました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
丁坊はすべてをあきらめて、そしてこの上は、せめて日本人らしく笑って死のうと思った。ただしかし、東京にいるお母さんに会えないでぬことがかなしい——。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ラプンツェルは、そのおとこおんな双生児ふたごんで、この沙漠さばくなかに、かなしいおくってたのです。
彼はクリストフがかなしがってるのに気がついて、いてやろうとした。しかしクリストフはおこって横を向いた。そして彼は幾日いくにち不機嫌ふきげんだった。小父おじにくんでいた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
秋の刈入かりいれがすんで、手伝てつだい仕事がなくなると、村のひとたちはだれも清造にこういうのでした。清造はそれを聞くとかなしくなって、沼のふちへ来ていていました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
ひとたび法師がびわをひきだし、その歌をうたいはじめると、なんともいえないあわれさ、かなしさがひびきわたり、おにでさえもかずにはいられないほどでありました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
熊のたる跡へすはりしにそのあたゝかなる事巨燵こたつにあたるごとく全身みうちあたゝまりてさむさをわすれしゆゑ、熊にさま/″\礼をのべ猶もたすけ玉へと種々いろ/\かなしき事をいひしに
そしてかほにはあかべにつたのだとか、すこ口元くちもとゆがめてかなしそうな表情ひようじようをしたものもあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
婦負めひすすきおしゆき宿やど今日けふかなしくおもほイはゆ 〔巻十七・四〇一六〕 高市黒人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
エチエンヌはすっかりいきを切らして四人にいつきます。四人がそんなゲートルをはかされているのを見ると、よろこんでいいのか、かなしんでいいのかわからないような気持きもちです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
仲善なかよしのぞうくまとは、をりふし、こんなかなしいはなしをしてはおたがひの不幸ふしあはせなげきました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
要吉は、なんとなくむかむかするといっしょにかなしい気持になりました。店でくさらせるばかりでなく、こうして、おやしきの台所だいどころへきても、まだ、たべる人もなくくさらせる。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
かなしそうなおどおどしたようすで、僧正様そうじょうさまにおいのりをしていただきたいと申すんです。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
蠻勇ばんゆうごときを、くまでにしたふかをおもへば、うれしいよりもかなしさがうかんでる。
〔ああ、ヱヴェレストはまだとほいらしい。〕ペンペはかなしいこえをあげてきだしたが、自分じぶんこえいてすくひにるものもいのかとおもふと、はらつて、あたまなかぼうッとしてた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
はずかしさと、かなしさと、新しいシャツを思ううれしさのこんぐらかった中で、シューラはだれかのうきうきしたような、もじもじしたようなこえを聞きわけた。はしってたためにややいきぎれがしている。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
それはちょうどへびにみこまれた小鳥の、かなしいさけび声に似ていた。
無理むりないわ あたしだつてかなしくなつちまつたわ アーン アーン
かなしくもまたあはれなり、冬の夜の地爐ゐろりもと
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
父はよくかなしがつて女の人たちに言つてゐた。
お灸 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)