其夜そのよ)” の例文
しかも梅の影がさして、窓がぽつとあかるくなる時、えん蚊遣かやりなびく時、折に触れた今までに、つい其夜そのよの如くの高かつた事はないのである。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もう後悔しても取反とりかえしが附かなくなって、むことを得ず好加減いいかげんな口実を設けて別々に内を出て、新富座を見物した其夜そのよの事。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
其夜そのよとこりしかども、さりとは肝癪かんしやくのやるなく、よしや如何いかなる用事ようじありとても、れなき留守るす無斷むだん外出ぐわいしつ殊更ことさら家内かないあけはなしにして
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
借て手傳てつだはせしにふけまゝ其夜そのよは下女事私し方へ泊り翌朝よくてうきやく給仕きふじなどを仕舞て立歸り候處右の騷動さうどうゆゑ大いに驚き候由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其夜そのよ、帆村探偵は、彼の研究室にこもって、事件の最初から今日の調べのところまで幾度となく、復習をしてみた。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
其夜そのよ征西将軍せい/\しやうぐんの宮の大祭で、町はにぎやかであつた。街頭をぞろぞろと人がとほつた。花火が勇ましい音を立てゝあがると、人々がな足を留めて振返ふりかへつた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
其夜そのよ大雨たいうしたので、これまで野營やえいつゞけてゐた附近ふきん被害民ひがいみんは、みなつぶのこりのいへあつまつてあま大勢おほぜいでありしため混雜こんざつはしたけれども、みな口々くち/″\
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
宗助そうすけ其夜そのよとこなかはひつて、明日あしたこそおもつて、坂井さかゐつて安井やすゐ消息せうそくをそれとなくたゞして、もしかれがまだ東京とうきやうにゐて、なほしば/\坂井さかゐ徃復わうふくがあるやうなら
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其夜そのよからぼくねつ今日けふ三日みつかになるが快然はつきりしない。やまのぼつて風邪かぜいたのであらう。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
のまま雨中に立ち尽しては、あるいは凍えて死ぬかも知れぬので、遺憾ながら安行の捜索は一旦中止して、一同も空しく町へ引揚ひきあげて来た。市郎は其夜そのよ一睡もなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其夜そのよ詩集ししふなどいだして読みしは、われながら止所とめどころのなき移気うつりぎや、それ其夜そのよの夢だけにて、翌朝よくあさはまた他事ほかのこと心移こゝろうつりて、わすれて年月としつきたりしが、うめの花のくを見ては毎年まいとし
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
瀬田は二十五歳で、脇差を盗まれたために、見苦しい最期さいごを遂げた。村役人を連れて帰つたいさんが、其夜そのようちに死骸を見付けて、二十二日に領主稲葉丹後守たんごのかみに届けた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
其夜そのよ慙恨ざんこんじやうられて、一すゐだもず、翌朝よくてうつひけつして、局長きよくちやうところへとわび出掛でかける。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ほかでも無い、あの流星と云うものは何んだか気味の悪いもので、それが落ちたとおぼしき場所へは、余程の勇士でも其夜そのよぐに行くのはいやがると云う、そうして昔からの口碑いいつたえにも
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
悲しい其夜そのよが明けますと北国ほつこくの皇太子は家来を大勢連れての野原へ狩猟に来ましたがやがてくさむらの中にねむつてるお玉を見つけての美しいのに驚いて眼のさめるのを待つて身の上を
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
其間そのひまに、わし消息しらせで、ロミオがこの計畫けいくわくり、おことめさッしゃるまへに、此方こちることとならう。わし共々とも/″\目覺めさめまでばんをして、其夜そのようちにロミオがおことをばマンチュアへれていなう。
強盜がうとう間違まちがへられた憤慨ふんがいまぎれに、二人ふたりはウン/\あせしぼりながら、一みちさかい停車場ていしやばで、其夜そのよ汽車きしやつて、品川しながはまでかへつたが、新宿しんじゆく乘替のりかへで、陸橋ブリツチ上下じやうげしたときくるしさ。
犬嫌いぬぎらいの父は泊めた其夜そのよ啼明なきあかされると、うんざりして了って、翌日あくるひは是非逐出おいだすと言出したから、私は小狗こいぬを抱いて逃廻って、如何どうしても放さなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
かしおき其夜そのようしこくとも思しき頃かね研澄とぎすましたる出刄庖丁でばばうちやう懷中くわいちうなし頬冠ほゝかぶりして忍びいでやがて質屋の前へ行き四邊あたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さりとて其夜そのよらるヽところならず、ひてとこへはりしものヽ寐間着ねまきかへずよこにもならず、さてつく/″\とかんがへればまへ晝間ひるま樣々さま/″\かびて
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
五月朔日ごぐわつついたちことなり其夜そのよ飯坂いひざか宿とまる。温泉をんせんあればいり宿やどをかるに、土座どざむしろいて、あやしき貧家ひんかなり。ともしびもなければ、ゐろりの火影ほかげ寢所しんじよまうけて云々うん/\
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
代助は其夜そのよすぐたうと思つて、グラツドストーンのなか門野かどのに掃さして、携帯品をすこんだ。門野かどのすくなからざる好奇心を以て、代助の革鞄かばんながめてゐたが
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
フムと感心のコナシありて、此子このこなか/\話せるワエと、たちま詩箋しせん龍蛇りうだはしり、郵便箱いうびんばこ金玉きんぎよくひゞきあることになるとも、われまた其夜そのよ思寝おもひね和韻わゐんの一をすら/\と感得かんとくして
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
あるひ七十五尺しちじゆうごしやくといふようなたかさの洪水こうずいとなり、合計ごうけい二萬七千人にまんしちせんにん人命じんめいうばつたのに、港灣こうわん兩翼端りようよくたんではわづか數尺すうしやくにすぎないほどのものであつたし、其夜そのよ沖合おきあひ漁獵ぎよりようつてゐた村人むらびと
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
雨は何時いつ降歇ふりやんで、其夜そのよも明け放れた。あかつきの霧は晴れて、朝日は昇った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ところ其夜そのよ女中ぢよちゆうどもがぼく部屋へやあつまつて、宿やどむすめた。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
扨て傳吉は其夜そのよ亥刻よつすぎに我が家へ歸りければ女房叔母ともに出で立ち今御歸りなされしや金子は如何にとたづぬるに傳吉さればお專殿は留守にて分らず歸りを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
石之助いしのすけ其夜そのよはをとなしく、新年はる明日あすよりの三ヶにちなりとも、いへにていはふべきはづながら御存ごぞんじのしまりなし、かたくるしきはかまづれに挨拶あいさつ面倒めんどう意見いけんじつきゝあきたり
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其夜そのよの感情、よく筆に写すを得ず、いかむとなれば予は余りの恐しさに前後忘却したればなり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
其夜そのよ代助は平岡と遂に愚図々々でわかれた。会見の結果から云ふと、何のために平岡を新聞社にたづねたのだか、自分にもわからなかつた。平岡の方から見れば、猶更左様さうであつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
人數にんずのそそくさに此女中このぢよちゆうと、ほかには御飯ごはんたきらしき肥大女ふとつちよおよび、其夜そのよりてよりくるまばせて二人ふたりほどきたりしひとあり、一人ひとり六十ろくじふちかかるべき人品じんぴんよき剃髮ていはつ老人らうじん
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けれども其夜そのよめづらしく、坂井さかゐ主人しゆじんは四十恰好がつかうひげのないひとであるとことやら、ピヤノをくのは惣領そうりやうむすめで十二三になるとことやら、またほかうち小供こどもあそびにても
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お村もすこしくなる口なるに、其夜そのよは心さわやぎ、きようまた深かりければ、飲過のみすごしていたひぬ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
其涙そのなみださとしぬぐはれてなほかなしく、にすがりて何時いつまでもきしが、三歳子みつごたましひいつはりにはらで、このこと心根しんこんにしみてかなしければこそ、其夜そのよ閑燈かんとうのもとに令孃ひめがみて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其夜そのよ教師けうし用達ようたし出掛でかけて留守るすであつたから、やゝ落着おちついてみはじめた。やがて
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
宗助そうすけ汽車きしや利用りようして其夜そのよのうちに安井やすゐ宿やどいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其夜そのよかり立去たちさらず、にかはれた飼鳥かひどりのやう、よくなつき、けて民子たみこしたつて、ぜんかたはらはねやすめるやうになると、はじめに生命いのちがけおそろしくおもひしだけ、可愛かはいさは一入ひとしほなり。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
其夜そのよ雨催あめもよひそらが、地面ぢめんおなじ様ないろに見えた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
また場所ばしよそれつじそれところ待給まちたまかならずよとちぎりてわかれし其夜そのよのことるべきならねば心安こゝろやすけれど心安こゝろやすからぬは松澤まつざはいま境涯きやうがいあらましはさつしてもたものゝそれほどまでとはおもひもらざりしが其御難儀そのごなんぎたれがせしわざならず勿躰もつたいなけれどおやうらみなりかれぬまでもいさめてんかいなちゝ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さて其夜そのよこゝへるのにもとほつたが、矢來やらい郵便局いうびんきよくまへで、ひとりでしたおぼえがある。もつと當時たうじあをくなつておびえたので、おびえたのが、可笑をかしい。まだ横寺町よこでらまち玄關げんくわんときである。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なれツこになつてしたしんで居たけれども、泊るのは其夜そのよ最初はじめて
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)