けん)” の例文
その当日は数十けんの「筋目の者」たちは十六のきくのご紋章もんしょうの附いたかみしもを着ることを許され、知事代理や郡長等の上席にくのである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ただいま。叔母おばさんのいえからだいぶはなれていましたから、いきませんでした。三けんばかりけて、やっといましがたえました。」
火事 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのとき、一けんだけ、ぽつんと立っている百姓家ひゃくしょうやが見えてきました。見れば、荒れはてているうえに、人は住んでいないようすです。
さんざん歩いたすえ、女の子はようやく一けんの小さな家のまえにきました。家のなかからは、ひとりのおばあさんがのぞいていました。
とうとう山がつきてたにのようなところへ出ました。ひょいとると、そこに一けんうちらしいもののかたちが、夜目よめにもぼんやりえました。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
大臣だいじんは林をまわりました。林のかげに一けんの大きなうちがありました。日がまっ白にって家は半分はんぶんあかるくゆめのように見えました。
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その得意先とくいさきの一けん橋場はしば妾宅せふたくにゐる御新造ごしんぞがおいと姿すがたを見て是非ぜひ娘分むすめぶんにして行末ゆくすゑ立派りつぱな芸者にしたてたいと云出いひだした事からである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
たちまち姿すがたは見えずなって、四五けん先の鍛冶屋かじやつちの音ばかりトンケンコン、トンケンコンと残る。亭主はちょっと考えしが
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
また二階借りから、一けんの所帯へとびて行く、——それはまるで、果てしのない沙漠さばくへでも出発するかのように私をひどく不安がらせた。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
勿論もちろん飛騨越ひだごゑめいつたには、七に一けんに五けんといふ相場さうば其処そこあはめしにありつけば都合つがふじやうはうといふことになつてります。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「あ、そんなら、きっとお客さんの口にあうおいしい料理を作る家へご案内しましょう。それはヒマワリけんといって、僕の姉の家なんです」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こんな看板かんばんけたうちが一けんしかないほどたうげちいさなむらでした。そこに人達ひとたちはいづれもやまうへたがやすお百姓ひやくしやうばかりでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
けんにて住居ぢうきよなし此近邊このきんぺん大身代おほしんだいなり主は入聟いりむこにてしやう三郎と云今年ことし六十さいつまは此家のむすめにて名をおつねび四十さいなれども生得しやうとく派手はでなる事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
やがて人通りの餘りない、片側に工場の黒いた塀がつゞき、片側は畑を間にさしはさんで住宅じうたくが數けんならんでゐる、町で一番長い坂道の上に出た。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
もなく小六ころくかへつてて、醫者いしや丁度ちやうど徃診わうしん出掛でかけるところであつた、わけはなしたら、ではいまから一二けんつてすぐかうとこたへた、とげた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
門徒寺もんとでらつても檀家だんかが一けんあるでい、西本願寺派にしほんぐわんじは別院並べつゐんなみで、京都の岡崎にあるから普通には岡崎御坊で通つて居る。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
王子は、かりをしているうち、森の中で道にまよって、一けんの炭焼小屋にとまって、チーズや黒パンをたべさせてもらったことなどを話しました。
眠る森のお姫さま (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
そのとき天皇は、山の上から四方の村々をお見わたしになりますと、向こうの方に、一けん、むねにかつお木をとりつけているうちがありました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「でまかせをこけ。この村には、ここともう一けん鍛冶屋かじやよりほかに人はいやしない。そんなことは承知しょうちのうえで、柿泥棒かきどろぼうにきやがったくせにして」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところがちょうど十二日の晩ですがそこに居る四、五けんの遊牧民が私に請うて説教せっきょうをしてくれということがあった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ただうみに一そう漁船ぎょせんもなく、またおかに一けん人家じんかえないのが現世げんせちがっているてんで、それがめになにやら全体ぜんたい景色けしき夢幻ゆめまぼろしちかかんじをあたえました。
新世界に二けん、千日前に一軒、道頓堀に中座の向いと、相合橋東詰にそれぞれ一軒ずつある都合五軒の出雲屋の中でまむしのうまいのは相合橋東詰のやつ
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
火の見の立っている町の四つ角の、いちじくの葉が黒いかげをおとしているところに、一けん鍛冶屋かじやがあります。ここに新吉しんきちという十一になる丁稚でっちがいます。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
そんな角度から見た一けんの花屋の屋根とその花畑を、彼女は或る日から五十号のカンバスにえがき出した……。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
頭腦あたまなか此樣こんことにこしらへて一けんごとの格子かうし烟草たばこ無理むりどり鼻紙はながみ無心むしんちつたれつれを一ほまれ心得こゝろゑれば、堅氣かたぎいゑ相續息子そうぞくむすこ地廻ぢまわりと改名かいめいして
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お前はこうまんな、いばったこどもらが住んでいる家を一けん、一軒と踊りまわらねばならん。
車がとまると、小林君と緑ちゃんとは、ふたりのインド人のために、有無うむをいわせず、客席から引きだされて、そこに建っていた一けんの小さい洋館の中へつれこまれました。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
きっさてんや、カフェーや、マージャンクラブなどがのきなみにならんでいて、少年しょうねんは、その中のオリオンけんというミルクホールにはたらいていた。少年しょうねんの名は、いのきちといった。
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
下谷したや谷中やなかかたほとり、笠森稲荷かさもりいなり境内けいだいに、行燈あんどんけた十一けん水茶屋娘みずちゃやむすめが、三十余人よにんたばになろうが、縹緻きりょうはおろか、まゆ一つおよものがないという、当時とうじ鈴木春信すずきはるのぶが一枚刷まいずり錦絵にしきえから
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
軌道レール直角ちよくかく細長ほそなが茅葺くさぶき農家のうかが一けんあるうらやまはたけつゞいてるらしい。いへまへ廣庭ひろにはむぎなどをところだらう、廣庭ひろにはきあたりに物置ものおきらしい屋根やねひく茅屋くさやがある。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
二十けんぐらいもそうやってどなって歩いたら、自分の家からずいぶん遠くに来てしまっていた。すこし気味が悪くなってぼくは立ちどまってしまった。そしてもう一度家の方を見た。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
どこからかそら豆をゆでる青いにおいがした。古風な紅白の棒の看板を立てた理髪店りはつてんがある。妖艶ようえんやなぎが地上にとどくまで枝垂しだれている。それから五六けん置いてさびちた洋館作りの写真館が在る。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼が一けんの家をじっと見ている中に、その家は、彼の眼と頭の中で、木材と石と煉瓦れんが漆喰しっくいとの意味もない集合に化けてしまう。これがどうして人間の住む所でなければならぬか、判らなくなる。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しなは二三けんそつちこつちとあるいててからとなりもんくゞつたのであつた。傭人やとひにん大釜おほがましたにぽつぽといてあたつてる。風呂ふろからても彼等かれらゆだつたやうなあかもゝしてそばつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一夜北国にありて月明に乗じ独り郊外を散歩し、一けん立ての藁家わらやの前を通過せんとした。ふと隙漏すきまもる光に屋内をうかがうと、を囲める親子四、五人、一言だもかわさずぼんやりとしてあんむさぼっていた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
おつしやられてはじつに胸が一ぱいになります……お菓子かなにかあるだらう……賓客きやくたしてつてしまつたか……困つたなア……なにかないかなア……ンー一けんおいて隣家となり大仏餅だいぶつもちでも
あるくさに包まれたをかの上に、私達わたしたちは一けんの家をつけ出した。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
十九けんの八幡山でも、各自に自家うちの祭をせねば気がまぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
けんしゆわりもつて配つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そこには小さな家が一けんたっていて、おかみさんは戸口のベンチにこしかけていました。おかみさんは漁師りょうしの手をとって、いいました。
このむらに、一けん金持かねもちがんでいました。そのうちはすぎのや、いろくろずんだ、かしのなどでかこまれていました。
女の魚売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこ此処こゝに二三けん今戸焼いまどやきを売る店にわづかな特徴を見るばかり、何処いづこ場末ばすゑにもよくあるやうな低い人家じんかつゞきの横町よこちやうである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
また彼方此方あつちこち五六けん立場茶屋たてばぢややもござりますが、うつくしい貴女あなたさま、たつた一人ひとりあづけまして、安心あんしんなは、ほかにござりませぬ。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とうさんのおうちんでくのもあれば、おとなり大黒屋だいこくやんでくのもあれば、そのまた一けんいておとなり八幡屋やはたやはうんでくのもあります。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
七、八けんさきの横町よこちょうから、地蔵行者じぞうぎょうじゃ菊村宮内きくむらくないが、れいの地蔵尊じぞうそん笈摺おいずる背負せおって、こっちへ向かってくるのが見える。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのばん宇治うじちかくで日がれました。若者わかものはゆうべのようにまたぬのたんして、一けんいえめてもらいました。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ニールス・ホルゲルッソンがガンたちといっしょに旅をしていたときは、そこには一けんの小屋があって、そのまわりの土地は、すこしたがやされていました。
魚勝うをかつ肴屋さかなやまへとほして、その五六軒先けんさき露次ろじとも横丁よこちやうともかないところまがると、あたりがたかがけで、その左右さいうに四五けんおなかまへ貸家かしやならんでゐる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
順に廻り今日はよき天氣てんきとか又はわるい風とか御寒おさむいとか御暑おあついとか云てまだくづはたまりませんかと一けんづつ聞て歩行あるくが宜しからん其の中には心安くなり人にもかほ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのかわりしゅっこは、そこら中を、一けんごとにさそって歩いて、いいことをして見せるからあつまれとって、まるで小さなこどもらまで、たくさんあつめた。
さいかち淵 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)