しめ)” の例文
新字:湿
りたてのかべ狹苦せまくるしい小屋こや内側うちがはしめつぽくかつくらくした。かべつち段々だん/\かわくのが待遠まちどほ卯平うへい毎日まいにちゆかうへむしろすわつてたいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さかうへ煙草屋たばこやにて北八きたはちたしところのパイレートをあがなふ。勿論もちろん身錢みぜになり。舶來はくらい煙草たばこ此邊このへんにはいまれあり。たゞしめつてあじはひならず。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「北側はしめり土で、猫の子が歩いても足跡のつくところですが、何んにもありませんよ。窓の外も桐の下も、めたやうに綺麗だ」
吾々われ/\覺醒かくせいせりとさけぶひまに、私達はなほ暗の中をわが生命いのちかわきのために、いづみちかしめりをさぐるおろかさをりかへすのでした。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
そこには舊い昔難破した商船から拾ひ上げた阿蘭陀附木おらんだつけぎ(マツチのこと、柳河語)の大きな凾がしめりに濕つたまま投げ出されてあつた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
二人は、裏畑の中の材木小屋に入つて、積み重ねた角材にもたれ乍ら、雨にしめつた新しい木の香を嗅いで、小一時間許りも密々ひそ/\語つてゐた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
澁紙の袋を引き出して塵をはたいて中をしらべると、畫は元の儘しめつぽく四折よつをりに疊んであつた。畫の外に、無いと思つた子規の手紙も幾通か出て來た。
子規の画 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
またしめつた粘土ねんどそばかれると、かたくなることをつたといふことなどが發見はつけんいとぐちとなつたかと想像そう/″\せられます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
聞お光破談はだんの事の原因はやう/\わかりし物ながらいかりに堪ぬは家主が其奸計かんけい口惜くちをしき如何はせんと計りにて涙にくるる女氣の袖をしめらせゐたりしがやゝつて顏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しめつた夜氣にまたたいてゐるこのあかりは、ゐ据わつてるのだらうが、動くやうにも見える。見つめてゐると、また大きくなつたり、小さくなつたりするやうだ。
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
がけうへ觀音樣くわんのんさまには茶店ちやみせがありました。密柑みかんやたまご 、駄菓子だぐわしなんどをならべて、參詣者おまへりびと咽喉のど澁茶しぶちやしめさせてゐたそのおばあさんは、苦勞くらうしぬいてひとでした。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
地上の變異すべて地氣より生ず、此氣のしめれるもの雨、雪、雹、露、霜となり、その乾けるもの風を起し乾きて強きもの地震を起すと(地、三三・一〇三—五註參照)
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
しめつぽい夜更けの風の氣持好く吹いて來る暗い濠端を、客の少い電車が、はやい速力で駛つた。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
アルビオンの温和の氣候がつくつたものゝ中でも嘗てない美しい眼鼻立めはなだち、そのしめつた風と水氣すゐきを含んだ空が生み蔽うたものゝ中でも嘗てないきよらかな薔薇と、百合花の色が
まるで酒場さかばひどれのやうな兵士へいし集團しふだんしめつた路上ろじやうおもくつりながら、革具かはぐをぎゆつぎゆつきしらせながら劍鞘けんざやたがひにかちあはせながら、折折をりをり寢言ねごとのやうなうなごゑてながら
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
雪でしめつてゐるかもしれないが、兎も角もこれだけ置いて行きませうよ。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
幼馴染おさなゝじみつま美尾みをといふがらにあはせて高品かうひんうつくしきそのとし十七ばかりなりしをてんにもにも二つなきものさゝちて、役處やくしよがへりのたけかはひとにはしたゝれるほどしめつぽき姿すがた後指うしろゆびさゝれながら
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夜來やらいあめはあがつたが、空氣くうきしめつて、そらにはくもたゞよふてた。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
しつとりとしめつた悲嘆なげきが私の影法師を深く迷はしてゆく
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
にめざめ、しめりに吹呿あく
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
しめれるさをを手にすれど
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
上には親類の年寄が二三人と、嫁のお清が、まだ入棺にふくわんも濟まぬ死骸の前に、しめつぽく坐つて引つ切りなしに線香を上げて居るのでした。
けた少時しばし竹藪たけやぶとほしてしめつたつちけて、それから井戸ゐどかこんだ井桁ゐげたのぞんで陰氣いんきしげつた山梔子くちなしはな際立はきだつてしろくした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もりしたこみちけば、つちれ、落葉おちばしめれり。白張しらはり提灯ちやうちんに、うす日影ひかげさすも物淋ものさびし。こけし、しきみれたるはかに、もんのみいかめしきもはかなしや。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かれつめたいかぜとほ土藏どざう戸前とまへしめつぽいいしうへこしけて、ふるくからいへにあつた江戸名所圖會えどめいしよづゑ江戸砂子えどすなごといふほん物珍ものめづらしさうにながめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しめつた土にれる下駄の、音が取留めもなくもつれて、疲れた頭が直ぐ朦々もう/\となる。霎時しばしは皆無言で足を運んだ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
第二十七圖だいにじゆうしちず)なほイタリイのきたほうなどでは、みづはなくてもひくしめつぽいところに、湖上住居こじようじゆうきよおなじようなくひをたて、そのうへ小屋こやつくつてんでゐた人間にんげん
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
いふことが此世の餘波なごりなみだしめ枕邊まくらべは雨にみだれし糸萩いとはぎながれにしづむばかりなり然ば男乍をとこながらも吉兵衞は狂氣きやうきの如くなげきつゝかくまで妻のかほやせて昔にかはあはれさよとおつる涙を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私はまたいろいろの小さなびいどろ罎に薄荷や肉桂水を入れて吸つてあるいた。またい液は白紙に垂らし、柔かに揉んでしめした上その端々はしばしを小さく引き裂いては唇にあてた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
すんほどにのびた院内ゐんない若草わかぐさが、下駄げたやはらかくれて、つちしめりがしつとりとうるほひをつてゐる。かすかなかぜきつけられて、あめいとはさわ/\とかさち、にぎつたうるほす。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
しかし私の夜はみじめで、私のいこひは破られた。地上はしめつぽく空氣はつめたかつた。その上、闖入者ちんにふしやが一度ならず私の直ぐ傍を通つて行くので、私は幾度も場所を變へねばならなかつた。
しめりて濃き水氣の薄らぎはじむるころ、日の光微かにその中に入り來るを 四—六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
はなのしづくにしめすまに
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
親類や、近所の衆がそれを遠卷にして、内儀のお紺はしめつぽく佛の飾りの世話を燒き、お夏は心配さうに縁側から覗いてをります。
すべてからしめつたぬのかざしたやうにつた水蒸氣すゐじようき見渡みわたかぎしろくほか/\とのぼつてひくく一たいおほふことがあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かように大切たいせつ土器どきたれがどこで發明はつめいしたかといふことは容易よういにわからぬのでありますが、最初さいしよ粘土ねんどみづしめされるとやはらかくなり、おもかたちつくられることがられ
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
もとより以前いぜんから、友造ともざういへは、土地とちでも、場末ばすゑの、まちはづれの、もと足輕町あしがるまちやぶ長屋ながやに、家族かぞく大勢おほぜいで、かびた、しめつた、じと/\したまづしいくらしでたのであるから
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うつし繪のおもてしめつた仄かな油のひほひはまた新らしい七歳の夏を印象せしめる。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ある日回診の番が隣へ廻つてきたとき、何時いつもよりは大分だいぶ手間が掛ると思つてゐると、やがて低い話し聲が聞え出した。それが二三人で持ち合つて中々捗取はかどらないやうなしめを帶びてゐた。
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
せめ自然しぜんと知せる天下の大法たいはふはやき身とまで覺悟かくごせしおみつ親子は不測ふしぎに助り然のみならずこひしと言をとこもとえんづくやう再度ふたゝびむす赤繩せきじよう有難泪ありがたなみだ白洲しらすなるすなしめらす其よろこびお勝ははじめて庄兵衞のわるきを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「それで宜しい。では藥瓶の口をしめして下さい。」
何故なぜ色音いろねしめるや。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
井戸端に流れた血潮は洗ひ清めた所で、土が少ししめつて居りますが、そんなのは平次の探索に何んの役にも立たなかつたのです。
板圍いたがこひをして、よこながい、屋根やねひくい、しめつたくらなかで、はたらいてるので、三にん石屋いしやひとしく南屋みなみややとはれてるのだけれども、渠等かれら與吉よきちのやうなのではない、大工だいく一所いつしよ
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
宗助そうすけ電車でんしや終點しゆうてんまでて、運轉手うんてんしゆ切符きつぷわたしたときには、もうそらいろひかりうしなひかけて、しめつた徃來わうらいに、くらかげつのころであつた。りやうとして、てつはしらにぎつたら、きふさむ心持こゝろもちがした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
匂だちしめらふ雲の影見れば小夜ふけと月もふけてぎなむ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
三芳屋は殺された主人彦兵衞の初七日で、打ちしめつたうちにも、何んとなく賑やかに、近所の衆や親類達の顏も見えて居ります。
四谷よつやつけの二夜ふたよ露宿ろじゆくからかへつたばかり……三日みつか午後ごご大雨おほあめに、ほねまでぐしよれにつて、やがてかへたのち冷々ひえ/″\しめつぽい、しよぼけた身體からだを、ぐつたりとよこにして
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この空のしめりにあかる日の在處ありど梢はすでにあかみ張りたる
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
平次も八五郎も悉く充ち足りた心持で、醉顏をしめつぽい夜風に吹かせ乍ら、兩國橋の上にかゝると、丁度金龍山の亥刻よつ(十時)の鐘が鳴ります。