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運轉手
私は、
實は
震災のあと、
永代橋を
渡つたのは、その
日がはじめてだつたのである。
二人の
風恰好亦如件……で、
運轉手が
前途を
案じてくれたのに
無理はない。
『
軍艦にしても、あんなに
速い
船脚は
新式巡洋艦か、
水雷驅逐艦の
他はあるまい。』と二
等運轉手、
非番舵手、
水夫、
火夫、
船丁に
至るまで、
互に
眼と
眼を
見合せつゝ
口々に
罵り
騷いで
居る。
宗助が
電車の
終點迄來て、
運轉手に
切符を
渡した
時には、もう
空の
色が
光を
失ひかけて、
濕つた
徃來に、
暗い
影が
射し
募る
頃であつた。
降りやうとして、
鐵の
柱を
握つたら、
急に
寒い
心持がした。