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うんてんしゆ
宗助が
電車の
終點迄來て、
運轉手に
切符を
渡した
時には、もう
空の
色が
光を
失ひかけて、
濕つた
徃來に、
暗い
影が
射し
募る
頃であつた。
降りやうとして、
鐵の
柱を
握つたら、
急に
寒い
心持がした。
從つて、
其の
頃の
巷談には、
車夫の
色男が
澤山あつた。
一寸岡惚をされることは、やがて
田舍まはりの
賣藥行商、
後に
自動車の
運轉手に
讓らない。
立志美談車夫の
何とかがざらにあつた。
「
昨日一昨日と三
日続けて
鳴つたですで、まんづ、
今日は
大丈夫でがせうかな。」一
行五
人と、
運転手、
助手を
合はせて八
人犇と
揉んで
乗つた、
真中に
小さくなつた
英雄は、
面倒くさい
座席になど
片づくのでない。
自動車も
免許取だから、
運転手台へ、ポイと
飛び
上ると、「
急げ。」——
背中を一つ
引撲く
勢ひだから、いや、
運転手の
飛ばした
事。