“聞(きこ)” の例文
夜(よる)は大分(だいぶん)更(ふ)けてゐた。「遼陽城頭(れうやうじやうとう)夜(よ)は更(ふ)けて‥‥」と、さつきまで先登(せんとう)の一大隊(だいたい)の方(はう)で聞(きこ)えてゐた軍歌(ぐんか)の聲(こゑ)ももう途絶(とだ)えてしまつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
小波(さざなみ)の上を吹く風の音さえ聞(きこ)えそうに静かな海だった。夜になると、この辺の船は、洋灯をつけていたが、いまもそうなのだろうか。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
すると、椽側に近(ちか)く、ぴしやりと脛(すね)を叩(たゝ)く音(おと)がした。それから、人(ひと)が立つて、奥(おく)へ這入つて行く気色(けしき)であつた。やがて話声(はなしごえ)が聞(きこ)えた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それだのに、私(わたし)の家(いへ)までは聞(きこ)えない。——でんこでんこの遊(あそ)びではないが、一町(いつちやう)ほど遠(とほ)い遠(とほ)うい——角邸(かどやしき)から響(ひゞ)かないのは無論(むろん)である。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
空は爽(さはやか)に晴渡(はれわた)ツて、星が、何かの眼のやうに、ちろり、ちろり瞬(またたき)をしてをる。もう村の若衆等(わかいしゆたち)が、夜遊(よあそび)の歸途(かへり)の放歌(うた)すら聞(きこ)えない。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
すると遠(とほ)くの方(はう)でパタ/\と小(ちひ)さな跫音(あしおと)のするのが聞(きこ)えました、愛(あい)ちやんは急(いそ)いで眼(め)を拭(ふ)いて何(なに)か來(き)たのだらうかと見(み)てゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
此ふたりは世に名をひゞかせたれど今はなき人なり。我は幸に世にありて名もまた頗(すこぶ)る聞(きこ)えたり(中略)今日小川破笠老(はりつらう)まゐらる。
もう一度(ど)おせんは奥(おく)へ向(むか)って、由斎(ゆうさい)を呼(よ)んで見(み)た。が、聞(きこ)えるものは、わずかに樋(とい)を伝(つた)わって落(お)ちる、雨垂(あまだ)れの音(おと)ばかりであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その耳(みゝ)の許(もと)では、『女(をんな)の手(て)一つで』とか、『よくまああれだけにしあげたものだ』とかいふやうな、微(かす)かな聲々(こゑ/″\)が聞(きこ)えるやうでもあつた。
悔 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
怪(あや)しや三郎(らう)の便(たよ)りふつと聞(きこ)えず成(な)りぬ待(ま)つには一日(ひとひ)も侘(わび)しきを不審(いぶか)しかりし返事(へんじ)の後(のち)今日(けふ)や來給(きたま)ふ明日(あす)こそはと空(そら)だのめなる日(ひ)を
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
山(やま)が夏(なつ)らしくなると、鈴(すゞ)の音(おと)が聞(きこ)えるやうに成(な)ります。御嶽山(おんたけさん)に登(のぼ)らうとする人達(ひとたち)が幾組(いくくみ)となく父さんのお家(うち)の前(まへ)を通(とほ)るのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
折々聞(きこ)ゆるは河鹿(かじか)の啼声(なきごえ)ばかり、只今では道路(みち)がこう西の山根から致しまして、下路(したみち)の方の川岸(かし)へ附きましたから五六町で往(い)かれますが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「壁を撤(てつ)した生活」と云ふ詩には巴里(パリイ)の夜の街のどの家の壁も作者の前に無くなつて各人の心持が大音楽の様に聞(きこ)える光景を歌つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
向ひのおてるさんが待つて居たやうににこやかに目礼した。道の人通りが多いので常(つね)のやうに物を云つても聞(きこ)えさうではない。
住吉祭 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
と、すぐそばで冷(ひ)やかすような笑(わら)い声(ごえ)が聞(きこ)えた。悪(あく)たれで通(とお)っているドゥチコフのいやな声だ。シューラは思(おも)いがけなさにぴくっとなった。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
(李中行と高田圭吉が卓の前に向い合っている。卓の上には小さいランプが置いてある。薄く雨の音、虫の声さびしく聞(きこ)ゆ。)
青蛙神 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
名前が分って居るなら先ず其名前を聞(きこ)う(大)素(もと)より名前を言(いい)ますが夫より前に私(わた)しの発見した手続きを申ます、けどが長官
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
山中(さんちゆう)といふ題(だい)です。山中(さんちゆう)目(め)に見(み)、耳(みゝ)に聞(きこ)えるものを五(いつ)とほり竝(なら)べて、そしてもの靜(しづ)かな山(やま)の樣子(ようす)を考(かんが)へさせようとしたのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
拙作に対する質問に答えんは弁護がましく聞(きこ)えて心苦しき限りながら議論は議論にて巧拙の評にあらねば愚意試(こころみ)に可申述(もうしのぶべく)候。
あきまろに答ふ (新字新仮名) / 正岡子規(著)
先生の御作によりてこの年月いかばかり心なぐさみしかを聞(きこ)えあぐる機會のあらば嬉しからんと十年(ととせ)に過ぎて思ひて變らず
という風な話がちょいちょい聞(きこ)えて来る。こういう議論は勿論本当過ぎるくらい本当のことで、何も議論になるような問題ではないのである。
語呂の論理 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
おぢさん「は〻あ、可憐(かあい)いものだなあ。動物園(どうぶつゑん)の中(なか)でも夜(よる)なんか熊(くま)が一番(いちばん)よく眠(ねむ)るつてね、嚊声(いびきごゑ)が不忍池(しのばずのいけ)まで聞(きこ)へるつてさ」
おつぎの白(しろ)い手拭(てぬぐひ)が段々(だん/\)麥(むぎ)の穗(ほ)に隱(かく)れると與吉(よきち)は姉(ねえ)ようと喚(よ)ぶ。おつぎはおういと返辭(へんじ)をする。おつぎの聲(こゑ)が聞(きこ)えると與吉(よきち)は凝然(ぢつ)として居(ゐ)る。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
夜更(よふ)けて四辺(あたり)静(しずか)なれば大原家にて人のゴタゴタ語り合う声幽(かすか)に聞(きこ)ゆ。お登和嬢その声に引かされて思わず門の外へ出(い)でたり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
傷口(きずぐち)も乾(かわ)いて居(を)つたやうでございます。おまけに其處(そこ)には、馬蠅(うまばへ)が一匹(ぴき)、わたしの足音(あしおと)も聞(きこ)えないやうに、べつたり食(く)ひついて居(を)りましたつけ。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
二人(ふたり)は、子供(こども)を抱(だ)いて明(あか)るい通(とほ)りから折(を)れて、暗(くら)い道(みち)を歩(ある)いた。暗(くらい)い所(ところ)に來(き)ても、銀座(ぎんざ)の明(あか)るみを歩(ある)く人(ひと)の足音(あしおと)は聞(きこ)えた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
見物人(けんぶつにん)から、なんとののしられても、さも聞(きこ)こえぬようなふうをして、すすきの中(なか)に隠(かく)れて、おとりのすずめを鳴(な)かすのに、苦心(くしん)していました。
すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
返事は聞(きこ)えなかつたが、次(つぎ)の間(ま)に包(つゝみ)を投出(なげだ)す音がして、直様(すぐさま)長吉(ちやうきち)は温順(おとな)しさうな弱さうな色の白い顔を襖(ふすま)の間(あひだ)から見せた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
帝(みかど)は、天(てん)に一番(いちばん)近(ちか)い山(やま)は駿河(するが)の國(くに)にあると聞(きこ)し召(め)して、使(つか)ひの役人(やくにん)をその山(やま)に登(のぼ)らせて、不死(ふし)の藥(くすり)を焚(た)かしめられました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
するとそこで院長(いんちょう)は六号室(ごうしつ)であると聞(き)き、庭(にわ)から直(すぐ)に別室(べっしつ)に入(い)り、玄関(げんかん)の間(ま)に立留(たちとどま)ると、丁度(ちょうど)こう云(い)う話声(はなしごえ)が聞(きこ)えたので。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ヂュリ おゝ、運命神(うんめい)よ、運命神(うんめい)よ! 皆(みな)が汝(そち)を浮氣者(うはきもの)ぢゃといふ。いかに汝(そち)が浮氣(うはき)であらうと、世(よ)に聞(きこ)えた堅實(かたぎ)な人(ひと)を何(なん)とすることも出來(でき)まい。
またかと、うるそう聞(きこ)し召すやも知れませぬが、御先祖のことは、念仏申すよう、明けても暮れても、飯を噛(は)むまも、お忘れあってはなりませぬ。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜が更(ふ)けるにつれ、夜伽(よとぎ)の人々も、寝気(ねむけ)を催(もよお)したものか、鉦(かね)の音も漸々(ようよう)に、遠く消えて行くように、折々(おりおり)一人二人の叩くのが聞(きこ)えるばかりになった。
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
十二番(ばん)の岩間寺(いはまでら)へ越(こ)す巡礼の者であらう、睡(ねむ)いやうな御咏歌(ごえいか)の節(ふし)が山越(やまごし)に響いて、それもつい聞(きこ)えなくなつて了つた。
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
打まもり夫は又聞(きこ)えぬ仰(おほせ)ぞや御前に別れて外々(ほか/\)へ縁付(えんづく)やうな私ぢやない氣の弱(よわ)い事を云ず共コレ父樣(とゝさま)何卒(どうぞ)九助が命乞(いのちごひ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其晩(そのばん)は湿(しめ)やかな春雨(はるさめ)が降(ふ)つてゐた。近所隣(きんじよとなり)は闃(ひつそ)として、樋(ひ)を洩(も)れる細(ほそ)い雨滴(あまだれ)の音(おと)ばかりがメロヂカルに聞(きこ)える。が、部屋(へや)には可恐(おそろ)しい影(かげ)が潜(ひそ)んでゐた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「わがザックセンに日本の公使置かれむをりは、いまの好(よしみ)にて、おん身の来(こ)むを待たむ、」など懇(ねもごろ)に聞(きこ)えさせ玉ふ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それから五年(ねん)の星霜(せいさう)は※去(すぎさ)つたが、未(ま)だ彼(かれ)の消息(せうそく)は少(すこ)しも聞(きこ)えません、其間(そのあひだ)、私(わたくし)は一日(いちにち)でも彼(かれ)の健康(けんこう)と、彼(かれ)の大事業(だいじげふ)の成功(せいこう)とを祈(いの)らぬ時(とき)はないのです。
遠からず父上母上を迎へ取り、膝下(しつか)に奉仕(ほうじ)することとなすべきなど語り聞(きこ)えて東京に帰り、先づ愛児の健(すこや)かなる顔を見て、始めて十数日来(すうにちらい)の憂(う)さを霽(はら)しぬ。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
一日例のごとく聞(きこ)し召し過ぎ、例の打擲(ちょうちゃく)がうるさいから檻(おり)の戸を開けて六脚の豕を出してその跡に治まり返る。
この時、遠くアンジアンの方面から大勢の靴音が聞(きこ)え、それが次第に近づいて来る……疑いもなく警官の一隊だ……ルパンは激しく一声ピッと口笛を吹いた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
こんなことばも聞(きこ)えました。そのうちにたうたう一疋(ぴき)が、いかにも決心(けつしん)したらしく、せなかをまつすぐにして環(わ)からはなれて、まんなかの方(はう)に進(すゝ)み出(で)ました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
巴里のレストラントを一軒一軒食べ歩くなら、半生かかっても全部廻(まわ)れないと人は云っている。いくらか誇張(こちょう)的な言葉かとも聞(きこ)えるが、或(あるい)は本当かも知(し)れない。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「豊、豊!」と老婢を呼ぶ声劇(はげし)く縁続(えんつづき)の子亭(はなれ)より聞(きこ)ゆれば、直(ぢき)に走り行く足音の響きしが、やがて返し来(きた)れる老婢は客間に顕(あらは)れぬ。宮は未だ頭(かしら)を挙げずゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
悲鳴するような叫喚(さけび)が、山に反響して雑然(ざわざわ)と如何(いか)にも物凄く聞(きこ)えてくるので、乗客は恐ろしさに堪(た)えず、皆その窓を閉切(しめき)って、震えながらに通ったとの事である。
大叫喚 (新字新仮名) / 岩村透(著)
風光明媚(ふうこうめいび)で聞(きこ)えた島原に一夜の宿を求めることも、目的の一つではあったが、島原から行くことが便利であるところの「普賢新焼(ふけんしんやけ)」の熔岩流を見るためであった。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
佐渡院(順徳院)が撰集の沙汰(さた)を聞(きこ)し召された由だが、もし御製を載せ奉るなら、一存にせず、必ず相談せよと某有力者から仰せを蒙ったことも日記へ書いている。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
以前は朝家が万民にかわって、まず初穂を聞(きこ)しめすのが嘗の本義であったことは、いわゆる案上案下の幣帛が中央の祭の日をもって発遣せられたのを見てもわかる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「冗談(じょうだん)じやないぜ。それじやまるで、ぼくが刈谷(かりや)を、殺(ころ)してやつたというふうに聞(きこ)えるじやないか」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
泣(な)いたのと暴(あば)れたので幾干(いくら)か胸(むね)がすくと共(とも)に、次第(しだい)に疲(つか)れて來(き)たので、いつか其處(そこ)に臥(ね)てしまひ、自分(じぶん)は蒼々(さう/\)たる大空(おほぞら)を見上(みあ)げて居(ゐ)ると、川瀬(かはせ)の音(おと)が淙々(そう/\)として聞(きこ)える。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)