ねむ)” の例文
ことわるのもめんどうとおもって、ににぎっていた財布さいふを、きゅうにむしろのしたかくして、をつぶってねむったふりをしていたのであります。
善いことをした喜び (新字新仮名) / 小川未明(著)
午前四時にのりこんだ船の中ではだれもねむろうとする者はなく、がやがやのさわぎの中で、「こんぴらふねふね」を歌うものもいた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ぼくはうんがよかったよ。こん夜はめてもらいたいね。ひさしぶりにゆっくりねむりたいんだ。ベッドをでよごしてすまなかったね。
御米およねはさも心地好こゝちよささうにねむつてゐた。ついこのあひだまでは、自分じぶんはうられて、御米およね幾晩いくばん睡眠すゐみん不足ふそくなやまされたのであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
片足かたあしは、みづ落口おちくちからめて、あしのそよぐがごとく、片足かたあしさぎねむつたやうにえる。……せきかみみづ一際ひときはあをんでしづかである。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「さうだ、まつたすね。わるくすると、明日あしたあめだぜ‥‥」と、わたしざまこたへた。河野かうのねむさうなやみなかにチラリとひかつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ぽんの大きな木の、うつろになった中にはいって、いぬどもを木のまわりにあつめて、たくさんたきをして、そのばんねむることにしました。
忠義な犬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
顏色かほいろ蒼白あをじろく、姿すがたせて、初中終しよつちゆう風邪かぜやすい、少食せうしよく落々おち/\ねむられぬたち、一ぱいさけにもまはり、往々まゝヒステリーがおこるのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
中では、美しい花嫁が、王子の胸に頭をもたせてねむっています。お姫さまは身をかがめて、王子の美しいひたいにキスをしました。
黒い枕木まくらぎはみなねむり、赤の三角さんかくや黄色の点々、さまざまのゆめを見ている時、若いあわれなシグナルはほっと小さなためいきをつきました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
諸君しよくん御經驗ごけいけんであらうが此樣こんときにはとてもねむられるものではない、いらだてばいらだほどまなこえてむねにはさま/″\の妄想もうざう往來わうらいする。
芋蟲いもむしあいちやんとはたがひしばらだまつてにらめをしてましたが、つひ芋蟲いもむし其口そのくちから煙管きせるはなして、したッたるいやうなねむさうなこゑ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
何もかも、しんと静まり返って、うちの犬までが、木戸のそばに丸くなってねむっていた。わたしは、温室のくずれ残りによじ登った。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
王子は一人で空想くうそうにふけりながら、大空をながめてるうちに、いつか、うっとりした気持きもちになって、うつらうつらねむりかけました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
毎日まいにちる、ひと毎日まいにちはたらけ。さうすれば毎晩まいばんやすらかにねむられる、さうすれば、其翌日そのよくじつまたあたらしいをがむことが出來できる。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
時々、番頭だの手代だのが、ねむそうな顔つきをして、昨夜ゆうべは持てたの振られたのと、こそ/\話をやって居るのを聞く事がある。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まないのは、おまえさんよりこっちのこと、折角せっかくねむいところを、早起はやおきをさせて、わざわざてもらいながら、肝腎かんじんのおせんが。——」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ニールスはねむれませんでしたので、このブレーキンゲで、海と陸とがいっしょになってつくりだしている美しい景色をながめていました。
しかしいつのにかひととほくよりるやうにつた。ちが女房等にようばうらひたひママれてねむつて痛々敷いた/\しいおもふのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そうしているうちに二人は、だんだんとねむくなって来ました。長い間あんまりひどい寒さにあっていると、だれでも眠くなるものなのです。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
あとかみさまからうかがえば、わたくしはそれから十ねんちかくもねむっていたとのことで、自分じぶんながらわが腑甲斐ふがいなさにあきれたことでございました……。
さればこそ沙翁さおうの悲劇『ハムレット』にも、「死ぬるはねむるなり、眠るはことやすけれど、眠る間に夢という恐ろしきものあるなれば云々うんぬん
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
千穂子は今は一日が長くて、住みづらかった。しゅうとめぜんをつくっておくへ持って行くと、姑のまつは薄目うすめを明けたままねむっていた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
おぢさん「は〻あ、可憐かあいいものだなあ。動物園どうぶつゑんなかでもよるなんかくま一番いちばんよくねむるつてね、嚊声いびきごゑ不忍池しのばずのいけまできこへるつてさ」
糟谷かすやはこう考えながら、自分には子どもがふたりあるということをつよく感じて、心持ちよくねむっている妻子さいしをかえりみた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
次第にれて来て、しまいには夜中看護婦がねむっている間一代のうめき声を聴くと、寺田は見よう見真似みまねの針を一代の腕に打ってやるのだった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
富「いやもう大きに疲れました、ハアーどうも夜られんでな、大きに疲れました、ねむれんと云うのは誠にいかんものだ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
陣中を大声でどなり、ねむっている者を起こして歩いて、うまやにかけもどるなり、朝月の平首ひらくびへかじりつくようにして
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
「ひどくねむがつてゐて、又すぐに寐てしまひましたから、何にも知らないらしいのです。それにしても、骸骨がいこつが映るなんて一体どうしたんでせう。」
要吉は、夢の中で、そういいながら、ごろんとひとつがえりをうつと、昼間ひるまのつかれで、今度は夢もなんにも見ない、深いねむりにおちていきました。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
なかで、胸毛むなげにふかくくびをうづめた母燕おやつばめねむるでもなくをつぶつてじつとしてゐるとひなの一つがたづねました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「この頃はお友達の詩人の藤村ふじむら女史に来て貰って、バロック時代の服飾ふくしょくの研究を始めた」とか「日本のバロック時代の天才彫刻家左甚五郎じんごろう作のねむねこを ...
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこには、深海の闇に自ら光を放つ盲魚共のように、彼の過去の世の経験の数々が音もなくねむっているのである。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
両方とも、ねむれない。にんじんは、寝返りを打つ。息がつまる。空気をさがす。じいさんは、それが可哀かわいそうなのだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
十二日には、主人の出社を待って、暇乞いとまごいして店を出で、麻布の伯父の家をうて二階に上り、一時間半程ねむった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あたたかい寝床の中で、うつらうつらと、できるだけねむりを引きのばすことを、人間の誠意以上に、たいせつにする心、これは決して深い心だとはいえまい。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
つがせ其身はたゞ明暮あけくれ念佛ねんぶつの門に入て名號みやうがうとなふるほか他事たじなかりしとぞ依て追々おひ/\佛果ぶつくわを得富右衞門は長命ちやうめいにてつひに年齡八十一歳に至りねむるが如く大往生だいわうじやうを遂げしとぞ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
天皇は二人がそんなおそろしいたくらみをしているとはご存じないものですから、ある晩、なんのお気もなく、皇后のおひざをまくらにしておねむりになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
前夜、ねむられぬ頭は重く、はてしないみどりの芝生しばふに、初夏の燦然さんぜんたる風景も、眼に痛いおもいでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
すると、やが慄然ぞっとしてねむたいやうな氣持きもち血管中けっくわんぢゅう行渡ゆきわたり、脈搏みゃくはくいつものやうではなうて、まったみ、きてをるとはおもはれぬほど呼吸こきふとまり、體温ぬくみする。
民も又戦国の民なれば、一三六すきててほこへ、一三七農事なりはひをこととせず。士たるもの枕を高くしてねむるべからず。今のさまにては長く不きうまつりごとにもあらじ。
よるいろにそのみどりくろずみ、可愛かあいらしい珊瑚珠さんごじゆのやうなあかねむたげではあるけれど、荒涼くわうりやうたるふゆけるゆゐ一のいろどりが、自然しぜんからこの部屋へやうつされて
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
罌粟けしはなあいの疲のねむり、片田舍の廢園。蓬生よもぎふなかに、ぐつすりねむるまろ寢姿ねすがた——靴のおとにも眼が醒めぬ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
高音たかねではないが、このすんだ四こう無音界むおんかいには、それが、いつまでもえないほどゆるく流れまわって、すべてのもののねむりをいっそう深くさせるようであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時などは実に日夜にちやねむらぬほどの経営けいえいで、また石橋いしばし奔走ほんそう目覚めざましいものでした、出版の事は一切いつさい山田やまだ担任たんにんで、神田かんだ今川小路いまがはかうぢ金玉出版会社きんぎよくしゆつぱんくわいしやふのに掛合かけあひました
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこにはとうさんのおいへ御先祖ごせんぞさまたちも、あか椿つばきはななぞのくところでしづかにねむつてりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ドアをノックする音に続いて、もうその扉が外から開いて、ボーイが、ねむたさうな顔をつきだした。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ながく水流中に在りし冷気れいき露営ろえい寒気かんきあはせ来るにひ、此好温泉塲をはじめて蘇生そせいするのおもひあり、一行の内終夜温泉に浴してねむりし者多し、しんに山中の楽園らくえんと謂ふべし
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
ける銃架じうか。おういへはなれてむすねむりのうちに、かぜ故郷こきやうのたよりをおまへつたへないのか
その夜源三はねむりかねたが、それでも少年の罪の無さには暁天方あかつきがたになってトロリとした。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)