もの)” の例文
かつらならではとゆるまでに結做ゆひなしたる圓髷まるまげうるしごときに、珊瑚さんご六分玉ろくぶだま後插あとざしてんじたれば、さら白襟しろえり冷豔れいえんものたとふべきく——
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
だから平常へいじょううたをおうたいになり、ものらしておいでなさるときは、けっして、さびしいということはなかったのであります。
町のお姫さま (新字新仮名) / 小川未明(著)
居室へやかへつてると、ちやんと整頓かたづいる。とき書物しよもつやら反古ほごやら亂雜らんざつきはまつてたのが、もの各々おの/\ところしづかにぼくまつる。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「今朝の味噌汁が悪うございました。飯にもこうものにも仔細しさいはなかった様子で、味噌汁を食わないものは何ともございませんが——」
よるもうっかりながしのしたや、台所だいどころすみものをあさりに出ると、くらやみに目がひかっていて、どんな目にあうかからなくなりました。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そうして、このさいくもののことりをはこんできたものは、さっそく、帝室ていしつさよなきどり献上使けんじょうし、というしょうごうをたまわりました。
事定りてのち寺に於て稽古けいこをはじむ、わざじゆくしてのち初日をさだめ、衣裳いしやうかつらのるゐは是をかすを一ツのなりはひとするものありてもの不足たらざるなし。
葉子はぽんと高飛車たかびしゃに出た。そしてにやりとしながらがっくりと顔を上向きにはねて、床の間の一蝶いっちょうのひどいまがものを見やっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
うちよりけておもていだすは見違みちがへねどもむかしのこらぬ芳之助よしのすけはゝ姿すがたなりひとならでたぬひとおもひもらずたゝずむかげにおどろかされてもの
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
海岸かいがんで、とび喧嘩けんくわをしてけたくやしさ、くやしまぎれにものをもゆはず、びをりてきて、いきなりつよくこつんと一つ突衝つゝきました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「じゃ、弦之丞様、今夜はちょっとお暇をいただいて、うちの様子を見たり、また、当座とうざものを少し仕入れてまいりますから——」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と言うお雪ちゃんの言葉は、今晩に限って、たしかにものにとりつかれているに相違ないほど、たかぶったかんの物言いぶりです。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さうして、彼等の魂の『もの云はぬ海』へ、大膽と好意を以て、闖入ちんにふすることは、屡々、彼等に、第一の恩惠を與へることになるのだ。
今迄は無沙汰したのが面目無めんもくない何と御見舞言たものやらと、獨言引出したとたんがら/\と淺草の市歸いちかへりか勢よく五六臺、前後して通ぬけぬ。
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
じゆく家族的かぞくてき組織そしきであるから各人かくじん共同きようどうものである、塾生じゆくせい此處こゝ自分じぶんいへ心得こゝろえ何事なにごと自分じぶん責任せきにんつてらねばなりません。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
それはものをつめたくする。どんなものでも水にあってはつめたくなる。からだをあついでふいてもかえってあとではすずしくなる。
留守中るゐちうこれは失禮しつれいでした。さいませんので、女中ぢよちうばかり‥‥や、つまらんもの差上さしあげて恐縮きようしゆくしました』と花竦薑はならつきやう下目しためる。
日本にほんいま藝術上げいじゆつじやう革命期かくめいきさいして、思想界しさうかい非常ひぜう興奮こうふんしてる。古今東西ここんとうざい思想しさう綜合そうがふして何物なにものあたらしいものつくらうとしてる。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
また二階にかいには家々いへ/\道具類どうぐるいが、あるひはものあるひは木器もくきあるひは陶器とうきといふように種類しゆるいをわけてられるようにしてあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
顏中かほぢゅうのどこも/\釣合つりあひれて、何一なにひと不足ふそくはないが、まん一にも、呑込のみこめぬ不審ふしんがあったら、傍註わきちゅうほどにもの眼附めつきや。
『古今集』にはまた大歌所おおうたどころものの歌としてあって、山人の手に持つさかきの枝に、何か信仰上の意味がありそうに見えるのであります。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と、闇の中にシラジラと、砕ける波の穂頭が、もののように見えて来た。大穴の周囲まわりに岩があって、それへ水がぶつかるらしい。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どうしたんだんべい。林さんもとは金持っていたほうだが、このごろじゃねっからお菜も買いやしねえ。いつももので茶をかけて飯を
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ほどならば何故なぜかれ蜀黍もろこしることをあへてしたのであつたらうか。かれれまでもはたけものつたのは一や二ではない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一體いつたいこりや、了見れうけんだね」と自分じぶんかざけたものながめながら、御米およねいた。御米およねにも毎年まいとしうする意味いみとんわからなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
げ若し長庵殿言事いふことにも程が有る近所きんじよには居らるれどもお前とは染々しみ/″\もの言換いひかはした事も無いに私しと密通みつつうを仕て居るなどと根も葉も無事なきこと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
殊に塙団右衛門直之はきん御幣ごへいもの十文字じゅうもんじやりをふりかざし、槍のつかの折れるまで戦ったのち、樫井の町の中に打ち死した。
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もし自分じぶん文字もんじつうじてゐたなら、ひとつ羊皮紙やうひしれて、それにしたゝめもしよう。さうして毎晩まいばんうんとうまものべてやる。
けれど泥がふかいから、足がはまつたら最後二度と拔けなかつた。水の外につかまるものが無いのだから、もがけばもがくほどどろに吸はれて行く。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
わたしためにそれをつてるのです』と帽子屋ばうしや説明せつめいのやうにしました、『自分じぶんもの一個ひとつちません。わたし帽子屋ばうしやですもの』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
こうして正太と二人ぎりで居ることは、病院に来ては得難い機会おりであった。豊世はすすものか何かに出て居なかった。幸作も見えなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
時たま窓から人の顔などがのぞいていると、なんだかもののように無気味で、通りかかる付近の人を怖がらせるほどであった。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところへものし、そして發酵はつこうさせるやうな日光が照付てりつけるのであるから、地はむれて、むツと息のまるやうな温氣うんき惡臭あくしうとを放散ほうさんする。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
このうたべつふかおもひこんでゐるのでもないたのしみを、ぢっとつゞけてゐたといふだけのものですから、調子ちようし意味いみとがぴったりとしてゐます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
ある日のこと、重吉じゅうきちはなにを思ったか、お父さんが大切にしまっていたものを、そっと取り出して、台所の片隅かたすみにかくしてしまいました。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
老人ろうじんは松女をひざからおろしてちょっとむきなおる。はいったふたりはおなじように老人に会釈えしゃくした。老人はたってものをふたりにすすめる。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
俗界ぞくかいける小説せうせつ勢力せいりよくくのごとだいなればしたがつ小説家せうせつかすなはいま所謂いはゆる文学者ぶんがくしやのチヤホヤせらるゝは人気じんき役者やくしやものかづならず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
このとき足あがらざるゆえ、楽戯にあらずと断定す。また曰く、「しからば、汝はものおしえに来たるか。物教えに来たるならばこの足をあげよ」
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
或る人民のこのんでくらふ物を他の人民はててかへりみず、或る人民の食ふ可からずとするものを他の人民はよろこんで賞玩せうくわんするの類其れいけつして少からす。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
男3 とにかく、それは死んだ行平ゆきひらものですよ。確かにそうです。……全く執拗しつこいったらありゃしない……(左へ退場)
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
梅干を使わない時はものこしらえるとか百合のない時には款冬ふきとうとかあゆのウルカとか必ず苦味と酸味を膳の上に欠かないのが五味の調和だ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もの着物きものだって……すこしちたまえ、なにかあるだろう。が、家のものをさわがしたくないから、まにあわせだよ」
ものがた良人おっとほうでも、うわべはしきりにこらこらえてりながら、頭脳あたま内部なか矢張やはりありしむかし幻影げんえいちているのがよくわかるのでした。
ふん、もの値打ねうちのわからねえやつにゃかなわねえの。おんな身体からだについてるもんで、ねん年中ねんじゅうやすみなしにびてるもなァ、かみつめだけだぜ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ものつもつて考へて見ろ、それに此頃このごろ生意気なまいきになつて大分だいぶ大人おとなにからかふてえが、くないぞ、源蔵げんぞうたやうなかたい人をおこらせるぢやアねえぞ。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ものかれでもしたかのごとくふるえ声で叫んだ千之介の制止を、同じ物の怪に憑かれでもしたように林田が跳ね返し乍らつづけていった。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
「裏から出たらあきまへん!………表へ、………表へ廻んなはれ!………穿ものわてが持つてたげる! 早よ、早よ!」
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それを三浦と上総の両介どのが追いすがって、犬追いぬおもののようにして射倒されたということじゃが、その執念は怖ろしい。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それに、この家には、おばさんがひとり住んでいるだけですが、あのおばあさんは、ものをつかまえたりはしませんよ。
あとは髪毛かみのけと血のものみたようになったのが、線路の一側ひとかわを十間ばかりの間に、ダラダラと引き散らされて来ている。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)