片手かたて)” の例文
片手かたてにブリキかんをぶらさげて、片手かたてにはさおをち、いつも帽子ぼうし目深まぶかにかぶって、よくこの洋服屋ようふくやまえとおったのでありました。
窓の内と外 (新字新仮名) / 小川未明(著)
老婆は、片手かたてに、まだ屍骸の頭からつた長い拔け毛をつたなり、ひきのつぶやくやうな聲で、口ごもりながら、こんな事を云つた。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
足しいでつゝ手をばすゝがんと見れば雪隱せついんの角の柱に五合樽の片手かたてり引掛あれど中には水なし困じてそばに待ゐたる和吉に吩咐いひつけ井戸の水を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
よ、かしらなきむくろ金鎧きんがい一縮いつしゆくしてほこよこたへ、片手かたてげつゝうままたがり、砂煙すなけむりはらつてトツ/\とぢんかへる。陣中ぢんちうあにおどろかざらんや。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『それも駄目だめだ』とこゝろひそかにおもつてるうちあいちやんはうさぎまどしたたのをり、きふ片手かたてばしてたゞあてもなくくうつかみました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
一寸法師は、目の前のぞうふくろのすそをめくりました。一しゃくほど象の鼻の先があらわれると、一寸法師はそれへ片手かたてけました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
ふたりは、ひっしと花前の両手を片手かたてずつとらえてはなさない。ふたりはとうとう花前を主人のまえに引きすえてうったえる。兼吉かねきち
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
片手かたてさぐりに河原の水音をたどっていった竹童、岩と岩との間から首をのばして、ザアッと流れる水の血汐ちしおをあらい、顔をひやし
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近衞家このゑけ京武士みやこぶしは、綺麗きれいあふぎで、のツぺりしたかほおほひつゝ、片手かたてなはまんで、三げんはなれたところから、鼻聲はなごゑした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そしてよろいかぶとおいの中にかくして、背中せなか背負せおって、片手かたて金剛杖こんごうづえをつき、片手かたて珠数じゅずをもって、脚絆きゃはんの上に草鞋わらじをはき
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
院長いんちょう片手かたて頬杖ほおづえきながら考込かんがえこんで、ただ機械的きかいてき質問しつもんけるのみである。代診だいしんのセルゲイ、セルゲイチが時々ときどきこすこすくちれる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わたしは開いた口がふさがらなかった、するとマチアは片手かたてでくつしたをつかんで、片手かたてでわたしを路地口ろじぐちからった。
と言って、おかみさんは、ランプを片手かたてにもち、時計屋とけいやをうながすような目をして、もういちど部屋にはいっていった。時計屋があとにつづいた。
「ここは、とてもさむいや。」と、少年は思って、もうなくなっているとは知らず、おかあさんのかたにぼんやり片手かたてをかけたまま、しばらく立っていた。
おびもせざる女片手かたて小児せうに背負せおひ提灯ちやうちんさげ高処たかきところにげのぼるは、ちかければそこらあらはに見ゆ、いのちとつりがへなればなにをもはづかしとはおもふべからず。
うしろから看護婦が草履のおとを立てゝ近付ちかづいて来た。三四郎は思ひ切つて戸を半分程けた。さうしてなかにゐる女と顔を見合せた。(片手かたて握りハンドルつた儘)
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さっ浴衣ゆかたをかなぐりてると手拭てぬぐい片手かたてに、上手かみてだんを二だんばかり、そのまま戸袋とぶくろかげかくした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
用心口ようじんぐちしてお寢間ねまもどたまひしが再度ふたゝびつてお菓子戸棚くわしとだなのびすけつとのびんとりいだし、お鼻紙はながみうへけておしひねり、雪灯ぼんぼり片手かたてゑんいづれば天井てんぜうねづみがた/\とれて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
議員さんのなかにかしこい老人が一人あって、それなら、裁判長さいばんちょうが、片手かたてにみごとな赤いりんごを、片手にライン地方で通用する一グルデン銀貨をつかんで、子どもを呼びよせて
おくさんはたくましい青木さんのかた片手かたてをかけたまゝこびるやうにそのかほ上げた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
片手かたてにふろしきづつみ、片手にうみたてのほろぬくい卵を持って通りに出ると、正九郎は身も心もかるくなったのを感じた。長いあいだいたんだむしばがポロリとぬけたような気持ちだ。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「しめたぞ!」と大悦おほよろこびで、ぐツと氣を落着おちつけ、眼をつぶり、片手かたて後頭部こうとうぶを押へて息をらして考へて見る………頭の中が何か泡立ツてゐるやうにフス/\ツてゐるのがかすか顳顬こめかみに響く。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
とう/\つるしランプを片手かたてにさげて、長吉ちやうきちの部屋になつた二階まであがつて行つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
不用意ふよういると窒息ちつそくしておそれがあるので、蝋燭らうそくをさしれる必用ひつようがある。人足にんそく一人ひとりすゝんで、あななか片手かたてをさしれると、次第しだいちいさつて、のちには、ふツとえた。
じいさんがそうわれているうちに、天狗てんぐさんは直径ちょくけい一尺いっしゃくもありそうな、ながおおきなすぎえだ片手かたてにして、二三十じょう虚空こくうから、ヒラリとおどらしてわたくしている、すぐまえちました。
片手かたてにはかぢりのこせし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
おおきな地震じしんだ!」といって、あちらからおかあさんがけてきて、片手かたてによっちゃん、片手かたてにみいちゃんをだいてしました。
時計とよっちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
其船頭そのせんどう悠然いうぜんとして、片手かたてあやつりはじめながら、片手かたてみづとき白鷺しらさぎ一羽いちはひながらりて、みよしまつたのである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
御前ごぜんつてゐました、左右さいうから二人ふたり兵士へいし護衞ごゑいされて、王樣わうさまのおそばには、片手かたて喇叭らつぱ片手かたて羊皮紙やうひし卷物まきものつた白兎しろうさぎました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
独楽は竹童のふところに飛んでかえって、かれ自身もまた、アッ——と片手かたてで顔をかくしたまま、あぶなくそこへたおれかかる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人ふたりだまる。厨房くりやからダリユシカがにぶかぬかほて、片手かたて頬杖ほゝづゑて、はなしかうと戸口とぐち立留たちどまつてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
結びて手拭かぶたへ布子ぬのこすそ端折はしをり片手かたてふるびし岡持下げ足元輕く立歸る老婆らうばは長屋の糊賣のりうりお金營業仕舞て這入來はひりく姿すがた
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
玉虫色たまむしいろの服をきた美しい女が、片手かたて絵日傘えひがさを持ち、すらりとした足をしずかにすべらせようとしています。二じょうもあろうと思われる高いところです。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
ホールはびんを片手かたてに、ぽかんとドアの前につったって、ゆうべたしかに玄関げんかんのドアはしめたはずだ、と思った。
親方は、片手かたてゆみ、片手にヴァイオリンを持って、身ぶりをしながら口上こうじょうべだした。
打水うちみづのあとかろ庭下駄にはげたにふんで、もすそとる片手かたてはすかしぼね塗柄ぬりえ團扇うちわはらひつ、ながれにのぞんでたつたる姿すがたに、そらつきはぢらひてか不圖ふとかゝるくもすゑあたりにわかくらくなるをりしも
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
花前は、耳で合点がてんしたともいうべきふうをして仕事しごとにかかる。片手かたてにしぼりバケツと腰掛こしかけとを持ち、片手かたて乳房ちぶさあらうべきをくんで、じきにしぼりにかかる。花前もここでは
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そこへとびこんで行ったわたしが、片手かたてでマレイのすきに、もう一方いっぽうの手でそのそでにしっかりしがみついたとき、マレイは、やっと、わたしのただごとでないようすを見てとりました。
けれどもしきいまたときに、片方かたほう上沓うわぐつげたので、片足かたあしには、上沓うわぐつ穿き、片足かたあしは、沓下くつしただけで、前垂まえだれけ、片手かたてには、黄金きんくさり片手かたてには、ヤットコをって、まちなか跳出とびだしました。
次郎じろうさんは、往来おうらいちどまってていました。やはりゆうちゃんでした。もちぼうをち、片手かたてにとんぼのかごをぶらさげていました。
きれいなきれいな町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
濡色ぬれいろふくんだあけぼのかすみなかから、姿すがたふりもしつとりとしたをんなかたに、片手かたて引担ひつかつぐやうにして、一人ひとり青年わかものがとぼ/\とあらはれた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
片手かたて独楽こま——まわすと見せて、一方の手に、般若丸はんにゃまる脇差わきざしきはなったかと思うと、すぎの根もとにつながれている、クロのつなをさッとった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かへつてたのはうさぎで、綺羅美きらびやかな服裝なりをして、片手かたてにはしろ山羊仔皮キツド手套てぶくろを一つい片手かたてにはおほきな扇子せんすつて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
二人ふたりだまる。厨房くりやからダリュシカがにぶかぬかおて、片手かたて頬杖ほおづえをして、はなしこうと戸口とぐち立留たちどまっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ほがらかな声がひびいて、船員せんいんふうの気さくそうな男が、新聞しんぶん片手かたてにトーマスに近づき、ベンチに腰かけた。
曲馬団きょくばだんの行列は、鍛冶屋かじやの横手の火の見の下までやって来ました。と、まっ先の一寸法師いっすんぼうしが、くるりとうしろへ向きなおり、赤いトルコぼう片手かたてに取ってし上げ
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
祖父そふにいたっては自分の前ばかりに気を取られて、自由の片手かたてでしじゅうさらから口へがつがつ運んでいた。そのふるえる指先から肉を落とすと、兄弟たちはどっとわらった。
片手かたてわざにもなつより手足てあしいろどりて、新年着はるぎ支度したくもこれをばてぞかし、南無なむ大鳥大明神おほとりだいめうじんひとにさへ大福だいふくをあたへたまへば製造せいぞうもとの我等われら萬倍まんばい利益りゑきをとひとごとにふめれど
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして、片手かたてでわたしのかわりに十をきり、それから、自分も十字をきりました。
見付村役人に屆けなどする中一人の旅僧たびそうねずみころもあさ袈裟けさを身にまと水晶すゐしやう珠數ずず片手かたてもちあかざつゑを突て通りかゝりけるが此捨子を見てつゑを止めやがて立寄りつゝ彼小兒せうにそでひろこしなる矢立を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)