ばん)” の例文
よくいいつかったことをわすれたり、また、ばんになると、じきに居眠いねむりをしましたので、よく叔父おじさんから、小言こごとをいわれていました。
人の身の上 (新字新仮名) / 小川未明(著)
雨風あめかぜの患のない、人目にかゝる惧のない、一ばんらくにねられさうな所があれば、そこでともかくも、かさうと思つたからである。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それでわたしたちはかこんで、いっしょにくらすばんなどには、そういう古い本をたんすから引き出して、めいめいに分けて読んだ。
そのばん郵便局長ゆうびんきょくちょうのミハイル、アウエリヤヌイチはかれところたが、挨拶あいさつもせずにいきなりかれ両手りょうてにぎって、こえふるわしてうた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それからは、まいばん、くらくなりますと、ノロ公はじぶんのいつもの寝場所ねばしょをぬけだして、あき小屋ごやへいくことにしているのでした。
木こりは、ばん寝床ねどこへはいってからも、あれやこれやと考えると、心配しんぱいで心配でねむることもできず、ねがえりばかりうっていました。
ぽんの大きな木の、うつろになった中にはいって、いぬどもを木のまわりにあつめて、たくさんたきをして、そのばんねむることにしました。
忠義な犬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
一昨日おとついばんよいの口に、その松のうらおもてに、ちらちらともしびえたのを、海浜かいひんの別荘で花火をくのだといい、いや狐火きつねびだともいった。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで正直をもうしますと、この小さな「イギリス海岸かいがん」の原稿げんこうは八月六日あの足あとを見つける前の日のばん宿直室しゅくちょくしつで半分書いたのです。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのばん伯父をぢさんも友伯父ともをぢさんもばれてきましたが、『押飯おうはん』とつてとりにくのおつゆあぢをつけた御飯ごはん御馳走ごちさうがありましたつけ。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ようじゃァねえが、おかみさんもああいうンだから、ばんにしたらどうだ。どうせいまったって、えるもんでもねえンだから。——」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
でもつぎのばん、さよなきどりのうたっているところへ、漁師がまた網にでてきました。そうして、またおなじことをいいました。
史に記す。道衍ばんに道余録を著し、すこぶる先儒をそしる、識者これをいやしむ。の故郷の長州ちょうしゅうに至るや、同産の姉をこうす、姉れず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
林太郎のおとうさんは、きのうのばんさけによってきて、林太郎のことをいっては、この家をでていけ、と、おっかさんをいじめたのでした。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
まい朝おべんとうをつめてくださる手、まいばん「おやすみ。」とやさしくふとんのえりをおさえてくださるその手の指が——。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
「僕は其時程朋友を難有いと思つた事はない。うれしくつて其晩は少しもられなかつた。月のあるばんだつたので、月の消える迄起きてゐた」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
れのあしたを前にして、なにを密議みつぎするのか、そのばん徳川とくがわばたけの者ばかりが、首をあつめておそくまで声をひそめていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シューラはやぶれたシャツをて、学校がっこうかけなければならなくなる——そうしたら、シャツはばんまでには、どんなになるかわかりゃしない!
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
背広せびろかるいセルのひと衣にぬぎかへて、青木さんがおくさんと一しよにつましやかなばんさんをましたのはもう八ちかくであつた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そしてあるばん、にわかに甚兵衛のところし入り、ねむってる甚兵衛をしばりあげ、かたなをつきつけて、人形をだせとおどかしました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あるばん、ゴットフリートがどうしても歌ってくれそうもなかったとき、クリストフは自分じぶんつくった小曲しょうきょくを一つかれに聞かしてやろうと思いついた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
そのばん、俵的と女房だけを病院に残し、私は家へ帰ると台所から冷酒の入った一しょうびんを持ってきて机の上におき、コップで、ぐいぐいとあおった。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
ばん年中ねんぢう臟腑ざうふ砂拂すなはらひだといふ冬至とうじ蒟蒻こんにやくみんなべた。おしな明日あすからでもきられるやうにおもつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ヂュリ ほんにさうもあらうか、わたしものではないゆゑ。……(ロレンスに)御坊樣ごぼうさまいまひまでござりますか、あらためてばんのお祈祷頃いのりごろまゐりませうか?
要吉は、そのばん、ひさしぶりにいなかの家のことをゆめに見ました。ある山国にいる要吉の家のまわりには、少しばかりの水蜜桃すいみつとうはたけがありました。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
「おしいことだった。ブランカを殺さずに、いけどっておいておとりにしたら、翌日よくじつばんには、きっとロボをつかまえることができたであろう。」
る一學生がくせい横濱よこはままできましたが、ばんつてもかへりませんから、心配しんぱいして電報でんぱうもて消息せうそくあはせました。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
はすの花のいているときもあるし、ほたるの飛んだばんもあったし、こおりの上に雪のつもっているときもありました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
夢かうつゝかや是も矢張やつぱり小西屋が破談に成た故で有うあゝ悦ばし嬉しとて手のまひ足のふむ所も知ざるまでに打喜うちよろこび夫ではばんに待てゐるから急度きつとで有るよと念を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのばんあつさをはら凉雨れううた、昨夜ゆうべねこのために十ぶんられなかつたあはせに今夜こんや熟睡じゆくすゐしようとおもつた。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
道子みちこたゞなんといふわけもなく吾妻橋あづまばしのたもとがさゝうなのするまゝ、こゝを出場所でばしよにしたのであるが、最初さいしよばんから景気けいきく、よひうち二人ふたりきやくがつき
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
大歳おおとしまたは十四日の年越としこしばんに、家々の門に来てこれを振りまわし、ダシヤレダシヤレ、またはハーラメダーセ、すなわち孕み女を出せとわめくのである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたくしいま左樣さうかんがへてつたところだ、大佐閣下たいさかくかだつて私共わたくしどもが、其樣そんなはやかへらうとはおもつてなさるまいし、それにね、約束やくそく五日目いつかめばんには、海岸かいがんいへでは
おや兄弟きやうだいもないぼくには、こんなばんすこぶ感心かんしんしないので、おまけに下宿住げしゆくずまひ所謂いはゆる半夜燈前十年事、一時和雨到心頭といふ一けんだから堪忍たまつたものでない
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
金太郎は路傍の道しるべの石に片足をかけて、自轉車にまたがつたまゝ憩みながら、今ばんたつといふへん事をした。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
月光げつこうてらもときこえてるそのなみひゞきも、おもへばけたかんじのすることだ。かうしたばんに、このうみ舟旅ふなたびをして、ふねなかめてゐるひともあらう。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
さうかうするうちに三年さんねんばかりたちました。そのとし春先はるさきから、赫映姫かぐやひめは、どうしたわけだか、つきのよいばんになると、そのつきながめてかなしむようになりました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
そしてばんの御飯もいつもよりたべなかった。夜おそくまで考えつづけたあげく、やっとお母さんにいった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
百人前ひやくにんまへ仕事しごとをしたからとつて褒美はうびひとつもやうではし、あさからばんまで一寸法師いつすんぼしはれつゞけで、それだからとつて一生いつしやうつてもこの身長せいびやうかい
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けれども南瓜かぼちやはくやしくつて、くやしくつて、たまらず、そのばん、みんなの寢靜ねじづまるのをつて、べたにほつぺたをすりつけて、造物つくりぬし神樣かみさまをうらんで男泣をとこなきにきました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
大和やまと遠飛鳥とおあすかという村までおいでになって、そこへまた一ばんおとまりになったうえ、けがればらいのお祈りをなすって、そのあくる日石上いそのかみの神宮へおうかがいになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
B うゝきまつてるよ。毎日まいにちあさばんと一まいづつる。ぼく毎日まいにちあさばんと一まいづつしてる。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
しかるにこまったことにこの両親りょうしんは、きつい仏教ぶっきょう信者しんじゃであっため、わがはや極楽浄土ごくらくじょうどけるようにと、あさばんにおきょうげてしきりに冥福めいふくいのってるのじゃ……。
土井は最初そこへいたばん、筆を執るやうな落着きがないのに、ちよつと失望しつばうしたが、家主やぬしすまつてゐる家のはなれを一しつりておいたからと、甥が言ふので、彼はそれを信じて
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ばんまでかゝつてやうや土器どきふちでもつたらしいいしと、把手とつて平凡へいぼんなのを二三たばかり。
糟谷かすやはとうとう神楽坂かぐらざかしたしい友人をたずねた。そうしてつとめて、自分が苦労してる問題にはなれた話にきょうを求め、ことさらにたわいもないことをさわいで、一ばんざるをたのしんだ。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そのばんは、クリスマスの前夜ぜんやで、とりわけ、さむさのきびしい晩だった。ある地下室ちかしつに、ひとりの少年がいる。少年といっても、まだ六つになったかならないかの、とても小さな子なのだ。
そのかへりがけ、それは月夜つきよばんのことでありましたが、あの應神天皇おうじんてんのう伯孫はくそんときから百年ひやくねんほどまへあたる)の御陵ごりようまへとほりかゝると、非常ひじよう立派りつぱあかうまつてゐるひと出會であひました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
此の疲勞つかれが出たのか、周三は、お房の許へ引越ひツこして來たばんは實に好く眠ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
時宜じぎによればすぐにも使者ししゃをやって、よく聞きただしてみてもいいから、今夜一ばんは不自由でもあろうが役場に宿とまってくれとのことであった。教員室には、教員が出たりはいったりしていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)