大方おほかた)” の例文
駕籠舁どもは大いにわらひコレ旦那だんなどうした事をいひなさる此道中は初めてと見えるゆゑ夫リヤア大方おほかた此宿の者が御客をつるつもりの話しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わびしさ……わびしいとふは、さびしさも通越とほりこし、心細こゝろぼそさもあきらめ氣味ぎみの、げつそりとにしむおもひの、大方おほかた、かうしたときことであらう。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さうして、神樣かみさま言葉ことばすらも、やはり、うたあらはされることになりました。それは大方おほかたみつつのかたちになつたものらしくかんがへられます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
現在げんざいうけひしはれにおぼえあれどなにれをいとことかは、大方おほかたまへきゝちがへとたてきりて、烟草たばこにふきわたしらぬとすましけり。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『それはわかつてる、大方おほかたかはづむしぐらゐのものだらう』とつて家鴨あひるは『しかし、ぼくくのは大僧正だいそうじよううしたとふのだ?』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
数寄屋河岸すきやがし真顔まがほが、「イヤこれ大方おほかた二十一にちであらう、「むかし」とハ、廿一にちと書くから、まア廿一にちつて見なさい。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
何処どこまで歩いて行つても道はせまくて土が黒く湿しめつてゐて、大方おほかた路地ろぢのやうにどまりかとあやぶまれるほどまがつてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
文庫ぶんこのなかをさがしてもなかつた。鏡台きやうだいにも針箱はりばこにも箪笥たんす抽斗ひきだしにもなかつた。大方おほかた焼棄やきすてるか如何どうかしたのであらう。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
その咏風よみぶり大方おほかたは誰と知らるゝが多かれど、時に予想外なるがありて、こは君なりしかとうち驚かる。杜鵑ほととぎすの歌に
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
パンの破片かけら紙屑かみくづうしほねなど、さうしてさむさふるへながら、猶太語エヴレイごで、早言はやことうたふやうにしやべす、大方おほかた開店かいてんでも氣取きどりなにかを吹聽ふいちやうしてゐるのでらう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其味なまなるにかはる事なく、母もよろこび大方おほかたならず、いかなる人のここに落せしや、是又ひとつのふしぎ也。
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それでも、此間、雨のふるさびしい日に、うした拍子か、大方おほかた和尚をしやうさんも淋しかつたんだんべい。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
今夜は辻待つじまちの自動車や馬車が大方おほかた休んで居てたまにあつても平生ふだんの四倍ぐらゐのを云ふので、自分等は其処そこからゆるゆると※クトル・マツセの下宿まで歩いて帰つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「よし/\、それで大方おほかたわかつた。さぞ骨が折れたことだらう、一杯つけて骨休めをするがいい」
「おや左樣さうあんまおそいから、大方おほかた何處どこかで召上めしやがつたらうとはおもつたけれど、だゞと不可いけないから」とひながら、布巾ふきんなべみゝつまんで、土瓶敷どびんしきうへおろした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これらは大方おほかたしか今年ことし六ツになるをんなのわたしたちの玲子れいこ——千ぐさは、まだやつとだい一のお誕生たんじやうがきたばかりで、なんにわかりません——に、よひくち寐床ねどこのなかなどで
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
横笛ひそめし聲に力を入れて、『大方おほかたならぬ由あればこそ、夜陰に御業おんげふを驚かし參らせしなれ。庵は往生院と覺ゆれば、主の御身は、小松殿の御内なる齋藤瀧口殿にてはおさずや』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
このつぎ如何いかなるひとるだらうと、わたくし春枝夫人はるえふじんかたりながら一ぽう倚子ゐすりてながめてつたが、暫時しばらく何人たれない、大方おほかたいま鵞鳥聲がてうごゑ婦人ふじんめに荒膽あらぎもかれたのであらう。
剛さんは如何どうなすつたでせう、今夜こよひはお帰りの日取なんだが、今頃までお帰りないのは、大方おほかた此の雨でお泊りのでせう、お一人なら雨や雪に頓着とんちやくなさるひとぢやないけれど、お友達と御一所ごいつしよでは
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
青銅器せいどうき鐵器てつき時代じだいとなりましたのは、日本につぽん大方おほかたおなころであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
大方おほかたにうれしきものを不尽の山わがのそらに見えにけるかも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
大方おほかたきにつけてはいとへどもいつかこの世をそむきはつべき
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
此処に積んである本は、大方おほかた僕が書いたの。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
世の大方おほかたのちにしぬ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
猪子いぬしゝしてママおほきなものよ、大方おほかたいぬしゝなか王様わうさま彼様あんな三角形さんかくなりかんむりて、まちて、して、わたし母様おつかさんはしうへとほるのであらう。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
出せといふに又一人も同じく侍士さふらひに向ひおう然樣さうだ殘らず渡したとてそんはあるまいコウ侍士さふらひ大方おほかた此女は餘所よそ箱入娘はこいりむすめそゝのかし云合せて親の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
くろおほかみ最惜いとをしげもなくひきつめて、銀杏返いてうがへしのこはれたるやうに折返をりかへ折返をりかへ髷形まげなりたゝみこみたるが、大方おほかたよこりて狼藉らうぜき姿すがたなれども
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あいちやんはほか別段べつだん用事ようじもなかつたので、大方おほかたしまひにはなにことはなしてれるだらうとおもつて悠然ゆつくりつてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
屋根やねの低い片側町かたかはまち人家じんか丁度ちやうどうしろから深いどぶはうへと押詰おしつめられたやうな気がするので、大方おほかたのためであらう、ほどに混雑もせぬ往来わうらいがいつもめういそがしく見え
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
根太ねだたヽみ大方おほかたち落ちて、其上そのうへねずみの毛をむしちらしたやうほこりと、かうじの様なかびとが積つて居る。落ち残つた根太ねだ横木よこぎを一つまたいだ時、無気味ぶきみきのこやうなものを踏んだ。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
石敢当も亦実在の人物ならず、無何有郷裡むかいうきやうりの英雄なるべし。もし又更に大方おほかたの士人、石敢当の出処を知らんと欲せば、秋風禾黍くわしよを動かすの辺、孤影蕭然たる案山子かかしに問へ。
八宝飯 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
此所こゝの蕎麦屋はあれで大分儲かるだらうと話してゐる。何とかいふ先生は夏でもかま饂飩うどんを食ふが、どう云ふものだらうと云つてゐる。大方おほかた胃がわるいんだらうと云つてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
アンドレイ、エヒミチはアツとつたまゝ、緑色みどりいろ大浪おほなみあたまから打被うちかぶさつたやうにかんじて、寐臺ねだいうへいてかれたやうな心地こゝちくちうちには鹽氣しほけおぼえた、大方おほかたからの出血しゆつけつであらう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
最初惡人に引摺ひきずられたが、美しい奧方と一緒に居るうち、本當に惡い望みを起して、奧方に無禮なことをしたのさ——、末期まつごの苦しい息の下から、奧方の方を拜んだと聽いて俺は大方おほかたさつしたよ。
みやもりにはたくさんの老木らうぼくがありました。大方おほかたそれはまつでした。やまうへたかみからあたりを睨望みをろして、そしていつもなんとかかとか口喧くちやかましくつてゐました。あつければ、あつい。さむければ、またさむいと。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
『それは大方おほかた貴下あなたあやまりでせうよ。うふゝゝゝ。』
大方おほかたの秋の別れも悲しきに鳴くな添へそ野辺のべの松虫
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
大方おほかた
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
はゝ大方おほかたかゝること今朝けさよりの懸念けねんうたがひなく、幾金いくらとねだるか、ぬるき旦那だんなどのゝ處置しよちはがゆしとおもへど、れもくちにてはかちがたき石之助いしのすけべん
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おなじむきに連立つれだつた學生がくせいかたが、大方おほかたまはりで見知越みしりごしであつたらう。ふよりはや引擔ひつかついでくだすつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
申自身番にて新藤市之丞などといふ六ヶ敷むづかしきの人は紙屑買かみくづかひにはあるべからず大方おほかた浪人者らうにんもの間違まちがひなるべしと云ゆゑ文右衞門は當惑たうわくなせしかど是非共ぜひとも尋ねて金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
人通ひとどほりとつては一人もない此方こなたの岸をば、意外にも突然とつぜん二台の人力車が天神橋てんじんばしはうからけて来て、二人の休んでゐる寺の門前もんぜんとまつた。大方おほかた墓参はかまゐりに来たのであらう。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
平岡は其時そのとき、僕も大方おほかた左様さうだらうと思つてゐたと云つて、妙なをして三千代の方をた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
巴里パリイで毛の多い女と云はれるのは前髪やびん、つまり髪の外輪ぐわいりんだけが地毛ぢげで出来る人で、まげ大方おほかた附髷つけまげをして居るのである。その外輪ぐわいりんさへも完全にかない人は前髪にも添毛そへげをする。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
『三月兎ぐわつうさぎとは大變たいへん面白おもしろいのね、大方おほかたこれが五ぐわつなら狂人きちがひになつてあばまはるだらう——假令たとひぐわつほどではなくとも』あいちやんはつてうへると、其猫そのねこえだうへすわつてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
誘つて、釣に行くといふのからして腑に落ちません、——大方おほかた
こはただに予のみにあらず、大方おほかた君子くんしまた然るが如し。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
河岸かし小店こみせ百囀もゝさへづりより、ゆうにうづたか大籬おほまがき樓上ろうじやうまで、絃歌げんかこゑのさま/″\にるやうな面白おもしろさは大方おほかたひとおもひでゝわすれぬものおぼすもるべし。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くはもりのおどろ/\しき姿すがたのみ、大方おほかた風情ふぜいはこれにえて、朝夕あさゆふおもむきらずめでたきよし
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
三四郎は原口と云ふ名前を聞いた時から、大方おほかたあの画工ゑかきだらうと思つてゐた。それにしても与次郎は交際家だ。大抵な先輩とはみんな知合しりあひになつてゐるからえらいと感心してかたくなつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)