おび)” の例文
旧字:
其跡そのあと入違いれちがつてたのは、織色おりいろ羽織はおり結城博多ゆうきはかたの五本手ほんて衣服きもの茶博多ちやはかたおびめました人物、年齢四十五六になるひんをとこ。客
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
かたつかんで、ぐいとった。そので、かおさかさにでた八五ろうは、もう一おびって、藤吉とうきち枝折戸しおりどうちきずりんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
みかん箱を平べったくしたような形の、じょうぶそうな木の箱で、板の合わせめには、黒い鉄板がおびのようにうちつけてあります。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
花畑はなばたけへでもいてると、綺麗きれい蝶々てふ/\は、おびて、とまつたんです、ひと不思議ふしぎなのは、立像りつざうきざんだのが、ひざやはらかにすつとすはる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ただ、おびほどの澄んだ水が、雲母きららのような雲の影をたった一つ鍍金めっきしながら、ひっそりと蘆の中にうねっている。が、女は未だに来ない。
尾生の信 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
つんつるてんの紺絣こんがすりの筒っぽに白木綿しろもめんおびをグルグル巻きにして冷飯草履ひやめしぞうり、いま言ったように釣竿を肩にどこにでも出かける。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
身は、やぶれごろもに、なわおび一つ。そして、くつよりは丈夫らしい素裸足すはだしで、ぬっと、大地からえているというかたちである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらに、おくけると、百姓家しょうやにしては、ぜいたくすぎる派手はで着物きものが、おなじように高価こうかおびといっしょに衣桁いこうへかかっていました。
子供は悲しみを知らず (新字新仮名) / 小川未明(著)
なお賢人のうに、「げん近くしてむね遠きものは善言ぜんげんなり。守ること約にしてほどこすことひろきものは善道なり。君子くんしげんおびよりくだらずしてみちそんす」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そこで、仕立屋したてやさんはおおいそぎで、おびを一本って、ぬいあげました。そしてそれに、大きな字で、「ひとちで七つ」と、ししゅうをしました。
縦令たとへ旦那様だんなさま馴染なじみの女のおびに、百きんなげうたるゝともわたしおびに百五十きんをはずみたまはゞ、差引さしひき何のいとふ所もなき訳也わけなり
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
おびもせざる女片手かたて小児せうに背負せおひ提灯ちやうちんさげ高処たかきところにげのぼるは、ちかければそこらあらはに見ゆ、いのちとつりがへなればなにをもはづかしとはおもふべからず。
かと思うと、一山いくらのところをあれこれと見まわってから、ごそごそとおびあいだから財布さいふがわりの封筒ふうとうをとりだす、みすぼらしいおばあさんもあります。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
きしのあたりは、もう、とけはじめていて、そこははばのひろい、黒くかがやく水のおびのように見えているのです。
しろ蒸氣ゆげかまふたからいきほひよくれてやがてかれてからおつぎはおこされる。おびしめまゝよこになつたおつぎは容易よういかないをこすつて井戸端ゐどばたく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一緒いっしょに里のおとうさんおかあさんの家へ行くときにはおよめさんはおむこさんをじぶんのおびのあいだに、ちょこなんとはさんで、なかよく話しながら行きました。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
やはりそのまん中には上から下へかけて銀河ぎんががぼうとけむったようなおびになって、その下の方ではかすかに爆発ばくはつしてげでもあげているように見えるのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もう夜明けの時間をよほどぎていたが、空はまだまっ暗であった。東のほうに白っぽいおびのようなものが雪の間に流れてはいたが、太陽は出て来そうもなかった。
そして、店を畳んだ金で、その頃十七、八円もする縮緬ちりめん長繻絆ながじゅばんおび洋傘こうもりなどを買ってやった。
汽車の進むに従つて、隠見する相模灘はすゝけた銀の如く、底光をおびたまゝ澱んでゐた。先刻さつきまで、見えてゐた天城山も、何時の間にか、灰色に塗り隠されて了つてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
彼等は最高の階級を代表し、数年前までは二本の刀をおびることを許されていた。その短い方は、腰をめぐる紐の内側のひだに、長い方は外側の褶にさし込まれるのであった。
木綿のもので、よく目がつんでいて丈夫を以て名があり、主としておびはかまに用いられました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
其時三千代は長い睫毛まつげを二三度打ち合はした。さうして、てのひらに落ちたものをおびあひだはさんだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おびしろはだかの叔母がそこにやって来て、またくだらぬ口論くちいさかいをするのだと思うと、どろの中でいがみ合う豚かなんぞを思い出して、葉子はかかとちりを払わんばかりにそこそこ家を出た。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
には平袖ひらそで白衣びゃくいて、おびまえむすび、なにやら見覚みおぼえの天人てんにんらしい姿すがた、そしてんともいえぬ威厳いげん温情おんじょうとのそなわった、神々こうごうしい表情ひょうじょう凝乎じっわたくしつめてられます。
ここにさきつま一一九ふたつなきたからにめで給ふ一二〇おびあり。これ常にかせ給へとてあたふるを見れば、金銀きがねしろがねを飾りたる太刀たちの、一二一あやしきまできたうたる古代の物なりける。
彼女は花びらを一つずつ用い草の葉や、草の実をたくみに点景てんけいした。ときにはおびのあいだにはさんでいる小さい巾着きんちゃくから、砂粒すなつぶほどの南京玉なんきんだまを出しそれを花びらのあいだにはいした。
花をうめる (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その眼と眉のあいだに一種形容の出来ぬ凄味をおびていて、所謂いわゆる殺気を含んでいると云うのであろう、その凄い怖い眼でジロリと睨まれた一瞬間の怖さ恐しさ、私は思わず気が遠くなって
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つまり本人はその都度別の人間になって衷心からそう信じて云うから、鼻の頭までも熱誠と確信の光りをおびて来るので、これに影響された相手は、如何にもあの人は感心だ。話せる人物だ。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
新聞紙は紙と活字と記者と職工とにて出来るものぢやない、我等配達人もた実に之を成立せしめる重要なる職分をおびて居るのである、しかるに君等は我が同胞新聞の社会に存在する理由、
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
姿にしても其通そのとほりだ、奈何いかにもキチンとしまツて、福袢じゆはんえりでもおびでも、または着物きものすそでもひツたり體にくツついてゐるけれども、ちつとだツて氣品きひんがない。別のことばでいふと、奥床おくゆかしい點が無いのだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
おびのなかにきんぎんまたはぜにつな。たびふくろも、二枚にまい下衣したぎも、くつも、つえつな。よ、われなんじらをつかわすは、ひつじ豺狼おおかみのなかにるるがごとし。このゆえへびのごとくさとく、鴿はとのごとく素直すなおなれ。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これがためにかえって浪子は初心を破らじとひそかに心におびせるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「じゃあ、わたしは、いつものスカートにしておくわ。けれど、そのかわり、金の花もようのマントを着るわ。そうして、ダイヤモンドのおびをするわ。あれは世間せけんにめったにない品物なんだもの。」
都会は繁華となるに従つて益々ます/\自然の地勢から生ずる風景の美を大切に保護せねばならぬ。都会に於ける自然の風景は其の都市に対して金力を以てつくる事の出来ぬ威厳と品格とをおびさせるものである。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
大隅は立ち上ると、おびいて、洋服に着かえた。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とうとうこの谷間の静かな地面のおび
おびのようにうねっていました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
目をかきみだす赤きおびかな
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
無塵むじんころもみづおび
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
はらわたえざらんぎりなきこゝろのみだれ忍艸しのぶぐさ小紋こもんのなへたるきぬきてうすくれなゐのしごきおび前に結びたる姿(すが)たいま幾日いくひらるべきものぞ年頃としごろ日頃ひごろ片時かたときはなるゝひまなくむつひしうちになどそここゝろれざりけんちいさきむね今日けふまでの物思ものおもひはそも幾何いくばく昨日きのふ夕暮ゆふぐれふくなみだながらかたるを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
折角せっかく御親切ごしんせつでおますが、いったんおかえししょうと、ってさんじましたこのおび、また拝借はいしゃくさせていただくとしましても、今夜こんやはおかえもうします
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
おびあひだから紙幣入さついれを出して幾許いくらはらひをしてかへる時に、重い口からちよいと世辞せじつてきましたから、おほきに様子やうすよろしうございました。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
出水でみづあぶない、と人々ひと/″\此方こなたきしからばゝつたが、強情がうじやうにものともしないで、下駄げたぐとつゑとほし、おびいて素裸すはだかで、ざぶ/\とわたりかける。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うるわしいお下髪さげにむすび、おびのあいだへ笛をはさんだその少女おとめは、おずおずと、梅雪の駕籠の前へすすんで手をついた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたすかぎり、初雪はつゆきにいろどられて、しろ世界せかいなかを、金色こんじきおびのように、かわかわれ、田圃たんぼは、獣物けだもの背中せなかのように、しまめをつくっていました。
美しく生まれたばかりに (新字新仮名) / 小川未明(著)
このゆゑに此たばねたる稿わらおびにはさみてはなたず。またぎやうの中は无言むごんにて一言ひとこともいはず、又母のほか妻たりとも女の手より物をとらず、精進潔斎しやうじんけつさい勿論もちろん也。
そこで、しめているおびをなげてやりました。これでもまだだめなので、靴下くつしたどめをなげてやりました。
光ったりかげったり、幾重いくえにもたた丘々おかおかむこうに、北上きたかみの野原がゆめのようにあおくまばゆくたたえています。かわが、春日大明神かすがだいみょうじんおびのように、きらきら銀色にかがやいてながれました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
からだには褐色かっしょくの木の上着をき、こしには黒い木のおびをしめ、大きな灰色の木の半ズボンをはいて、それに、木の靴下くつしたをはいていました。それから黒い木の靴をはいていました。