ひるがへ)” の例文
新字:
其錦旗をひるがへして東海道に下向し、山の如き関東の勢を物の数とせざりしが如き議政官に上局下局を設けて公議輿論を政治の標準とし
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
よし母様のともかくもして、我をそこに送りたまはむとも、さてはいよいよ御苦労の重るべければ、我はここに思ひをひるがへさでは叶はじ。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
駱駝らくだのやうな感じの喜三郎老人は、思ひの外敏捷びんせふに立ち上がると、平次と八五郎が留める間もなく、身をひるがへしてざんぶと川の中へ——。
ひるがへつて考へて見なければならない余地はないか否か。かれ等は少くとも犬死ではなかつた。すぐれたいたには相違なかつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
他日たじつ海底戰鬪艇かいていせんとうていが、帝國軍艦旗ていこくぐんかんきひるがへして、千艇※艦せんていばんかんあひだつのときねがはくばそのごとく、神速しんそくに、猛烈まうれつならんことのぞむのです。
こと/″\はたはしつた村落むらうちにはまれにさういふ青葉あをばあひだ鯉幟こひのぼりがばさ/\とひるがへつてはぐたりとつて、それがあさからながを一にち
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
色を失へる貫一はその堪へかぬる驚愕おどろきに駆れて、たちまち身をひるがへして其方そなたを見向かんとせしが、ほとんど同時に又枕して、つひに動かず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
其日は紀元節で、見窄みすぼらしい新開街の家々にも國旗がひるがへつて見えた。さうした商家の軒先に立つて私は番地を訪ねなどした。
足相撲 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
が、その代りに感覚的な美を叙述する事にかけては、滾々こんこんとして百里の波をひるがへす河のやうな、驚く可き雄弁を備へてゐた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すさまじくいなゝいて前足まへあし両方りやうはう中空なかぞらひるがへしたから、ちひさ親仁おやぢ仰向あふむけにひツくりかへつた、づどんどう、月夜つきよ砂煙すなけぶり𤏋ぱツつ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
長吉ちやうきちは外へ出ると急いで歩いた。あたりはまだあかるいけれどもう日はあたつてない。ごた/\した千束町せんぞくまち小売店こうりみせ暖簾のれんや旗なぞがはげしくひるがへつてる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「…………。」足許でくぬぎの朽葉の風にひるがへつてゐるのが辰男の目についてゐた。いやにわびしい氣持になつた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
浪高く小砂を転じ、たちまち捲いて忽ち落つ、之れを見て快意そゞろに生じ、身をひるがへして浪上にのぼれば、自から虚舟の思あり。手を抜いて躰を進むるに心甚だ壮なり。
客居偶録 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「どうしたと云ふのです。」と横柄わうへいな別の聲がいた。さうして、リード夫人が、帽子のレイス飾を廣くひるがへしながら、激しく衣擦れの音を立てゝ、廊下傳ひにやつて來た。
綾羅りようらの袂ゆたかにひるがへるは花に休める女蝶めてふの翼か、蓮歩れんぽふしきふなるは蜻蛉かげろふの水に點ずるに似たり。折らば落ちん萩の露、ひろはば消えん玉篠たまざゝの、あはれにも亦あでやかなる其の姿。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
チッバルトは突殺つきころされ、たふるゝ途端とたんひるがへし、ロミオは逃去にげさってござりまする。
上流の方には京都の下加茂の森に好く似た中島なかじまがあつて木立こだちの中に質素な別荘が赤い屋根を幾つも見せて居る。両がんには二階づくりに成つた洗濯ぶねが幾艘か繋がれて白い洗濯物がひるがへつて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
一郭ひとくるわなせる山村の寺などそれかとも見ゆるに、濃く白き雲の、足疾く風に乗りて空に翔くるが、自己おのれの形をも且つ龍の如く且つ虎の如く、ひるがへりたる布の如く、張りたる傘の如くさま/″\に変へつゝ
雲のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
と、夏繪なつゑこんのスカアトをひるがへしながらまりつた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
たゆげにひるがへ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
軍艦ぐんかん」の甲板かんぱんでは、後部艦橋こうぶかんけうのほとりより軍艦旗ぐんかんきひるがへ船尾せんびいたるまで、おほくの乘組のりくみは、れつたゞして、わが端艇たんてい歸艦きかんむかへてる。
指す人込の中から、一人の男、身をひるがへして逃げ出さうとするのを、早くも平次の手から飛んだ投げ錢、一枚はそのうなじを、一枚は背を打ちます。
かくまでに悩まさるる不幸を恨み、ひるがへりて一点の人情無き賤奴せんどの虐待を憤る胸の内は、前後も覚えずれ乱れてほとほと引裂けんとするなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
三日みつかつゞき、五日いつか七日なぬかつゞいて、ひるがへんで、まどにも欄干らんかんにも、あたゝかなゆきりかゝる風情ふぜいせたのである。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼は思はず身をひるがへして、扉の方へ飛んで行つた。が、いくらしても引いても、扉は開きさうな気色けしきさへなかつた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
時雨しぐれくもえいずるもみぢこずゑ確然かくぜんあがつてながら天鵞絨びろうどふかんでやうにもえた。まへそらさゝへてつた二でうしろはしら幟旗のぼりばたであつた。幟旗のぼりばたまずばた/\とひるがへつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と片手ながらに一揮ひとふりれば、さや発矢はつしと飛散つて、電光たもとめぐ白刃しらはの影は、たちまひるがへつて貫一が面上三寸の処に落来おちきたれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
平次の言葉のをはるを待たず、重三郎はサツと身をひるがへしました。が、早くもその氣勢を察して、退路を絶つた八五郎。
されば傾城もかくてはなるまじいと気をいらだつたか、つと地獄絵のもすそひるがへして、斜に隠者の膝へとすがつたと思へば
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
浪打際なみうちぎは綿わたをばつかねたやうなしろなみ波頭なみがしらあわてて、どうとせては、ざつと、おうやうに、重々おも/\しう、ひるがへると、ひた/\と押寄おしよせるがごとくにる。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これよりはわが大日本帝國だいにつぽんていこく領地りようちであること表示ひやうしするために、幾本いくほん日章旗につしようき海岸かいがんひるがへしていても、一朝いつてう此處こゝ立去たちさつたあとことは、すくなからず氣遣きづかはれるのである。
かの長生殿裡ちやうせいでんり日月じつげつのおそきところ、ともに𢌞風くわいふうきよくしやうするにあたりてや、庭前ていぜんさつかぜおこり、はなひら/\とひるがへること、あたか霏々ひゝとしてゆきるがごとくなりしとぞ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その美しくも無氣味な情景シーンも一瞬にして消え、女は身をひるがへして、夜の水の中に、ザンブと跳び込んだのです。
油火あぶらびのかすかな光の下で、御経おんきやう読誦どくじゆし奉つて居つたが、たちまちえならぬ香風が吹き渡つて、雪にもまがはうず桜の花が紛々とひるがへいだいたと思へば、いづくよりともなく一人の傾城けいせい
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かほと、とき引返ひきかへした身動みじろぎに、ひるがへつたつまみだれに、ゆきのやうにあらはれたまる膝頭ひざがしら……を一目ひとめるや
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
賽錢さいせん箱の中に、なにがしかの鳥目を投げ入れると、暫らく默祷をして居りましたが、何におびえたか、いきなり身をひるがへしてバタバタと逃げて行くのを、山門の前で
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
さうしてその机のうしろ、二枚重ねた座蒲団の上には、何処どこ獅子ししを想はせる、せいの低い半白はんぱくの老人が、或は手紙の筆を走らせたり、或は唐本たうほんの詩集をひるがへしたりしながら、端然たんぜんと独り坐つてゐる。……
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それよりも、見事みごとなのは、釣竿つりざを上下あげおろしに、もつるゝたもとひるがへそでで、翡翠かはせみむつつ、十二のつばさひるがへすやうなんです。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
平次に反問する隙も與へず、乾鮭からしやけのやうな娘のお豊は身をひるがへして自分の部屋へ入つてしまひました。
べに笹色さゝいろよそほひこらして、月光げつくわうけて二葉ふたは三葉みは、たゞべに點滴したゝごとく、みねちつつ、ふちにもしづまずひるがへる。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
千萬無量の思慕を籠めた手拭が、ヒラヒラと夕風にひるがへると、それを待ち構へたやうに、川を隔てた福井屋の二階欄干からは、赤い鹿の子しぼりの扱帶しごきが下がるではありませんか。
と、とくならず、ちよろつかなつゝ加減かげんいたくしかはいて、小姉ちひねえうへひるがへつたのを、風呂敷ふろしきごと引奪ひつたくるやうにつて、やつこ屋臺やたいで、爲直しなほしながら
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
娘はヒラリと身をひるがへすと、生垣の蔭に隱れてしまつたのです。チヽと鳴き乍ら春の日南ひなたに群れ立つ小鳥、八五郎は五六歩追ひすがりましたが、娘の姿はもう何處にも見えません。
……よくとしよりがつてかせた。——ひるがへつておもふに、おのづからはゞかるやうに、ひとからとほざけて、渠等かれら保護ほごする、こゝろあつた古人こじん苦肉くにくはかりごとであらうもれない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
平次の意志に引摺られて、何時の間にやら、五兵衞自殺説をひるがへしたのでせう。
と、撫子なでしこ一束ひとたばいたが、かごつて、はたとどぶなかてると、かろ翡翠かはせみかげひるがへつてちた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
音も何にもありませんが、身をひるがへした曲者は、サツと、闇の中の衣桁へ——。
うさぎをどつて、仰向あふむけざまにひるがへし、妖気えうきめて朦朧まうろうとしたつきあかりに、前足まへあしあひだはだはさまつたとおもふと、きぬはづして掻取かいとりながら下腹したばらくゞつてよこけてた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひらめく匕首あひくちの下に身をひるがへして、右之助は床几しようぎへだてて聲を絞りました。
それあつければうめ、ぬるければたけきやくまつ揚場あがりばに、奧方おくがたはおさだまりの廂髮ひさしがみ大島おほしままがひのお羽織はおりで、旦那だんな藻脱もぬけかごそばに、小兒こども衣服きものあかうらを、ひざひるがへしてひかへてる。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)