もん)” の例文
肌を押し脱ぐと、背筋を眞ん中にして、左右へ三枚づつ、眞田さなだもんのやうに、六文錢の文身、これは何となく方がきいて居りました。
私たちの若い時は羽織のもんが一つしきゃないのを着て通人つうじんとか何とかいって喜んでいた。それが近頃は五つ紋をつけるようになった。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おなしきおなもんうりふたツの類型土器るゐけいどき各地かくちからるのである。それすうからかんがへても、大仕掛おほじかけもつ土器どき製造せいざうしたとへる。
翌日よくじつ別當べつたう好意かういで、玄竹げんちく藥箱くすりばこあふひもんいた兩掛りやうがけにをさめ、『多田院御用ただのゐんごよう』のふだを、兩掛りやうがけけのまへはうふたててもらつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
地質は多分塩瀬しおぜであろう、表は上の方へ紅地に白く八重梅やえうめもんを抜き、下の方にから美人が高楼にして琴をだんじている図がある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その旗も幾多の風の日、雨の日に会って、しるしもよく分らなくなっているが、丸の中に二引き両のもん、つまり足利氏の定紋じょうもんである。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一同出立には及びたり其行列ぎやうれつには第一番の油箪ゆたんかけし長持十三さを何れも宰領さいりやう二人づつ附添つきそひその跡より萠黄もえぎ純子どんすの油箪白くあふひの御もんを染出せしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其癖そのくせ學校がくかうで、おの/\をのぞきつくらをするときは「じやもんだい、清正きよまさだ。」とつて、まけをしみに威張ゐばつた、勿論もちろん結構けつこうなものではない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
十月二十九日朝御暇乞おんいとまごいに参り、御振舞おんふるまいに預り、御手おんてずから御茶を下され、引出物ひきでものとして九曜のもん赤裏の小袖二襲ふたかさねたまわり候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
奔馬のもんのついた真白い着物を着た、想像よりはずっと痩形やせがただが、長身の方で、そうして髪は月代さかやきおおわれているが、かおの色はあおいほど白い。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そう聞かされて見れば、子供心にもなるほどとうなずかれる。流し場の隅に積み重ねてある留桶とめおけのなかで三升みますもんなどが光っていたからである。
今日こんにち回向院ゑかうゐんはバラツクである。如何いかきんもんを打つた亜鉛葺トタンぶきの屋根はつてゐても、硝子ガラス戸を立てた本堂はバラツクと云ふほかに仕かたはない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そのなめらかな青ぞらには、まだ何か、ちらちらちらちら、あみになったりもんになったり、ゆれてるものがありました。
「あんた、なんか業病ごうびょうがあるんじゃない。だって指先に一向力がはいらないじゃないの」責任者のおもんというのに、光枝はたっぷり皮肉ひにくをいわれた。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もうその頃はずっと地味づくりになって、意気なおつくりで黒ちりめんの五ツもんのお羽織を着てお出でした。女のお子のおありのこともその時に知りました。
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
おや、これはまた、ぞうでものみそうな、大きな蛇の皮じゃないか。ああ、背中のもんがまるで、金のように光ってるな。これさえあれば、どんな病気だってなおせる。
式場の正面の、白い布でおおうたテーブルの上には免状やら賞品やらが高く積み上げられている。左右には白襟しろえりもんつきの子供の母達や教師たちがつつましやかに居並いならんでいる。
あしたに金光をちりばめし満目まんもくの雪、ゆうべには濁水じょくすいして河海かかいに落滅す。今宵こんしょう銀燭をつらねし栄耀えいようの花、暁には塵芥じんかいとなつて泥土にす。三界は波上のもん、一生は空裡くうりの虹とかや。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
脂肪しぼうづいた小富豪しょうふごうらしい身体からだに、小初と同じ都鳥のもんどころの水着を着て、貝原はすっかり水泳場の助手になり済ましている。小初はいつもよりいくらかなめらかに答えた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
書付類かきつけるゐはありませぬが、御先祖様ごせんぞさまの着た黒羽二重くろはぶたへに大きなくつわもんいた着物が一枚あります。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
交詢社こうじゅんしゃの広間に行くと、希臘風ギリシヤふうの人物を描いた「神の森ボアサクレエ」の壁画のもとに、いつもんの紳士やかわのフロックコオトを着た紳士が幾組となく対座して、囲碁仙集いごせんしゅうをやっている。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
うなるようにいって、背広の人に手をひかれながら、自動車からあらわれたのは、もん羽織はおりにセルのはかまといういでたちの、でっぷりふとった、背丈せたけ人並ひとなみ以上の老人だった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「私は平民ですが、私の村には河原姓が多いです。もんも皆先生と同じ丸に剣片食けんかたばみです」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
エモンを字のごとくイモンと読んできぬけたもん心得こゝろえ小説家せうせつかがあつたさうだが、あるわか御新造ごしんぞう羽織はをり幾枚いくまいこしらへても、実家じつかもんを附けるのを隣の老婢ばあやあやしんでたづねると
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
この地衣こけのために、いははいろ/\うつくしい模樣もようもんあらはしてゐます。日本につぽんでは木曾きそ御嶽おんたけこまたけはこのたい位置いちがよくわかります。このたい上部じようぶはそれこそ地衣こけもないはだかのまゝの岩石がんせきです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
かあさんは、たんすのひきだしにしまってあった、浅黄木綿あさぎもめんおおきなふろしきをして、さおにかけ、あきしていられました。ふろしきをひろげると、しろめぬいたもんえました。
夕雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
太郎「なるほどそうかねえ、道理どうり清正きよまさもんとおんなじだとおもつたよ」
今回の挿圖中右の上のすみの三個と右の下の隅の一との他、周圍しうゐに寫したるものは總て土器の把手とつてなり。其かたちもん實に名状めふでうすべからず。コロボックル美術びじゆつ標本ひようほんたるの價値かちよく充分なりと云ふべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
今日けふならではの花盛はなざかりに、上野うへのをはじめ墨田川すみだがはへかけて夫婦ふうふづれをたのしみ、隨分ずいぶんともかぎりの体裁ていさいをつくりて、つてきの一てう良人おつと黒紬くろつむぎもんつき羽織ばをり女房にようぼうたゞすぢ博多はかたおびしめて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
都会の小児などは月中のうさぎの絵か、そうでなければ家のもんに、杵と称して横に柄をつけぬものを見るくらいになっているが、是は一言でいうと『和漢三才図会わかんさんさいずえ』時代以後、二百年足らずの間の変遷で
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お袖は其処ではおもんと云うことにしていたので驚いた。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
牡丹餅大ぼたもちだいもんをつけたのが
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「買ってもらいたいのは、ジャガタラの品物じゃありません。武田菱たけだびしもんをうった、りっぱな人間です。どうです、ご相談にのりませんか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幼稚園へ行く七つになる男の子が、ともえもんのついた陣太鼓じんだいこのようなものを持って来て、宵子よいこさん叩かして上げるからおいでと連れて行った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
当時有名な煙管商、住吉屋七兵衛すみよしやしちべえの手に成った、金無垢地きんむくじに、剣梅鉢けんうめばちもんぢらしと云う、数寄すきらした煙管きせるである。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
せなかに大きな桔梗ききょうもんのついた夜具やぐをのっしりと着込きこんで鼠色ねずみいろふくろのようなはかまをどふっとはいておりました。そして大きな青いしま財布さいふを出して
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
支配人の用助さんは私より三つ年上の五十四で、養子の金三郎さんは二十五、ゆくゆくは主人のめいのおもんさんと嫁合めあわせることになっておりますが——
豐岡とよをかからあひだ夕雲ゆふぐも低迷ていめいして小浪さゝなみ浮織うきおりもんいた、漫々まん/\たる練絹ねりぎぬに、汽車きしやまどからをのばせば、あし葉越はごしに、さはるとれさうなおもひとほつた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
取寄とりよせ忠八に渡し此品にて候と云にぞ忠八手に取て一目見に黒地くろぢに金にて丸に三ツ引のもんちらし紛ふ方なき主人喜内が常に腰に提られし印籠なれば思ずなんだ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ひがしもんからはひつて、露店ろてん參詣人さんけいにんとの雜沓ざつたふするなかを、あふひもんまく威勢ゐせいせた八足門はつそくもんまへまでくと、むかうから群衆ぐんしうけて、たか武士ぶしがやつてた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
もうし。お寒うはござりませぬか」笛を置いた若衆の左の手が、仰向あおむけになっている甘利の左の胸を軽くおさえた。ちょうど浅葱色あさぎいろあわせもんの染めいてある辺である。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
黒毛繻子じゅすがはやりだした時分なので、加賀もん(赤や、青や、金の色糸で縫った紋)をつけた赤い裏の羽織、黒羅紗ラシャのマントル(赤裏)を着て下駄は鈴のはいったポックリだ。
一つの扉にはあおいもんがあって、中に「贈正一位大相国公尊儀」と刻し、もう一つの方は梅鉢うめばちの紋で、中央に「帰真 松誉貞玉信女霊位」とり、その右に「元文げんぶん二年年」
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
春章がしばらくの図はたちばなもん染抜きたる花道の揚幕あげまくうしろにしてだいなる素袍すおうの両袖さなが蝙蝠こうもりつばさひろげたるが如き『しばらく』を真正面よりえがきしものにて、余はその意匠の奇抜なるに一驚せり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ズツと頭巾ずきんを取るととしころは廿五六にもなりませうか、色の浅黒あさぐろい髪の毛の光沢つやいちよいと銀杏返いてふがへしにひまして、京縮緬きやうちりめん小紋織こもんおり衣類いるゐうへには黒縮緬くろちりめんの小さいもんつい羽織はおり
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ただ城楼じょうろう高きところ——さがふじ大久保家おおくぼけ差物さしものと、淡墨色うすずみいろにまるくめたあおいもんはたじるしとが目あたらしく翩翻へんぽんとしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えらいだろう。ところが一つえらくないことがあるんだ。何でも何代目かの人が、君に裏切りとかをしたということだ。家のもん井桁いげたの中に菊の紋だ。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
る、まへへ、黄色きいろ提灯ちやうちんながれて、がたりとあをつた函車はこぐるま曳出ひきだすものあり。提灯ちやうちんにはあかしべで、くるまにはしろもんで、菊屋きくやみせ相違さうゐない。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それはが赤くてつるつるした緑青ろくしょういろの胸をもち、そのりんと張った胸には波形のうつくしいもんもありました。
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
掛たり引馬ひきうま一疋銀拵ぎんごしらへの茶辨當には高岡玄純付添ふ其餘は合羽籠兩掛等なり繼いて朱塗しゆぬりに十六葉のきくもんを付紫の化粧紐を掛たる先箱二ツ徒士五人打物うちもの
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)