おほい)” の例文
月は一庭のじゆらし、樹は一庭の影を落し、影と光と黒白こくびやく斑々はん/\としてにはつ。えんおほいなるかへでの如き影あり、金剛纂やつでの落せるなり。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
「イヤ、左様さう固く出られるとおほいに閉口する——お互様ぢや」と、客は無頓着むとんちやくに打ち笑ひ「知らぬ方でもないので、御邪魔に来ました」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
とこにも座敷ざしきにもかざりといつてはいが、柱立はしらだち見事みごとな、たゝみかたい、おほいなる、自在鍵じざいかぎこひうろこ黄金造こがねづくりであるかとおもはるるつやつた
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これもロメオを書きし恋愛に対する極致と趣を一にして、唯だ是にては他におほいなる不完全不調子の実現を備へたる点に於て異なるのみ。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
汲ませ玉へやといふ先に家のおほいなるに合せ奮發したる茶代の高こゝに至ツて光を放ちぬしかしながら此家は夫是それこれの事に拘はらず山を祝ふて酒を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
我々われ/\まちはなし面白おもしろい、知識ちしきのある人間にんげん皆無かいむなのは、じつ遺憾ゐかんなことぢやりませんか。これ我々われ/\つておほいなる不幸ふかうです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
勿論もちろんそれはさつきから、彼に秋波を送つてゐる芸者だつた。彼はおほいに嬉しかつたから、両手でしつかりその芸者を抱いた。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そこで将門興世王をおほいに恨んで、京に馳せ上つて、将門興世王謀反のくはだてを致し居る由を太政官に訴へた。六孫王の言であるから忽ち信ぜられた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
又「帰後已一年」と云つてあるのも、十二箇月に満ちた一年とは看做みなされない。したがつて切角の自註が考拠上におほいなる用をばなさぬのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
呉起ごきここおいて、さんとほつし、つひ其妻そのつまころし、もつせいくみせざるをあきらかにす。つひもつしやうとなす。しやうとしてせいめ、おほいこれやぶる。
この時彼のちひさき胸は破れんとするばかりとどろけり。なかばかつて覚えざる可羞はづかしさの為に、半はにはかおほいなる希望のぞみの宿りたるが為に。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
したがつこゝ堅實けんじつなる基礎きそ出來でき以上いじやう基礎きそうへつて今後こんごおほい日本にほん産業さんげふ振興しんこう貿易ぼうえき發達はつたつはかつてくことが、吾々われ/\政府せいふ責務せきむであり
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
『それ發射はつしや!。』とわたくしさけ瞬間しゆんかん日出雄少年ひでをせうねんすかさず三發さんぱつまで小銃せうじう發射はつしやしたが、猛狒ゴリラ平氣へいきだ。武村兵曹たけむらへいそうおほいいかつて
その夕方電話で北門の校正にはいることが出来て社内の小使ひ部屋の三畳に寄寓するとらせて来た、月給は九円だがおほいに助かつたとよろこんだ電話だ。
札幌時代の石川啄木 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
もとより戯曲には種々の規則あり、罪過を以つて唯一の規則となすは不可なるべしといへども、これが為めに罪過は不用なりと言ふあらばおほいに不可なるが如し。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
辛未かのとひつじ、皇太子、使をまたして飢者を視しむ。使者かへり来て曰く、飢者既にまかりぬ。ここに皇太子おほいこれを悲しみ、則ちりて以て当処そのところほふりをさめしむ。つかつきかたむ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それが其頃大阪に居た慶喜公の耳に聞えた。そこで公は心おほいたひらかならず、更に薩長彈劾の奏をたてまつる、さアそんな事を聞くと江戸でもじツとしては居られない。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
食指しよくしおほいに動くと云ふことばは彼等に適切である。食ひ終つた指は洗ふ代りに綺麗にめて仕舞しまふ。贅沢ぜいたく連中れんぢゆうは食後に青い椰子やしの実をなたいて核の中の水を吸ふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
おほいなる都會をうづつくさうとする埃!………其の埃は今日も東京の空にみなぎツて、目路めじはてはぼやけて、ヂリ/″\り付ける天日てんぴがされたやうになツてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
やが今度こんどは、あいちやんがあたましたへやり、ふたゝはじめやうとすると針鼠はりねずみが、自分じぶん仲間外なかまはづれにしたとつておほいいかり、まさらうとする素振そぶりえました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
持行もちゆきせければ利兵衞の妻は見覺えのあるおきくかんざしなるゆゑおほいおどろき夫利兵衞にかくげしに利兵衞も是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
□大阪には文芸同攻会と云ふものが起つた、読売に「母」を書いた石丸梅外氏などの発起でおほいに関西芸術の振興に努めて大阪を英のダブリンにしようとする計画だ。
TZSCHALLAPPOKO (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
彼奴きやつる、どうして彼奴きやつ自分じぶんさきさきへとはるだらう、ま/\しいやつだとおほいしやくさはつたが、さりとて引返ひきかへすのはいやだし、如何どうしてれやうと
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
自分じぶんの一心理しんり標準へうじゆんとし、これたゞしいものと獨斷どくだんして、の一心理しんり否認ひにんすることは兎角とかく誤妄ごもうおちいるのおそれがある。これはおほい考慮かうりよしなければならぬことである。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
文珠岩の如きはじつに奇中のたるものなり、要するに人跡未到のなるを以て、動植物及鉱物共におほいに得る所あらんとするをせしなれ共、右の如く別に珍奇ちんきなる者を発見はつけんせざりき
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
来青花そのおほいさ桃花の如く六瓣にして、其の色はくわうならずはくならず恰も琢磨したる象牙の如し。しかして花瓣の肉はなはだ厚く、ほのかに臙脂の隈取くまどりをなせるは正に佳人の爪紅つまべにを施したるに譬ふべし。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
東方聖人は此聲このこゑを聞きながら星を考へ、おほいなる代の近づくを察したらずや。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
おほいに、イヤ、多少間違つて居るのでは有るまいかと、私には思はれます。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
蓋しおほいなる国民は大なる英雄を奉じ、小なる国民は小なる英雄を奉ず、此理必しもカライル氏を待ちて後に知る程の秘密に非ず、国民の理想とするところ低くんば、其国民も亦低からざるを得ず
先方せんぱうではおほい恐縮きようしゆくして、いろ/\相談さうだんすゑ名高なだか針醫はりいなくなつて、藥箱くすりばこ不用ふようになつてゐたのをり、それを療法れうはふれいとしておくつてたのが、この藥箱くすりばこで、見事みごと彫刻てうこくがしてあつて
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
著者はやむを得ず煤煙の切抜帳をいだいて、おほいまらながつてゐた。
『煤煙』の序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おほいに意味のありさうな事を云つて、三田をいやがらせた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
無慙なるかなおほいなる驚異ぞわれの眼に映る
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
二人はそれからおほいに論じ合つた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
手に手に、おほいなる雁を
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
おゝい、おゝい、母屋おもやつどへる人數にんずには、たらひたゞ一枚いちまいおほいなる睡蓮れんげしろはなに、うつくしきひとみありて、すら/\とながりきとか。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
唯だ夫れこの心の世界かくの如く広く、斯の如くおほいに、森羅万象を包みて余すことなく、而してこの広大なる心が来り臨みて人間のうちにある時に
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
それに梅子などはどうやら其の僻論へきろんに感染して居るらしいので、おほいに其の不心得を叱つたことだ、ことに近頃彼女あれの結婚について相談最中のであるから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しない所か、何時でも正反対になつて現れる。だから、彼はおほいに強硬な意志を持つてゐると、必ずそれに反比例する、如何にも柔しい声を出した。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
景公けいこう穰苴じやうしよしてとも兵事へいじかたり、おほいこれよろこび、もつ將軍しやうぐんし、へいひきゐてえんしんふせがしむ。穰苴じやうしよいは
いやわたくし哲學者てつがくしやでもなんでもい。が、これ主張しゆちやうするのは、おほい各人かくじん義務ぎむだらうとおもふのです、これ道理だうりことで。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あやしと見返れば、更に怪し! 芳芬ほうふん鼻をちて、一朶いちだ白百合しろゆりおほい人面じんめんごときが、満開のはなびらを垂れて肩にかかれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「元大阪町名倉彌次兵衞やじべゑと申候而、此節高名の骨接ほねつぎ醫師、おほいに流行にて、日々八十人九十人位づゝ怪我人參候故、早朝參候而も順繰に待居候間、終日かゝり申候。」
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
筑摩川春ゆく水はすみにけり消て幾日いくかの峯の白雪とは順徳院じゆんとくゐん御製ぎよせいとかおほいなる石の上にて女きぬあらふ波に捲きとられずやと氣遣きづかはる向の岸のかたに此川へ流れ入る流に水車みづぐるま
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさその性質せいしつからいつても、かゝる擧動きよどうでたのはおほいするところがあつたに相違さうゐない。
それでアツと云はせようなどと云ふものだから、自分と松岡とはおほいに久米を信頼して居た所、その当日が来ても所謂新作狂言なるものは出来ないので仕方なく狂言の本を見て
学生時代の久米正雄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
洋々やう/\たるナイルかは荒漠くわうばくたるサハラの沙漠さばく是等これらおほい化物思想ばけものしさう發達はつたつうながした。埃及えじぷと神樣かみさまには化物ばけもの澤山たくさんある。しかこれ希臘ぎりしやくと餘程よほどことなり、かへつて日本にほんる。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
退しりぞき宿へ歸りて女房にようばう御内命ごないめいおもぶきを申し聞せければ妻女おほいよろこびさりながら御本腹ごほんぷく若君わかぎみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
天高けれども報尽きては宝殿忽地たちまちに崩れ、魔王の十善、善おほいなればとてくわ窮まれば業苦早くも逼る、人間五十年の石火の如くなるのみならず天上幾万歳も電光に等しかるべし
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
きこそもの上手じやうずとやらで、自分じぶん學課がくゝわうちでは同級生どうきふせいうち自分じぶんおよぶものがない。數學すうがくとなら、はゞかりながらたれでもいなんて、自分じぶんおほい得意とくいがつてたのである。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)