大事だいじ)” の例文
ぽう、おばあさんは、ほんとうに居眠いねむりをしてしまいました。そして大事だいじ財布さいふを、むしろのしたれたことをわすれてしまいました。
善いことをした喜び (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかしながらむかし歌人かじんは、あきかなしいものだとかんじることの出來できるのは、自分じぶん歌人かじんとしての大事だいじ資格しかくだとおもつてゐました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
りや大層たいそう大事だいじにしてあるな」醫者いしやきたな手拭てぬぐひをとつて勘次かんじひぢた。てつ火箸ひばしつたあとゆびごとくほのかにふくれてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
吹聽ふいちやうするに疑ひなし其上長屋中へ錢金ぜにかね用立家主へも金をかすゆゑ勘太郎を二なき者の樣におもひ我々如き後生ごしやう大事だいじと渡世する者は貧乏びんばふ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
みなさんこんないろ/\のわけをおはなししたら、われ/\がおたがひに、いまそだつてゐるすべての老樹ろうじゆ名木めいぼくを、ます/\大事だいじにして
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
これはらぬと力足ちからあしふみこたゆる途端とたん、さのみにおもはざりし前鼻緒まへはなをのずる/\とけて、かさよりもこれこそ一の大事だいじりぬ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それでも風俗ふうのかはつたかた被入いらつしやいますと、大事だいじにしてお辞義じぎをすることだけはつてゞございますが、御挨拶ごあいさつをいたしませんね。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『オヤ、其處そこれの大事だいじはなあるいてつてよ』通常なみ/\ならぬおほきな肉汁スープなべそばんでて、まさにそれをつてつてしまつたのです。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
これはわたくし大事だいじしなでございまして、当時いま零落おちぶれまして、を高くはうといふ人がございますけれども、なか/\手離てばなしませぬで……。
松王さまは小半時ほど、焼跡の検分などをお手伝い下さいましたが、もはや大事だいじもあるまいとの事で、間もなく引揚げておいでになりました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
但しこれが他に知れると由々敷ゆゆし大事だいじであるから絶対秘密を守るようにという条件を持ち出されたことが認められてあった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わしのをひの、おとうとの! おゝ、御領主とのさま! おゝ、をひよ! わがつま! おゝ、大事だいじの/\、親族うから血汐ちしほながされてゐる! 公平こうへい御領主ごりゃうしゅさま
中納言ちゅうなごんはさっそく天子てんしさまの御所ごしょがって、大事だいじむすめ大江山おおえやまおにられたことをくわしくもうげて、どうぞ一にちもはやくおに退治たいじして
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
けれどもそんなことでもしようとうんです。僕あなたくらい大事だいじなものは世界中せかいじゅうないんです。どうか僕をあいしてください
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いつか時節じせつたら、あなたにはきっとなん大事だいじのお仕事しごとさずけられますよ。うぞそのつもりで、今後こんごもしっかり修行しゅぎょうせいしてください。
コスモとコスマとは、人形を大事だいじにかかえて、故郷こきょうかえっていきました。たくさんもらったお金を、半分ばかり、ターコール僧正そうじょうへおくりました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「おまえ道端みちばたじゃせられないというから、わざわざ駕籠かごいそがせて、ここまでたんだよ。さ大事だいじふみを、すこしでもはやせてもらいましょう」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
折角せつかく、お大事だいじになせえよ。おいらは、これでやつと蘇生いきかへつたわけさ。まるで火炮ひあぶりにでもなつてゐるやうだつたんでね」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
それにあるこーる、えーてるとうごと一時いちじひろがるものがちかくにあるとき、すぐ大事だいじ惹起ひきおこすにいたることがおほい。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
そこで少女をとめにふさはしい髮飾かみかざりや衣裳いしようをさせましたが、大事だいじですから、いへおくにかこつてそとへはすこしもさずに、いよ/\こゝろれてやしなひました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
それまでは、あるいは義貞もまだ“つめ大事だいじ”に迷うところもあったであろう。が、詰手は幾つもあるものではない。徐々じょじょかんか、電撃の急かである。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雲飛うんぴおどろいて『んだことを言はるゝ、これは拙者せつしや永年ながねん祕藏ひざうして居るので、生命いのちにかけて大事だいじにして居るのです』
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
見神の一義に君は到頭とうとう精力せいりょく傾注けいちゅうせずに居られなくなったのである。しかして生涯の大事だいじ、生存の目的を果したので、君は軽く肉のころもを脱いだのであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
くらなかから大事だいじさうにしてたと所作しよさくはへてかんがへると、自分じぶんつてゐたときよりはたしかに十ばい以上いじやうたつといしなやうながめられただけであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さりながら人気じんき奴隷どれいとなるも畢竟ひつきやう俗物ぞくぶつ済度さいどといふ殊勝しゆしようらしきおくがあればあなが無用むようばゝるにあらず、かへつ中々なか/\大事だいじけつして等閑なほざりにしがたし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
が、やがて不意ふい松葉まつばからはなれるとはちはぶんとあがつた。三にんははつとどよめいた。けれども、はち大事だいじ犧牲ぎせい蜘蛛くも死骸しがい警戒けいかいしにつたのだつた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
なによりも大事だいじな、たった一つの武器ぶきとも思っていたランプが、メチャメチャになってしまったのである。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
『これは大事だいじにしてくがいゝ。東京とうきやうつたら、おまへ本箱ほんばこのひきだしにでもれてくがいゝ。』
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
はじめは人間の子のニールスをきらっていましたが、のちにはニールスのちえと親切しんせつに感心して、「オヤユビ太郎」とか「オヤユビくん」と呼んで大事だいじにしています。
ふと、あるひわらひとがあるかもれぬ。が、それ秘密ひみつがなかつたをりのことで、つたら、それこそ大事だいじだ。わたしむし此不安このふあんすために、そつと四畳半でふはん忍込しのびこんだ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
船中の人々は今を興たけなわの時なりければ、河童かっぱを殺せ、なぐり殺せとひしめき合い、荒立ちしが、長者ちょうじゃげんに従いて、皆々おだやかに解散し、大事だいじに至らざりしこそ幸いなれ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
毎号まいがう三千さんぜんづゝもるやうなわけで、いまつとめて拡張かくちやうすれば非常ひじやうなものであつたのを、無勘定むかんじやう面白半分おもしろはんぶんつてために、つひ大事だいじらせたとはのちにぞ思合おもひあはされたのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
だってあたし知ってるけど、あそこには小さな舞台があるのよ。あの舞台があたし大事だいじだと思っているの。——まあ、つまりね、とても類のないような宴会にしてみたいわ。
もう一つのタイプは、京都と堺、とりわけ堺自由市の富有の商人の女室にょしつで、このほうは機才にこそは乏しいが直情純真で冒険を好み、あっというような大事だいじをやってのける。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
さりとてこの大事だいじ生命いのちつなを、むさ/″\海中かいちう投棄なげすてるにはしのびず、なるべくていすみほう押遣おしやつて、またもや四五にちまへのあはれな有樣ありさま繰返くりかへして一夜いちやあかしたが、翌朝よくあさになると
しんの心は、要らないどころか、大事だいじで大事でならないものを、うるさいなどゝあんまり世間並せけんなみなことを仰言るな、あなたのめぐまれた母の愛を、なほこのうへとも眞面目まじめにお大切たいせつになさいまし。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「もう日が暮れるのに間もあるまい。今夜はお前達に大事だいじの仕事があるんだよ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これはふたつとも、わたしのいちばん大事だいじ道具どうぐのはいっている大戸棚おおとだなのかぎだ。これはふだん使わない金銀の皿を入れた戸棚のかぎだ。これは金貨きんかと銀貨をいっぱい入れた金庫きんこのかぎだ。
青ひげ (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
しかもあかじみた萌黄色もえぎいろ毛絲けいと襟卷えりまきがだらりとさがつたひざうへには、おほきな風呂敷包ふろしきづつみがあつた。そのまたつつみをいた霜燒しもやけのなかには、三とう赤切符あかぎつぷ大事だいじさうにしつかりにぎられてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
……これほどの大事だいじが解らんか、断頭台が目に入らんか……馬鹿ッ!
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
と、玄竹げんちく天下てんかの一大事だいじかたるやうに、こゑひそめてつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
小林夫人と大事だいじの如く語り合はれさふらひけん。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
 て二のこる、かねゆへ大事だいじ忠兵衛ちゆうべえ
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
名譽めいよ大事だいじだ。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
大事だいじなおつきさま
お月さまいくつ (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして、おやたちは、みんな子供こども大事だいじにしなければならないとおもいますのに、いつか自分じぶんたちのことにかまけて、わすれてしまいます。
いいおじいさんの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
稽古けいこ引取ひきとつてからでも充分じうぶんさせられるから其心配そのしんぱいらぬこと兎角とかくくれさへすれば大事だいじにしてかうからとそれそれのつくやう催促さいそくして
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
松王さまは小半時ほど、焼跡の検分などをお手伝ひ下さいましたが、もはや大事だいじもあるまいとの事で、間もなく引揚げておいでになりました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
かくしてくにも、なんなかも、どんなはこ安心あんしんならず……じやうをさせば、此處こゝ大事だいじしまつてあると吹聽ふいちやうするも同一おなじります。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ロレ はれ、それは物怪もっけ不運ふうんの! 眞實しんじつ重大ぢゅうだい容易ようゐならぬ用向ようむきその書面しょめん、それが等閑なほざりになったうへは、どのやうな一大事だいじ出來でけうもれぬ。