はな)” の例文
それは、ひろい、さびしい野原のはらでありました。まちからも、むらからも、とおはなれていまして、人間にんげんのめったにゆかないところであります。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
越前ゑちぜん武生たけふの、わびしい旅宿やどの、ゆきうもれたのきはなれて、二ちやうばかりもすゝんだとき吹雪ふゞき行惱ゆきなやみながら、わたしは——おもひました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
糟谷かすや西洋葉巻せいようはまきを口からはなさないのと、へたの横好よこずきにを打つくらいが道楽どうらくであるから、老人側ろうじんがわにも若い人のがわにもほめられる。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
やうやあさはなれてそら居据ゐすわつた。すべてのものあかるいひかりへた。しかしながら周圍しうゐ何處いづこにも活々いき/\したみどりえてうつらなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この泉はれた晩には、下からはっきり見えます。天の川の西の岸から、よほどはなれたところに、青い小さな星で円くかこまれてあります。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
なにかが、アンネ・リスベットのからだから、ふわふわとはなれて、海の底へもどっていきました。いうまでもなく、浜のゆうれいです。
クラリオネットとラッパの音とが、はなれたりもつれたり、何か見知らぬ遠い国からきこえて来るゆめのようなひびきをつたえて来ます。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
貝塚の中よりは用に堪えざる土噐の破片出で、又折れ碎けたる石噐出づ。獸類じうるい遺骨いこつ四肢ししところことにし二枚貝は百中の九十九迄はなれたり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
私はいつもパイプを口からはなしたことのないレエノルズさんのことを思い出した。そして今の人影はその老医師にちがいないと思った。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
はややくにもたたぬ現世げんせ執着しゅうちゃくからはなれるよう、しっかりと修行しゅぎょうをしてもらいますぞ! 執着しゅうじゃくのこっているかぎ何事なにごともだめじゃ……。
女は器を受け取って、その玉をとり出そうとしますと、玉は器の底にかたくくっついてしまって、どんなにしてもはなれませんでした。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
芋蟲いもむしあいちやんとはたがひしばらだまつてにらめをしてましたが、つひ芋蟲いもむし其口そのくちから煙管きせるはなして、したッたるいやうなねむさうなこゑ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
大きなおしろがそびえ立ち、ひくかべはなにかこまれた中庭には、美しく石がしきつめてあって、古風こふう庭園ていえんはいかにも優雅ゆうがです。
今日こんにち二人ふたりの境界は其時分じぶんとは、大分はなれてた。さうして、其離れて、ちかづくみちを見出しにくい事実を、双方共に腹のなかで心得てゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
吾等われら喫驚びつくりして其方そなた振向ふりむくと、此時このとき吾等われらてるところより、大約およそ二百ヤードばかりはなれたもりなかから、突然とつぜんあらはれて二個ふたりひとがある。
文字に霊ありや無しやを、彼は自力で解決せねばならぬ。博士は書物をはなれ、ただ一つの文字を前に、終日それとにらめっこをして過した。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そのうちで、よるひるもぶっとほしにいへそばはなれずに、どうにかして赫映姫かぐやひめつてこゝろざしせようとおも熱心家ねつしんか五人ごにんありました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
具足のおどし濃藍こいあいで、魚目うなめはいかにも堅そうだし、そして胴の上縁うわべりはな山路やまみちであッさり囲まれ、その中には根笹ねざさのくずしが打たれてある。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
〔譯〕死を畏るゝは生後の情なり、躯殼くかく有つて後にの情あり。死を畏れざるは生前の性なり、躯殼くかくはなれて始て是の性を見る。
ちょうど手摺がこしの辺に、あたります。はなれかかった足指には、力が一杯いっぱい、入っています。「神様!」ぼくは泣いていたかもしれません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
あゝ貴君あなたのやうにもないおりき無理むりにも商買しようばいしてられるは此力このちからおぼさぬか、わたし酒氣さかけはなれたら坐敷ざしきは三昧堂まいどうのやうにりませう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お妙は、どう考えても、はなしともない喬之助であったが、愛すれば愛するだけに、逮捕たいほの危険にさらしておきたくないのである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とこのはなわざにさすがの新九郎も、驚いて振り顧る途端、既に夜叉王の如く眼を怒らした吉祥房の杖がうなりを生じて頭上へ来た。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勿論彼は密送前みつそうまへから本葬にかゝるまで十も、あによめの弟にあたる人のいへの二かいはなれに閉籠とぢこもつてゐて叮重ていちやうにされゝばされるほど気が痛んだ。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そのとき杜松ねずがザワザワとうごして、えだえだが、まるでってよろこんでいるように、いたり、はなれたり、しました。
近衞家このゑけ京武士みやこぶしは、綺麗きれいあふぎで、のツぺりしたかほおほひつゝ、片手かたてなはまんで、三げんはなれたところから、鼻聲はなごゑした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
はなれさうではなれないつばめむれは、細長ほそながかたちになつたり、まるかたちになつたりして、むらそらたかいところをそろつてつてます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
遠くはなれて食べる事に困らないと、君がどんな風に食べているンだろうと云う事が案ぜられるのだ。まだ一度も君から手紙を貰っていない。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
かような場合ばあひかへりみると、屋外おくがい避難ひなんしてなる場合ばあひは、わづか二三秒にさんびよう軒下のきしたはなれることが出來できるような位置いちにあるときにかぎるようである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
芸妓げいこは一寸頭を下げて、紙包みを長いたもとの中にしまひ込んだ。商人あきんどは自分ながら江戸つ児のはなれのよいのに満足したやうににつと笑つた。
よしうでないにせい、まへのは最早もう絶滅だめぢゃ、いや、絶滅だめ同樣どうやうぢゃ、はなれてんでござって、貴孃こなたのまゝにならぬによって。
はちはそれにとまつてしばらをつと氣配けはいうかゞつてゐるらしかつたが、それが身動みうごきもしないのをると、死骸しがいはなれてすぐちかくの地面ぢべたりた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
柳吉は反対側のかべにしがみついたままはなれず、口も利けなかった。おたがいの心にその時、えらい駈落ちをしてしまったというくい一瞬いっしゅんあった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
まえにもいったとおり、ヘクザ館は人里ひとざとはなれた山岳地帯にあるのだから、こうなっては、辞去じきょすることもできないのである。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
出して渡せばしかと懷中して則ち頭にさせくしを出し是はお前樣も知る通り我が爲に千金にもかへがたき母の紀念かたみにして片時もはなさず祕藏ひざうの品此櫛このくし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
手本てほんもとにして生意氣なまいきにも實物じつぶつ寫生しやせいこゝろみ、さいは自分じぶんたくから一丁ばかりはなれた桑園くはゞたけなか借馬屋しやくばやがあるので、幾度いくたびとなく其處そこうまやかよつた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
彼はちょっとおどろいて一度遊びに来るようにいって、そのまま別れたときから、いっそうかれのことが頭からはなれなかった。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ミカン類の果実をいて見ると、表面の皮がまず容易にとれる。その中には俗にいうミカンのふくろ輪列りんれつしていて、これをはなせば個々に分かれる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
さうしてかれ此頃このごろたり、いたりしたことかんがへやうとおもふたが、如何どうしたものか猶且やはり、ミハイル、アウエリヤヌヰチがあたまからはなれぬのでつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わたしは、わきへよけた。父は手綱を引いて、ジナイーダから身をはなし、彼女は静かに父を見上げた。——そのまま二人は、け去ってしまった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
およしん化物ばけものといふものは、何處どこ部分ぶぶんはなしても、一しゆ異樣いやう形相げうさうで、全體ぜんたいとしては渾然こんぜんしゆまとまつたかたちしたものでなければならない。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
すると一心いつしんとほりましてか、満願まんぐわんの日に梅喜ばいきは疲れ果てゝ賽銭箱さいせんばこそば打倒ぶつたふれてしまふうちに、カア/\と黎明しのゝめつぐからす諸共もろとも白々しら/\が明けはなれますと
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
はなれに行ったら、これがおばあさまか、これがおとうさんか、おかあさんかとおどろくほどにみんな変わっていた。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すべての恋する人々は、自分等以外に全く人影ひとかげのないはなれ小島の無人島で、心行くまで二人だけの生活をし、二人だけの会話をしたいと願うのである。
そして、だんだを踏みながら、その西瓜の様なものに食いついた。彼はそれを、はなしては喰いつき、離しては喰いつき、さも楽しげに踊りつづけた。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
運転手の手にハンドルが一寸ねじられると、物珍らしさにたかる村の子供のむれはなれて、自動車はふわりとすべり出した。村路そんろを出ぬけて青山街道に出る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
バスの音とソプラノの音とが、かずはなれずに縺れ合つて、高くなつたり低くなつたりして漂ふ間を、福富の肉聲が、浮いたり沈んだりして泳いでゐる。
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
いっしょに外に出かけるときには、そのそばをはなれませんでした。チロは駆けまわって、草の中に隠れたり、木に登ったり、石ころにじゃれたりしました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
かういふのがよいとかんがへるのは、實際じつさい生活せいかつからはなれたところに、文學ぶんがくがあるのだとするかんがへで、もういまひととは關係かんけいのない、優美ゆうびといふ趣味しゆみであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
こんな他愛のないことを考えることもある。それはとにかく、亀さんが鳥人になったらおそらく人並以上のはなわざを演じ得る名操縦士になったことであろう。
重兵衛さんの一家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)