)” の例文
るとぞつとする。こけのある鉛色なまりいろ生物いきもののやうに、まへにそれがうごいてゐる。あゝつてしまひたい。此手このてさはつたところいまはしい。
そして凝視ぎょうししているすずしいには深いかなしみの色がやどっていた。その眼で若者はさっきから一対いっついのおしどりをあかずながめていた。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「灰色のざらざらした者ではございますが、は小さくていつも笑ってゐるやう。頭には聖人のやうな立派なこぶが三つございます。」
月夜のけだもの (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
すると其時そのとき夕刊ゆふかん紙面しめんちてゐた外光ぐわいくわうが、突然とつぜん電燈でんとうひかりかはつて、すりわる何欄なにらんかの活字くわつじ意外いぐわいくらゐあざやかわたくしまへうかんでた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お濱の——うつたへるやうに平次を仰ぐ黒い眼は、夕立を浴びたやうにサツと濡れて、ハラハラとぬぐひもあへぬ涙が膝にこぼれました。
の前には沢山水が流れていましたが、黄いろい色をした泥水でした。道の向うに、赤いカーテンを窓にかけた喫茶店がありました。
あるときは、隣室りんしつてゐるKの夫人ふじんゆすおこされてましたが、彼女かのぢよにはそれがたんゆめとばかり、すことができなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
そのうつくしいそらうばはれてゐたを、ふと一ぽん小松こまつうへすと、わたし不思議ふしぎなものでも見付みつけたやうに、しばらくそれにらした。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「ぢやあそのきくやうとおもつて学校がくかうへおいで。はなにはね、ものをいはないからみゝこえないでも、そのかはりにはうつくしいよ。」
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのくぐって甲府へ出ることはそれほど難しいことでは無いが、元は優しいので弱虫弱虫とほか児童等こどもたちに云われたほどの源三には
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その先生がが悪くて書を読むことが出来ないから、私が色々な時勢論など、漢文で書いてある諸大家の書を読んで先生に聞かせる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そのうち最前からのつかれが出て、ついうとうと寝てしまった。何だか騒がしいので、が覚めた時はえっくそしまったと飛び上がった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おそろしくおほきないぬころが、おほきなまるをしてあいちやんを見下みおろしてました、あいちやんにさわらうとして前足まへあしを一ぽんおそる/\ばして。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
それがに余るようになれば、いくら人の好い庄造だって黙っていられないであろうし、おりんにしてもさじを投げるにきまっている。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
翌朝よくちょうセルゲイ、セルゲイチはここにて、熱心ねっしんに十字架じかむかって祈祷きとうささげ、自分等じぶんらさき院長いんちょうたりしひとわしたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
はやがさめても何時いつまでもるのがいゝか、おそがさめてもむつくりきるのがいゝか、そのことで兄弟きやうだいあらそつてました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「さうだ、まつたすね。わるくすると、明日あしたあめだぜ‥‥」と、わたしざまこたへた。河野かうのねむさうなやみなかにチラリとひかつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そして川岸から三十間ばかり上の方まで来た時、右手の岩の上の大きなかしの枝が、ザワ/\と動くのが逸早いちはやく与兵衛のに映りました。
山さち川さち (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
そのあひだうか牡蠣舟かきぶね苔取のりとり小舟こぶねも今は唯ひて江戸の昔を追回つゐくわいしやうとする人のにのみいさゝかの風趣を覚えさせるばかりである。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そして、その男とすれ違う時、ぎらぎらする二つの眼が丹治の方をにらむように光った。丹治はと見返すことができなかった。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それがみんながあがあ鳴きだしたものですから、騒々しいつたらありません。村人たちもみなをさまして、朝まで眠れませんでした。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
主君である人の、かいなまくらにしてをながめたつき、髪のこぼれかかった額つきが貴女きじょらしくえんで、西の対の夫人によく似ていた。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
冷静れいせいなる社会的しやくわいてきもつれば、ひとしく之れ土居どきよして土食どしよくする一ツあな蚯蚓みゝず蝤蠐おけらともがらなればいづれをたかしとしいづれをひくしとなさん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
なんだよう、わたし先刻さつきから見てゐると、おまへがこゝをつたりたりしてえるが、いてるからた人がるとおもつてゐたら
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
良人おっと自分じぶんまえ打死うちじにしたではないか……にくいのはあの北條ほうじょう……縦令たとえ何事なにごとがあろうとも、今更いまさらおめおめと親許おやもとなどに……。』
三田は、誰が見ても不思議な組合せに違ひ無い此の一連を、みんなが好奇のを以て見てゐるやうに思はれて、心がおちつかなかつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
電燈でんとうの光で明るい窓をみつめながら、じっと反応を待っている子供たちの、一人ひとりの顔が、先生にはに見えるように思えた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
無論むろんです、けれど本船ほんせん當番たうばん水夫すゐふやつに、こゝろやつです、一人ひとり茫然ぼんやりしてます、一人ひとりつてらぬかほをしてます。
「わたし、あなたの髪の毛をロケットに入れて、いつも身につけているわね」そう言った彼女のには、相変らず涙が光っていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
日本菓子はあんと砂糖の味ばかりで形だけを変えたのが多うございますから西洋人はる菓子だ、口で食べる菓子でないと申します。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
朝寝坊をしないで、早くからをさましておられると、朝の六時か七時ごろ、冬ならば、まだお日様が出ていない薄暗い時分から
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
今から一年程前、自分が旅に出て汝水のほとりに泊った夜のこと、一睡してから、ふとを覚ますと、戸外で誰かが我が名を呼んでいる。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
やせまつろうふたた春重はるしげかおもどったとき春重はるしげはおもむろに、ふところから何物なにものかを取出とりだしてまつろうはなさきにひけらかした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
と、朝倉先生は、飯島の言うことを肯定こうていするというよりは、むしろさえぎるように言って、をそらした。そしてちょっと思案したあと
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
勘次かんじにはかそびやかすやうにして木陰こかげやみた。かれ其處そこにおつぎの浴衣姿ゆかたすがた凝然じつとしてるのをむしろからはなれることはなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
手下てした野武士のぶしは、敵の三倍四倍もあるけれど、こう浮足うきあしだってしまっては、どうするすべもなかった。かれはやけ半分のをいからして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
盜みし當人のいでざる中は文右衞門の片口かたくちのみにてゆるわけには成り難く尤も百兩の紛失ふんじつは言掛りなしたる久兵衞こそあやしき者なれととく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
けれど小供こどもこそまこと審判官しんぱんくわんで、小供こどもにはたゞ變物かはりもの一人ひとりとしかえない。嬲物なぶりものにしてなぐさむに丁度ちやうどをとことしかえない。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
むかし江戸品川、藤茶屋ふじぢゃやのあたり、見るかげも無き草のいおりに、原田内助というおそろしくひげの濃い、の血走った中年の大男が住んでいた。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
おどろいてめたが、たしかにねここゑがする、ゆめかいか、はねきてたらまくらもとにはれい兒猫こねこすはつてゐた、どこからしのんでたのやら。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
行者は六十以上かとも見える老人で、弥助夫婦からその娘のことを詳しく聴いたのちに、かれはしばらくをとぢて考へてゐた。
単にを見合すだけで、一切の意味が了解りょうかいされる恋人こいびと同士の間には、普通の意味での言葉や会話は、全く必要がないのである。
すると、色とりどりのはなやかさがにうつりました。ゆかから天井てんじょうまで、まばゆいほどの色彩しきさいと金めっきをほどこした絵がかかっていました。
ほしなほり、ほしひめつむり宿やどったら、なんとあらう! ひめほゝうつくしさにはほし羞耻はにかまうぞ、日光にっくわうまへランプのやうに。
時うつりて生出いき(い)づ。をほそくひらき見るに、家と見しはもとありし荒野あらの一四二まい堂にて、黒き仏のみぞ立たせまします。
ちごを静かに寝床にうつして、女子をなごはやをらたちあがりぬ。ざしさだまりて口元かたく結びたるまゝ、畳の破れに足も取られず、心ざすは何物ぞ。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ラランのやつにだまされたとづいても、可哀かあいさうなペンペはそのえぐられた両方りやうほうからしたたらすばかりだつた。もうラランのばない。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
すべての愛を籠めたで見て上げたの——其で見ればどんな大僧正でも王様でも家来たちが皆見てゐる前で、私の足下に跪いてしまふのよ。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
しかし著物きものはみなくさつてしまつてのこつてをりませんが、かざものうち一番いちばんつのは、まづ勾玉まがたまその玉類たまるいであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
大森おほもり貝塚かひづかは、人類學研究者じんるゐがくけんきうしやから、もつと神聖しんせいなるとして尊敬そんけいせられてる。此所こゝ本邦ほんぽう最初さいしよ發見はつけんせられた石器時代せききじだい遺跡ゐせきであるからだ。