きみ)” の例文
がしかしその男がこの時ばかりは「きみ実際恐怖おそろしかったよ」と顔色を変えて私にはなしたくらいだから、当人は余程凄かったものだろう
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
「ああ、おとうさんとかわへいってってきたんだ。こんど、きみもいっしょにゆかない?」と、いきいきとしたかおげたのであります。
すいれんは咲いたが (新字新仮名) / 小川未明(著)
おまけに散々な目にわされて、最後には命までも落すようなことになった相手は、侍従じじゅうきみ、———世にう本院の侍従であった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
きことにしてかねやらんせうになれ行々ゆく/\つまにもせんと口惜くちをしきことかぎくにつけてもきみさまのことがなつかしくにまぎれてくに
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
女御が自慢にし、ほめられてもおいでになる幼内親王方の美を遠くこえた源氏の美貌びぼうを世間の人は言い現わすためにひかるきみと言った。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
『いや今日こんにちは、おゝきみ今日けふ顏色かほいろ昨日きのふよりもまたずツといですよ。まづ結構けつこうだ。』と、ミハイル、アウエリヤヌヰチは挨拶あいさつする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「三千代さんの心機を一転して、きみもとよりも倍以上に愛させる様にして、其上僕を蛇蝎の様ににくませさへすれば幾分かつぐなひにはなる」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「さればにてさふらふ別段べつだんこれまをしてきみすゝたてまつるほどのものもさふらはねど不圖ふと思附おもひつきたるは飼鳥かひどりさふらふあれあそばして御覽候ごらんさふらへ」といふ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
きみばかりでない、ぼく朋友ほういううち何人なんぴといま此名このな如何いかぼくこゝろふかい、やさしい、おだやかなひゞきつたへるかの消息せうそくらないのである。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いま敵國てきこくふかをかして、邦内はうない騷動さうどうし、士卒しそつさかひ(一七)暴露ばくろす。きみねてせきやすんぜず、くらうてあぢはひあましとせず。百せいめいみなきみかる。
A 馬鹿ばかつちやいかん。統計とうけい神聖しんせいだ。勝手かつて算出さんしゆつしてたまるもんか。それよりかきみおれ今度こんど年賀状ねんがじやう趣向しゆかうせてやらう。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
かつてわたしは、紫式部が、いろいろな女性を書いて来た後に、手習てならいきみ——浮舟うきふねを書いたことに、なんとなく心をひかれていた。
『はゝゝゝゝ。きみはまだわたくし妻子さいし御存ごぞんじなかつたのでしたね。これは失敬しつけい々々。』といそがはしく呼鈴よびりんらして、いりきたつた小間使こまづかひ
あま浮橋うきはしの上にて、山の神千二百生れたまふ也。この山の御神の母御名を一神いちがみきみと申す。此神産をして、三日までうぶ腹をあたためず。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「いつか斎宮いつきのみやへおいでの折、ちょうど来あわせていたのでございました。いつききみとその母子とは、冷泉家れいぜいけの歌の同門だそうでして」
この二人は、「くろ」よりもにやァ/\よりも、「きみ」よりも、だれよりも一ばん早くから、すゞ子のおあひてをしてゐるのです。
ぽつぽのお手帳 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
幼児をさなごたちはみな十字架クルス背負しよつて、しゆきみつかたてまつる。してみるとそのからだしゆ御体おんからだ、あたしにけてくださらなかつたその御体おんからだだ。
「だがね、きみ僕達ぼくたち仲間なかまをおよめにくれっていさえしなけりゃ、まあきみかおつきくらいどんなだって、こっちはかまわないよ。」
この時根津ねづ茗荷屋みょうがやという旅店りょてんがあった。その主人稲垣清蔵いながきせいぞう鳥羽とば稲垣家の重臣で、きみいさめてむねさかい、のがれて商人となったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それ大変たいへんだ、しかきみはまだ一めいがあるのが幸福しあはせだ、大原伊丹君抔おほはらいたみくんなど可愛想かあいそうにモルヒネを沢山たくさんませられたもんぢやから、到頭たうとう死んでしまつた。
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
さきの勞働者の唄ね、きみは何うおもふからないけれど、あれを聽いてゐて、僕はにつまされて何んだかきたくなるやうな氣がしたよ。」
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しな照る 片岡山かたをかやまに いひて こやせる 旅人たびとあはれ 親無おやなしに なれりけめや 剌竹さすたけの きみはやき いひて こやせる 旅人たびとあはれ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
しゅうたおのずとわたくしくちいてたのもそのときでございます。真嶺さねし、相摸さがむ小野おのに、ゆるの、火中ほなかちて、いしきみはも……。
神田かんだ神保町辺じんぼうちょうへんのあるカッフェに、おきみさんと云う女給仕がいる。年は十五とか十六とか云うが、見た所はもっと大人おとならしい。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おぢさんは、みんながたいへん可愛かあいい。このほんきみたちにんでもらひ、うたつてもらうためにいたのだ。金持かねもち子供こどもなんかまなくたつていい。
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
重い、ほう、天びんぼうがひとりでに、磁石じしゃくのようにきみの手へいて行った。太陽たいようマジックなんだほんとうに。うまい。
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さう言へば、山田寺は、きみ小角をづぬ」が山林仏教を創める最初の足代あししろになつた処だと言ふ伝へが、吉野や、葛城の修験しゆげんの間にも言はれてゐた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
「『きみはずかしめらるればしんす』ということさえある。臣が君より上席に坐れば、とりもなおさず臣が君を辱めることになる」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「未練の仰せなり、きみのおんいみなおかしてふせぎ矢つかまつるあいだ、此処はいかにもして浜松へ退きたまえ、ごめん」
死処 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
きみたちは、ただまっすぐに歩こうとばかりしてるからだめだ。自分のくせを知って、練習れんしゅうしなくちゃいけないよ」
風ばか (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
きみ遺族いぞく小穴君をあなくんなどがそれをもとめるけれど、きみほんかざれるやうなことがぼくけるものか。でもぼくはこのほんのためにたつたひとつだけは手柄てがらをしたよ。
「三つの宝」序に代へて (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
猫のお産の話を事細やかに説明して、「お産の取上爺とりあげじじいとなったのは弁慶と僕だけだろう。が、きょうきみよりは猫の方がよっぽどえらかった、」と手柄顔てがらがおをした。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「兄さんは矢張やつぱり叔母さんの生家さとへ知らずに買物に行つたのよ。三度も。なんでもハイカラな娘が居たなんて——きつとおきみさん(叔母さんのめひ)のことよ。」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この一舞踏ひとをどりんだなら、ひめ居處ゐどころけ、このいやしいを、きみ玉手ぎょくしゅれ、せめてもの男冥利をとこみゃうりにせう。
「位置を動かしちゃいけないいけない。誰か直ぐ交番へ。いやおきみちゃん、君が行ってくれるのが一番いい」
撞球室の七人 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
きみちやんや、かあさんがするからもういゝかげんにしておき、にいさんがはいれたさうだよ、よかつたねえ。』と、あとは自分自身じぶんじしんにいふやうに調子てうしおとして
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「そうかい。そいつは初耳はつみみだな。よしきた。そのけんもなお念入ねんいりにあらつてみろ。それからきみには、金魚屋きんぎょやとパチンコのことを調しらべてきてもらいたいんだがね」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
「どうしたね。わたしにさからえば、獅子ししだってこのとおりだ。きみもいいかげんにおそれいるがいいよ。」
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その翌朝、かんきみは道綱のところへ使いの者に、風邪気味で役所へ出られそうもありませんから一寸お出がけにでもお立ち寄り下さい、とことづけて来させた。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
以て明朝きみには御切腹ごせつぷくせがれ忠右衞門も自害致し死出しで三途さんづ露拂つゆはらつかまつるとの事武士の妻が御切腹ごせつぷくの事兼て覺悟かくごには御座候へども君に御別おんわかれ申其上愛子あいし先立さきだたれ何を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
朝戸出あさとできみ足結あゆひらす露原つゆはらはやでつつわれ裳裾もすそらさな 〔巻十一・二三五七〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
吾、醜しと見られし時、わがむねのいたみて、さびしく泣きたることいかばかりぞや。そのとききみひとり吾を憐みぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
大宮司の許へ来て盗人の詮議をしていたすけきみ文室広之ぶんやのひろゆきは、武士十人ばかりをやって豊雄を捕えさした。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
著者ちよしやはこのときかれ反問はんもんして、きみはこの町家ちようか平家建ひらやだておもつてゐるかといつてみたが、該學生がいがくせいつぶかた眞相しんそう了解りようかいしたのは、其状況そのじようきよう暫時ざんじ熟視じゆくししたのちのことであつた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
きみの袖乞いことばを真似るのがいやな者は、黙って門の外に立っているよりほかはなかった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
全體ぜんたい杉村君すぎむらくんきみはづぢやアなかツたのか』と水谷氏みづたにしは一むくゐると、杉村氏すぎむらし楚人冠そじんくわんりう警句けいくけて『るならるが、ないのにつたつてつまらないよ』とる。
八合目より一旦いったん七合に引返したりといえり、二人は山頂の光景を見て、如何いかに感じけん、予に向いて、いずくんぞこれ千島ちしまたぐいならんや、きみは如何にして越年を遂げんとするか
おれがきみたちをさがしたやうに、あせりあせり熱心ねっしん俺達おれたちしたのをってゐる
きみ、君。」新富座のまへで、やつと追ひついた。「話したいことがあるのだがねえ。」
火の鳥 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
けれどもなお、一枚一枚と見てゆくうちに、お雪ちゃんを憎らしいと思う心が、いつか知らず絵本の中の主人公に溶け込んで、ついには今様源氏のひかるきみが憎らしくなりました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)