つか)” の例文
そして、ここがいちばん安心あんしんだというふうに、あたまをかしげて、いままでさわいでつかれたからだを、じっとしてやすめるのでありました。
山へ帰ったやまがら (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、つかれてきたはねにバサバサとちからめて、ひつかうとするけれど、ラランのやつはさつさとさきびながら、いたもので
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
それはたべ物をとってしまっても啼くのをやめない。またやすまない。どうしてつかれないかと思うほどよく飛びまたよく啼くものだ。
康頼 わしはこの間も権現様に通夜つやをして祈りました。そして祈りつかれてうとうとしました。するとわしは不思議な夢を見たのです。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「へエ——、私はよろしう御座いますが、旦那がお氣の毒で、何しろ晝のつかれですつかり寢込んで居るところをやられたんですから」
そのうち最前からのつかれが出て、ついうとうと寝てしまった。何だか騒がしいので、が覚めた時はえっくそしまったと飛び上がった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頼光らいこうはそれをいてやっと安心あんしんしました。そしてしばらく小屋こやの中にはいって足のつかれをやすめました。そのときにんのおじいさんは
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
兵營へいえいからすでに十ちか行程かうていと、息詰いきづまるやうにしするよる空氣くうきと、ねむたさと空腹くうふくとにされて、兵士達へいしたちつかれきつてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
しなはやしいくつもぎて自分じぶんむらいそいだが、つかれもしたけれどものういやうな心持こゝろもちがして幾度いくたび路傍みちばたおろしてはやすみつゝたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
哀れな小さい囚人はかうして泣きつかれたあと、何時いつもそのうるんだまぶたに幽かな燐のにほひの沁み入る薄暗い空氣の氣はひを感じた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
でも、そのうちにつかれきって、とうとう、はたけ牧場まきばをとりかこんでいる、枝をられたヤナギの木立こだちのほうへおりていきました。
また他の時はすこしつかれを帯びたようにしずんで、不透明ふとうめいで、その皮膚ひふの底の方にはなんだか菫色すみれいろのようなものが漂っているように見えた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
かれ赤栗毛あかくりげの、すばらしいイギリス馬を持っていた。すらりと細長い首をして、よくびたあしをして、つかれを知らぬ荒馬あらうまだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そして、竹童はそのまえにつかれたからだをすえ、咲耶子はうちしおれて、紫蘭しらんのかおる黒髪くろかみを、あかい獣蝋じゅうろうのそばにうつむけていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私達わたしたちはその日一にち歩きまはつた。夕方ゆふがたには、自分達じぶんたちの歩いてゐる所は一たいどこなのだらうと思ふほどもう三半器官はんきくわんつかれてゐた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
少年こどもがこれを口にいれるのはゆび一本いつぽんうごかすほどのこともない、しかつかはてさま身動みうごきもしない、無花果いちじくほゝうへにのつたまゝである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
富田六段はいっこうつかれないが、かがみこんで相手のまわりをぐるぐるまわるモンクスのほうは、だんだん息が切れてくる。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
あいちやんはいまこそげるにときだとおもつてにはかにし、つひにはつかれていきれ、いぬころの遠吠とほゞえまつたきこえなくなるまではしつゞけました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
かべの小さい柱鏡につかれた僕の顔と、ほおのふくれた彼女の顔が並んだ。僕は沁々しみじみとした気持ちで彼女の抜きえりを女学生のようにめさせてやった。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
まちつかれた身體からだをそつと椅子いすにもたれて、しづかなしたみちをのぞこふとまどをのぞくと、窓際まどぎは川柳かはやなぎ青白あをしろほそよるまどうつくしくのびてた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
令史れいしいへ駿馬しゆんめあり。無類むるゐ逸物いちもつなり。つね愛矜あいきんして芻秣まぐさし、しきりまめましむれども、やせつかれて骨立こつりつはなはだし。擧家きよかこれをあやしみぬ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……乳母おんばさききゃれ。ひめにようつたへたもれ、家内中かないぢゅうはや就褥ねかしめさと被言おしゃれ、なげきにつかれたればむるはぢゃうぢゃ。ロミオは今直いますぐまゐらるゝ。
昨日きのふ興奮こうふんためにか、かれつかれて脱然ぐつたりして、不好不好いやいやながらつてゐる。かれゆびふるへてゐる。其顏そのかほてもあたまひどいたんでゐるとふのがわかる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
日出雄少年ひでをせうねん二名にめい水兵すいへいもくして一言いちげんなく、稻妻いなづま終夜よもすがらとうしにえたので餘程よほどつかれたとえ、わたくしかたわらよこたはつてる。
捕えたらあゝも云おう、うも云おうと意気んでいた泉原は、張詰はりつめた気がゆるむと、一時につかれを感じてきた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
なアに、痣蟹が竜宮劇場の裏口を通っていたのを発見して、また警官隊と銃火じゅうかまじえたのだそうだ。痣蟹はとうとう逃げてしまったので、つかもうけだ。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこで、いしころのおほ坂路さかみちあるいてもつかれないやうなつよあしちからが、木曾生きそうまれのうまには自然しぜんそなはつてるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
踏分々々ふみわけ/\たどり行て見ば殊の外なる大家なり吉兵衞は衣類いるゐ氷柱つらゝれ其上二日二夜海上にたゞよ食事しよくじもせざれば身體しんたいつかはて聲もふるへ/\戸のそとより案内を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そしてそのまままた少しお歩きになりましたが、まもなくひどくつかれておしまいになったので、とうとうつえにすがって一足ひとあし一足ひとあしお進みになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
博物館はくぶつかん見物けんぶつも、だいぶながくなつてみなさんもつかれたでせうが、わたしはなしくたびれました。まづこれで見物けんぶつをやめて、おちやでもむことにいたしませう。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
彼としては非常な大骨折おほゞねをりで、わづか二三日の間に、げツソリ頬の肉がけたと思はれるばかり體もつかれ心もつかれた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
もりはやしのあるところならよいが、つかれてもはねをやすめることもできず、おなかいてもなに一つべるものもない、ひろいひろい、それはおほきな、毎日まいにち毎晩まいばん
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
しかし、おなかがへって、からだがつかれてふらふらしてくると、清造はどこか道ばたの木の根でも、おどうえんにでも腰をおろして、ごろりと横になるのでした。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
恭助あるじいたつかれて禮服れいふくぬぎもへずよこるを、あれ貴郎あなた召物めしものだけはおあそばせ、れではいけませぬと羽織はをりをぬがせて、おびをもおくさまづからきて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのうちしかしもうまったつかれきってしまい、どうすること出来できずにぐったりとみずなかこごえてきました。
余は妻とこの住家すみかがして、東京から歩いて千歳村に来た。而して丁度其日の夕方に、つかれた足をきずって、正に此路を通って甲州街道に出たのであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ところが意地悪く門前の広場は坂から続いて同じような傾斜をなし、湿った柔い地面に車輪が食込んでしまうので、馬はつかれて到底とても一息には曳込む事が出来ない。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
春日はるひすらつかきみかなしも若草わかくさつまきみつかる 〔巻七・一二八五〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
くと、娘は力無い声で、昨日から食事をしないのでえにつかれ、水でも一口飲もうと、やっと渚まで来たが、いつの間にか気が遠くなってしまったというのでした。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かなしい時のもあれば、うれしい時のもある。つかれた時のもあれば、遠いいえのことを思う時のもある。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
日は昇っても人の通りはすくない秋の野路、それを半日も歩いていると、うえつかれで足が動かない。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「もう二時か、そろそろ眠くなってきたな、つかれもしたし、こん夜はこれでおしまいにしよう」
お客はあたたかいお酒をいただき、おいしい御馳走ごちそうはらいっぱいに食べました。そうして大満足だいまんぞくで、やわらかいふっくらとした布団の中へはいってつかれた手足をのばしました。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
暴徒に襲われるのはこれが始めてではなかったが、この時は最も困窮におちいった。糧道りょうどうが絶たれ、一同火食せざること七日におよんだ。さすがに、え、つかれ、病者も続出する。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ねんに一も、けたことなどのないおれんは、庭木戸にわきどたものの、すであしるまでにつかてて、くちなか菊之丞きくのじょうびながら、いまはもはやえられないあゆみを
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
自由豪放な青春の気はそのつかれた肉体や、おとろえた精神に金蛇銀蛇の赫耀かくようたる光をあたえる。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ぼくは、あるいはつかれすぎているのかもしれない。今日は、日記を書くのはもうやめよう。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
れつ先頭せんとう日章旗につしやうき揚々やう/\として肥馬ひままたが将軍しやうぐんたち、色蒼いろざざめつかてた兵士へいしむれ
神田帯屋小路の喧嘩渡世、茨右近方へ帰り着いた喬之助、べつだんつかれたようすもない。右近うこんと知らずのおげんは、この夜ふけまでどこへ行っているのか、家には誰もいなかった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「それは憂鬱病だよ、ジエィン。あんまり興奮しすぎたのか、でなけりやつかれすぎだ。」