こころ)” の例文
わたくしやうやくほつとしたこころもちになつて、卷煙草まきたばこをつけながら、はじめものうまぶたをあげて、まへせきこしおろしてゐた小娘こむすめかほを一べつした。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「なにか、こころからむすめよろこばせるようなうつくしいものはないものか。いくらたかくてもかねをばしまない。」と、両親りょうしんは、ひとはなしました。
笑わない娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そんな素直すなおかんがえもこころのどこかにささやかないでもなかったのですが、ぎの瞬間しゅんかんにはれいけぎらいがわたくし全身ぜんしんつつんでしまうのでした。
でもこれがもしほんとうだったとすれば、はなのきむら人々ひとびとがみなこころ人々ひとびとだったので、地蔵じぞうさんが盗人ぬすびとからすくってくれたのです。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そしておとこかえってるのをまどからると、きゅう悪魔あくまこころなかへはいってでもたように、おんなっている林檎りんごをひったくって
いろよい返事へんじしたためたおせんのふみを、せろせないのいさかいに、しばしこころみだしていたが、このうえあらそいは無駄むださっしたのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
二十五年間ねんかん教育きょういくつくしてしょく退しりぞいたのち創作そうさくこころをうちこんで、千九百二十七ねんになくなるまで、じつに二十かん著作ちょさくのこした。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
なにしろそれにはなに一つしそんじのないように、武士ぶしの中でも一ばん弓矢ゆみやわざのたしかな、こころのおちついた人をえらばなければなりません。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
大悟徹底だいごてっていと花前とはゆうとのである。花前は大悟徹底だいごてっていかたちであってこころではなかった。主人しゅじんはようやく結論けつろんをえたのであった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
と、諭吉ゆきちちからをほめてくれました。これで、蘭学らんがく大阪おおさかのほうがすすんでいたことがわかり、諭吉ゆきちは、こころなかでほっとあんしんしました。
アンドレイ、エヒミチはいてこころ落着おちつけて、なんの、つきも、監獄かんごくもそれがどうなのだ、壮健そうけんもの勲章くんしょうけているではないか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
私は恥しいことだけれど、かくも奇妙な事情のもとに、昔の競争相手と再会したことを、こころひそかに喜ばないではいられなかった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もっともある人が自分の話を聞いて、いやそれはねんと云うものでこころじゃないと反対した事がある。自分はいずれでも御随意だから黙っていた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれには一体いったいどうしていいのかわからなかったのです。ただ、こう幸福こうふく気持きもちでいっぱいで、けれども、高慢こうまんこころなどはちりほどもおこしませんでした。
人々ひとびとこころせよ、それはなんじらを衆議所しゅうぎしょわたし、会堂かいどうにてむちうたん。また汝等なんじらわがゆえによりて、つかさたちおうたちのまえかれん。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「これは世にたぐいなき物でござる。しかし、くれぐれもこころして、わたくしのような終りを取らぬようになされませ。」
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それは、村重どののこころ一つだが……。すでに、信長公に対し、反旗をひるがえしたからには当然戦う覚悟であろうな」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またあへ(五八)横失わういつしてつくすのかたきにあらざるなりおよぜいかたきは、(五九)ところこころつて(六〇)ぜいもつこれきにり。
氏郷が秀吉にこころひそかに冷やかに思われたとすれば、それは氏郷が秀吉の主人信長の婿で有ったことと、最初は小身であったが次第次第に武功を積んで
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
小生の本心はみだりに他を攻撃して楽しむものにあらず、ただ多年来たねんらいこころ釈然しゃくぜんたらざるものをしるして輿論よろんただし、天下後世のめにせんとするまでの事なれば
「そちの返り忠神妙ながら、なお本心こころもとないと、おぼしめしての北殿ご諚! これ解らぬか、迂濶者め!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大人おとな世界せかいのことはすっかりかってしまったとはえないまでも、すくなくもそれをのぞいてた。そのこころから、袖子そでこいあらわしがたいおどろきをもさそわれた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ブラ下げた長い長い二本のなわあしやわらかに空中に波うたして、紙鳶たここころ長閑のどか虚空こくうの海に立泳たちおよぎをして居る。ブーンと云うウナリが、武蔵野一ぱいに響き渡る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ただ、あることで姿すがたが見えなくなったが、人さまの目に見えないだけで、ぼく自身じしんは、なんにもわったことはないんだ。こころからだむかしのままのグリッフィンなんだよ
クリストフはそのえら音楽家おんがくかになりました。かれ音楽おんがくはいつも、かれ思想しそう感情かんじょうをありのままに表現ひょうげんしたもので、かれこころとじかにつながってるものでありました。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
あからひくはだれずてたれどもこころしくはなくに 〔巻十一・二三九九〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
この精神こそは奈良朝ならちょうで有名な光明皇后こうみょうこうごうのみこころを動かしたものであって、「折りつればたぶさにけがるたてながら三世みよの仏に花たてまつる(三二)。」とおみになった。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
此に於て竹葉上に点々てん/\したたれる所のつゐめ、以て漸くかつす、吉田署長病再発さいはつあゆむにへず、つゐに他の三名と共に帰途きとかる、行者まゐり三人も亦こころさびしくやなりけん
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
聞くだに涙こぼるる美談ぞかし。然るにわれは早くもこころくじけてひたすら隠栖いんせいの安きを求めんとす。しかもそは取立てていふべきほどの絶望あるにもあらずはた悲憤慷慨のためにもあらず。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この日、先生すこぶこころげに喜色きしょく眉宇びうあふれ、言語もいたっ明晰めいせきにして爽快そうかいなりき。
……大納言こころでは、将軍家は、其の風流の優しさに感じて、都鳥をば一番ひとつがい、そつと取り、くれないむらさきふさを飾つた、金銀蒔絵まきえかごゑ、使つかい狩衣かりぎぬ烏帽子えぼしして、都にのぼす事と思はれよう。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『経律異相』四八に、竜に卵生・胎生・湿生・化生の四あり、皆先身瞋恚はらたてこころまが端大たんだいならずして布施を行せしにより今竜と生まる、七宝を宮となし身高四十里、衣の長さ四十里、広さ八十里
こんなときにひとつ何か小品でこころたのしいものをじっくり味わいたいと、小型の飛鳥仏あすかぶつなどを丹念に見てまわっていたが、結局は一番ながいこと、ちょうど若い樹木が枝を拡げるような自然さで
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
されど教師は翁が上をくわしく知れるにあらず。宿の主人あるじより聞きえしはそのあらましのみ。主人は何ゆえにこの翁の事をかくも聞きたださるるか、教師がこころしかねたれど問わるるままに語れり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
やがて娘の母かへり来りおはたやに娘のをらぬを見ていぶかり、しきりにその名をよびければ、かの木小屋にきゝつけて遽驚あはておどろき男は逃去にげさり、娘はこころ顛倒てんだうしてけがしたるも打忘うちわすれおはたやにかけ入り
主人しゆじんからあたへられた穀物こくもつかれの一あたゝめた。かれ近來きんらいにないこころ餘裕よゆうかんじた。しかしさういふわづかかれさいはひした事柄ことがらでもいくらか他人たにん嫉妬しつとまねいた。百姓ひやくしやうにも悶躁もがいてものいくらもある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかういふものか此時このときばかり、わたしこころめう其方そつち引付ひきつけられた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
私は殊に騒々しいことが嫌いだ。さいの外に手がないから、自然加勢をする。昔は子供を抱いている同僚を見ると向上心がないように思ってこころひそかに侮ったものだが、それが自分の身の上へ廻って来た。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かんこころ影子えいしなり、ゆめこころ画図がとなり」と、また
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いつもわざとけぬようにこころがけていました。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
わがほねはわがほねいろあかきこころの楯よ。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ただればい、こころから。
こころらじ、かつてだに。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
ささげまつる むねこころ
七里ヶ浜の哀歌 (新字新仮名) / 三角錫子(著)
こころ暁闇ぎょうあん
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こころ細いね
こうした周囲しゅうい空気くうきは、ぼくをして、偶然ぐうぜんにもこころふかかんじたいっさいをける機会きかいをば、永久えいきゅうにうしなわしてしまったのでした。
だれにも話さなかったこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
こんなふうにいっていても、いっこう利助りすけさんが、こちらのこころをくみとってくれないので、海蔵かいぞうさんは、はっきりいってみました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
おまえにもいろいろ世話せわになりました……。』こころなかでそうおもっただけでしたが、それはかならずうまにもつうじたことであろうとかんがえられます。
ってのとおり、あたしゃどうやら人気にんきて、世間様せけんさまからなんのかのと、いわれているけれど、こころはやっぱり十年前ねんまえもおなじこと。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)