もと)” の例文
「女はもとはりの名人の圍はれ者だと言つたが、人の身體の鍼壺はりつぼは六百五十七穴、そのうち命取りの禁斷の鍼が一ヶ所あるといふことだ」
「おまえきつねであろうとなんであろうと、子供こどものためにも、せめてこの子が十になるまででも、もとのようにいっしょにいてくれないか。」
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
いままでながもとしきりにいていたむしが、えがちにほそったのは、雨戸あまどからひかりに、おのずとおびえてしまったに相違そういない。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
もと直立ちよくりつしてゐたもので、たかさは七八十尺しちはちじつしやくもあつたものですが、二百年程前にひやくねんほどまへかみなりちたゝめにれたのだといふことでありました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ネンガラにはもとはみな鉤枝かぎえだがついていたろうというのが、私の新しい意見であって、これにはまだ同意の人が少ないように思われた。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
宗助そうすけ御米およね言葉ことばいて、はじめて一窓庵いつさうあん空氣くうきかぜはらつたやう心持こゝろもちがした。ひとたびやまうちかへれば矢張やはもと宗助そうすけであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
金田氏はもと刀剣の鞘師さやしでありましたが、後牙彫商になって浅草向柳原むこうやなぎわらに店を持っている貿易商人で、おもに上等品を取り扱っているので
見てひそかもとの座へ立ち歸り彼は正しく此所のあるじさては娘の父ならん然れば山賊のかくにも非ずと安堵あんどして在る所へ彼娘の勝手よりぜん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
だから先生が教室へはいると同時に、期せずして笑をこらえる声が、そこここの隅から起ったのは、もとより不思議でも何でもない。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そう云い捨てて男は、ヒョックリヒョックリもとの裏門の方へ急ぎ足で帰っていった。そして裏門がさっきのまま明いているのに気づいて
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
くわしいことはあと追々おいおいはなすとして、かく人間にんげん竜神りゅうじん子孫しそんそちとてももとさかのぼれば、矢張やはりさるとうと竜神様りゅうじんさま御末裔みすえなのじゃ。
収穫はまた駄目だし、作物を売りに出れば、何度も税金を取立てられてもとは切れてしまい、といって売らないでは腐らしてしまうだけだし……
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
もみじのおかみさんはもと赤坂で芸者家をしていた人で、その頃二十四、五になっていたから、今は三十を越している筈だ。
羊羹 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「いゝえ。たゞ私のやうなもので間に合ひますか知らと思ひまして。——お勝手もとのことなぞでも本当に何にも出来ないのでございますから。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
たとひ家屋かおく倒伏とうふくすることがあつても、小屋組こやぐみだけはもとのまゝのかたちをして地上ちじよう直接ちよくせつ屋根やねあらはすことは、大地震だいぢしん場合ばあひ普通ふつう現象げんしようである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
あまかはるのでなになんだかわけわからなくなつてしまつたわ!一分間ぷんかんおなじでないのですもの!けど、いまもとおほきさよ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
地気天に上騰のぼりかたちなして雨○雪○あられみぞれひようとなれども、温気あたゝかなるきをうくれば水となる。水は地の全体ぜんたいなればもとの地にかへるなり。
彼れは努めてもとの冷靜にかへらうとしてゐたが手の震へをとゞめる事が出來なかつた。夫れを人々に知られるのをにくんだ。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
とりんでってしまうと、杜松ねずまたもととおりになりましたが、手巾はんけちほねと一しょに何処どこへかえてしまいました。
昔の日本の学者は芭蕉ばしょうの本物を知らなかったので、そこでこの芭蕉ばしょうの字を濫用らんようし、それがもとでバショウの名がつけられ今日こんにちおよんでいるのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
こゝろざすは何物なにもの葛籠つゞらそこをさめたりける一二枚いちにまいきぬ打返うちかへして淺黄縮緬あさぎちりめん帶揚おびあげのうちより、五通ごつう六通ろくつうかぞふれば十二通じふにつうふみいだしてもともどれば
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
が、幸運に依つて栄達した人々が、そのもとを忘れるやうに、平氏の一門も、殿上人でんじやうびととなつて、栄華に耽ると共に、武士たるの本領を忘れたのである。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ちらと輝いた曙光は一まず消えてヨブはまたもとなげきに入ったのである。さわれ曙光はたしかに現われたのである。これ見逃すべからざる点である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
かつてボズさんと辨當べんたうべたことのある、ひらたいはまでると、流石さすがぼくつかれてしまつた。もとよりすこしもない。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
枕詞まくらことばは、もと意味いみのわかるのもあり、わからないのもありますが、わかるのは、大體だいたいに、あたらしいものゝようです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
時に彼三十一歳、その臨終の遺偈いげは、まことにりっぱなものであります。「四大もと主なし。五おん本来空。こうべもって白刃に臨めば、なおし春風をるが如し」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
わたしは裏道にまわつて見た。此処こゝはつい此間このあひだまでもと停車場ていしやぢやうのあつたところで、柵などがまだ依然として残つてた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
やがて、その商人あきうどは、やう/\のことでもと天竺てんじくにあつたのをもとめたといふ手紙てがみへて、皮衣かはごろもらしいものをおくり、まへあづかつた代金だいきん不足ふそく請求せいきゆうしてました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
その航路かうろりて支那海シナかい印度洋インドやう方面はうめんすゝみしにあらずやとのうたがひあり、もとより今回こんくわい企圖くわだて秘中ひちう秘事ひじにして、到底たうてい測知そくちきにあらざれども
もとより此度このたび御大喪ごたいさうは、是迄これまでにない事でございますから、うかしてはいしたいとぞんじてりましたところへ、円生ゑんしやう円遊ゑんいうたのまれましたことゆゑはらうちでは其実そのじつ僥倖さいはひ
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
中には越中次郎兵衞盛次ゑつちゆうのじらうびやうゑもりつぐ、上總五郎兵衞忠光、惡七兵衞景清あくしちびやうゑかげきよなんど、名だたる剛者がうのものなきにあらねど、言はば之れ匹夫ひつぷゆうにして、大勢たいせいに於てもとよりえきする所なし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
それから方々へ参ったが銭はあるし、うまいものを食い通したから、もと木阿弥もくあみになった。竜太夫を教えてくれた男は江戸神田黒門町の村田という紙屋の息子だ。
外神田の加賀屋からも嫁のおもとと女中のお鉄、お霜の三人が深川の親類のうちへよばれて、朝から見物に出て行ったが、そのひる過ぎになって誰が云い出すともなしに
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
芳賀博士の所謂いわゆる「国語に対する自卑心」とは違うけれども「もと」を尊重しないという点は同じである。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
もと、半俵位の事ならそうひどい事も云わず来年の分に廻しその補いに、野菜や麦を持って来させて居た自分等の心をあやしんでいるらしい様になって来たのである。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
わつとつて、一同いちどう逆雪頽さかなだれ飛出とびだしたとおもふと、もと大廣間おほひろまで、儼然げんぜんとしてかべ異彩いさいはなつ。
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
司馬氏はもとしゅうの史官であった。後、しんに入り、しんに仕え、かんの代となってから四代目の司馬談しばたんが武帝に仕えて建元けんげん年間に太史令たいしれいをつとめた。この談が遷の父である。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
天の人を生ずるや男女同数にして、この人類はもと一対の夫婦より繁殖したるものなれば、生々せいせいの起原に訴うるも、今の人口の割合に問うも、多妻多男は許すべからず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
将門は常陸ひたちもとから敵にした国ではあり、また維幾は貞盛の縁者ではあり、貞盛だつて今に維幾のすその蔭かそでの蔭に居るのであるから、うつかり常陸へは行かれない。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
汝をかこむ二十四本の草木くさきもとなる種のために、かの迷へる世と戰ふのもとなりしぞかし 九四—九六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その口もとにはもう、やさしいみをうかべています……。僧正そうじょういのりの声は高く低くつづきます。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
うかと致し候わばもと来た道へ戻るようなことなしとも極らずまことに何とも不安心の至りに候
師を失いたる吾々 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
もとよりこの身は畜生の。人にはあらぬ悲しさの。添うに添われぬ夫婦の道よ。迷ぞ深き身の上の。思いの種とやなりやせん。いとど心はうば玉の夜の寝伏ねぶしの手枕や手枕や
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ねえいまめえくんねえか」與吉よきちながもとうごかしてるおつぎへきはめてちひさなこゑ請求せいきうした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もう暢気のんきな隠居ではない。もとの名与力郡上平八で、シャンと姿勢もきまって来れば、提灯の光をまともに浴びて、キラキラ輝く眼の中にも、燃えるような活気が充ちていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ミハイル、アウエリヤヌヰチはもとんでゐた大地主おほぢぬし騎兵隊きへいたいぞくしてゐたものしかるに漸々だん/\身代しんだいつてしまつて、貧乏びんばふし、老年らうねんつてから、つひ郵便局いうびんきよくはひつたので。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
もとのわらのあたりへいってみると、わらはそのままになっていることをったからです。
風と木 からすときつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
一寸法師は先程からの狂乱にグッタリと疲れて、しかし同時にすっかり堪能たんのうした恰好で群集の列にまぎれてもと来た道を引返した。いうまでもなく背広の男は尾行を続けて行った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いまごろがついたか。おれもはらつてきたので、自分じぶん眼玉めだま片方かたほうえぐりだしてつてるのだ。それにしばらくすると、またもとどほりに眼玉めだまがちやんと出来できてくるから奇妙きめうなものさ。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
行ってしまうと、にんじんのからだは、ややのんびりし、もとの楽な姿勢にかえる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)