いた)” の例文
「それなら善は急げというから、明日あしたにも出立しゅったつしよう。」と、言いました。そしてその晩は、みんなで色々出立の用意をいたしました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
灰色にしてややつめたく、透明とうめいなるところの気分である。さればまことに豚の心もちをわかるには、豚になって見るよりいたし方ない。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
能く心して生活なりわいの道を治めよ、とねんごろに説き示しければ、弟はこれを口惜くちおしく思ひてそののち生活の道に心を用ひ、ようやく富をいたしけるが
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
現界げんかい景色けしきくらべてべつ格段かくだん相違そういもありませぬが、ただこちらの景色けしきほうがどことなくきよらかで、そして奥深おくふかかんじがいたしました。
〔譯〕民のに因つて以て之をげきし、民のよくに因つて以て之をはしらさば、則ち民其の生をわすれて其の死をいたさん。是れ以て一せんす可し。
どうしても君が嫌だと云えば、いたし方がないけれども、こういう誤解や邪推じゃすいに出発したことで君と喧嘩したりするのは、僕は嫌だ。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
(前略)余はふとした機会で思はしき手頃の土地見当りしゆゑ、今冬より満四ヶ年の契約にて借受け、試み旁々かた/″\事業着手のことにいたさふろふ
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
がないものだから、ついおそくなりまして御氣おきどくです。すぐ御膳ごぜんいたしませう。しかしこんなところだからげるものがなくつてこまります。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
丁度ちょうどこえたかめて命令めいれいなどはけっしていたさぬと、たれにかちかいでもてたかのように、くれとか、っていとかとはどうしてもえぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ときはたには刷毛はけさきでかすつたやうむぎ小麥こむぎほのか青味あをみたもつてる。それからふゆまた百姓ひやくしやうをしてさびしいそとからもつぱうちちからいたさせる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
このたびはソノ三題話さんだいばなし流行はやつた時分じぶん出来できました落語はなしで、第一が大仏餅だいぶつもち、次が袴着はかまぎいはひ乞食こつじき、と三題話さんだいばなしを、掲載すことにいたしました。
が、くさたけ落葉おちばは、一めんあらされてりましたから、きつとあのをとこころされるまへに、餘程よほど手痛ていたはたらきでもいたしたのにちがひございません。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ああ! どうぞ勘弁かんべんしてください!」とおとここたえた。「このんでいたしたわけではございません。まったくせっぱつまって余儀よぎなくいたしましたのです。 ...
留守であったからいたし方もないと、別に不足もいわずにすましはしても、何となく頼み甲斐がいのないような気持ちがします。
女中訓 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
わたしがこのくにうまれたものでありますならば、お宮仕みやづかへもいたしませうけれど、さうではございませんから、おれになることはかなひますまい」
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
きり/\と卷上まきあぐれば御城代堀田相摸守殿平伏へいふくいたされ少しかしらを上て恐れ乍ら今般如何いかゞなる事ゆゑ御上坂ごじやうはん町奉行へ御屆おんとゞけもなく理不盡りふじん御紋付ごもんつきの御幕を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
英国公使アールコックに自分の愛妾あいしょうまで与え許している、堀織部はそれを苦諫くかんしても用いられないので、やいばに伏してその意をいたしたというのだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
侍童 御方おんかたはかまかうとてはなってわせられました。とほくへはなれてゐいとおほせられましたゆゑ、わたくしはさやういたしました。
ええ——ご当地へ参りましたのは初めてでござりますが、当商会はビンツケをもってがま膏薬こうやくかなんぞのようなまやかしものはお売りいたしませぬ。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
わたしはもう今宵こよひかぎりうしてもかへこといたしませぬとて、つてもてぬ可憐かわゆさに、奇麗きれいへどもことばはふるへぬ。
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
昨日さくじつ父より帰国しろという手紙を受取り候う時は、とっさにはぼんやりいたそうらいしかど、ようやくにして悲しさ申しわけなさに泣き申し候う。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
老叟らうそうしづかに石をでゝ、『我家うちの石がひさし行方ゆきがたしれずに居たが先づ/\此處こゝにあつたので安堵あんどしました、それではいたゞいてかへることにいたしましよう。』
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
問題もんだい各自かくじその懷抱くわいほうするところ遠慮えんりよなく披瀝ひれきしたところのものが、所謂いはゆる建築けんちく根本義こんぽんぎ解決かいけつたいして如何いかなる暗示あんじあたへるか、如何いかなる貢献こうけんいたすかである。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
いま持合もちあはしてゐませんけど、それくらいでよろしいのならいつでもおはらひしますから、どうぞ石屋いしやへ、御面倒ごめんだうでもおはなししてくださいませんか。おねがいたします。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
横井は実学を唱う、物にいたりて知をいたすは、彼が学問の功夫くふうなりといえども、彼の彼たる所以は、「神智霊覚湧きて泉の如き」直覚的大活眼かつがんにあるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
むろん、根のないものを根があるように信じこんでいた私の愚かさは、笑われてもいたし方ありません。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
神職 (ほっと息して)——千慮の一失。ああ、いたしようをあやまった。かえって淫邪の鬼の形相ぎょうそうを火で明かに映し出した。これでは御罰ごばつのしるしにも、いましめにもならぬ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
佐助は我が眼前朦朧もうろうとして物の形の次第しだいに見え分かずなり行きし時、俄盲目にわかめくらあやしげなる足取りにて春琴の前に至り、狂喜きょうきしてさけんで曰く、師よ、佐助は失明いたしたり
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
食物しよくもつことついて、すこかんじたことりますから貴婦人方あなたがた御噺おはないたしますが、いま宮本みやもとさんから、段々だん/\御噺おはなしがツて、兒護婦こもり不注意ふちういより、子供こども種々しゆ/″\もの
火急に酒脯銭財を郊にいたし、祭り、三たびその名を呼ぶと、玄石白馬に乗り、朱衣をけ、冠蓋かんがい前後騎従数十人、別に二人の青衣あって節を執って前引し、呵殿かでんして来り
「えゝ私は、晩寝郡おそねごおり早起村はやおきむら濡垂ぬれたら拭兵衛ふくべえと申しますが、その、私のおとうと発狂はっきょういたしまして……」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
恋と慾を両天秤てんびんにかけて、彼女の愛と短刀をあわせて手にいれようとした日本左衛門の計画は、そッくりそのまま、反対に、お蝶の方からいたされた形になってしまいました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前にあげた盗をうれうる問答もここに並んでいるのである。これら一切の問答を通じて、季康子が晩年の孔子に敬をいたした政治家であったことは認めてよいであろう。従って
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それまでは、これから、向島の待合に行って、芸者と遊んだ末、無理心中でもしようかという虫の良い了見りょうけんも起しかけていたのですが、ハッと冷水をかけられた気がいたしました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
堀部安兵衛も同宿の毛利小平太、横川勘平を代表して、その席につらなった。で、ひととおり読経と焼香しょうこうがすんだ後、白銀三枚を包んで寺僧にいたして、一同別席でおときについた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
吾等われらこれより一定いつてい職務しよくむがあるので、暫時しばらく失敬しつけい君等きみらのちしづか休息きうそくたまへ、わたくしは八すぎふたゝかへつてて、晩餐ばんさんをばともいたしませう。』とのこして何處いづくともなく立去たちさつた。
その土地の内にさんする生糸きいとは一切いださずして政府の手より仏国人に売渡うりわたさるるよういたし、御承知ごしょうちにてもあらんが仏国は世界第一の織物国おりものこくにして生糸の需用じゅようはなはさかんなれば
あれはまったくのところ、きりょうしではございませぬ。しかしまこと性質せいしつをもっておりますし、およぎをさせますと、ほか子達こたちくらい、——いやそれよりずっと上手じょうずいたします。
「そうまで仰せられる殿のお言葉をお受けいたさずばかえって不忠、参ることに致します」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自己のうちへ沈むものは飾りを示すべき相手をもたないから、飾らないのである。豊太閤ほうたいこうは、自己を朝鮮にまでも主張する性情に基づいて、桃山時代の豪華燦爛ごうかさんらんたる文化をいたした。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
『玉藻』七月号「虚子俳話」——真ということ——拝読いたしました。真を追及すれば美というものがこれにいて来るということを否定された先生の論に眼をみはったものであります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
(九四)曠日くわうじつ彌久びきうして(九五)周澤しうたくすであつきをば、ふかはかるもうたがはれず、交〻こもごもあらそふもつみせられず、すなはあきらか利害りがいはかりてもつ其功そのこういたし、ただちに是非ぜひしてもつ(九六)其身そのみかざる。
退出候後、林外記はやしげき殿、藤崎作左衛門殿を御使としてつかわされ後々の事心配いたすまじきむねおおせられ、御歌を下され、又京都へ参らば、万事古橋小左衛門と相談して執り行えとねんごろに仰せられ候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一献酌もうとは有難ありがたい、是非ぜひともいたしたい、早速さっそくお供致したい。だが念のめに申して置くが、私には金はない、実は長崎から出て末たばかりで、塾で修業するその学費さえはなはだ怪しい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私は瓦斯ガスランプに火を点じて検眼鏡を取り出し、患者と差向いで、その両眼を検査いたしましたところが、例の通り私の検査が至って手のろいので、彼女は三叉さんさ神経痛の発作も加わったと見え
痴人の復讐 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「昭公が、いま、別の生涯あるを知ったのは、永い間、生飯をほどこした鯉魚の功徳くどくの報いだ。昭公に過ちがあったのは、わしの不徳のいたすところだ。まあ、この辺で事件は落着にしてもらいたい」
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ほほう これはわしの大好物かうぶつでして ひとつちやうだいいたしませう
これは参考とすべきものがなかったからいたかたありません。
これ平生へいぜい食物問題に不注意なるのいたす所にあらずや。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
わたしいたしません』とねこがおことはまをげました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)