こま)” の例文
こまったねえ、えらい人が来るんだよ。しかられるといけないからもう帰ろうか。」私がいましたら慶次郎は少しおこって答えました。
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
むすめが、毎日まいにち学校がっこうで、きつね、きつねといわれますそうで、学校がっこうへゆくのをいやがってこまりますが、どうかおぼっちゃんにおねがいして
青いボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、こまってべそをかきました。するうち、ふとなにおもいついたとみえて、いきなりお重箱じゅうばこをかかえて、本堂ほんどうして行きました。
和尚さんと小僧 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「こんなことでおまへ世間せけんさわがしくてやうがないのでね、わたしところでも本當ほんたうこまつてしまふんだよ」内儀かみさんは巡査じゆんさ一寸ちよつとてさうして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
借る程の者なれば油斷ゆだんならざる男なりと言れし時三郎兵衞はギヨツとせし樣子やうすを見られしが又四郎右衞門は身代しんだい果程はてほどありこまつた事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「里見さん。あなたが単衣ひとへものて呉れないものだから、着物きものにくくつてこまる。丸で好加減いゝかげんにやるんだから、少し大胆ぎますね」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
囲炉裡ゐろり焚火たきびをしておあたんなさいまし、おこまんなすつたらう此雪このゆきでは、もう此近このちかく辺僻へんぴでございまして御馳走ごちそうするものもございません。
伯父をぢさんはもうこまつてしまつて、とうさんのめておび手拭てぬぐひゆはひつけ、その手拭てぬぐひとうさんをいてくやうにしてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
甚兵衛もそれにはこまりました。なにしろ相手あいて大蛇おろちですもの、へたなことをやれば、こちらが一呑ひとのみにされてしまうばかりです。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
齋藤巡査さいとうじゆんさ眞鶴まなづる下車げしやしたので自分じぶん談敵だんてきうしなつたけれど、はら入口いりくちなる門川もんかはまでは、退屈たいくつするほど隔離かくりでもないのでこまらなかつた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
正三君は手がふるえてこまった。こんなことでは喧嘩に勝てないと思って、じっと気をおちつけているところへ、前の席の生徒が
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうなるとリーズはどうしていいかわからずにこまっていたところへ、イギリスのおくさんと病身の子どもが船に乗って運河うんがを下りて来た。
勉強家べんきようかける、懶怠なまけられてはこまるけれど、わづらはぬやうにこゝろがけておれ、けておまへは一つぶものおやなし、兄弟きようだいなしとふではいか
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『おじいさま、ういうものか今日けふ落付おちつかないでこまるのでございます……。わたくしはどこかへあそびに出掛でかけたくなりました。』
「あすこの野中に大きなぬまがございます。その沼の中に住んでおります神が、まことに乱暴らんぼうなやつで、みんなこまっております」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ただ一つこまったことは、乳母車うばぐるまのどこかがわるくなっていて、しているとみぎみぎへとまがっていってしまうことだった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
東京って、そんななまやさしいとこじゃないよ。みんなぶったおしっこをしてくらしているんだ。しかし、おまえみたいに帰る家もなくっちゃこまっちまう。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
「ああ、」とおとうさんがった。「それは本当ほんとうこまったね。全体ぜんたい、おれにだまってくなんてことはありやしない。」
そりゃこまったね。ここじゃおいそれと象つかいにたのむわけにはいかないが、お前の叔父さんのいどころがわかるまで、わしがお前を引き取って上げよう。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
こまった。売ったのなら、その売った先をいそいで探さないと手おくれになる。といって、それを聞くには浮浪者が帰ってこないと、聞くわけにいかない。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
(もう時分じぶんぢや、またわしあんまおそうなつてはみちこまるで、そろ/\あを引出ひきだして支度したくしてかうとおもふてよ。)
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
思いがけない剛敵ごうてき出会でっくわして、東京者も弱った。与右衛門さんは散々並べて先方せんぽうこまらせぬいた揚句あげく、多分の賠償金ばいしょうきん詫言わびごとをせしめて、やっと不承ふしょうした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
『なア水谷君みづたにくん素人しらうとはこれだからこまる。このどうもなになくツても、貝層かひそう具合ぐあひなんていね。うしてたゞつてても心持こゝろもちだねえ』とぼくふ。
こまつたものだとはおもひながらも、ひとつは習慣しふくわん惰力だりよくでとう/\五個月間かげつかんやりつゞけた。さうすると、どうだらう。或日あるひ先方せんぱうやつ突然とつぜんぼくうちにやつてて……
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
貢さんはこまつたらしく黙つて俯向うつむいた。此時まへの桑畑の中に、白いかすりを着てはしつて行く人影ひとかげがちらと見えた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
『いや貴方あなたは。こまつたな、まあおきなさい。』と、院長ゐんちやう寐臺ねだいそば腰掛こしかけけてせむるがやうにくびる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わたし大事だいじかたは、小屋こやつくつていらつしやる。がどうも、くさがないので、こまつてゐられるようだ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
玉江嬢「私どもでも今年はトマトの苗を買って植えましたが沢山出来過ぎると始末しまつこまりますね」お登和嬢
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
近頃ちかごろ時々とき/″\我輩わがはい建築けんちく本義ほんぎなんであるかなどゝむづ質問しつもん提出ていしゆつして我輩わがはいこまらせるひとがある。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
ところこまつたことにア身躰からだわるく、肺病はいびようてゐるからぼくほとんど當惑とうわくするぼくだつて心配しんぱいでならんからその心配しんぱいわすれやうとおもつて、ついむ、めばむほど心配しんぱいする。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
銘々めい/\自分じぶんいてるんだ』とグリフォンがこたへて、『審問しんもんむまでにわすれてしまふとこまるから』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
以前いぜんねこつて、不潔ふけつなものをかれてこまつたばかりか、臺所だいどころらしたといふので近所きんじよから抗議かうぎまうまれて、ために面倒めんどう外交關係がいかうかんけいおこしたことがあつてから
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
こゝも生活くらしにはこまつてゐたので、はゝ食料しよくれうをかせぐため、丁度ちやうど十八になつてゐたのをさいはひ、周旋屋しうせんや世話せわで、そのころあらたにできた小岩こいは売笑窟ばいせうくつ身売みうりをしたのである。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
かくのごとき場合にはやっつけたと思う心ははなはだろうかつ小であって、先方をこまらす動機を示すのみで、はたして自分の言が有効であったかを保証するものでない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
弟はこまって、又何べんも片方の眼だけをパチ/\させて、「故里の方はとても嵐だって!」と繰りかえしたところが、お前が編笠あみがさをいじりながら、突然奇妙な顔をして
母たち (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
俸給ほうきゅうはいくらでもおのぞみどおりだしますから、どうか二、三年、あちらでご開業ねがえますまいか。植民地では、よい医師がないので、みんなが本当にこまっております
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それには當時とうじひとさだめしこまつたこともあらうとおもはれますが、今日こんにちのようにうつくしい座敷ざしきがあつてたゝみうへにゐるわけではなく、すこしぐらゐはみづがしみしてれたとて
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
先生もはじめの一年は途中とちゅうの道でひどくこまらされて、生徒の前もかまわず泣いたこともあった。泣かした生徒はもうここにはいないけれど、ここにいる子の兄や姉である。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
私は理論上、義務教育小学校を愛惜あいせきするのであるが、具体的の場合に、何かこまる事情ありげに感じたからである。博雄の学校の成績が、どんなであったかは実は知らない。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
徒然草つれ/″\ぐさ最初さいしよほとけはどうして出來できたかとはれてこまつたとふやうなはなしがあつた。子供こどもものはれてこまることは度々たび/\である。なかにも宗教上しうけうじやうことには、こたへきうすることがおほい。
寒山拾得縁起 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
夫人わるるよう、この頃用便ようべんいたって近くなりまして、いつもあの通りでこまりますと。
『どこまでひとをこまらせようといふんです。あなただつて子供こどもぢやああるまいし。』
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
それでこまつて泣いて悲しんでおりましたところ、先においでになつた大勢の神樣が
こまつたあめじやありませんか。これじやはらわたなかまで、すつかり、びしよぐされですよ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
さうしてまたなぜ、ここへ君自身きみじしんのペンで序文じよぶんかなかつたのだ。きみ自分じぶんかないばかりに、ぼくにこんなかないことをかれてしまふぢやないか。だが、ぼくだつてこまるのだよ。
「三つの宝」序に代へて (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
あけようと、あせっても、なにしろ前にくまをひかえて、片手をうしろにまわしての仕事しごとだからこまった。くまはいよいよきばをむきだし、いまにもとびかかろうという気勢きせいを見せている。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
ところが丁度ちやうど玄竹げんちくつてさいはひなことには、多田院別當ただのゐんべつたう英堂和尚えいだうをしやう病氣びやうきになつて、開帳中かいちやうちうのことだから、はや本復ほんぷくさせないとこまるといふので、玄竹げんちくのところへ見舞みまひもとむる別人べつじんた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「おい坊主ぼうず火鉢ひばちえちゃってるぜ。ぼんやりしてえちゃこまるじゃねえか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そのために、若葉わかばをふいてから次第しだい丈夫じようぶにかため、なつさかりをさいはひに、どん/\太陽たいようひかりともはたらいて、あき紅葉もみぢをする支度したくや、ふゆてもこまらない、養分ようぶんたくはへをするのです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
こまった間違まちがいだな。」めるようにあたまりながら、生徒監は注意ちゅういした。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)