かた)” の例文
そこで金太郎は體をかたく小さくして、道の白いながれの上へ、飛びこむやうな合に轉んでいつた。自轉車は三四米先へげ出された。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
彼らは思慮も熟せず判断力もかたくないから、見るもの聞くものその他すべて五感に触るるものによりて心の底までも動揺どうようされやすい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
女は器を受け取って、その玉をとり出そうとしますと、玉は器の底にかたくくっついてしまって、どんなにしてもはなれませんでした。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
見るなとかたせいせしは如何なるわけかとしきりに其奧の間の見まほしくてそつ起上おきあがり忍び足して彼座敷かのざしきふすま押明おしあけ見れば此はそも如何に金銀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それに木賃宿きちんやどのねどこのどんなにかたいことであろう。(もう二度とアーサとも遊べないし、その母親のやさしい声も聞くことはできない)
萩ドウダンの生牆いけがきをめぐらし、外から手をさし入れて明けられるような形ばかりのものだが、大小だいしょう六つの門や枝折戸が出入口をかためて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……やどかりも、うようよいる。が、真夏などは暫時しばらくの汐の絶間たえまにも乾き果てる、壁のようにかたまり着いて、稲妻いなずま亀裂ひびはいる。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただみずのようにつき青白あおじろひかりながれていました。あちらの垣根かきねには、しろばらのはなが、こんもりとかたまって、ゆきのようにいています。
月夜と眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とうとうそれはかたかたこおってきて、子家鴨こあひるうごくとみずなかこおりがめりめりれるようになったので、子家鴨こあひるは、すっかりその場所ばしょこおり
ところが、海の中に落っこちたもんだから、だんだんに石灰水せっかいすいがしみこんで、しまいには、石のようにかたくなってしまったんだ。
第一種は普通ふつうの股引にして、はだへに密接するもの、第二種はち付け袴の類にして、全体甚ゆるやかに、僅に足首の所に於てかたくくられたるもの。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
大和魂やまとだましいかためた製作品である。実業家もらぬ、新聞屋も入らぬ、芸妓げいしゃも入らぬ、余のごとき書物とにらめくらをしているものは無論入らぬ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のこったものは殿とののご寝所しんじょのほうをまもれ、もう木戸きど多門たもんかためにはじゅうぶん人数がそろったから、よも、やぶれをとるおそれはあるまい」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道江の予期に反して、次郎の答えは断乎だんことしていた。しかし、彼はすぐ何かにはっとしたように、かたく唇をむすび、じっと道江の顔を見つめた。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
きびしい冷酷さをもってかたくとざされた心にも、この愛すべき小鳥の声は、時としては何かほのぼのとしたあたたかいものを感じさせるのであった。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
おほきな藁草履わらざうりかためたやうに霜解しもどけどろがくつゝいて、それがぼた/\とあしはこびをさらにぶくしてる。せまつらなつてたて用水ようすゐほりがある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
神社じんじゃまつられたからともうして、矢鱈やたら六ヶむずかしい問題もんだいなどをわたくしのところにお持込もちこみになられることはかた御辞退ごじたいいたします。
がさめてのちきさきは、のどの中になにかたくしこるような、たまでもくくんでいるような、みょうなお気持きもちでしたが、やがてお身重みおもにおなりになりました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
またしめつた粘土ねんどそばかれると、かたくなることをつたといふことなどが發見はつけんいとぐちとなつたかと想像そう/″\せられます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
是故にわれ先見をもて身をかたむるをしとす、さらばたとひ最愛の地を奪はるともその他の地をばわが歌の爲に失ふことなからむ 一〇九—一一一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
濡れ手拭をしぼるように、やんわりと持った柄の手ざわりにも、今宵こよいこそ! と思う強い闘志をそそられて、栄三郎の平青眼はおのずとかたかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
前つぼのかた草履ぞうりさきすなって、一目散もくさんした伝吉でんきちは、提灯屋ちょうちんやかどまでると、ふと立停たちどまって小首こくびかしげた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
甚だしい心配の度に腹にかたい固まりが出来る彼女の習慣の、その兆しを下腹部に感じながら、彼女は洋燈ランプを掃除した。
不幸 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
試みに煮てみようと言うので、五串ばかり小鍋に入れて、焜爐こんろにかけた。寝る時あじわってみたが骨はまだかたかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「そのようにかたくならずともよい。主水之介不審あってまかしたのじゃ。土左船どざぶねの者達、こちらへ参った筈じゃが、伜共の死体もう届いたであろうな」
そのときあたしは、不図ふとゆかの上に、異様な物体を発見した。ベッドから滑り下りて、その傍へよって、よくよく見た。それは茶褐色の灰のかたまりだった。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、世間を思切って利慾を捨てた椿岳は、猿が木から木へと木の実を捜して飛んで行くように、金儲けから金儲けへと慾一方でかたまるのを欲しなかった。
わたくし三々五々さん/\ごゞむれをなして、其處此處そここゝつてる、顏色いろ際立きはだつてしろ白耳義人ベルギーじんや、「コスメチツク」で鼻髯ひげけんのやうにかためた佛蘭西フランス若紳士わかしんし
畑の中を、うねから畦へ、土くれから土くれへと、踏みつけ踏みつけ、まぐわのように、かため、らして行く。鉄砲で、生籬いけがき灌木かんぼくの茂みや、あざみくさむらをひっぱたく。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
いつもりの玄竹げんちくると、但馬守たじまのかみ大抵たいていむかひではなしをして障子しやうじには、おほきな、『××の金槌かなづち』と下世話げせわ惡評あくひやうされる武士髷ぶしまげと、かたあたまとがうつるだけで
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
つる千年せんねんかめ萬年まんねん人間にんげん常住じやうぢういつも月夜つきよこめめしならんをねがかりにも無常むじやうくわんずるなかれとは大福だいふく長者ちやうじやるべきひと肝心かんじん肝要かんえうかなめいしかたつてうごかぬところなりとか
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そうして今の自分の、まじめにかたまりくさった動きのとれない寂しさを考えずにもおられなかった。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
カスタード(牛乳ぎうにう鷄卵たまごとに砂糖さたうれてせいしたるもの)、鳳梨パイナツプル、七面鳥めんてう燒肉やきにく、トッフィー(砂糖さたう牛酪バターせいしてかたいた菓子くわし)、それに牛酪バターつきの𤍠あつ炕麺麭やきぱん
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
『いやもう過去かこわすれましょう。』と、ミハイル、アウエリヤヌイチはかたかれにぎってうた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ロミオ はて、そのねらひはづれた。戀愛神キューピッド弱弓よわゆみでは射落いおとされぬをんなぢゃ。處女神ダイヤナとくそなへ、貞操ていさうてつよろひかためて、こひをさな孱弱矢へろ/\やなぞでは些小いさゝか手創てきずをもはぬをんな
この流下りゆうかさいなほ多量たりよう蒸氣じようきしつゝあると、こーくすのような粗面そめん鎔岩ようがんとなるが、もし蒸氣じようき大抵たいていされてしまつたのちならば、表面ひようめん多少たしようなめらかにかたまり
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
それから見世物にじゃこつだといってよく出ているのがあれも牛の軟骨をかためたのだそうです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
本線シグナルつきの電信柱は、がたがたっとふるえて、それからじっとかたくなって答えました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
なべからして、こんどはいてみました。不相變あいかはらずです。いよいよかたくなるばかりでした。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
おいくは、背丈の低いかた肥りの躯つきで、抜けあがった額から頬が赤くてらてら光っていた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
相議するやひさし、余奮つて曰く、水をふて此嶮所けんしよを溯る何かあらん、未だ生命を抛つの危険きけんあるをずと、しふあへて余をさんするものなし、余此に於てやむを得ずかたく後説を
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
平次は納戸なんどの外へ出ましたが、ほんの暫くすると歸つて來て、天井の壁際かべぎはに少し出て居る、細い糸を引つ張ると、それを白鼠の籠の外へ出て居る、車の心棒にかたく結びました。
矢戦やいくさをしたりという言い伝えありて、矢の根を多く掘り出せしことあり。この間に似田貝にたかいという部落あり。戦の当時このあたりはあししげりて土かたまらず、ユキユキと動揺せり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いざどもたはわざな天地あめつちかためしくにぞやまと島根しまねは 〔巻二十・四四八七〕 藤原仲麿
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
武矦ぶこう西河せいがうかびてくだる、中流ちうりうにしてかへりみて呉起ごきつていはく、『なる哉乎かな山河さんがかため、魏國ぎこく寶也たからなり』と。こたへていはく、『((國ノ寶ハ))とくりてけんらず。 ...
モコウが走って、食堂からやき肉、かたパン、茶、および一ぱいのブランデーを持ってきた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
れば四囲はかたむるに鉄を以てし、二また鉄をそそぎありて開くべくも無し。帝これを見ておおいなげきたまい、今はとて火を大内たいだいに放たせたもう。皇后は火に赴きて死したまいぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
小栗等の目的もくてき一意いちい軍備のもといかたうするがために幕末財政ざいせい窮迫きゅうはく最中さいちゅうにもかかわらずふるってこの計画けいかくくわだてたるに外ならずといえども、日本人がかかる事には全く不案内ふあんないなる時に際し
また今を去ること三十余年、かたばんとて非役ひやく徒士かちに城門の番を命じたることあり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それから頭のまん中には楕円形だえんけいさらがあり、そのまた皿は年齢により、だんだんかたさを加えるようです。現に年をとったバッグの皿は若いチャックの皿などとは全然手ざわりも違うのです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)