田舍ゐなか)” の例文
新字:田舎
つく/″\と小池は、田舍ゐなかの小ひさな町に住みながら東京風の生活にあこがれて、無駄な物入りに苦んでゐるらしい母子おやこ樣子やうすを考へた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
うですね、年少としわか田舍ゐなか大盡だいじんが、相場さうばかゝつて失敗しつぱいでもしたか、をんな引掛ひつかゝつてひど費消つかひぎた……とでもふのかとえる樣子やうすです。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とうさんの田舍ゐなかでは、夕方ゆふがたになると夜鷹よたかといふとりそらびました。その夜鷹よたか時分じぶんには、蝙蝠かうもりまでが一しよしました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
むかしひとは、今日こんにち田舍ゐなかきこり農夫のうふやまときに、かまをのこしけてゐるように、きっとなに刃物はものつてゐたものとおもひます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
かれ夏休なつやすまへから、すこ閑靜かんせい町外まちはづれへうつつて勉強べんきやうするつもりだとかつて、わざ/\この不便ふべん村同樣むらどうやう田舍ゐなか引込ひつこんだのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いと加之そのうへ田舍ゐなか物固ものがたくして四十九日立ざる中は大精進だいしやうじんにて魚類ぎよるゐを食する事能はずされども半四郎は元來大酒にして又さかなは魚類を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
勝手かつてばたらきの女子をんなども可笑をかしがりて、東京とうきやうおにところでもなきを、土地とちなれねばのやうにこはきものかと、美事みごと田舍ゐなかものにしてのけられぬ。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「猫又よ、やよ猫又よと申しければ……」と、先生はその中の一句を、田舍ゐなかなまりの可笑しな抑揚で高らかに讀み上げた。みんながどつと笑ひ崩れた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
今市より北折して會津へ至る道も、神々かう/\しさは餘程缺けるが同じく杉並木が暫くは續く。田舍ゐなかびて好い路で、菅笠かぶつた人でも通りさうな氣がする。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
しか我々われ/\隨分酷ずゐぶんひど田舍ゐなか引込ひつこんだものさ、殘念ざんねんなのは、這麼處こんなところ往生わうじやうをするのかとおもふと、あゝ……。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
人々ひと/″\餘程よほど田舍ゐなかにゐてもめばみやこで、それ/″\たのしくをさまつてゐるのとおなじように、植物しよくぶつ𤍠あついところであらうと、さむいところであらうと、生育せいいく出來できかぎりそれ/″\
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「お前は田舍ゐなかから出たばかりの内海に智慧をつけられて、世間を面白づくめに見てゐるやうだが、この先いろんな人に觸れるたびにます/\うちの窓の外へ目がつくやうになるだらう。」
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
湯原ゆがはら温泉宿をんせんやど中西屋なかにしや女中ぢよちゆうである! いまぼくふでつてうち女中ぢよちゆうである! 田舍ゐなか百姓ひやくしやうむすめである! 小田原をだはら大都會だいとくわい心得こゝろえ田舍娘ゐなかむすめ! このむすめぼくつたのは昨年さくねんなつ
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それはせき末座まつざつらなつてつた一個ひとり年老としをいたる伊太利イタリー婦人ふじんで、このをんな日出雄少年ひでをせうねん保姆うばにと、ひさしき以前いぜんに、とほ田舍ゐなかから雇入やとひいれたをんなさうで、ひくい、白髮しらがあたまの、正直しやうじきさう老女らうぢよであるが
すこしも勞れ不申、朝暮は是非散歩いたし候樣承り候得共、小あみ町に而は始終相調あひかなひ申候處、青山之ごく田舍ゐなか信吾しんご之屋敷御座候間、其宅をかり養生中に御座候間、朝暮は駒場野はわづか四五町も有之候故
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
とうさんのうまれた田舍ゐなか美濃みのはうりようとするたうげうへにありましたから、おうちのお座敷ざしきからでもおとなりくにやまむかふのはうえました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
以前いぜんなにかにわたしが、「田舍ゐなかから、はじめて新橋しんばしいた椋鳥むくどり一羽いちは。」とかいたのを、紅葉先生こうえふせんせいわらひなすつたことがある。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたし日本につぽんにおいても、文化ぶんかすゝむにしたがつて、田舍ゐなかにあるふる風俗ふうぞく道具類どうぐるいが、次第しだいほろくことを殘念ざんねんおもふので
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
一人がくすりと笑つた、續いてまた一人がくすりと笑つた。先生の詞には東北生れらしい怪しげな田舍ゐなかなまりと、それから起る變てこなアクセントが隱れてゐた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
始終しじう人間にんげんつくつた都會とくわいなかばかりを駕籠かご往來わうらいしてゐた玄竹げんちくが、かみつくつた田舍ゐなかこゝろゆくまでつたときは、ほんたうの人間にんげんといふものがこれであるかとかんがへた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
立出で二三ちやうきたりけるにあとより申し/\と呼掛よびかける者有故振返ふりかへるに田舍ゐなかにて見覺みおぼえあるおたけと云し女なり此女は金屋かなや井筒屋ゐづつやへ出入なす織物屋おりものやの娘にて利兵衞が江戸へみせ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
田舍ゐなかりしとき先生せんせいなりしゆゑ其和歌そのわか姉樣ねえさまにおにかけておどろかしたまへ、それこそかならず若樣わかさまかちるべしとへば、はや其歌そのうためとせがむに懷中ふところよりぶみいだ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そりやたかいよ幾何々々いくら/\御負おまけなどゝはれると、「ぢやねえね」とか、「をがむからそれでつて御呉おくれ」とか、「まあ目方めかた御呉おくれ」とかすべ異樣いやう田舍ゐなかびたこたへをした。そのたびみんなわらつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして人買ひとかひからはなれましたのは、へんからは、とほいか、かたちえません、たかやますそにある、田舍ゐなかのお醫師いしやいへでございました。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
どこの田舍ゐなかにもあるやうに、とうさんのむらでも家毎いへごと屋號やがうがありました。大黒屋だいこくや俵屋たはらや八幡屋やはたや和泉屋いづみや笹屋さゝや、それから扇屋あふぎやといふやうに。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それらは今日こんにちでも田舍ゐなかにおいてかけます物置ものおきとか、肥料入ひりよういれの納家なやのような簡單かんたん小屋こやがありますが、まあ、それとたいした相違そういのない程度ていどのものとおもはれます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
所持なし出店でだな親類又は番頭若い者に至る迄大勢召仕ひゆたかに世をおくりけるが一人のせがれ吉之助とて今年ことし十九歳人品じんぴんよきうまれにて父母の寵愛ちようあいかぎりなくれども田舍ゐなかの事なれば遊藝いうげい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
このやう取次とりつぎするなとさへおつしやりし無情つれなさ、これほどはぢをとこの、をめをめおやしきられねば、いとまたまはりて歸國きこくすべけれど、たま田舍ゐなかには兩親りやうしんもなく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とほやまの、田舍ゐなかゆきなかで、おなじ節分せつぶんに、三年さんねんつゞけて過失あやまちをした、こゝろさびしい、ものおそろしいおぼえがある。いつも表二階おもてにかい炬燵こたつから。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
田舍ゐなかづくりの籠花活かごはないけに、一寸いつすん(たつた)もえる。内々ない/\一聲ひとこゑほとゝぎすでもけようとおもふと、うして……いとがると立所たちどころ銀座ぎんざやなぎである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……田舍ゐなかづくりの、かご花活はないけに、づツぷりぬれし水色みづいろの、たつたをけしたのしさは、こゝろさもどこへやら……
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
緊乎しつかりる、ときふ樣子やうすかはつて、をしばたゝいたのが、田舍ゐなかむすめには、十分じふぶんうれひいたから、惚拔ほれぬいてをとここと、おあき出來できうちにも考慮しあんして
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こと小半里こはんみち田舍ゐなかながら大構おほがまへの、見上みあげるやうな黒門くろもんなかへ、わだちのあとをする/\とくるまかくれる。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
江戸兒夥間えどつこなかまだと、をつけろい、ぢやんがら仙人せんにん何處どこ雨乞あまごひからやあがつた、で、無事ぶじむべきものではないが、三代相傳さんだいさうでん江戸兒えどつこは、田舍ゐなかものだ、とことわうへ
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おもふと、やがて保養ほやうとあつて、實家方さとかたへ、かへつたのである。が、あはれ、婦人ふじん自殺じさつした。それはむかし、さりながら、田舍ゐなかものの※々づう/\しいのは、いまなによりも可恐おそろしい。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
したがつて、ころ巷談こうだんには、車夫くるまや色男いろをとこ澤山たくさんあつた。一寸ちよつと岡惚をかぼれをされることは、やがて田舍ゐなかまはりの賣藥行商ばいやくぎやうしやうのち自動車じどうしや運轉手うんてんしゆゆづらない。立志りつし美談びだん車夫しやふなんとかがざらにあつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かべ障子しやうじあなだらけななかで、先生せんせい一驚いつきやうをきつして、「なんだい、これは。——田舍ゐなかから、内證ないしようよめでもくるのかい。」「へい。」「うまのくらにくやうだな。」「えへゝ。」わたしよわつて
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
田舍ゐなかことで、べつこれ垣根かきねもありません。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)