たま)” の例文
何も下品に育つたからとて良人の持てぬ事はあるまい、ことにお前のやうな別品べつぴんさむではあり、一そくとびにたま輿こしにも乗れさうなもの
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うつくしいてて、たまのやうなこいしをおもしに、けものかはしろさらされたのがひたしてある山川やまがは沿うてくと、やまおくにまたやまがあつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
言葉ことばやさしく愛兒あいじ房々ふさ/″\せる頭髮かみのけたまのやうなるほゝをすりせて、餘念よねんもなく物語ものがたる、これが夫人ふじんめには、唯一ゆいいつなぐさみであらう。
あめのつれ/″\に、ほとけをしへてのたまはく、むかしそれくに一婦いつぷありてぢよめり。をんなあたか弱竹なよたけごとくにして、うまれしむすめたまごとし。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
始終私どもの講義を聞いて、ここにはじめて神の正しく儼存げんぞんたまううえは、至誠しせいってこれを信じその道を尽し、その法を修めんには
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
苦労の中にもたすくる神の結びたまいし縁なれや嬉しきなさけたねを宿して帯の祝い芽出度めでたくびし眉間みけんたちましわなみたちて騒がしき鳥羽とば伏見ふしみの戦争。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なんというふかあおさでしょう。ていると、たまなかから、くもがわいてきます。どのたまもみごとです。波濤はとうこる、うみうつります。
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すぐさま石垣からとびおりると、ガチョウのむれのまんなかにけこんで、その若いガチョウのくびたまにかじりついて、さけびました。
「どういたしまして、私どもは面目めんもく次第しだいもございません。あなた方の王さまからいただいたたまをとうとうくもらしてしまったのです」
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いけのきれいななかへ、女蛙をんなかへるをうみました。男蛙をとこかへるがそれをみて、おれのかかあ は水晶すいしやうたまをうんだとおどあがつてよろこびました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
それから、しろきつね姿すがたをあらはした置物おきものいてありました。その白狐しろぎつねはあたりまへのきつねでなくて、寶珠はうじゆたまくちにくはへてました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
このうちつぶせ!』とうさぎこゑあいちやんはせい一ぱいおほきなこゑで、『其麽そんなことをすればたまちやんを使嗾けしかけるからいわ!』とさけびました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
これはくだかたちをした筒形つゝがたたまでありまして、そのながさは一寸前後いつすんぜんごのものが普通ふつうです。いしはみな出雲いづもから碧玉へきぎよくつくつてあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
するとくまさんが、『發句ほつくツてそんなもんですかい、ぢやわけアねえ』とふので、『たまのでんぐりかへるあしたかな』とやりだす。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
『ボズさん!』とぼくおもはず涙聲なみだごゑんだ。きみ狂氣きちがひ眞似まねをするとたまふか。ぼくじつ滿眼まんがんなんだつるにかした。(畧)
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ペアレットはストロムボリにてたまたとしようしてゐる。そのおほいさは直徑ちよつけい一米程いちめーとるほどであつてあをひかつたものであつたといふ。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
たまをどこへか忍ばして置いて、抱え主から懸け合いの来るのを待っているなどは、この頃のわる旗本や悪御家人ごけにんには珍らしくない。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たまかづら』は最初より無之候。近日来の「俳諧師」大にふるい居候。敬服の外無之候。ますます御健筆を御揮い可然候。以上。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
六日に十四年在牢の僧宥長出牢し愛宕あたご下円福寺へ預けに相成り候。獄中の様子御承知されたくばこの僧を訪いたまえ。善く譚ずる人なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
やがて、これから晩まで何をして暮らそうかしらと独言ひとりごとのように云って、不意に思い出したごとく、たまはどうですと僕に聞いた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母は茅野ちの氏で、たまといい、これも神田の古い大きな箪笥たんす屋の娘であった。玉は十六の年から本郷の加賀さまの奥へ仕えていた。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
備前のチュウコとは空中に見る怪火にして、他地方の狐火きつねびたまなどを総称した名称である。その原因は狐に帰するからチュウコという。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
喧嘩渡世の看板に隠れ、知らずのお絃の嬌笑きょうしょうきもたまを仲に、ちまた雑踏ざっとうから剣眼けんがんを光らせて、随時随所に十七人の生命をねらうことになった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
のぞいたところ、表がひらいていて、ちゃんとそこに、チャンフーが坐っているやないか。ぼく、びっくりして、きもたまがひっくりかえった
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ここにあめ兒屋こやねの命、布刀玉ふとだまの命、天の宇受賣の命、伊斯許理度賣いしこりどめの命、たまおやの命、并せて五伴いつともあかち加へて、天降あもらしめたまひき。
心霊界の広大を探り、この地に決して咲かざる花、この土にいまだ見ざるたま、聞かざる音楽、味わざる香味、余は実に思わぬ国に入りたりけり。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
お千代はこの老婆の目にとまった。その年恰好としかっこうから見ても、遊びあきて悪物食あくものぐいのすきになったお客には持って来いというたまだとにらんだのである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
みこと御国みくににとりてかけがえのない、大切だいじ御身おみうえ……何卒なにとぞこのかずならぬおんな生命いのちもっみこと御生命おんいのちにかえさせたまえ……。
子供をぶった見窄みすぼらしい中年の男に亀井戸たままでの道を聞かれ、それが電車でなく徒歩で行くのだと聞いて不審をいだき、同情してみたり
雑記帳より(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
がさめてのちきさきは、のどの中になにかたくしこるような、たまでもくくんでいるような、みょうなお気持きもちでしたが、やがてお身重みおもにおなりになりました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
もし仮名遣、手爾波抔てにはなどを学ばんと思はば俳書にかずして普通の和書に就け。『古言梯こげんてい』『ことば八千衢やちまた』『ことばたま
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
うしろの窓より貴婦人貴婦人レデイレデイと云ふ人人のありさふらふに、見返ればこれも宝のたま安げにざらざらと音させて勧むるむれさふらひき。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ゆるしたまえ。新聞きり抜き、お送りいたします。なぜ、こんなものを、切り抜いて置いたのか、私自身にも判明せず。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ところが家來けらいたちは主人しゆじんおろかなことをそしり、たまりにくふりをして、めい/\の勝手かつてほうかけたり、自分じぶんいへこもつたりしてゐました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
この娘がたまと云う子で、母親がなくて、親爺おやじと二人暮らしでいると云う事、その親爺は秋葉あきはの原に飴細工あめざいく床店とこみせを出していると云う事などを知った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
どんなたまにしろ、ころがってゆくときは、真中というか中心を中心としているのだから、若しころがってゆく方向とか、ころがりかたを問題にせず
もしかして、こときれてはたまなしだぞ、と啓之助、そっと猿轡へ手をやってみたが、大丈夫、ぬるい涙が指先へ触れた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三人は橋のたもとから狭い土堤どて下の道を小走りに歩いていた。女は土地の料理店『柳亭やなぎてい』の女将おかみたまで、一緒についてきたのは料理番の佐吉爺さきちじいさんである。
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
いはゆるるところにたまで、この新古今集しんこきんしゆうときほど、日本につぽんうた歴史れきしうへで、名人めいじん上手じようずといふべきひとが、たくさんそろつてたことはありません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
ここいらで一番、身代しんだいを作ってくれようかな……ついで毛唐けとうきもたまをデングリ返してやるか……という気になって、ニッコリと一つ笑って見せたもんだ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
芳紀まさに十七歳、無論のこと玲瓏れいろうたまをあざむく美少女です。名も亦それにふさわしい、菊路というのでした。
ところが、私が如何どうにか斯うにか取続とりつづいて帰らなかったので、両親は独息子ひとりむすこたまなしにしたように歎いて、父の白髪しらがも其時分僅のあいだ滅切めっきえたと云う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
背高せたかく顔の長いやさしそうな老人ろうじんだ。いまおくの、一枚開いた障子しょうじのこかげに、つくえの上にそろばんをおいて、帳面ちょうめんを見ながら、パチパチとたまをはじいてる。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それだけで十一年の間たまのやうに私の思つて来た子は無名の富豪のぼくに罵られたのです。はづかしめられたのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
小麥粉こむぎこすこしほれたみづねて、それをたまにして、むしろあひだれてあしんで、ぼういてはうすばして、さらいくつかにたゝんでそく/\と庖丁はうちやうつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
新室にひむろしづ手玉ただまらすもたまごとりたるきみうちへとまをせ 〔巻十一・二三五二〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
たままで通ってます」と、若い衆が灯火をつけながら教えてくれた。「浅草の方へ行ってますか?」ともう一度尋ねると雷門かみなりもんの前で止まると云うことであった。
貸家探し (新字新仮名) / 林芙美子(著)
雲井に近きあたりまで出入することの出来る立身出世——たま輿こしの風潮にさそわれて、家憲かけん厳しかった家までが、下々しもじもでは一種の見得みえのようにそうした家業柄の者を
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
取調べの町人は情けある人とて一夜の猶予ゆうよを与えられ候まま、父に手あつく仕えし上、暁け方眠りにつくを待ちてたまち、返す刀にて自らも冥途めいどの旅に上り候。
酔っ払いのお町はフラフラと立ち上がると、お静のくびたまかじり付いて、泣き出してしまいました。