今頃いまごろ)” の例文
「あんた、今頃いまごろまで何しててん!」———と、そう云う声がにわかに耳のハタで聞えて、福子のイキリ立った剣幕がありありと見える。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
長吉ちやうきち蘿月らげつ伯父をぢさんのつたやうに、あの時分じぶんから三味線しやみせん稽古けいこしたなら、今頃いまごろかく一人前いちにんまへの芸人になつてゐたに違ひない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
左樣さうだ、今頃いまごろ彌六やろく親仁おやぢがいつものとほりいかだながしてて、あの、ふねそばいでとほりすがりに、父上ちやんこゑをかけてくれる時分じぶん
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「あの時にいさんがくならないで、だ達者でゐたら、今頃いまごろわたくしうしてゐるでせう」と三千代は、其時をこひしがる様に云つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
丁度今頃いまごろ来るはずだった。こう思って柵の格子の間から、月の差している道を眺めた。停車場ていしゃじょうそばまで見えているのである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
土瓶形どびんがた香爐形かうろがた洋人やうじん百圓宛ひやくえんづゝつたらうか。おそらく今頃いまごろは、あのをとこに、十箇とを二錢にせんりんつたはうかつたと、後悔こうくわいをしてるであらうよ。
「よせやい。おどかしっこなしだぜ。あれほど探していなかったんだもの、今頃いまごろまで隠れているはずはないよ。ねえ君」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今頃いまごろ馬車ばしゃにでもって、郊外こうがいったらさぞいいでしょう。』と、イワン、デミトリチはあかこすりながらう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかめうだぞ、今月こんげつ航海表かうかいへうによると、今頃いまごろこの航路かうろ本船ほんせんあとふて進航しんかうしてふねはづだが。』と小首こくびかたむけたがたちまちカラ/\とわらつて
「去年の今頃いまごろだったねえ、姉さんが行ったのは。あれからもう一年か。」とつぶやき、何か兄さんから事件の情報を得ようと、たくらんだが、見破られた。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
千駄木せんだぎおくわたしいへから番町ばんちやうまでゞは、可也かなりとほいのであるが、てからもう彼此かれこれ時間じかんつから、今頃いまごろちゝはゝとにみぎひだりから笑顔ゑがほせられて
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「ここはどこだい。そして、今頃いまごろお日さまがあんな空のまん中におでになるなんて、おかしいじゃないか。」
さるのこしかけ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
オイおくまどこへつたんだな、おくま、手水場てうづばか、めつぽふけえりやアがる、焚火たきびをしたまゝねえが今頃いまごろどこへつたのだらう、女房にようばう堅気かたぎにかぎるとふが
おもつていてはたれど今頃いまごろさましてかゝさんかゝさんと婢女をんなどもを迷惑めいわくがらせ、煎餅おせんやおこしのたらしもかで、皆々みな/\いておにはすとおどかしてゞもやう
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「そう言えば、今頃いまごろは地理の時間だぜ、カイゼルが得意になって海洋奇談をやってる時分だね」
今頃いまごろ、おっ母さんや、妹や、そいから新橋の店の連中? ああ、ああ、ああ! 私がこんなところで、こんな目にあっているなんて、とても、だあれも考えてはいないわ。
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
「どなたですか今頃いまごろ戸をお叩きなさるのは?」と、爺さんはねむい眼をこすり/\申しました。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
マーキュ 彼奴あいつめは怜悧者りこうものぢゃ、一定てっきりとうに拔駈ぬけがけして、今頃いまごろは(うちに)てゐるのであらう。
余計よけいなお接介せっかいのようだが、今頃いまごろ太夫たゆうは、おび行方ゆくえさがしているだろう。おまえさんのたこたァ、どこまでも内所ないしょにしておこうから、このままもう一ってかえってやるがいい
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いそがしいともくさもまあだきやしねえんだ、土用どようになつてからだつていくらもりやしめえし、つてばかしつからろうあれ、となり旦那等だんなたちだつて今頃いまごろむぎつてるさわぎだあ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いためしとてつゑすがりて參りし處惡い駕籠舁かごかきどもに付込れ當底たう/\あざむかれ乘て參りたるが今頃いまごろは此熊谷土手の中程なかほどにて路金も女も定めしとられ給ひしならんアヽ思ひ出しても可愛かあいさうな事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
また書く上ばかりでなく、書くまでの段取を火鉢にあたりながら漫然と考へてゐるには今頃いまごろが一番いいやうだ。新年号の諸雑誌の原稿は大抵たいてい十一月一杯いつぱいまたは十二月のはじめへかかる。
一番気乗のする時 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
格子こうしく音がした。茶の間に居た細君さいくんは、だれかしらんと思ったらしく、つと立上って物のすきからちょっとうかがったが、それがいつも今頃いまごろ帰るはずの夫だったとわかると、すぐとそのままに出て
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お母さんのところに、マイダーノフが坐り込んでいるのよ。わたしにって、自分で作った叙事詩じょじしを持って来てくれたのに、ほっぽらかして来てしまったの。あの人も今頃いまごろは、きっと悄気てるわ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
不断ふだん今頃いまごろもううちかへつてゐるんだらう。此間このあひだ僕がたづねた時は大分だいぶおそかつた様だが」と聞いた。すると、平岡は矢張やはり問題を回避くわいひする様な語気で
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今頃いまごろ馬車ばしやにでもつて、郊外かうぐわいつたらさぞいでせう。』と、イワン、デミトリチはあかこすりながらふ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ちやう今頃いまごろだで——それ/\、それよ矢張やつぱみちだ。……わし忠蔵ちうざうがおともでやしたが、若奥様わかおくさまがね、瑞巌寺ずゐがんじ欄間らんまつてる、迦陵頻伽かりようびんがこゑでや
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、しばらく呼んでみたけれども、今頃いまごろこんな所に愚図々々している筈がないことは、分りきっていたのであった。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
此樣こんわざはひおこらなかつたなら、今頃いまごろすで大佐たいさいへかへつてつて、あの景色けしきうるはしい海岸かいがんへんで、如何いか愉快ゆくわいむかへてるだらうとかんがへると
今頃いまごろ探鉱たんこうなど来るはずあなぃな。)嘉吉は豆のもちを口に入れた。音がこちこちまたおこった。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もう今頃いまごろはどっかへ行方をくらましてしまったに違いない。おい、誰か署へ帰って、非常線の手配を頼んでくれたまえ。それから消防だ。もうこうなってはわれわれの出る幕じゃない。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うでもよろしい、なんとなりあそばしませ、わたしわたしかんがとほりなことして、わるければわるくなれ、萬一まんいちよければそれこそまうものといふやうな無茶苦茶むちやくちや道理だうりけて、今頃いまごろわたしなにつてましたか
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
室香に約束はたがえど大丈夫青雲の志此時このときのぶべしと殊に血気の雀躍こおどりして喜び、米国より欧州に前後七年の長逗留ながとうりゅう、アヽ今頃いまごろ如何どうして居おるか、生れた子は女か、男か、知らぬ顔に、知られぬ顔
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
マーキュ はて、こひめくらならまと射中いあてることは出來できまい。今頃いまごろはロミオめ、枇杷びわ木蔭こかげ蹲踞しゃがんで、あゝ、わし戀人おてきが、あの娘共むすめども内密ないしょわらこの枇杷びはのやうならば、なんのかのとねんじてよう。
いいえおはなしいたしませぬ。今頃いまごろましあそばしましては、お身分みぶんかかわりまする。もしまた、たっておましあそばしますなら、一おうわたくしどもから御家老ごかろうへ、そのよしつたえいたしませねば。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
御馳走ごちそうには季春しゆんがまだはやいが、たゞるだけなら何時いつでもかまはない。食料しよくれうらないはべつとして、今頃いまごろ梅雨つゆには種々さま/″\きのこがによき/\と野山のやまえる。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おゝ、おかへりになりましたとも、そして今頃いまごろは、あの保姆ばあやや、番頭ばんとうのスミスさんなんかに、おまへ温順おとなしくおふねつてことはなしていらつしやるでせう。
それにしても米屋町の美代みいちゃんは今頃いまごろどうして居るだろう。鎧橋よろいばしの船頭のせがれの鉄公はどうしただろう。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なに彼奴あいつ今夜中こんやぢうつものか、今頃いまごろ革鞄かばんの前へすはつて考へ込んでゐるぐらゐのものだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
寢間ねま時計とけいの十二をつまで奧方おくがたはいかにするともねふことくていくたびがへりすこしはかん氣味きみにもなれば、らぬ浮世うきよのさま/″\より、旦那樣だんなさま去歳こぞ今頃いまごろ紅葉舘こうえうくわんにひたとかよひつめて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むゝ、侍童こわらはめがなにたとらせをる。いま/\しい、何者なにものであらう、今頃いまごろ此邊このあたり彷徨さまようて、おれ眞情まごゝろ囘向ゑかうをばさまたげをる。や、炬火たいまつってるわ!……よるよ、ちっとのおれつゝんでくれい。
盛岡もりをかの電燈はかすかにゆらいでねむさうにならびただ公園のアーク燈だけ高いところでそらぞらしい気焔きえんの波を上げてゐる。どうせ今頃いまごろは無鉄砲な羽虫が沢山集ってぶっつかったりよろけたりしてゐるのだ。
秋田街道 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
今頃いまごろはおおかた、どこぞお大名屋敷だいみょうやしきのおうまやで、きな勝負しょうぶをしてでござんしょうが、ふみ御覧ごらんなすった若旦那わかだんなが、まッことあたしからのおねがいとおおもいなされて、大枚たいまいのおたからをおくださいましたら
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
今頃いまごろ現代思潮げんだいしてう中心ちゆうしんとなつてゐたであらうとおもはれます。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
俳諧はいかいには、ふゆになつてたはずだが、みゝづくは、はるすゑから、眞夏まなつあきく。……ともすると梅雨つゆうちの今頃いまごろが、あの、忍術にんじゆつつかひ得意とくいときであらうもれぬ。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
去年夫に白眼の黄色いのを発見されたのがちょうど今頃いまごろであったことを思い出すと、そのまま下りて行って、あの時夫がしたように平戸の花のよごれたのを一つ一つむしり始めた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あんな気立きだてのいい女は日本中さがして歩いたってめったにはない。婆さん、おれの立つときに、少々風邪かぜを引いていたが今頃いまごろはどうしてるか知らん。先だっての手紙を見たらさぞ喜んだろう。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今頃いまごろ現代思潮げんだいしちょう中心ちゅうしんとなっていたであろうとおもわれます。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「又三郎さんは去年なも今頃いまごろここへ来たか。」
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
初夜しよやぎの今頃いまごろ如何いかなつ川縁かはべりでも人通ひとどほりはえてない。ひとくるまも、いづれ列席れつせきしたものばかりで、……前後あとさきくるまなかから、かれ引外ひきはづして、此處こゝはひつてたのである。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)