たも)” の例文
タ! タ! と二、三あし、履物を棄てて草を踏みつつ、栄三郎の前へ進み出た長剣の士、月輪の道場にあって三位をたもつ轟玄八だ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
けれど、もはやみずすら十ぶんむこともできなかったので、こののち、そんなにながいこといのちたもたれようとはかんがえられませんでした。
千代紙の春 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かの天をつかさどるもの、またその徳をあまたにしてこれを諸〻の星に及ぼし、しかして自らいつなることをたもちてめぐる 一三六—一三八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
數年の後忠義者の猿芝居を打つた喜三郎は、みにくいが人柄の良いお駒と夫婦になつて、僅かに加島屋の店をたもつて行つたといふことです。
勘次かんじ菜種油なたねあぶらのやうに櫟林くぬぎばやしあひせつしつゝ村落むら西端せいたん僻在へきざいして親子おやこにんたゞ凝結ぎようけつしたやうな状態じやうたいたもつて落付おちついるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「——以上の面々は、外に出て、敵が近づいたら、命をたもって、ただちにここを退散いたせ。そしておのが国々へ落ちのびて行くがいい」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肴は丈夫なものだと説明しておいたが、いくら丈夫でもこう焼かれたり煮られたりしてはたまらん。多病にして残喘ざんぜんたもつ方がよほど結構だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
燃える樣な新しい煉瓦の色の、廓然くつきりと正しい輪廓を描いてるのは、何樣なにさま木造の多い此町では、多少の威嚴をたもつて見えた。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
やまたかさもたにふかさもそこれない一軒家けんや婦人をんな言葉ことばとはおもふたが、たもつにむづかしいかいでもなし、わしたゞうなづくばかり。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「しかしまあ、二百名にしろ、決死隊員の頭数あたまかずが揃ったは何よりであります。本官の名誉はともかくもたもたれました」
其他そのた利己心りこしんおほ人々ひと/″\覬覦きゆから、完全くわんぜんその秘密ひみつたもたんがめに、みづか此樣こん孤島はなれじましのばせて、その製造せいぞうをもきわめて内密ないみつにして次第しだいだが——。
資本主しほんぬし機械きかい勞働らうどうとに壓迫あつぱくされながらも、社會しやくわい泥土でいど暗黒あんこくとのそこの底に、わづかに其のはかな生存せいぞんたもツてゐるといふ表象シンボルでゞもあるやうなうたには
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
つれなき人に操を守りて知られぬふしたもたんのみ、思へば誠と式部が歌の、ふれば憂さのみ増さる世を、知らじな雪の今歳も又、我が破れ垣をつくろひて
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
現時げんじひとよりうらやまるゝほど健康けんかうたもれども、壯年さうねんころまでは體質たいしついたつてよわく、頭痛づつうなやまされ、み、しば/\風邪ふうじやをかされ、えずやまひためくるしめり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
いやしずかに。——ただいまみゃくちからたようじゃと申上もうしあげたが、じつ方々かたがた手前てまえをかねたまでのこと。心臓しんぞうも、かすかにぬくみをたもっているだけのことじゃ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
漢人のふうをあくまでたもとうとするなら、胡地の自然の中での生活は一日といえども続けられないのである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
サラリーマンとしては文字通りに日が浅い。しかし得意の度合どあいはそれに反比例をたもっていた。もう一人前だと思うと、何となく尾鰭おひれがついたような心持がする。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
美くしくもなくすぐれた頭を持って居ると云うでもない京子と気まずい思い一つしずにこの久しい間の交際つき合たもたれて居るのは不思議だと云っても好い事だった。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
都会もその活動的ならざるの一面において極力伝来の古蹟を保存し以てその品位をたもたしめねばならぬ。
社会は進歩して行くほど規律的また軍隊的にならねばならん。社会の害毒になるようなものは一令のもとに排斥して社会の空気を清潔にたもたしめなければならん。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
だが精神的には、なほも私は自分の魂を失はず、それあるが爲めに最後の安全さの確實性をもたもつてゐた。
なぜなら、土とともにはたらく者のみが、その地方の評判ひょうばんをいつまでもたもっていくことができるのですから。
うませいよいよさかえ行けるに母のお勝も大いに安堵あんどし常に念佛ねんぶつまい道場だうぢやうに遊びき庄兵衞が菩提ぼだいとむら慈悲じひ善根ぜんこんを事としたれば九十餘さい長壽ちやうじゆたも大往生だいわうじやう素懷そくわい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
老人のしきりに愛惜する昔風は、いわば彼ら自身の当世風であって、真正の昔風すなわち千年にわたってなおたもたるべきものは、むしろ生活の合理化単純化を説くところの
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
貧福をいはず、ひたすら善をまん人は、その身に来らずとも、子孫はかならず幸福さいはひべし。一〇三宗廟そうべうこれをけて子孫これをたもつとは、此のことわりの細妙くはしきなり。
わづかに五六ねん地上ちじやう此變化このへんくわである。地中ちちう秘密ひみつはそれでも、三千餘年よねんあひだたもたれたとおもふと、これを攪亂くわんらんした余等よらは、たしかに罪惡ざいあくであるとかんがへずにはられぬのである。
しかし一種の秩序をたもって並んでいる風景は、田舎で育ってきた私にはまるで夢の世界です。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
わたしが仲間なかまの間に規律きりつたもとうとすれば、つみおかしたものはばっせられなければならない。それをしなかったら、つぎの村へ行って、今度はドルスが同じ事をするであろう。
また「Mの都合あれば帰宅したけれど思いとまる。節約の結果三銭のきざ煙草たばこ四日をたもつ」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
また文壇的にもほぼそれに近い存在となつてゐた。仕事の上役としての小劍は、ほとんど下役との接觸を避けるやうな、一種の遊離性を意識してたもたうとしてゐたやうに見えた。
「鱧の皮 他五篇」解説 (旧字旧仮名) / 宇野浩二(著)
はたしてこころ平静へいせいたもてるであろうか、はたしてむかしの、あのみぐるしい愚痴ぐちやら未練みれんやらがこうべもたげぬであろうか……かんがえてても自分じぶんながらあぶなッかしくかんじられてならないのでした。
魚は水あればすなわちき、水るればすなわち死す。ともしびあぶらあればすなわちめいあぶら尽くればすなわちめっす。人は真精しんせいなり、これをたもてばすなわち寿じゅ、これをそこなえばすなわちようす。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
教頭けうとう隨分頑固ずゐぶんぐわんこをとこで、こんな不都合ふつがふ示威運動じゐうんどう讓歩ぢやうほしては學校がくかう威嚴ゐげんたもたれないとつて、葉書はがきなんまいようと見向みむきもしなかつたが、状態じやうたい一月ひとつきばかりもつゞいて
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
曰ふ、しやうはたるは、氣盛なる者之を能くす、而かも眞勇しんゆうに非ざるなり。孤城こじやうえんなきに守り、せん主を衆そむくにたもつ、律義者りちぎものに非ざれば能はず、故に眞勇は必ず律義者りちぎものに出づと。
何処どこへ隠したか、何処へ置いて来たか、穴でも掘ってけてあるのではないか、床下ゆかしたにでも有りはしないか、何しろ彼奴あいつの手に証書を持たして置いては、千円ってもたもつ金ではない
尾瀬おせが原を戸倉とくらかへるべしと、たちまち一决す、之によりて戸倉にいたるを得べき日数もあらかじ想像さう/″\することを得、衆心はじめて安んじ、犠牲ぎせいに供したる生命せいめいからうじてたもつを得べからしめたり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
それはたとへば堂塔だうたふ伽藍がらんつく場合ばあひに、巨大きよだいなるおも屋根やねさゝへる必要上ひつえうじやう軸部ぢくぶ充分じうぶん頑丈ぐわんぜうかためるとか、宮殿きうでんつく場合ばあひに、その格式かくしきたもち、品位ひんゐそなへるために、優良いうれうなる材料ざいれうもち
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
私にとっていちばん自信のないことは、この赤ん坊が自分の生命と、もっともふかい関係をたもっていなければならない筈であるのに、それをしっかりと把握はあくすることのできないことだけである。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
万古不朽ばんこふきう洪福こうふくたもつ㕝奇妙不思議ふしぎの天幸なれば、じつ稀世きせい珍物ちんぶつなり。
またさきほどおはなししたように、や、苔類こけるいみづおほふくみ、したがつて、地中ちちゆうにも多量たりよう水分すいぶんをしみこませますから、たとひ旱天かんてんひさしくつゞいても森林しんりんはそのたもつてゐる水分すいぶん徐々じよ/\なが
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
ばん彼女かのぢよ」を不幸ふかうにしたことは、かれ性格せいかく普通社会人ふつうしやくわいじんとして適当てきたう平衡へいかうたもつてゐないことであつた。無論むろんこんな仕事しごとはいつてくるひとのなかには、性格せいかく平衡へいかう調和てうわれないひとたまにはあつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
万物をたもたせて行くものであって見れば
たもちゃん、今日はもう行ってね」
アパートの殺人 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
再びたもちがたしと樂しむなれ。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
微笑ほほゑみたもてよ
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ときはたには刷毛はけさきでかすつたやうむぎ小麥こむぎほのか青味あをみたもつてる。それからふゆまた百姓ひやくしやうをしてさびしいそとからもつぱうちちからいたさせる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
こうして、このなかは、みんなのちからによって、文明ぶんめいになり、つごうがよくゆき、そして平和へいわたもたれてきたのでありました。
子供と馬の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わが今視し物をよくさとらむとねがふ人は、心の中に描きみよ(しかしてわが語る間、その描ける物をかたいはほの如くにたもて)
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
一個の浮沈にとどまらず、この国そのものがたもてるか、救いなき荒廃へ落ちて行くかの、真の国家の危機を、人は初めてほんとに気づいたようだ。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
有体ありていなるおのれを忘れつくして純客観に眼をつくる時、始めてわれは画中の人物として、自然の景物と美しき調和をたもつ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)