武士ぶし)” の例文
それさえあるのに、あと三人の武士ぶしも、めいめいきっさきをむけて、ふくろづめに、一寸二寸と、若者のいのちに、くいよってゆくのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日本にほんのむかしの武士ぶしで一ばんつよかったのは源氏げんじ武士ぶしでございます。その源氏げんじ先祖せんぞで、一ばんえらい大将たいしょうといえば八幡太郎はちまんたろうでございます。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
とおい、とおい、むかしのこと、ある武士ぶしが、このはまでかもめをました。しかし、は、すこしはずれて、片方かたほうつばさきずつけたばかしです。
はまねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
玄竹げんちくてこすりのやうなことをつて、らにはげしく死體したいうごかした。三にん武士ぶしは、『ひやア。』とさけんで、またした。——
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
納め我家へ歸り夫婦ふうふの者に一伍一什を告ければ二人は流石さすが武士ぶしは武士いと見上みあげたる親子の者と思へばいよ/\たのもしく婚姻する日を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こう武士ぶしはつぶやくと、法師のりょう耳は、いきなり鉄棒てつぼうのような指先ゆびさきで、ひきちぎられました。けれど法師は、声もだせませんでした。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
源頼朝みなもとのよりともが、鎌倉かまくら幕府ばくふをひらいてからは、日本にっぽん政治せいじ武士ぶしがおさめていて、天皇てんのうはただのかざりにすぎなかったのですが、このときから
しかるに武家が勢力を得るに及んで、彼らは武芸を練磨し、その主と仰ぐ人を護衛するのが職掌となって、「さむらい」は同時に「武士ぶし」であった。
忠實まめやかつかへたる何某なにがしとかやいへりし近侍きんじ武士ぶしきみおもふことのせつなるより、御身おんみ健康けんかう憂慮きづかひて、一時あるとき御前ごぜん罷出まかりい
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ましてその鶯には未練も愛着あいぢゃくもなく、ただ買い取って放してやるだけに、武士ぶしが大切の刀を売るとは、あまりに分別が至らぬように思わるるぞ。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
関取は下駄を穿いており、大きななり下駄穿げたばきだから羽交責どころではない、ようやく腰の処へ小さい武士ぶしが組付きました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もっとわしのは、てきにかからないめの、わば武士ぶし作法さほうかなった自殺じさつであるから、つみいたってかるかったようで、したがって無自覚むじかく期間きかんもそうながくはなかったらしい。
相手が武士ぶしであろうことか、乞食小屋の乞食だというのであるから、討ち果したところで自慢にもならず、もし反対に討たれでもしたら——相手は随分強そうであるから
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おどろきて堂の右にひそみかくるるを、武士ぶしはやく見つけて、何者なるぞ、七五殿下でんかのわたらせ給ふ。りよといふに、あわただしく簀子すのこをくだり、土にして七六うずすまる。
そ、その料簡りょうけんがいけねえんだ。はらにあろうがなかろうが、武士ぶし戦略せんりゃく坊主ぼうず方便ほうべんとき場合ばあいじゃ、ひと寝首ねくびをかくことさえあろうじゃねえか。——さ、ここにふでかみがある。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
使つかひがかへつてそのとほりをまをげると、みかどおきな同情どうじようされて、いよ/\十五日じゆうごにちると高野たかの少將しようしようといふひと勅使ちよくしとして、武士ぶし二千人にせんにんつて竹取たけとりのおきないへをまもらせられました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
なんでもこれは人数にんずうすくなくともよりぬきのつよ武士ぶしばかりでかけて行って、ちからずくよりは智恵ちえ工夫くふうをしなければなりません。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「そのかわり、この大役を首尾しゅびよくすましたら、伊那丸いなまるさまにおねがいして、そちも武士ぶしのひとりに取り立ててさすであろう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌朝よくあさると、はたして湖水こすいおもては、かがみのごとくひかって、かたくりつめたこおりは、武士ぶしをやすやすと、むこうのきしまで、わたらせてくれたのでした。
きつねをおがんだ人たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
まもなく法師ほうしは、また女の手に案内あんないされ、大げんかんへ来ました。そこには前の武士ぶしが待っていて、法師をあみだてらまでおくって来てくれました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
『ひどいうじだなア。』と、一ばんちかつた某家ぼうけ武士ぶしそばからでも、死體したいまではまだ一間半けんはんばかりの距離きよりがあつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そんな事はねえが武士さむらいの果は外に致方いたしかたもなく、旨い酒も飲めないから、どうせ永い浮世に短い命、斬りり強盗は武士ぶしならいだ、今じゃア十四五人も手下が出来て
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
殺し置き自儘じまゝ生害しやうがいなすと云は天下の大法知ぬに武士ぶしたる者の爲こと成ず依て暫時しばらくとゞまあけるを待ち奉行所ぶぎやうしよへ名乘て出て相應さうおうなる處分しよぶんを受るが至當したうなれば先其やいば
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたくし地上ちじょうったころ朝廷ちょうていみなみきたとのふたつにわかれ、一ぽうには新田にった楠木くすのきなどがひかえ、他方たほうには足利あしかがその東国とうごく武士ぶしどもがしたがい、ほとんど連日れんじつ戦闘たたかいのないとてもない有様ありさまでした……。
そのとき矢來やらいはうから武士ぶし二人ふたりて、二人ふたりはなしながら、通寺町とほりてらまちはうへ、すつととほつた……四十しじふぐらゐのと二十はたちぐらゐの若侍わかざむらひとで。——るうちに、郵便局いうびんきよくさかさがりにえなくなつた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
旗本には限らない、そうじて遊女や芸妓げいしゃと武士との間には、越えることのできない関が据えられていた。人は武士ぶし、なぜ傾城にいやがられるかというと、一つには末の目当てがないからであった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それたっ」と、武士ぶしたちが得物えものをとつてむかはうとすると、だれもかれもものおそはれたようにたゝかもなくなり、ちからず、たゞ、ぼんやりとしてをぱち/\させてゐるばかりであります。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
なにしろそれにはなに一つしそんじのないように、武士ぶしの中でも一ばん弓矢ゆみやわざのたしかな、こころのおちついた人をえらばなければなりません。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ほかの武士ぶしどもも、口を合わせてののしった上によろいみちらして、どッと笑いながら立ちさろうとした時、若者のまゆがピリッとあがった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのようすからさっすると、そのひとは、いかめしいよろいかぶとを身につけた、戦場せんじょう武士ぶしのように思われました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
あくやうや下刻げこくになつて、ちやんと共揃ともぞろひをした武士ぶしあらためて愚老ぐらうむかへにえましたが、美濃守樣みののかみさまはもうまへごろ御臨終ごりんじうでござりまして。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「このあたりへ、とりちなかったか? たしかに、ここへちたとおもうが……。」と、武士ぶしがいいました。
はまねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたくしは大変酔ってはおりますが富五郎も武士ぶしでげす、御当家の旦那様に助けられた事は忘却致しません、あゝ有難い事であゝ簀巻にして川へ投り込まれる処を助けられ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はうぜんと思ひ一人の娘を新吉原江戸町一丁目玉屋山三郎方へ身の代金しろきん五十兩にて年季ねんきつとめに遣はし右五十兩の中二十五兩を大橋の方へ持參仕り候處文右衛門儀武士ぶし意氣地いきぢ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
武士ぶしは、ひもひっからげて胸へ結んで、大小を背中に背負しょはされて居る。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ある歴々れきれき武士ぶしもととつぐことになりました。
もなくいんさまは三浦みうらすけ千葉ちばすけ二人ふたり武士ぶしにおいいつけになって、なんさむらい那須野なすのはらててわたしをさせました。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
先頭せんとうはたて、うまにまたがった武士ぶしは、けんたかげ、あとから、あとから軍勢ぐんぜいはつづくのでした。
手風琴 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そう早合点してはならぬ。武士ぶしは名を尊ぶ。名をけがした武士さむらいには、末世末代、救いはない」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するとよめあね番頭ばんとうとでいぢめたので、よめつらくてられないから、実家さとかへると、親父おやぢ昔気質むかしかたぎ武士ぶしだから、なか/\かない、られてるやうな者は手打てうちにしてしまふ
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
にん武士ぶし縁側えんがわがってっていますと、やがてかみなり稲光いなびかりがしきりにこって、大風おおかぜのうなるようなおとがしはじめました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
あるばんがた、ようやく武士ぶし湖水こすいのあるところまで、たどりつきました。おりからゆきはやんで、西にしやまのはしが、あかるく黄色きいろにそまり、明日あす天気てんきがよさそうです。
きつねをおがんだ人たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
これ如何いかに其の方の荷物が紛失ふんじつしたとてみだりに他人たにんを賊といっては済まんぞ、いやしくも武士ぶしたる者が他人ひとの荷物を持っておのれの物とし賊なぞを働く様なる者と思うか、手前は拙者を賊に落すか
さていよいよ大江山おおえやまけてつことにきめると、頼光らいこうはじめ六にん武士ぶしはいずれも山伏やまぶし姿すがたになって、あたま兜巾ときんをかぶり、篠掛すずかけました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「はて、おかしなことがあるものだな。」と、武士ぶしは、そのままいってしまいました。
はまねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ですからその一だいあいだには、りっぱな武勇ぶゆうはなしかずしれずあって、それがみんなのち武士ぶしたちのお手本てほんになったのでした。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
むかし一人ひとり武士ぶしが、殿とのさまのお使つかいで、たびかけました。おもいのほか日数にっすうがかかり、ようがすんで、帰途きとにつきましたが、いいつけられたまでに、もどれそうもありませんでした。
きつねをおがんだ人たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
なるほど評判ひょうばんとおり、頼政よりまさ武芸ぶげい達人たつじんであるばかりでなく、和歌わかみちにもたっしている、りっぱな武士ぶしだと、天子てんしさまはますます感心かんしんあそばしました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そこで毎晩まいばん御所ごしょまも武士ぶしおおぜい、天子てんしさまのおやすみになる御殿ごてん床下ゆかしたずのばんをして、どうかしてこのあやしいごえ正体しょうたい見届みとどけようといたしました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
わたしはもうみちがなくなって、とうとう二人ふたり武士ぶし矢先やさきにかかってたおれました。けれどもからだだけはほろびても、たましいはほろびずに、この石になってのこりました。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)