こと/″\)” の例文
毛といふ毛はこと/″\く蛇で、其の蛇は悉く首をもたげて舌を吐いて、もつるゝのも、ふのも、ぢあがるのも、にじり出るのも見らるゝ
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
加ふるに物質的文明の輸入堤を決するが如く、上は政治の機関より、下万民の生活の状態に至るまで、千枝万葉こと/″\く其色を変へたり。
間斷かんだんなく消耗せうまうして肉體にくたい缺損けつそん補給ほきふするために攝取せつしゆする食料しよくれうは一わんいへどこと/″\自己じこ慘憺さんたんたる勞力らうりよくの一いてるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかもらうとおもことこと/″\こと出來できなかつた。おのれの弱點じやくてんいては、一言ひとことかれまへ自白じはくするの勇氣ゆうき必要ひつえうみとめなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「或る程度を超えた音響になると、こと/″\くが白雲の茫漠に通ふのみで、初めから何の種別もないわけなんだね。つまり、例へば——」
環魚洞風景 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
子供こどもには、はなしたあとでいろ/\のことはれて、わたくしまたむことをずに、いろ/\なことこたへたが、それをこと/″\くことは出來できない。
寒山拾得縁起 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
家中の者は、主人の眼玉をのがれるやう、一人拔け、二人拔けこと/″\く櫻の馬場に飛出して、寶掘りの仲間に加はつてしまつたのです。
水をわたすがたたるゆゑにや、又深田ふかたゆくすがたあり。初春しよしゆんにいたれば雪こと/″\こほりて雪途ゆきみちは石をしきたるごとくなれば往来わうらい冬よりはやすし。
我はや汝の前に置きたり、汝今より自らむべし、わが筆のさゝげられたる歌題はわが心をこと/″\くこれに傾けしむればなり 二五—二七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「朝鮮へ国替くにかへ仰せ付けられたく、一類眷属けんぞくこと/″\く引率して彼地へ渡り、直ちに大明だいみんに取って掛り、事果てぬ限りは帰国つかまつるまじき旨の目安めやす
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
元禄より享保に至るまで人おの/\、自己独創の見識を立てんことを競へり。斯の如くにして人心中に伏蔵する思想の礦脈はこと/″\穿うがち出されたり。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
三四の科目のほかこと/″\く九十点を取つてゐるのに、今度から学期毎に発表記入されることになつた席次は九十一番だつた。私はがつかりした。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
然し渡場わたしばいまこと/″\く東京市中から其の跡を絶つた訳ではない。両国橋りやうごくばしあひだにして其の川上かはかみ富士見ふじみわたし、その川下かはしも安宅あたけわたしが残つてゐる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
もつとも構内俥夫の中でも私の家に味方する者も少数はあつたけれど、性質の荒い俥夫はこと/″\く他の宿屋に買収された形であつた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
の一こと/″\涙含なみだぐんだ。このやさしい少女せうぢよ境遇きやうぐうかはつてたのと、天候てんかうくもがちなのとで、一そう我々われ/\ひとこゝろやさしさがかんじられたのであらう。
彼は寝床へもぐり込む前に血の附いた衣類などをこと/″\大篝おゝかゞり火の中へ投げ込んで、むしろ證拠を堙滅いんめつするのに骨を折った。
しかるに南方なんぱう文帝ぶんてい元嘉げんか年中ねんちう京洛きやうらく婦女子ふぢよしみなこと/″\愁眉しうび泣粧きふしやう墮馬髻だばきつ折要歩せつえうほ齲齒笑うしせうをなし、貴賤きせん尊卑そんぴたがひおよばざるをはぢとせり。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と清左衞門こと/″\く悦んで、ニコ/\しながらうちに帰って来ました、娘お筆は、寒さの取附とっつきだと云うにまだ綿の入った着物が思うように質受しちうけが出来ず
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
諸外國しよぐわいこく事情じじやうこと/″\あたまなかれてかんがへなければならぬのであつて、もつと見通みとほしのにくいものである。それでつね商賣人しやうばいにんるゐきたすものである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
殆ど五六ヶ所から、すさまじい火の手が上つて、それが灰色の雨雲に映つて、寝惚ねぼけた眼で見ると、天も地もこと/″\く火に包まれて了つたやうに思はれる。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
しかし金屬きんぞくがはひつてたからとてすぐにいままでの石器せつきこと/″\てゝ全部ぜんぶ金屬器きんぞくき使つかふようになつたのではありません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
それは別荘の窓はこと/″\く開け放つてあるのに、只一箇所の窓丈鎖してあると云ふ事である。く視れば、この二つの窓は重げな扉で厳重に閉ぢてある。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
マーキュ 出來できた。此上このうへ洒落競しゃれくらべぢゃぞ。これ、足下おぬしそのうすっぺらなくつそこは、いまこと/″\って、はて見苦みぐるしいあししゃらうぞよ。
繰出さる天一坊かたには山内伊賀亮がはからひにてしのびを入れ此樣子を承知して遠見とほみを出し置雅樂頭殿出門しゆつもんあらば此方も出門に及ぶべしとこと/″\く夜の内に支度を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大佐たいさばかりでない、快活くわいくわつなる武村兵曹たけむらへいそうも、其他そのた水兵等すいへいらも、電光艇でんくわうていより上陸じやうりくした一同いちどうは、こと/″\色蒼いろあほざめ、かうべれて、何事なにごとをかふかかんがへて樣子やうす
所謂いはゆる敵情偵察てきじようていさつである。敵情てきじようこと/″\くわかつたならば、災禍さいかをひきおこすところのかの暴力ぼうりよくくだくことも出來できよう。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
それでも私は貴方に背きはしなかつたではありませんか。それから私の窮乏困蹶こんけつが始まり、多數の同志はこと/″\く脣を反らし、完膚くわんぷなきまでに中傷しました。
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
それから後は、フランスの事はこと/″\く削除してしまふ。なぜかと云つても、説明はしない。或る日編輯長が云つた。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
其外そのほかの百姓家しやうやとてもかぞえるばかり、ものあきないへじゆんじて幾軒いくけんもない寂寞せきばくたる溪間たにま! この溪間たにま雨雲あまぐもとざされてものこと/″\ひかりうしなふたとき光景くわうけい想像さう/″\たまへ。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
こゝいてか滿座まんざこと/″\拍手はくしゆ喝釆かつさいしました、それはしん王樣わうさま其日そのひおほせられたうちもつとたくみみなるお言葉ことばでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
又飜つて小説を見るに、いやしくも小説の名を下し得べき小説は如何いかなるものと雖も、こと/″\く人物の意思と気質とに出づる行為、及び其結果より成立せざるはなし。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
〔評〕南洲、顯職けんしよくに居り勳功くんこうふと雖、身極めて質素しつそなり。朝廷たまふ所の賞典しやうてん二千石は、こと/″\く私學校のつ。貧困ひんこんなる者あれば、のうかたぶけて之をすくふ。
ことつたら御覧ごらんになつたかもれないが、幼児をさなごのことゆゑ、けてやらねばなるまい。真昼時まひるどきおもくなる。ものみなこと/″\しろつぽい。しかあれかし、亜孟アメン
わたしちかものとなるとこと/″\不人情ふにんじやうるのであらうか、みぎいてもひだりいてもたのもしいかほをしてるは一人ひとりい、あゝいやことだとてばちになりまして
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ポーが、この芸術の為めの芸術を主張した当時は、何等省みられませんでしたが、やがて、フランスに影響し露英こと/″\くその風靡するに任せたことは御存じの通りです。
ポーの片影 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
セルギウスは全身の血がこと/″\く心の臓に流れ戻つて、そこに淀んだやうな気がした。息が詰つた。やう/\の事で、「而して主は復活し給ふべし、敵を折伏し給ふべし」
余が無罪の証拠と見認みとむる者はこと/″\く有罪の証拠なり細君の言葉は仮令たとい目科の評せし如く幾分か「小説じみ」たるに相違無しとするも道理に叶わぬ所とては少しも無し
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
これまでは簿書ぼしよ堆裏たいりに没頭してゐたり、平凡な世間の娯楽に時間を費したりしてゐたので、それが出来なかつたのだ。古い議論はこと/″\く反駁して遣る。反証を挙げて遣る。
感情の貫くところ——努力の通ずるところがこと/″\く現実の世界であるという事は明かである。
絶望より生ずる文芸 (新字新仮名) / 小川未明(著)
過日来御約束の被害土壌四種調査致候処、こと/″\く銅の化合物を含有致し、被害の原因全く銅の化合物にあるが如く候、別紙は分析の結果及被害圃の処理法に御座候、不具。(別紙略)
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
或はたゝめるは、まさにこの時なるなからむや、今は山と、人と、石室と、地衣植物と、じん天地を霧の小壺せうこに蔵せられて、混茫こんばう一切をべんぜず、登山の騎客はこと/″\く二合二勺にて馬を下る。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
すべてのよろこび満足まんぞく自負じふ自信じゝんも、こと/″\く自分をツてしまツて、かはり恐怖きようふが來る。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しも、建築けんちく根本義こんぽんぎ解決かいけつされなければ、眞正しんせい建築けんちく出來できないならば、世間せけんほとんどすべての建築けんちくこと/″\眞正しんせい建築けんちくでないことになるが、實際じつさいおいてはかならずしもしか苛酷かこくなるものではない。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
飯を焚くし、ミルクを作るし、夕方のさいから、こと/″\く僕だ。三四月からだつたゞらう。僕が、胡座あぐらをかいて子供を、脚の間へ入れると、丁度、股が枕になつて、すつぽり、子供の身体が入る。
其後荊棘けいきよくの為めにこと/″\破壊はくわいせられ、躰をふべきものさらに無く、全身こぞりて覆盆ふくぼんの雨に暴露ばうろせらる、其状そのじやう誠にあはれむにへたり、衆相対してひらくもげきとしてこゑなく、あほぎて天の無情をたん
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
フエデリゴは又我に接吻して、衣のかくしより美しき銀のとけいを取り出し、これをば汝に取らせむ、といひて與へき。われはあまりの嬉しさに、けふの恐ろしかりし事共、はやこと/″\く忘れ果てたり。
私は往来の人々や、両側の店々の人々の眼がこと/″\く私の上に注がれ、そしてみんな可笑をかしがつて笑つてゐるやうな気がして、子供ながらも恥かしいやら情けないやらで、顔もよう上げられなかつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
身内のすぢこと/″\ゆるんですつと胸が開く様な暢達ちやうたつな気持を覚える。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
此等これら七福しちふくこと/″\灌水くわんすゐとくするものなり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
然し、健康なものがこと/″\く幸福であろうか。
ラ氏の笛 (新字新仮名) / 松永延造(著)